「北條早雲」
著 者 : 早乙女 貢 出版社 : 文芸春秋 全 5巻
主人公 : 伊勢新九郎
物  語

  伊勢新九郎が、徒手空拳の身から妹のツテで今川家へ身を寄せ、今川氏親
 の擁立における駆け引き、堀越公方を討った伊豆平定戦、鹿狩りと称して奇襲
 を行う小田原城奪取、相模の名族である三浦氏を滅ぼす新井城攻防戦の後、
 88歳で大往生を遂げるまでが描かれます。

感  想

  情景描写や雰囲気などはおどろおどろしく、戦国時代の初期らしいものが
 感じられて、とても良いのですが、伏線の張り方が甘いのと、女性の扱い方
 がかなり露骨なのが目に付きます。
 (エ○小説を期待している訳じゃないんだから・・・)
  主人公である新九郎より、川越城、岩槻城、江戸城を築き、主君の上杉定正
 の隆盛を担うものの、謀殺されてしまう太田道灌の方がカッコ良かったりします。
 (苦笑)
  北條早雲 について深く知りたい人は読んでみては?

お薦めランク : ★★☆☆☆



「風林火山」
著 者 : 井上 靖 出版社 : 新潮社 全 1巻
主人公 : 山本勘助
物  語

  古今の兵法に明るく、城取りの達人と噂される山本勘助は、今川家へ食客
 の身を置いていましたが、武田家の重臣の板垣信方と接触し、武田家に仕官
 することに成功します。
  勘助は、武田信玄のために、諏訪攻略で人質とした美女の由布姫を信玄の
 側室とし、武田と諏訪の血が流れる子が誕生することで、諏訪衆との宥和を
 図るよう手を尽くします。
  やがて、信玄と由布姫との間に子(勝頼)が生まれますが、由布姫の心には
 信玄に対する愛と憎の複雑な感情があり、勘助は苦悩します。
  しかし、由布姫の気高い美しさと明晰な頭脳にひかれた勘助は、信玄と由布姫
 そして二人の間に産まれた勝頼を全力で守ることを心に誓いますが、由布姫は
 病死してしまいます。
  永禄 4年、上杉謙信との川中島合戦で、作戦の裏をかかれ、危機に陥った
 信玄を救うべく、勘助は上杉軍本営に突入し、その一生を終えます。

感  想

  山本勘助が、由布姫と武田信玄の若き二人に自分の全てをかけ、全力で守ろ
 うとする姿が新鮮で好感が持てます。
  稀代の軍師山本勘助の存在感が際立つ良質な作品としてオススメできます。

お薦めランク : ★★★★★



「武田信玄」
著 者 : 新田 次郎 出版社 : 新潮社 全 4巻
主人公 : 武田信玄
物  語

  甲斐の名将と呼ばれる武田信玄の、多感な青年期から、京都への上洛を目前
 に見つつ病いに倒れてしまうまでの、親と子の葛藤、数々の領国経営(「甲州法度
 之次第」の制定、治水事業「信玄堤」、軍用道路「棒道」の造成)、上杉謙信や北条
 氏康、織田信長をはじめとする周辺諸国の群雄との死力を尽くした戦いなどが
 丁寧に描かれています。

感  想

  新田さんの淡々とした物語展開は、実は慣れるまでに時間がかかりましたが、
 慣れるとその独特の緊張感に魅了されました。
  三条夫人の描かれ方は、ちょっと・・・ですが。

お薦めランク : ★★★★★



「武田勝頼」
著 者 : 新田 次郎 出版社 : 講談社 全 3巻
主人公 : 武田勝頼
物  語

  元亀 4年、武田信玄 の死によって家督を継いだ 勝頼 でしたが、その実権は
 御親類衆と呼ばれる武田氏の親族(一門)衆が握っており、中でも勝頼の義兄に
 当り、年上でもある御親類衆筆頭の穴山梅雪の発言力は絶大なものでした。
  勝頼は、信玄死去後の混乱を衝かれ、奥三河の要衝にある長篠城を徳川家康
 に奪われてしまいますが、一転して攻勢に出るや、信玄でさえ落とせなかった遠江
 の高天神城を落すなど、破竹の勢いで織田・徳川方の諸城を攻め落します。
  しかし、天正 3年、織田・徳川連合軍との長篠城、設楽ヶ原を舞台にした合戦で、
 織田信長の謀略と穴山梅雪の独断的な行動により、重臣の大半を失うという大敗北
 を喫してから、その前途には暗雲が漂い始めます。
  勝頼は、甲斐国内での鉄砲製造、北条氏との婚姻、上杉景勝との同盟締結、
 新府城の築城等、様々な施策を行いますが時代の流れは急で、天正10年に信長
 の嫡男である信忠を総大将とする織田軍の甲斐侵攻において、梅雪、木曽義昌ら
 御親類衆が裏切り、それを契機として多くの武将が離反し、諸城は戦わずして降伏
 してしまいます。
  僅かな家臣に守られ逃げ落ちる勝頼主従ですが、逃げるのが困難と悟ると天目山
 において壮絶な最期を遂げ、5世紀に渡る甲斐武田氏の歴史に幕を閉じます。

