「吉田松陰」
著 者 : 山岡 荘八 出版社 : 講談社 全 2巻
主人公 : 吉田松陰
物  語

  長州藩の下級武士である杉百合之助の次男として誕生した虎之助は、その素
 質を見抜いた叔父の吉田大助(百合之助の弟)の養子となり、吉田大次郎矩方
 を名乗り、もう一人の叔父の玉木文之進(百合之助の弟)の開いた松下村塾の
 塾生として、厳しい講義を受ける中、頭角を現し始めます。
  九州、関東、東北と全国を遊歴し、勉学に励んだ大次郎は、洋学の権威である
 佐久間像山に師事し、名を吉田寅次郎矩方と改め、松陰と号します。
  憂国の念を深くした松陰は、嘉永 7年(1854年)に、夷国で洋学を学び、国難を
 打開しようと決意し、盟友の金子重之助とともに下田に停泊中のペルリ提督率い
 る米艦隊へ密航を企てますが失敗し、投獄されてしまいます。
  萩の野山獄に入牢された松陰は、出獄を許された後、安政 3年(1856年)に、
 自邸に松下村塾を開き、後進の教育に邁進しますが、幕府大老の井伊直弼に
 よる安政の大獄で、松陰の憂国の思想は危険視され、安政 6年(1859年)に
 斬首されてしまいます。
  僅か二年半の、国想う松陰の至誠に基づく教育は、高杉晋作、久坂玄端、
 吉田稔麿、木戸孝允、山県有朋、伊藤博文らの俊才を輩出し、長州藩の決起、
 来る明治維新の原動力となり、日本の歴史は大きく変わって行きます。

感  想

  明治維新における尊王攘夷論の精神的支柱となった吉田松陰の生涯が、
 山岡さんの読みやすい文章で、丁寧に描かれています。
  松陰の、両親や皇室や国を想う心、人を裏切らない至誠の心、上下分け隔て
 なく個人の資質を伸ばす教育など、読み進める内に感動を覚えます。
  松陰が生きた江戸時代末期の日本は、外国の侵略の脅威に脅かされた時代
 で、一歩対応を誤れば、日本も外国の植民地にされてしまう危険性があり、
 現代の日本にも当てはまることが多々あり、思わず身震いしてしまいました。

お薦めランク : ★★★★★


「燃えよ剣」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 新潮社 全 2巻
主人公 : 土方歳三
物  語

  徳川政権の威信が揺らぎ始め、治安が悪化している幕末の京都に、浪士を
 もって浪士を制するを目的に 「新撰組」 は誕生します。
  様々な種類の人間が寄り集まる集団に、゙局中法度" と呼ばれる規律を創り、
 厳格な組織を作り上げた歳三は、局長の近藤勇、弟分とも言える沖田総司ら
 新撰組の隊士とともに、他の幕府譜代の藩が相次いで離反し、倒幕軍(官軍)
 に加わる中、義を重んじて幕府のために戦います。
  池田屋襲撃、鳥羽伏見の戦い、甲州勝沼の戦いと多くの戦場を、愛刀の
 和泉守兼定を片手に駆け巡りますが、時勢は ゙倒幕" に傾きつつあり、近藤
 の降伏と斬首、沖田の病死など新撰組隊士は一人また一人と減っていって
 しまいます。
  しかし、剣に憑かれた歳三は一人となっても、宇都宮城、会津若松、宮古湾
 海戦、函館五稜郭と舞台を変えて最後まで倒幕軍と戦い続けます。
  戦いが敗色濃厚となった頃、近藤、沖田らのもとへゆくことを心に決め、死に
 場所を求めていた歳三は敵軍中に突入し、銃弾に倒れます。

感  想

  土方歳三の生き様に、男女問わず深い感銘を受けること必至です。
  また、近藤勇、沖田総司 らとの会話が魅力的に描かれていて楽しめます。
  しかし、やはり一番光るのは、歳三 の抜群の軍事的センスと個人的剣技
 を発揮するシーンだと思います。
  面白いので、あっという間に読破してしまうはずです。

