Kalkydri ( Kalkydri ) カルキドリ  (モンスター)
 HOMに登場するデーモンですが、エノク第二書the Book of the Secrets of Enoch(スラブ語版エノク書Slavonic Enoch)に登場するカルキュドリChalkydriと同じもののようです。
 この文書の中にカルキュドリは2回登場します。拙訳ですが丸ごと引用します。(英文は底本)

「そして私は他にも空飛ぶ太陽の精を見た。その名前はフェニックスとカルキュドリだった。不思議な、驚嘆すべき者どもで、脚と尻尾はライオンの形、ワニの頭。虹のような紫色の外観で、大きさは900。羽は天使のようで、各々12枚持っている。太陽に付き従い、熱と露を掲げている。これは神の命令に従ってのことである。」
And I looked and saw other flying elements of the sun, whose names are Phoenixes and Chalkydri, marvellous and wonderful, with feet and tails in the form of a lion, and a crocodile's head, their appearance is empurpled, like the rainbow; their size is nine hundred measures, their wings are like those of angels, each has twelve, and they attend and accompany the sun, bearing heat and dew, as it is ordered them from God. (2 Enoch 12:1)

「そしてフェニックス、カルキュドリという太陽の精が歌い出す。そのため、全ての鳥は光を与えるものを祝して羽ばたき、主の命に従って歌い出す。」
Then the elements of the sun, called Phoenixes and Chalkydri break into song, therefore every bird flutters with its wings, rejoicing at the giver of light, and they broke into song at the command of the Lord. (2 Enoch 15:1)

 この文書は太陽など天体の運行について記したもので、フェニックスとカルキュドリは太陽のエレメンタルという役どころになっています。ここを読む限りは神の僕としてきちんと働いているようですが、現在では悪魔として扱われることが多いようです。容姿が化け物じみているのがまずかったのでしょうか。

 Chalkydri以外には、Khalkedras、Kalkydriなどと綴られます。原典には複数形しか登場せず、単数形はわかりません。そこで、普通は単複同形で扱われています。AD&Dでも単複同形で扱っているようです。あえて単数形を言う場合は、Khalkedra、Kalkydraなどと綴られます。
 日本語で書く場合は「カルキドリ」、「カルキュドリ」でしょう。単数形を意識して「カルキドラ」、「カルキュドラ」、「カルキドラス」なども考えられます。英語風ならば「カルキードライ」でしょうか。「チョーキードライ」などは別の意味が出てくるのでよくないと思います。
update: 20010507


 
LaLa Moo-Moo ( - ) ララ・ムームー  (モンスター)
 HOMに登場する謎のキャラ。シリーズ中、筆者が個人的に一番好きなモンスターです。
 ララ・ムームーに関して得られる情報は断片的で、全体像が掴めません。魔法生物に分類され、毛むくじゃらwoolyで、エジプト人(人じゃないですが)です。あとは名前から、いくつか重要なことがわかります。
 一般にララ・ムームーはラマの姿だと思われていますが、これは留保しておきます。この説が一般的になったのは、最初にトーガ・ラマToga Llamaと同じ絵が使われていたというだけの理由です。ラクダならともかく、エジプトにラマはいません。そして、英語でムームーmoo-mooという言葉は、日本語に訳すと「モーモー」。まず真っ先に牛の鳴き声を表す言葉なので、ララ・ムームーは牛の姿をしていなければならないのです。これは日本語で言えば、「けろけろけろっぴ」がカエル、「ニャンコ先生」がネコ、と決まっているようなものです。
 また、イビルアイズEvil Eyesの幻視した「野蛮な獣savage animal」がララ・ムームーであるとの説もあります。しかし台詞を読むに、ララ・ムームーが子豚に見えるというわけではないと思います。
 他に、ハワイの民族衣装ムームーmu'u-mu'u, mu-muも連想されるのですが、綴りが違うので牛にはかないません。一方BCFのマウ・ムー・ムーはMau-Mu-Muと綴るので、こっちはハワイアンでも悪くないかと思います。