感  想

  武田氏を滅ぼした張本人といわれている武田勝頼について、新田さんが史料の
 新解釈、丹念な現地取材に基づいて新たな勝頼像を描いています。
  特に長篠城、設楽ヶ原の合戦の新解釈や、御館の乱における景勝方への助勢の
 理由等は従来、唱えられている説に一石を投じる内容だと思われます。
  また、勝頼や信長に翻弄される若き家康の苦悩が、丁寧に描かれているのも興味
 が持てると思います。
  全ての武田ファンに読んでもらいたい作品です。

お薦めランク : ★★★★★



「武田三代」
著 者 : 新田 次郎 出版社 : 新潮社 全 1巻
主人公 : 武田氏
物  語

  新田さんの「武田信玄」、「武田勝頼」の武田二部作の前後に発表された、補足的
 な逸話を集めた短編集です。
  信玄ファンにはあまりに有名な「晴信初陣記」、信虎の異彩が際立つ「信虎の最期」
 義信との不和を暗示するかのような「消えた伊勢物語」、狼煙玉の製造者を描いた
 不思議な雰囲気の「火術師」などの短編が全7話収録されています。

感  想

  同じ新田さんの作品ながら、なぜか、上の「武田勝頼」と異なり、勝頼を好意的に
 描いていない短編が多いのが不思議な感じがしました。
  短編集なので気軽に読めるのも嬉しいです。

お薦めランク : ★★★★☆



「剣の天地」
著 者 : 池波 正太郎 出版社 : 新潮社 全 1巻
主人公 : 上泉秀綱
物  語

  上野国の大胡城主である上泉伊勢守秀綱は、鹿島神宮で鍛えられた全国に名を
 知られた剣士で、゙上州の黄斑"と異称される箕輪城主の長野業政とともに、関東管領
 の上杉家を支えますが、北条・武田の侵攻で長野・上杉の両家が敗北したことで、
 大胡城を子の秀胤 へ譲り、回国の旅に出ます。
  回国の途次で柳生宗厳に出会った秀綱は、自ら創始した「新陰流」の二世を譲ると、
 やがて、歴史の舞台から姿を消してしまいます。

感  想

  箕輪城主の長野業政の次女の富姫の目線から上泉伊勢守が登場する本物語は、
 戦国動乱の北関東が描かれ、個人的に嬉しかったです。(地元ですので)
  前半の山場は、国峰城と箕輪城を舞台にした戦いで、その描写はとても迫力が
 あり、一人の剣士としてまた武将としての上泉伊勢守が描かれています。
  後半は、回国の旅に出た上泉伊勢守が、柳生但馬守宗厳に、「新陰流」の二世を
 譲るなど剣法の物語となりますが、天と地と自然と一体化した上泉伊勢守の剣術を
 さらに高めた柳生宗厳の心身の成長も描かれ、その後の柳生一族の興隆も垣間見
 える展開でした。

お薦めランク : ★★★★☆



「剣豪将軍 義輝」
著 者 : 宮本 昌孝 出版社 : 徳間書店 全 3巻
主人公 : 足利義輝
物  語

  室町時代末期、衰退する足利幕府にあって「剣豪将軍」と呼ばれた第13代将軍
 足利義輝の幼少期から、松永久秀によって壮絶な死闘を繰り広げた末の最期まで
 を描いた作品。

感  想

  史実を元にしながらも大胆にアレンジされた本作品は、義輝と様々な仲間との
 友情物語とも呼べます。
  しかし、「剣豪将軍」とも異称される義輝ですから、物語の目玉は、回国修行の旅
 で秘剣「一の太刀」を会得する場面と、最後の死闘の場面であり、特に最後の場面で
 の、地面に刺した無数の足利家重代の剣を、刃こぼれする度に取り替えては、適中
 へ駆け入って縦横無尽に斬りまくる姿は、とにかくカッコ良く、爽快感を感じてしまう
 ほどでした。