お薦めランク : ★★★★★



「新選組血風録」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 角川文庫 全 1巻
主人公 : 新選組隊士
物  語

  新選組に侵入した長州のスパイを描いた「長州の間者」、監察の山崎蒸の
 屈折した過去を描いた「池田屋異聞」、近藤勇の愛刀゙虎徹"の真贋を巡る
 「虎徹」、隊士間の怪しい男関係を描いた「前髪の惣三郎」、人間のもろさと
 悲劇を描いた「胡沙笛を吹く武士」、沖田総司の純粋さが光る「沖田総司の恋」
 等、全15編からなる、動乱の幕末を一本の剣で駆け抜けた新選組隊士の物語
 です。

感  想

  個性豊かな新選組隊士の様々な逸話が生き生きと描かれており、とても
 楽しめますが、私個人としては、「長州の間者」と「胡沙笛を吹く武士」の2編
 が秀逸だと思います。
  短編集のため、気楽に読めるのも良いです。

お薦めランク : ★★★★★



「高杉晋作」
著 者 : 山岡 荘八 出版社 : 講談社 全 3巻
主人公 : 高杉晋作
物  語

  安政 6年(1859年)、梅田雲浜の捕縛に始まる「安政の大獄」で、長州
 藩の吉田松陰は斬首されますが、自らの意志を継ぐ者として、松下村塾
 の門下生の四天王の一人、高杉晋作の激しい気性に期待を賭け、晋作
 も松陰の遺志を受け継ぎます。
  やがて、井伊直弼が暗殺され、時代が尊王攘夷へ向かうと、晋作は
 諸国を遊歴し、加藤有鄰、佐久間象山らの志士に会う中で、英国に蹂躙
 された支那の上海を自らの目で見ることを決意します。
  上海は、欧米列強の植民地と化しており、その姿に日本の未来を重ね
 合わせた晋作は、己の為すべき道を見つけ、帰国後に長州藩を脱藩し、
 倒幕へ向けて行動を開始します。
  英国公使館の焼き討ち、奇兵隊の結成、馬関戦争とその停戦交渉、
 藩内恭順派との戦い、長州藩論の統一、薩長同盟の対応、第二次長州
 征伐での海軍総督としての活躍など、休む間もなく倒幕へ邁進する晋作
 は、第二次長州征伐の勝利後に、体の不調を訴えます。
  体調は回復することなく悪化の一途を辿り、一世の奇傑、高杉晋作は
 新生日本を見る前に、この世を去ってしまいます。

感  想

  吉田松陰に次ぐ維新回天の立役者である高杉晋作ですが、その行動の
 過激さと傲岸不遜さゆえ長州藩でも手を持て余し、事ある毎に謹慎と召還
 を繰り返されるのが、微笑ましくて面白いです。
  思うのですが、馬関戦争の講和交渉における晋作の詭弁振りこそ、現代の
 日本の外交に缺けているものかも知れません。

お薦めランク : ★★★★★



「峠」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 新潮社 全 2巻
主人公 : 河井継之助
物  語

  越後長岡藩の藩士の河井継之助は、陽明学に基づく行動力と現実的な
 思考の持ち主で、諸国を遊歴する中、備中松山藩の山田方谷に師事して、
 政治改革の手法を会得します。
  将来を見据えた継之助の洞察力は、藩主の牧野忠恭の目に留まり、奉行、
 家老へ昇進し、様々な政治改革を断行する中、徳川幕府の崩壊を予見し、
 「武装中立」の道を採るべく、藩の武装の近代化と洋式調練を進め、佐幕で
 も官軍でもない長岡藩の独立を目指します。
  しかし、そのような継之助の考えは官軍に容れられず、小千谷における
 会談は決裂し、長岡を舞台に官軍との壮絶な戦いが始まります。
  継之助は、奇襲や新兵器ガットリング砲による攻撃などで、官軍を圧倒
 しますが、長岡城を巡る攻防戦で負傷してしまいます。
  長岡軍は、同盟を結ぶ会津領へ退却しますが、継之助の傷は重く、自ら
 の棺を作るよう指示し、それを見守りながら、この世を去ります。

