「火怨」
著 者 : 高橋 克彦 出版社 : 講談社 全 2巻
主人公 : 阿弖流為
物 語

  八世紀末、陸奥国に住む蝦夷(えみし)の若き棟梁の阿弖流為(アテルイ)は、東北
 地方の支配を目論む朝廷軍に対し、故郷を守ることと蝦夷の誇りを賭けて、東北各地
 の長(おさ)とともに数次に渡り遊撃戦を展開し、勝利を重ねます。
  密かに都へ上った阿弖流為は、後に宿敵となる坂上田村麻呂と出会い、互いのこと
 を認め合いますが、延暦20年(801年)征夷大将軍となり、陸奥国に下向した田村麻呂
 との間に戦いが開始されます。
  勝利を重ねる阿弖流為ですが、二十年の長きに渡る戦いに疲れた蝦夷の長たちは
 田村麻呂に次々と降伏し、朝廷への帰服を許されますが、阿弖流為と一党のみが
 最後まで頑強に抵抗を続けます。
  ついに降伏した阿弖流為を都へ連行した田村麻呂は、蝦夷と都人に違いが無いこと
 を朝廷に訴え、阿弖流為に武人らしい死を与えるよう嘆願しますが、田村麻呂の願い
 も空しく、阿弖流為は体を土に埋められ斬首されてしまいます。

感  想

  古代東北を舞台に、蝦夷の棟梁の阿弖流為と仲間たちが、誇りと尊厳を賭け、朝廷
 軍と戦う姿が生き生きと描かれており、特に最後の阿弖流為の降伏へのエピソードに
 は ゙漢(おとこ)" を感じる内容になっています。
  なお、本作品は同じ著者の「炎立つ」にもつながる内容なので両作品を読むと、面白
 さが
増すと思います。

お薦めランク : ★★★★☆



「平の将門」
著 者 : 吉川 英治 出版社 : 講談社 全 1巻
主人公 : 平将門
物 語

  将門は、桓武天皇より四代後の平良持(たいらのよしもち)の子として、広大な領地
 に暮らしていましたが、父親の良持の急死により、良持の兄弟である国香(くにか)、
 良兼(よしかね)、良正(よしまさ)の叔父らが幼い将門たちの後見人となります。
  都へ上った将門は、時の右大臣である藤原忠平に仕えて日々を過ごし、このとき、
 生涯の仇敵となる平貞盛(叔父である国香の子)と出会います。
  都から故郷の坂東へ帰った将門が見たのは、叔父らに奪われた広大な父の遺領と
 荒れ果てた館でした。
  やがて、将門の妻となる女性との出会いを発端に、平氏一族の骨肉の争いが始まり、
 成り行きで叔父らを討ってしまった将門は有利に戦いを進めますが、その最中に
 愛する妻と子を失ってしまい、心身に微妙な変調を来たします。
  静かに暮らしたいというささやかな希望に反して、周囲の思惑により、新皇と崇められ
 る将門に対し、貞盛ど下野国の雄"藤原秀郷が兵を挙げます。
  戦いは、風を味方に付けた将門に有利に展開し、貞盛と秀郷の軍勢が壊滅寸前と
 なったとき、一本の矢が将門の顔に突き刺さります。
  あっけなく死んだ将門の軍は四散し、坂東の戦乱は終息します。

感  想

  平将門を、朝廷に反旗を翻した悪逆の人ではなく、純粋な一個の人間が、周囲の
 身勝手な思惑で担ぎ上げられていく様子が描かれています。
  最後はあっけないですが、そのあっけなさがかえって、愛する妻と子の元へ帰って
 行ったと思わせるもので、心からほっとしたものです。
  現代にも息づいている将門怨霊伝説なるものを否定するような心優しい平将門でした。