お薦めランク : ★★★★☆



「武神の階」
著 者 : 津本 陽 出版社 : 角川書店 全 1巻
主人公 : 上杉謙信
物  語

  越後守護代である長尾為景の末子の虎千代は、父為景の死後、相次いで反旗を
 翻す国人衆を鎮圧し、次いで兄の晴景との家督争いに和解し、越後守護代の地位
 に就きます。
  同じ頃、隣国の信濃においては、武田晴信が猛威を振るい、戦いに敗れた信濃国
 の豪族たちは景虎(虎千代から元服)の勇名を慕い、助けを求めて来ます。
  晴信の軍が信越国境に迫ったとき、景虎は挙兵し、この瞬間から二人の長い戦い
 の日々が始まります。
  常に陣頭に立つほどの勇猛さを持つ景虎ですが、情に流される心の脆さも併せ持ち
 僧になるため出奔してしまうなど周囲の者を慌てさせる行動を取ります。
  しかし、関東管領の上杉憲政より管領職を譲られ、上洛して将軍の足利義輝と謁見
 し、正親町天皇にも拝謁するなど、次第に名声を高めて行きます。
  関東管領として、関八州の安定に心を砕く輝虎(景虎)は、鬼神の如き戦い振りで
 必ず勝利を収めますが、領土的野心を持たないため、武田、北条と一進一退を繰り
 返します。
  天下統一の野望を露わにした織田軍との手取川の戦いに勝利し、難攻不落の
 七尾城を奪取した輝虎は、関東への越山を決意しますが、その矢先に昏倒し、この
 世を去ります。

感  想

  上杉謙信 の生涯を、武田、北条など謙信を取り巻く人物を含めて、様々な参考
 文献や書状を元にして丁寧に描いています。
  特に書状が頻繁に出て来るため、当時の状況が分かり、物語にリアルさが漂って
 いるのが、本作品の特徴だと思います。
  なお、謙信にまつわる有名な逸話が全て網羅されているのも好感が持てました。

お薦めランク : ★★★★☆



「上杉謙信」
著 者 : 吉川 英治 出版社 : 講談社 全 1巻
主人公 : 上杉謙信
物  語

  永禄 4年、小田原の北条氏と対峙した 上杉謙信 でしたが、北条氏と同盟関係にある
 武田信玄の牽制により越後国へ帰還せざるを得なくなります。
  信玄と雌雄を決すべく、信州の川中島へ出陣した謙信は、武田方の海津城と目と鼻
 の距離にある妻女山へ布陣します。
  謙信より遅れて川中島へ出陣した信玄は海津城へ入城しますが、死地に身を投じて
 いる謙信の意図が分からないため、兵を動かすことができません。
  戦線が膠着して二十余日が経ったある晩、信玄は兵を二手に分けて上杉軍を挟撃
 する ゙啄木鳥の戦法"を発動し、対する謙信は、武田軍の陣地で、常より多くの炊爨の
 煙が上がっていることから、総攻撃を悟り、夜半密かに妻女山を降り、霧に隠れる
 八幡原に進出します。
  濃霧が薄れゆく八幡原で両軍は死闘を開始しますが、裏をかかれた武田軍は苦戦し
 死を賭した謙信の単騎突入により信玄も傷を負います。
  しかし、武田軍の別働隊が妻女山より八幡原に到着したところで戦局は逆転し、上杉
 軍は越後国へ引き揚げます。
  やがて、好敵手である信玄が没したところで物語は終わります。

感  想

  本作品は、第四次川中島の戦いに物語を絞り、テンポ良く描かれています。
  また、吉川さん一流の心温まるエピソードも伏線として盛り込まれており、とても
 好感が持てます。
  余談ながら、本作品は大東亜戦争時に描かれているため、表現に当時の時代感
 を感じることができると思います。

お薦めランク : ★★★★☆



「天と地と」
著 者 : 海音寺 潮五郎 出版社 : 角川書店 全 5巻
主人公 : 上杉謙信
物  語

  上杉謙信 の誕生から、第四次川中島の戦いまでを描いた物語。
  (短すぎてゴメンナサイ。。。)