感  想

  戊辰戦争中、最大の激戦と云われる北越戦争を描いた小説ですが、長岡
 藩をはじめとする幕末の諸藩の情勢、継之助の思想や行動を丁寧に描いて
 いるため、戦争に至るまでの経緯が若干長く感じました。
  しかし、物語後半から描かれる小千谷談判から北越戦争の描写は秀逸で
 前半の冗長さを忘れてしまう濃密さです。(笑)
  幕末の英雄の間に埋もれがちな「河井継之助」という人物に焦点を当てた
 司馬氏の着眼には敬服します。

お薦めランク : ★★★☆☆



「江は流れず 小説 日清戦争
著 者 : 陳 舜臣 出版社 : 中公文庫 全 3巻
主人公 : 李鴻章、袁世凱
物  語

  1882年、朝鮮半島において、大院君(朝鮮国王の父親)が起こした壬午の
 軍乱を、宗主国である清国(北洋軍)が平定しますが、この乱で朝鮮居留民
 を殺害された日本は、朝鮮に駐兵する権利を得、この結果、朝鮮国内に清国
 と日本の軍隊が駐屯することになり、朝鮮政府は親清派と親日派に分かれ、
 不穏な空気が漂い始めます。
  清国では、乱の平定に功のあった幕僚の袁世凱に、朝鮮に駐屯する兵の
 指揮権を与え、親日派の動きを警戒させますが、1885年に日本軍の武力を
 背景にした親日派によるクーデターが勃発します。
  しかし、袁世凱の迅速な行動でクーデターは失敗し、朝鮮政府から親日派
 が一掃されますが、独立を悲願とする朝鮮政府は、清国ではなくロシアと
 接近するなど独自の動きを見せ始めます。
  1894年に朝鮮政府の圧政に対する東学党の乱の鎮圧を名目に、朝鮮国に
 清国(北洋軍)と日本の軍隊が増派され、1894年 7月23日朝鮮王宮に日本
 軍が進撃したことから日清両国の戦いの火蓋が切られます。
  1894年 7月25日の豊島沖海戦、9月15日の平壌の陸戦に連勝した日本軍
 は 9月17日の黄海海戦で清国北洋艦隊に大打撃を与え、11月には遼東半島
 の旅順、大連を占領し、翌1895年 2月 4日には威海衛海戦で清国北洋艦隊
 を壊滅させ、清国は日本に降伏します。
  1895年 4月17日、下関での日清両国の講和条約の締結直後から、露独仏
 の日本に対する三国干渉が始まり、清国では内政改革を叫ぶ声が日増しに
 高まり、東亜に新たな動きがはじまりつつ、物語は幕を閉じます。

感  想

  清国と朝鮮の人名、役職、軍制、習俗などが日本と全く異なっていることから
 それらを理解するのに時間がかかりましたが、読み進める内に、欧米列強の
 東アジアに対する思惑などの緊迫感に引き込まれてしまいました。
  なお、本作品は清国の李鴻章と袁世凱を中心に、日清戦争前の清国や朝鮮
 の国内事情に大半が割かれているので、日清戦争の描写や明治初期の日本
 を知りたい方には若干物足りない内容かも知れません。

