彗星観測の中で最も簡単に出来るものの一つに眼視での全光度目測があります。 ここでは、私の眼視観測方法の手順を紹介させて頂くとともに、彗星を見る多くの方が光度目測を 行なってもらえるよう、少しばかりの手助けになれば、と思います。
まず、星図ソフトに最新の彗星軌道要素を入れておき、13等ぐらいまでの彗星をリストアップし、
夕方と明け方の空を表示させてその日に観測可能な彗星をチェックしておきます。
彗星の軌道要素はIAUのHP、http://cfa-www.harvard.edu/iau/Ephemerides/Comets/SoftwareComets.html
に各ソフト毎のフォーマットがUPされており、ここからダウンロードします。
彗星の予報光度は各天文雑誌にも載っていますが、最新の光度観測はICQのHome PageやComet Observation Home Page などに掲載されています。
しかし、あくまでも参考であって、最新の光度は自分の観測から!という気持ちを持っています。
次に GUIDE
という星図ソフトを使ってファインディング用の星図を作ります。私はプラネタリュウム用に
The Sky、詳しい星図用には GUIDE、と使い分けています。
このソフトの素晴らしいとこは、何といっても表示出来る星表の豊富さでしょう。Hipparcos/ Tycho
の光度を表示出来ます。
このソフトに最新の軌道要素データを入れておき、10cmで観測出来る10等以上
の彗星は予報位置から5度の範囲、25.4cmで観測出来る13等以上の彗星は2度の範囲でチャートを作ります。
また、ここでは比較星の光度は調べないようにしています。前もって調べると、どうしても
“ 確かこのくらいの光度のはずだが・・・”といった先入観が入りやすいためです。
範囲が2度と5度の星図だけではちょっと詳しすぎるので、手持ちの野外星図2000でも彗星の位置をチェックしておきます。
7等より明るい彗星だと野外星図だけで充分です。
さて、いよいよ車に観測器材を載せて観測地に出発!!です。最近はこの田舎でも空が明るくなって観測地探しには苦労させられています。特に、夏場は山奥の方へ出かけることが多くなりました。
まず、彗星を観測器材の視野の中に入れなければいけませんよね。と言っても特別の方法がある訳も無く、テルラドファインダーを利用して、彗星の近くの明るい星を基準に三角形を作り、導入します。この方法は私が星雲星団の観望をやっていた時から使っていたやり方で、ナビゲータを必要としません。(私は取り外してしまいました(^^; ) 25.4cmX46でも、チャート内2度の範囲の中にはちゃんと入ってくれます。
-----こんな感じで三角形を作ります。もとになる星は当然明るい星、出来れば4等星以上を使いたいものですね。
彗星を導入したらスケッチを取っています。これも星雲星団の観望時代からやっていた方法で、明るい星から、彗星との位置関係を確認しながら書いていきます。本当は詳しく描く必要はなくて、選んだ比較星をきちんと記入しておけば良いのですが、昔からの癖で時間をかけてしまいます。
また、彗星の近くは暗い星まで記入しておき、後でコマサイズの見積もりに利用しています。
さて、比較星の選び方ですが、私は視野の中から彗星より明るい星と暗い星のペアをいくつか選び、それぞれの明るい星と暗い星の明るさを10等分したどの明るさに彗星があるか、を測っています。しかし10等分に分ける、というのはハッキリ言ってムツカシイです。そこで私は10等分というより、言葉に置き換えて測っています。
A星とB星の中間=A5:5B,
B星より明るく、A星よりやや暗い=A3:7B,
B星より明るく、A星より同じか、やや暗い=A1:9B,と、こんな感じです。
これをスケッチした観測用紙に書いておきます。
※比較星を選ぶ注意点※
●なるべく同じ高度の星を使う。
私はなるべく同じ視野の星を使うようにしています。ただ、明るい彗星や比較星が少ない時はそうもいきません。
その時は上下に視野を振って比較星を探す事は避け、左右に振って探すことを心掛けます。
●赤く見える星はなるべく使わない。
赤い星は実際の等級より明るく感じてしまう事が多いようです。また変光星の可能性も高いので、「この星はなんか
赤っぽいなぁ」と感じる時は比較星には選びません。
さて、その比較星を使っての光度の目測方法ですが、
彗星の全光度は、ぼやっとしている彗星とピントを外してぼかした恒星像との比較です。
ぼかし方法としては何種類かありますが、眼視でよく使うのは以下の方法でしょう。
S法は彗星のピントをぼかさないので暗い彗星の目測に使いやすい方法です。
B法はもっとも簡単で、集光の強い彗星を小口径(双眼鏡など)で目測するのに使いやすい方法ですが、暗い彗星には使えません。
明るい彗星やしっかりとしたコマを持った彗星のときには、M法を使っています。またM法は視野の中に適当な比較星が無い時にも使いやすい方法です。
個人的な意見ですが、M法はS、Bに比べやや明るめに、B法はM、S法より暗めになるような気がします。
彗星のコマの視直径もスケッチから割り出しています。
といっても、なるべく彗星に近い、2つの星の間隔と彗星のコマの大きさを比べてるだけです。A−B星間の2/3とか、
C−D星間の半分、といった感じにメモを取っておいて、後にパソコンで星の間隔を調べ視直径を出しています。
一応、0.1分単位まで出しますが、10cm双眼X20、X37で観測した時は1分単位で括ってまとめます。
これはあくまで感覚ですよね・・・。一応目安となるM天体があるので、それと比べるのが良いのでしょうが、光度も大きさも違うのでなかなか難しいものがあります。要は自分の中で基準を持つ事では?