感  想

  本作品は、謙信の父である長尾為景や兄の晴景絡みの逸話がかなり長く、肝心の
 謙信については、幼少期から第四次川中島の戦いまでしか描かれていないため、
 読んでいて面白かっただけに残念に感じました。
  しかし、その短い中にも上杉謙信という戦国時代にあって稀有な存在の人が十分  
 表現されており、楽しめました。

お薦めランク : ★★★★☆



「直江兼続 北の王国
著 者 : 童門 冬二 出版社 : 集英社 全 1巻
主人公 : 直江兼続
物  語

  織田軍の北陸侵攻に危機を迎えた越後国の直江兼続と主人の上杉景勝でしたが、
 織田信長の横死により危機を脱し、その後に覇権を握った羽柴秀吉への接近に成功
 し、兼続は秀吉の参謀の石田三成と兄弟の約を結び、秀吉から一目置かれるなど
 陪臣の身でありながら、従五位下山城守に任じられるほどの信頼を得ます。
  兼続は、豊臣政権下で奥州検地、朝鮮出兵、伏見城築城と手腕を発揮し、上杉家
 の越後から会津への移封に際し、大名並みの米沢30万石を拝領します。
  秀吉亡き後、専横の振る舞いが目立つ徳川家康に対し、豊臣家の安泰を願う石田
 三成と兄弟の約を結んでいる兼続は、主人の景勝とともに会津の軍備増強を進め、
 家康からの詰問状に「直江状」で反論するなど家康を挑発することで、家康に上杉
 征伐を決意させます。
  家康率いる軍勢を白河南方に誘い込んで撃滅する作戦を立てた兼続でしたが、
 上方で挙兵した石田三成の軍に対し、退却を始めた家康の軍を追撃せずに、旧領
 の越後国奪還と隣国の最上攻めの行動を起こします。
  しかし、三成率いる西軍が関ヶ原で家康率いる東軍に敗北すると、景勝・兼続主従
 は家康に和を乞い、会津120万石から米沢30万石に大減封されてしまいますが、
 兼続は米沢全体を城とする防衛都市計画を進め、農業指導に心を砕くなど新しい
 米沢を創ることに邁進します。

感  想

  上杉景勝の家臣でありながら、一大名として遇され、また抜群の才能を発揮した
 直江兼続の生涯を、景勝と兼続の主従愛、兼続と三成の友情を主軸に、読み易く
 描かれており、とても厚い本ながら気軽に読めると思います。
  また、作品の随所で見られる現代に置き換えた「組織学」的な話は、会社組織に
 身を置いている者には、戦国時代を身近に感じられて面白いです。

お薦めランク : ★★★☆☆



「王の挽歌」
著 者 : 遠藤 周作 出版社 : 新潮社 全 2巻
主人公 : 大友宗麟、義統
物  語

  豊後国の守護大名の大友宗麟は、人間不信と自分自身への嫌悪感から、心の安息
 を求めて切支丹の洗礼を受けます。
  やがて、北九州を支配した宗麟でしたが、島津氏との戦いに敗北すると、畿内の実力
 者である羽柴秀吉に助けを求めます。
  秀吉による島津征伐後に、宗麟は波乱に満ちた生涯を閉じ、子の義統が跡を継ぎま
 すが、朝鮮出兵で秀吉の不興を買ったことから豊後国を没収されてしまいます。
  関ヶ原の戦いで西軍に与した義統は、黒田軍に敗北し、他家の預かりの身となり、
 切支丹として祈りを捧げながら、死を迎えます。

感  想

  北九州を制覇しながら評価が高くない大友宗麟を、人間不信に苦しみ、自分の心に
 巣食う ゙表と裏"の面に悩む人物として描いており、新たな宗麟像を提示しています。
  また、物語に合わせて当時のキリスト教の実態や、天正少年使節団のことが触れ
 られている点も興味深く読めると思います。
  遠藤作品の心理描写は秀逸なので、信じられる人物が限られている戦国時代の
 暗く重い物語世界に入り込めることができます。

