第14話 :「体験入隊1日目(規律を学ぼう)」

<update/2001/9/8>

 

陸上自衛隊に「体験入隊」というのがあるのを

知っているだろうか。

  なかなか、自衛隊駐屯地の中に入る機会は、

無いものである。

 

そこはまさに、フェンスの向こうの

異国。軍隊だ。

「一つの国と言うか、違う法律が

存在しているような世界だった。」(健地蔵:談)

 

規律や団体行動を学ばせるために

企業とかが、新入社員の教育のため

よく利用する制度である。

 

私はこの「体験入隊」を

大学を卒業して入社した会社で

新入社員のときやらされた事がある。

 

埼玉県にある「朝霞駐屯地」というところで

やったのであるが、

当然新入社員一同「なめていた」のである。

 

「どーせお客さんだし」・・・とね。

 

そんなかんだで、総務部長引率のもと、

現地へ赴き、総務部長が「宜しくお願いします。」と

ひと通り挨拶を終えた後、

 

部長は「じゃぁ頑張って」

 

と一言残し、去っていったのである。

 

かくして、右も左もわからぬ、

 新入社員総勢30数名、御一行様は、

「朝霞駐屯地」4泊5日の体験入隊に

 

放り込まれたのです。

 

 

勿論、

「歓迎 A社新入社員御一行様」

などと、垂れ幕は出ていない。

 

 

基本的に、体験入隊に放り込まれた時点で、

我々は、陸上自衛隊預かりなのであり、

すべての行動は、自衛隊の規律にのっとって

行動しなければ、当然、

 

シバかれるのである。

 

さすがに、暴力は振るえないので、

常に「言葉責め」であることを付け加えておく。

 

 

 〜入隊1日目(当日)〜

<規律を学ぼう>

 

まず我々は、体験入隊者が寝泊りする

専用の宿舎に案内される。

そこは、木造の小さい学校の校舎という表現が

ぴったり合う建物である。

 

我々は、入り口でそれぞれ

思い思いに靴を脱ぎ、案内された

教官室へと全員集合させられ、

 

「まぁ、これからお前らに規律というものを

教えてやるから1人の脱落者も無くやれや」

 

ってなことを言われ、期間メニューを渡され

それぞれの部屋(4人1部屋)に案内されるのだが、

教官室を出た我々は自分の目を疑った。

 

 

無いのである。 

 

さっき脱いだ我々全員の靴が。

 

どこにあったかって?

 

 

 

 外だよ、外。

 

 

我々が思い思い、無造作に靴を脱いだもんだから

全員の靴が、外に放り出され、まさに

 

放り棄ててある状態。

 

だったのである。

当然、何故そうなったのか、

担当教官から待ってましたの言葉責め。

 

その時点で、この教官に

一切逆らわず、着いて行くことが

生き残る最良の方法だという事を

我々全員は、悟ったと思う。

 

 

我々は、

 

「部屋に帰ってきて、電気をつけた途端、

一斉に逃げ惑うゴキブリのごとく」

 

いそいそと自分の靴を探しに行き

今度は全員、きちんと整列した状態で

靴を揃えたのは、言うまでも無い。

 

大体において、そもそも

いろんな学校から集まった、新入社員。

 

気心知れた連中じゃない訳ですよ。

俺達は。

 

 

 

部屋に入ると、畳敷きの8畳間で

テーブルとお茶が置いてある。

 

 

 

 

 

そんな訳きゃない。

 

二段ベットが両端にある閑散とした、

そう、刑務所の中の牢獄といった感じ。

 

良く洋画で、刑務所の中でのシーンとか

あるじゃないですか。まさにあんな感じの部屋。

 

そこで始めに教わるのが

 

 

「自衛隊式ベット・メイキング」

 

 

これがまた、複雑でね。

ベットの横にそれぞれの枕やシーツが置いてあり

教官の説明のもと、覚えていくのだが、

特徴的なのが、ベットの四隅が、

「三角形の折り返し」にならないといけない事。

これが、自衛隊式。

 

これが出来きてなかったり、中途半端だったりすると、

 

我々が演習に行っている間にチェックされ

ダメな場合は容赦なくやり直しとの説明を受ける。

 

完璧にベットメイキングを4人が終え、

集合時間に遅れないよう、玄関前に集合である。

 

勿論その時には、

支給された深い緑色の自衛隊服に着替え、

やたら重たいブーツ、ぶかぶかのズボンが落ちないよう

極限までに締め付けたベルト。

全員「自衛隊服に着られている」という感じで

誰も似合っていない。

 

 

「自然災害の救助に向かう自衛隊隊員」

といったコスチュームで整列である。

 

但し、本当の隊員と間違われないように

体験入隊者である証となる、

専用のCAPは、かぶらなければいけない。

 

何故なら、そのCAPをかぶらず駐屯地内をぶらぶら

歩こうもんなら、容赦ない言葉責めではすまないからである。

 

で、初日である本日は、

「班分け」「整列」「歩き方」「合図」等々を学ぶ日である。

 

基本的に移動する時は、班ごとに

 

一列縦隊で移動するのだ。

 

しかも、掛け声をかけてね。

「イチ・イチ・イチ・ニィ」とか言うやつ。

 

が、これもまた特徴があるのである。

 

1の事を「イチ」とは言わずに、

 

 

 

「オッチ」

 

と言うのだ。

そう、

 

 

「オッチ!オッチ!オッチ!ニィ!」

と言うのだ。

 

何故かって?

 

しらねぇよ。

でもそう言わなきゃいけないの!

 

しかも、一列縦隊で行進する時のルールってのが

存在するんですよ。

それは、常に

 

「直線的に行進しなければいけない」という事。

 

直角に曲がる時には、先頭の班長が、

「右向けぇ右!」とか言って指示を出し

曲がり角の頂点で、それぞれが「右を向き」

曲がっていくのである。

 

問題は、カーブ。

 

直線的に行進する事しか許されない訳だから、

カーブを曲がる時は、常に班長が先を読み

右・左、90度の角度を組み合わせ、

カーブを曲がらなければならない。

 

先頭の班長が判断を誤れば、

「壁に激突」

「草むらに突っ込み後ろから次々に突っ込まれる」

事になる。

 

「じゃぁ、途中の奴は止まればいいだろ?」

 

と思うかもしれないのだが、

それは「許されない」のである。

 

全て、縦列の先頭に立つ班長の指示が

絶対であり、ドリフのコントみたいに

どんなに間抜けな結末になろうとも、

任務を全うしなければいけないのである。

 

 

そんなかんだで、基本を叩き込まれ

初日の緊張感の中、クタクタに疲れ果て

宿舎の部屋に帰ってきた時、

信じられない光景が

我々の目に飛び込んできたのである。

 

 

 

 

 

 

 

完璧に

ベットメイクした

はずなのに

 

シーツが剥がされ、

枕が

床に散乱し

 

ぐちゃぐちゃに

なってたのだ。

 

 

やり直しってか?

 

 

マジかよ。

 

てな具合で

陸上自衛隊体験入隊が

始まったのでした。

 

つづく。

 

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