第10話 :「三浦君」

<update/2001/8/23>

 

私は大学を卒業して、約1年半くらい、

あるOA機器メーカーに勤務していたのですが、

そこで、私は「三浦君」という新入社員のある奇行を

目の当たりにしてしまいました。

 

その会社は、通常1年目の営業社員は、いわゆる

「飛び込み営業」を毎日させられるのである。

 

毎日、毎日ひたすら商品カタログをアタッシュケースに詰め、

名刺を配りまくり、飛び込みを片っ端からかけていくのでした。

「三浦君」も例外ではありません。

 

「三浦君」の入社から半年位経ったそんなある日、

彼の奇行を目の当たりにしたのでした。

 

1年目の社員と言うのは、会社にかっかって来た電話は

真っ先に出るのが慣例です。

彼も会社にいる時には、せっせとかかって来た電話への

対応をしておったわけですが、

 

所詮入社半年めで、

飛び込み営業しているだけの社員。

 

担当しているお客さまがあるわけでもないため、

自分宛てにかかってくる電話など皆無で、先輩宛てや社員、

問い合せ等々の対応をこなしておりました。

 

 

平和な日々が過ぎていく中、1本の電話がかかってきました。

 

 

プルルルル・・・、プルルルル・・・、カチャ。

 

「はい、A社です。お世話になっております。

少々お待ちください。」

 

電話を取ったのは「三浦君」でした。

彼は、いつものように受け答えをして、受話器を置き

保留にしました。そう、いつものように。

 

しかし

 

そこからが、いつもと違っていたのです。

彼は、保留にした電話の受話器を置いたまま、

固まってしまったのです。

 

もしや、クレームか?

 

周りにいた先輩社員たちは、次々に彼に問いました。

 

先輩:「誰宛だよ?」

 

三浦君:「・・・いや・・・。」

 

先輩:「どうしたんだよ」

 

三浦君:「・・・いや・・・。」

 

先輩:「いやじゃ、解らないだろう」

 

三浦君:「・・・いや・・・」

 

先輩:「クレームなのか?」

 

三浦君「・・・いや・・・」

 

何を聞いても「・・・いや・・・」しか言わない三浦君に

だんだん先輩たちも語気が荒くなり、

三浦君も真っ赤な顔になり、余計固まっていきました。

 

そんなやり取りが交わされて1分近くたち、ある先輩が

「代わろうか」と言った次の瞬間です。

 

 

彼は信じられない行動をとったのである。

 

 

「三浦君」は、

 

会社にかかって来た電話に出て、

いつも通りの対応をし、

 

「少々お待ちください」と言い

その電話を保留にした。

 

1分近く待たせたその電話に、

彼は、みずからまた出て、

 

 

こう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お電話代わりました、

三浦でございます。」

 

 

一人二役です。

 

 

まさかかかってくるはずの無い、お客様からの自分宛ての電話。

 

生まれて初めてお客様から自分宛てに

電話がかかって来たので、

無防備であった彼は咄嗟に対応できず、

 

自作自演・一人二役をやってのけてしまったのである。

 

バレバレだったと思う。

 

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