中央集光度/DC値の目安 | ||
---|---|---|
DC | M天体 | |
0 | 中央集光がまったくない | M101 |
1 | 少し中央部が明るいか | M33 |
2 | 弱い集光部がある | M4 |
3 | − | − |
4 | − | M51 |
5 | はっきりとした集光がある | M64 |
6 | − | M81、M92 |
7 | − | M94 |
8 | 強い集光があり、コマも認められる | − |
9 | 恒星にしか見えない。コマがない | 恒星 |
これもスケッチに書いておきます。コマと同じように、星との間隔で長さと角度をメモを取り、GUIDEで調べています。
ただ角度がはっきりと分かるような尾の時だけに報告するようにしてます。
1999年5月11日 21時20分の C/1999 H1( Lee )の観測を例にします。
観測機材は10.0cm双眼鏡、目測に利用した倍率は20倍です。
比較星は、
また、コマサイズはC-D星間と同じ、と見積もりました。
観測後、GUIDEで観測時間の星図を表示させます。
取っておいたスケッチと較べて比較星の光度を調べます。
それぞれの星の光度は
コマサイズもGUIDEからC−D星間の距離を調べ、6.0分の値を得ました。1分単位で括って、6分とします。
観測はいまだに経緯台、山勘導入、眼視目測ですが、後の整理には今やパソコンは欠かせません。特にGUIDE、は比較星の光度チェック他になくてはならないソフトになっています。
次に観測データをICQフォーマットに記入しておきます。
観測データは以下のような1行80カラムの半角テキストデータで記入します。
IIIYYYYMnL YYYY MM DD.DD eM/mm.m:r AAA.ATF/xxxx /dd.ddnDC /t.ttmANG ICQ XX*OBSxx
1999H1 1999 05 11.51 xS 7.3 TT 10.0B 20 6 4 ICQ XX YOS02
ただ、ニフティなどでは1行80カラム以内でないと自動的に改行されるため、以下のような74カラムで報告、記入する事もあります。
IIIYYYYMnL YYYY MM DD.DD eM/mm.m:r AAA.ATF/xxxx /dd.ddnDC /t.ttmANG *OBSxx
1999H1 1999 05 11.51 xS 7.3 TT 10.0B 20 6 4 YOS02
何だか難しそうに思えるかもしれませんが、一度覚えてしまえば案外、簡単です。
※ フォーマットの簡単な見方をまとめてみました。少し見難いかも知れませんが以下をご覧ください。
大切なことは、全角文字を使わない、ということです。特にスペースに全角を使わないよう注意が必要です。
(海外に送られることを前提としているので、全角スペースを使うと文字化けします。)
ICQフォーマットの更に詳しい説明は吉田誠一さんのホームページ、 「ICQフォーマットの解説」が大変参考になります。
ICQフォーマットにまとめた観測データはICQ (International Comet Quarterly)へ報告します。
直接報告してもかまいませんが、日本の場合、久万高原天体観測館の中村彰正氏を通して報告しています
私の報告数は2006年末現在でトータル712個で50位となっているそうです。