お薦めランク : ★★★★★



「決戦の時」
著 者 : 遠藤 周作 出版社 : 講談社 全 2巻
主人公 : 織田信長
物  語

  織田信長 の前半生を、「武功夜話」の逸話を元に、木曽川周辺の豪族集団である
 川筋衆(蜂須賀小六や前野将右衛門)の活躍を織り交ぜて描かれた物語。

感  想

  前半は信長 と側室の 吉乃 を中心に物語が展開しますが、後半は信長 の心理描写
 の代わりに、秀吉や浅井長政、お市の方といった信長に翻弄される周囲の人物の心理
 描写が詳細に描かれるようになります。
  作品中の 『一枚の抽象画のなかではそれぞれの色はそれぞれの役割をかたくなに
 守っている。 だがその作品の上に突然、別の−たとえば黒い色が滴ってキャンバスに
 拡がりはじめたらどうなるか、他のすべての色がたがいに持っていた調和や均衡は
 たちまちにして乱れるにちがいない。 戦国時代における信長 の出現はまさにこの黒い
 色のごときであった。』 は、信長の性格を端的に表している秀逸な言葉に感じました。
  「武功夜話」による信長の物語は、従来の英雄談と異なる違った角度から見ることが
 でき、また、遠藤作品共通の秀逸な心理描写と相まって、とても楽しめました。

お薦めランク : ★★★★★



「織田信長」
著 者 : 山岡 荘八 出版社 : 講談社 全 5巻
主人公 : 織田信長
物  語

  織田信長の激烈な49年の生涯を、正室の濃の方、羽柴秀吉、明智光秀、徳川家康
 らを交えて、生き生きと描かれています。
  (信長の生涯は有名なため、ここでは割愛いたします)

感  想

  本作品での信長は、天才的な革命家という面は通説どおりながら、冷酷・残虐な面は
 弱められ、濃の方や秀吉と冗談を言い合う場面が多いことと、戦略・戦術面での強さも
 相まって、「万人受けし易い英雄」 という像が作り上げられています。
  読んでいて面白かったのが、桶狭間の合戦前の異様な緊張感で、尾張国の浮沈を
 かけた乾坤一擲の奇襲をかける信長の苦悩と、慎重に軍を進めるも、少しの油断が
 命取りとなってしまった今川義元の姿が丁寧に描かれていました。
  終盤の、信長の苛烈な行動に、明智光秀が次第に疑心暗鬼に陥っていき、反旗を
 翻すという描き方は、安易な怨恨説を採用していないところが良かったと思います。
  しかし、本能寺の変の前の光秀の描かれ方は情け無いので、読んでいるこっちが
 元気が無くなってしまいましたが。。。

お薦めランク : ★★★★☆



「男の一生」
著 者 : 遠藤 周作 出版社 : 日本経済新聞社 全 2巻
主人公 : 前野将右衛門
物  語

  木曾川周辺の豪族集団 ゙川並衆"の前野将右衛門は、近郷の有力者である生駒家
 の吉乃に恋心を抱きますが、吉乃が領主の織田信長の側室になったことから、信長に
 対して複雑な感情を抱くようになります。
  その頃、信長の下で働く、木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)に仕官した将右衛門は、異例
 の出世を続ける藤吉郎とともに昇進しますが、やがて秀吉との間に微妙な距離を感じ
 始めます。
  ついに天下人となった秀吉でしたが、実子がいないため、養子の秀次を後継者と定め
 将右衛門の嫡子の景定を家来として付け、将右衛門にも秀次の補佐を命じます。
  しかし、秀吉に実子の拾丸(後の秀頼)が生まれると、周囲の思惑によって、秀吉と
 秀次の仲は引き裂かれ、秀次は謀反の疑いで切腹を命じられます。
  将右衛門と景定の父子も責任を取って切腹をし、全てが終わります。

感  想

  歴史書 「武功夜話」 を元に、武辺一本で純朴な前野将右衛門と一族の物語が、
 遠藤作品共通の秀逸な心理描写で描かれており、過酷な運命に翻弄される純真な
 人間の悲哀が心に残ります。
  余談ですが、「武功夜話」という歴史書については、諸説様々あるようです。

お薦めランク : ★★★☆☆



「反 逆」
著 者 : 遠藤 周作 出版社 : 講談社 全 2巻
主人公 : 荒木村重、明智光秀、高山右近
物  語

  摂津国の土豪の荒木村重は、躍進目覚しい織田信長の配下となり、摂津国を手に入れ
 ますが、信長の冷酷で残忍な性格に、「憎しみ、嫉妬、劣等感、恐怖」 という複雑な感情
 を抱いており、全てにおいて絶対の自信を持つ信長が「恐怖で顔を歪める」ところを内心
 では見たいと思っていました。
  天正 6年、有岡城で謀反の旗を挙げた村重でしたが、高山右近をはじめとする与力武将
 の裏切りもあり、二年に及ぶ籠城戦の末、備後尾道へと逃れます。
  同じ頃、明智光秀は数々の武功を挙げ、織田家中において、着実にその地位を高めて
 いましたが、天正 9年の天覧馬揃えにおいて、自らを ゙神格化" しようとしている信長に
 恐怖の念を抱き始めます。
  天正10年、光秀は所領の丹波・近江を取り上げられ、敵国の出雲・石見を切り取り次第
 という命を受けたとき、゙天の道" に従い信長を討つことを決意し、同年 6月 2日払暁、信長
 を討ちますが、秀吉との戦いに敗れてしまい、その生涯を閉じます。
  天正11年、秀吉が賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を破り、畿内に平和が戻ったところで物語
 は幕を閉じます。