お薦めランク : ★★★★☆



「小説 太平洋戦争」
著 者 : 山岡 荘八 出版社 : 講談社 全 9巻
主人公 : 日本民族
物  語

  物語は、「日独伊三国同盟」を締結した松岡外相が、日本に帰国する場面から
 始まります。
  松岡外相は、近衛内閣の下、この同盟を゙具"に悪化している日米関係の修復
 を試みますが、既に開戦を決意している米国大統領ルーズベルトに翻弄され、
 近衛内閣は総辞職となり、後継の東条内閣も戦争回避のため奔走しますが、
 米国国務長官ハルによる「ハル・ノート」の挑発的な内容に日本は憤激し、自衛
 のため、米国との開戦を決意します。
  昭和16年(1941年) 12月 8日、ハワイ島真珠湾から戦いは始まり、英領
 マレー(マレーシア・シンガポール)、米領フィリピン、蘭領インド(インドネシア)
 を舞台に、日本軍は米英蘭軍に対し、破竹の勢いで勝利を重ねます。
  しかし、昭和17年(1942年) 6月 5日のミッドウェー海戦の敗北を契機に米国
 ら連合国軍の反撃は開始され、ガダルカナル、ニューギニアでの敗退、山本
 連合艦隊長官の戦死、英領インド攻略(インパール作戦)の失敗、山本長官の
 後を受けた古賀連合艦隊長官の死、と前途に暗雲が漂い始めます。
  新たに豊田連合艦隊長官を迎えて、昭和19年(1944年) 6月19日にマリアナ
 沖海戦を戦いますが惨敗し、続くサイパン島失陥の責任を取り、東条内閣は
 総辞職となります。
  東条内閣の跡を継ぎ小磯内閣が成立しますが、連合国軍の勢いは止まらず
 絶対国防圏の破綻、台湾沖航空戦の敗北、昭和19年(1944年)10月25日の
 レイテ島沖海戦と陸上戦に敗れた日本軍は、神風・神雷特別攻撃隊による特攻
 作戦を敢行しますが、戦局は挽回できず、硫黄島が玉砕した責任を取り、小磯
 内閣から鈴木内閣へ交替して、和平への道を模索し始めます。
  戦艦大和の水上特攻の失敗、沖縄戦の敗北、日本全土への無差別爆撃、
 広島と長崎への原爆投下と続く中、和平の仲介を依頼していた同盟国ソ連が
 不可侵条約を一方的に破棄して突如参戦し、日本に滅亡の危機が訪れますが
 昭和20年(1945年) 8月15日に天皇陛下の聖断で、連合国軍のポツダム宣言
 を受諾し降伏することが決定し、3年 8ヶ月に及んだ戦争に敗北します。
  昭和20年(1945年) 9月 2日、戦艦ミズーリ艦上で日本は降伏文書に調印し、
 武装解除を始めると、連合国軍総司令官マッカーサーは、「ポツダム宣言」の
 諸条項を無視して、勝者による敗者への裁き「東京裁判」を開廷し、結論の
 決まっている茶番劇で復讐を果たします。
  一方、満州国には、かつての日本の同盟国ソ連が、侵略を開始しますが、
 降伏して武装解除した日本に反撃は許されず、満州国に入植した日本人は、
 虐殺と強姦の限りを尽くされた挙句に、シベリアへ拉致されてしまいます。
  民族の存亡を賭けた大東亜戦争は、悲しい幕を閉じて終わります。

感  想

  実を言うと本作品を手にした当初は、反戦平和を謳う反日作品だと勘違いして
 いたのですが、 全く違って安心したのを覚えています。(苦笑)
  作者の山岡さんは、戦争当時、大本営の報道班員として各戦地を取材して
 『白色人種が、有色人種を支配していた世界』 を肌で感じて生きた人で、戦中
 の様々な情報に、戦後に各当事者から取材した内容を加味して、当時の日本
 が置かれた状況を克明に描いているため、「小説」というよりは、「史実」として
 読んでも過言ではない内容だと思います。
  全 9巻におよぶ大作ですが、3巻以降は日本軍の苦闘の物語で、読むのが
 辛く、特に最終巻は降伏後の「東京裁判」やいわゆる「A級戦犯」のこと、ソ連
 の不法行為がまざまざと描かれており、激情を抑えるのに必死でした。
  しかし、そのような中に描かれる 「極限状態の中で見せる日本人らしさ」には
 尊敬の念を抱くとともに感動を覚えました。
  なお、上に書いたとおり、日本は戦争中も議院内閣制が機能しており、決して
 「独裁政権による軍国主義」ではないことが分かると思います。

  本作品は、物語の読みやすさもさることながら、未だに批判の的にされている
 大東亜戦争について、開戦から終戦後までの真実を小説にして、次代に遺して
 くれたという業績が評価されるべきだと思います。
  全ての日本人に読んで欲しい小説なので、+★ とします。

お薦めランク : ★★★★★+★