お薦めランク : ★★★★☆



「炎立つ」
著 者 : 高橋 克彦 出版社 : 講談社 全 5巻
主人公 : 藤原経清、清衡、秀衡
物  語

  前半は、東北の地に目を付けた源頼義、義家父子が、奥六郡を治める豪族である
 安部頼良を挑発して勃発する「前九年の役」が描かれ、戦役後、一時平和が戻るものの
 またも清原一族に内紛が起こり、その調停で源義家が下向し、戦端が開かれる「後三年
 の役」がそれぞれ描かれます。
  後半は、源平の争乱に巻き込まれ、藤原氏悲願の理想郷が滅びる様子が描かれます。

感  想

  史料があまり無いと言われている「前九年の役」と「後三年の役」が生き生きと描かれて
 おり、とても楽しめました。
  また、平安前期が舞台のため、雰囲気が私好みで良かったです。^^

お薦めランク : ★★★★★



「新・平家物語」
著 者 : 吉川 英治 出版社 : 講談社 全16巻
主人公 : 平清盛、源頼朝、源義経、源義仲 (時の流れ・・・)
物  語

  「 祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
    娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
     奢れる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。
      猛き者も遂には亡びぬ。偏に風の前の塵に同じ 」
  有名なこのフレーズとともに平清盛の少年時代から物語は始まり、保元・平治の乱に
 勝利し源氏を駆逐した清盛が卓越した政治的センスで出世する様子と平家一門の興隆、
 清盛の死による平家一門の転落と滅亡、平家を都から追い落しながらも朝廷の策謀に
 散った木曽義仲の悲哀、多大な戦功を挙げながらも兄の源頼朝に疎まれ殺されてしまう
 源義経の悲劇、鎌倉幕府を樹立した源頼朝の光と影など、平安時代末期から鎌倉時代
 初期を生きた様々な人物を、名医でありながら生涯を一庶民の中に生きた安部麻鳥の
 視点で描かれています。

感  想

  「平家物語」、「平治物語」、「保元物語」、「源平盛衰記」、「義経記」、「吾妻鑑」等の
 書物や各地に伝わる様々な口碑・伝説を軸に、人間味溢れる平清盛を描くなど、通説
 にとらわれない吉川さんの自然な解釈に基づく新たな『平家物語』の世界が構築されて
 おり、読んでいて安心感を覚えます。
  私が、感銘を受け、心から感動した初めての小説であり、この作品と出会ったことで
 歴史小説の面白さに目覚めました。
  私にとっての「平家物語」とは、この「新・平家物語」であり、未だにこの作品で受けた
 感動を超える作品には出会っていません。

お薦めランク : ★★★★★



「炎 環」
著 者 : 永井 路子 出版社 : 文芸春秋 全 1巻
主人公 : 全成、梶原景時、北条保子、北条義時
物  語

  源頼朝の異母弟であり義経の同母兄である 全成(ぜんじょう)が主人公の「悪禅師」、
 義経との対立で有名であり頼朝の懐刀と云われた ゙梶原景時" が主人公の「黒雪賦」、
 北条政子の妹であり全成の妻である 保子 が主人公の「いもうと」、北条時政の息子で
 あり 政子 の弟である 北条義時 が主人公の「覇樹」の四つの短編からなる小説です。
  ひとつの歴史の流れ(事件・事象)を、それぞれの主人公の視点から見ることにより、
 異なった解釈ができるという斬新な手法を取っている作品です。

感  想

  梶原景時が主人公の「黒雪賦」は、平家物語や通説とは全く違った描かれ方で、
 そこには非情とも思える数々の所業を敢えて行い、日本初の武家政権樹立へ、
 棟梁である源頼朝以上に、景時が邁進して行く姿が描かれます。
  「覇樹」では、頼朝以降の北条執権体制を確立した北条義時の謀将ぶりが描かれ
 ており、この中で提示された三浦義村による源実朝の暗殺説は、説得力があります。
  他の「悪禅師」、「いもうと」の二編もそれぞれ興味深い内容なのですが、暗く重いの
 で、読んでいてだんだん疲れてしまいました。(**
  各主人公が、平家物語等での姿とは違ったかたちで描かれているのに対し、頼朝
 だけが、通説どおりの ゙いつもの姿" で描かれているのは、共通認識に近いからなの
 でしょうか。(笑)

お薦めランク : ★★★★☆