感  想

  人間の心の弱さ、感情の動きを繊細にそして生々しく描いており、特に信長を巡る
 荒木村重、明智光秀の心理描写は秀逸です。
  伏線の張り方も緻密で、読んでいてその物語世界に引き込まれてしまいます。
  また、明るい場面が少ないのも戦国時代特有の殺伐さに感じられ、重厚な雰囲気を
 醸し出していると思います。人間の弱さを描いた 「傑作」 です。

お薦めランク : ★★★★★



「夏草の賦」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 文芸春秋 全 2巻
主人公 : 長曾我部元親
物  語

  明智光秀の重臣である斎藤利三の妹 ゙菜々" が、美濃国から土佐国の長曾我部元親
 の元へ嫁ぐところから物語は始まります。
  元親は若年の頃、おとなしい性格のため将来を心配されますが、家督を継ぐや武力と
 調略を駆使し、土佐国を統一します。
  また、早くから織田信長と誼を通じ、信長の武力を背景に四国統一を図りますが、この
 関係は長続きせず、天正10年に四国征伐を受けることになります。
  しかし、その直前に信長が本能寺で横死したため、元親は絶対絶命の危機を脱し、
 天正13年に四国全土の統一に成功しますが、信長の意志を継いだ羽柴秀吉の軍勢に
 敗北し、土佐国の領有のみを許されます。
  元親はその後、秀吉政権下の大名として、九州の島津征伐に嫡子の信親とともに出陣
 しますが、軍監の仙石秀久の暴走によって、信親を失ってしまいます。
  最愛の息子の死とほぼ同時に愛する妻も病で失った元親は生きる気力を失い、数年後
 に次男と三男を廃して、末子の盛親を後継者と定めたところで、物語は終ります。

感  想

  特徴的な名前で有名ながら事蹟はあまり知られていないであろう長曾我部元親の
 物語で、自由奔放で好奇心旺盛な妻の菜々と、真面目一本で人格者の信親との絡み
 が面白いです。
  史実でも、元親は家族愛に溢れる人物だったようで、そこには戦国時代にありがちな
 家族ではなく、古きよき日本の暖かく血の通った家族愛が描かれています。
  最後は、愛する妻と息子を失い、生きる希望を失った元親に、やがて来る長曾我部氏
 の没落が暗示できる悲しい終り方で幕を閉じます。

お薦めランク : ★★★★☆



「宿 敵」
著 者 : 遠藤 周作 出版社 : 角川書店 全 2巻
主人公 : 小西行長、加藤清正
物  語

  羽柴秀吉の近習である堺の豪商の子の行長と、尾張の鍛冶屋の子の清正 は、秀吉の
 巧みな家臣操縦術により、行長ば外交"で、清正ば武勇"で、それぞれ出世を重ねます
 が、生き方の相違から、お互いを生涯の宿敵と見るようになります。
  本能寺で信長が横死した後、覇権を確立した秀吉にキリスト教の棄教を命じられ、一度
 は棄教した行長でしたが、あることがきっかけで、表面は服従を装いながら、裏面では
 欺くという「面従腹背」 の道に生きることを誓い、切支丹の妻 ゙糸" を娶り、南蛮宣教師を
 匿う行動を取ります。
  やがて、九州で大名となった清正と行長は、明・朝鮮征服軍の先鋒を命じられますが、
 秀吉のために勇敢に戦う清正と、戦を止めさせるため敵・味方を欺き、偽りの交渉を行う
 行長は対立を深めます。
  7年に渡る泥沼の戦いの果てに秀吉は死亡し、行長と清正は日本に帰って来ますが、
 やがて関ヶ原の合戦を迎え、行長は西軍に属し敗北をすると、神の御心のままに静かに
 死を迎えます。
  東軍に属し、行長の居城を落とした清正は世の無常を感じ、秀頼を守り抜くことに生き
 る道を見出しますが、病にかかり、行長と同じ年齢で世を去ります。

感  想

  加藤清正と小西行長の対照的な生き方を描いていますが、颯爽とした武人の清正より
 人間的な弱さと優しさを持った行長に、読んでいて感情移入してしまいます。
  特に行長夫妻の ゙夫婦愛" には、胸を打たれてしまいました。
  一般的に印象の薄い小西行長を、違った角度から見ることが出来る作品です。

お薦めランク : ★★★★☆



「謀将 真田昌幸」
著 者 : 南原 幹雄 出版社 : 角川書店 全 2巻
主人公 : 真田幸隆、昌幸
物  語

  真田幸隆と父の海野棟綱は、諏訪・武田・村上の連合軍に敗れ、信濃国から上野国
 へ逃れて来ます。
  数年後、甲斐国で国主の座に就いた武田晴信に大器を見た幸隆は、かつての敵なが
 らも、旧領回復・一族再興のため、武田家へ仕官し、持ち前の智謀で数々の武功を挙げ
 武田家中に確固たる地位を築き上げます。
  しかし、信玄の跡を継いだ勝頼は長篠・設楽ヶ原の戦いで、織田・徳川の連合軍に
 敗北し、幸隆の嫡男の信綱と次男の昌輝は戦死してしまいます。
  急遽、真田家の家督を継いだ三男の昌幸は、上州沼田城の攻略を成功させるなど
 奮闘しますが、武田家は織田信長によって滅ぼされてしまいます。
  主家滅亡という異常事態を智略をもって切り抜けた昌幸は、信濃国に上田城を築城
 し本拠を定め、第一次上田合戦、小田原征伐、第二次上田合戦と数々の戦いに勝利
 します。

感  想

  真田幸隆・昌幸の戦法というのは、正面攻撃をしながら裏面で内部工作をし、内応
 により、その城を落とすというものなのですが、残念ながら敵側の心理描写が細かく
 描かれていないため、あっさりと城を落としている感がしました。
  特に 戸石城・岩櫃城・沼田城の攻略はこの典型なため、じっくり読みたかった自分
 としては、少し残念でした。
  しかし、真田幸隆・昌幸の二人の一生を、たった2冊で手軽に読めるのはいいかも
 知れません。
  余談ですが、関ヶ原の戦い勃発への解釈は面白いものがあります。

お薦めランク : ★★★☆☆



「関ヶ原」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 新潮社 全 3巻
主人公 : 石田三成
物  語

  豊臣秀吉が死去するところから、豊臣政権の五奉行の一人である石田三成が、
 関ヶ原の合戦で徳川家康が率いる東軍に敗れ、六条河原で斬首されるところまで
 が描かれます。

感  想

  石田三成を主人公に据え、新たな関ヶ原の合戦が楽しめます。
  個性豊かな戦国大名が様々な逸話を披露するのが、とにかく面白いのですが、
 三成の家臣の島左近の武勇、三成との友誼に死す大谷吉継、そして何より主人公
 三成の豊臣家思いの一途さには深い感銘を受けるのではないでしょうか。
  それと引き換えに家康の描かれ方は、かなり露骨なので賛否分かれるところでしょう
 か。。。

お薦めランク : ★★★★★



「戦雲の夢」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 講談社 全 1巻
主人公 : 長曾我部盛親
物  語

  四国の雄と呼ばれた長曾我部元親の第四子でありながら家督を継いだ盛親は、
 父の元親の死後ほどなくして勃発した関ヶ原の合戦で、運命に流されるままに西軍
 に与しますが、戦うことなく敗北し、東軍の総大将の徳川家康の命により、土佐国の
 太守から一介の牢人に身分を落とされてしまいます。
  大岩祐夢と名乗り、京で寺子屋の師匠をつとめる盛親の元に、徳川家と豊臣家の
 合戦が間近であるという情報が入り、豊臣家から誘いの手が伸びて来ます。
  自分の人生を天に賭け、長曾我部家の旗を戦野に立てることを誓った盛親は京都
 所司代の監視の目をくぐり抜けて、かつての旧臣たちとともに大阪城に入城します。
  後藤又兵衛、真田幸村、塙団右衛門らとともに奮戦する盛親は、夏の陣で自分の
 能力の全てを吐き出し、徳川軍の先鋒の藤堂高虎の軍団を、壊滅寸前にまで追い込み
 ますが、戦局は味方に不利に動き、大阪城へ退却します。
  その翌日、大阪城が落城したときに、盛親の姿を見た者は誰もいませんでした。

感  想

  長曾我部盛親の、関ヶ原、大阪の陣における動きを期待して読んだのですが、合戦
 シーンが小説全体の1/3程度しかないためにつらいものがありました。
  しかし、司馬さんの読みやすい文体と物語展開のためにサクサク読めると思います。

お薦めランク : ★★★☆☆



「城 塞」
著 者 : 司馬 遼太郎 出版社 : 新潮社 全 3巻
主人公 : 小幡勘兵衛
物  語

  慶長 5年の関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康は、江戸幕府を開き、事実上の天下人
 となりますが、慶長16年に対面した豊臣秀頼の貴公子然とした威風に危機感を抱き、
 将来の禍根を絶つため、豊臣家を滅ぼすことを決意します。
  方広寺鐘銘事件に端を発する家康の挑発に乗った豊臣首脳(淀殿、大野修理ら)は
 開戦を決意しますが、家康に敵対しようという大名は現れず、牢人を招き入れ、対抗
 することにします。
  慶長19年11月の冬の陣で、真田幸村や後藤又兵衛、木村重成らの奮闘に徳川方
 東軍は敗北を重ねますが、家康は天守閣に大筒を撃ち込み、心理的揺さぶりをかけ、
 和議を持ちかけます。
  しかし、この和議は家康の謀略であり、大阪城は本丸以外の全ての堀を埋められ、
 防御力の無い裸城と化してしまいました。
  和議成立から数ヶ月後、家康はまたも豊臣首脳を挑発し、慶長20年 5月に夏の陣が
 始まります。
  塙団右衛門、長曾我部盛親、真田幸村、毛利勝永らは力戦しますが、次々と討死に
 し、ついに秀頼、淀殿らも大阪城を墳墓に自害して果てます。

感  想

  後に『甲陽軍艦』を著した小幡勘兵衛という人物の目線で物語は描かれていますが、
 最後までこの人物に感情移入できませんでした。
  作品中の真田丸の攻防、後藤又兵衛の渋さ、長曾我部盛親の活躍、そして真田幸村
 と毛利勝永の家康本営急襲シーンは、本当にカッコ良く、「大阪の陣」の意外な面白さを
 発見できました。
  それにしても、司馬さんの「関ヶ原」以来共通している家康像は賛否分かれる描かれ方
 だと思います。(苦笑)

お薦めランク : ★★★★★



「伊達政宗」
著 者 : 山岡 荘八 出版社 : 講談社 全 8巻
主人公 : 伊達政宗
物  語

  永禄10年、米沢城に生まれた梵天丸(政宗の幼名)は、幼いときに疱瘡にかかり、片目
 を失ってしまいます。
  隻眼となった梵天丸は元服して政宗を名乗り、戦場において華々しい活躍を見せ、
 それを見た父の輝宗は将来を嘱望し、若干 18歳の政宗に家督を譲ります。
  奥州統一の最中、父の輝宗を失い、悲嘆に暮れる政宗に、小田原攻めに乗り出した
 羽柴秀吉の脅威が迫ります。
  小田原の秀吉の元へ参陣する前夜、政宗は、弟の小次郎を偏愛する母に毒殺され
 かけたことから、家督相続の元である小次郎をやむなく斬り、秀吉の元へ向かいます。
  小田原に遅参した政宗でしたが、持ち前のホラと洒脱さで秀吉に気に入られ、難を
 逃れると、秀吉政権下で起こった関白秀次との嫌疑、朝鮮出兵という難題も次々と切り
 抜けます。
  秀吉没後、政宗は家康に近付き、関ヶ原、大久保長安との嫌疑、大阪の陣、遣欧使節
 派遣という動きの中で、家康の信頼を勝ち取り、徳川政権下での副将軍という地位を
 得ます。
  家康没後も、秀忠、家光と時の将軍の下、天下泰平の道をつけた政宗は、70歳の生涯
 を閉じます。

感  想

  伊達政宗の生涯の内、若年の奥州時代より、豊臣秀吉、徳川家康絡みの逸話が
 ほとんどで、母親や弟との相克、奥州での戦闘等があっさりと描かれているのが、
 大変残念でした。
  作者は、伊達政宗ではなく 「家康から見た政宗」を描きたいのかなと思わせるほど
 の徹底振りで、読破にかなりの時間を要しました。

お薦めランク : ★★★☆☆