 順番が前後しましたが、一応「ララlala」という語の話もしましょう。Lalaは普通女性の名前です。ただしこの場合、日本語では「レイラ」と書くことの方が多いでしょう。ディンギルにララLalaというアンデッドが出てきましたが、これも女の人の名前でしょう。HOMのララとは関係ないと思われます。
 第2に、漠然とした言い方になりますが、Lalaはインドっぽいです。インド人男性の名前にラーラLalaと付いていることがあります。ヒンディー語だと思うのですが、名前なのか、称号のようなものなのか、よくわかりません。あと、ここまでくると余談ですが『機動戦士ガンダム(Mobile Suit Gundam)』(1979)のララァはLalahと綴るようです。なんにせよインドはエジプトと違うので関係ないでしょう。
 モンスター名のLaLaは「 L 」が両方大文字であり、最初にグブリ・ゲドックG'bli Gedookから神の名前を聞いた時も、ララ(ラ・ラ)はLa-Laと綴っています。そのため、上に挙げた2種類の印象はあまり抱かないでしょう。次に盗賊Rick the Pickから話を聞いた時は、La-La Moo Mooという中間的な表記がなされ、「なんか牛っぽいぞ」と思わせます。そして一番最後、本尊に会って初めてLaLa Moo-Mooという綴りを目にすることになります。そういう過程を経ているので、アメリカ人でもLaLaを「レイラ」と読む人は少ないと思います。インド人でも「ラーラ」とは思わないでしょう。

 さて、ララ・ムームーの正体ですが、エジプトの牛の神であるということになるでしょうか。古代オリエントでは、そこらじゅうに牛カルトがあったみたいなので、特定はしにくいのですが、メンフィスの牡牛アピスApis、牝牛ハトルHathorが有名なところです。この2柱はオシリスOsiris、イシスIsisの夫婦と習合したりしている、有力な神様です。他に、「エジプト」と「牛」の2単語から連想されるものに、出エジプト記32章に登場する「黄金の仔牛」が挙げられます。
 エジプトの神はよく獣頭人身で描かれていますが、ララ・ムームーもそうかもしれません。特にラム・プリーストRam Priest、ラム・ガーディアンRam Guardianも同じ人物が考案したのだと考えれば、その可能性も高くなります。あるいは(この可能性が一番高いような気がするのですが)ララ・ムームーは本当にラマの姿をしていて、その崇拝者であるトーガ・ラマこそが被り物をした僧侶なのかもしれません。しかし、古代エジプトにラマを連れていっても牛だとは誰も思わないで、ラクダと思うでしょう。あるいは、筆者は聞いたことがないのですが、ラマは「ムームー」と鳴くのでしょうか?

 それと、ムー帝国の大神官ラ・ムーは、Ra-Muと綴るので、関係ないと思われます。チャーチワードはエジプトの太陽神ラーRaからこの名前を作ったと推定されますが、ラーは牛の姿で描かれることはまずありません。もちろんラマもないです。
 バンド「ラ・ムー」は多分この大神官から名前をとっていると思われるので、ララ・ムームーとは全く関係ありません。なおのこと「ララ・ムームー=菊地桃子」説は全く信憑性がありません。
update: 20000918


 
Lycurgus ( Lycurgi ) ライカーガス  (モンスター)
 初出はROWの召還モンスター。以後FCKODPCELOL外伝シリーズTRPGに登場し、すっかりお馴染みになりました。つまりこれも日本でしか戦えない、グラフィックが見られないモンスターです。ROWではデーモンでしたが、アンデッドとして扱われる場合もあります。なぜでしょうか。
 どうも、攻略本『ウィザードリィ4 地上への道』(1989)が全ての始まりのようです。この本は「ログイン編集部監修、ゲームアーツ著」となっていますが、実際誰が書いているのかよくわかりません。この中のイラストで、初めてライカーガスの姿が絵として提示されました。それは例の、トーガのような布をまとい、石版を小脇に抱えた骸骨の姿でした。解説の文を読むに、どうもこれを書いた人はリッチlichのようなモンスターを想像していたようです。(文末に全文を掲載)
 FC版の末弥純によるイラストは、この本を元にして描かれたそうです。以後ライカーガスは骸骨として描かれ続けるのですが、多少の変化があります。FC版イラスト(末弥純)では、骸骨がトーガを着て、石版を持っています。PCE版(山田章博)では石版は同じですが、もう少し凝った服を着ています。そして外伝(池上明子)では、服はボロ布だし石版は持っていません。胸の前に持った球体から光を放っています。
 こうして時間をかけて、ゆっくりとアンデッド化は進行し、今や「ライカーガスはアンデッドの王である」という記述も見かけるようになりました。さらにこのモンスターは、他のRPGへと進出していきます。『テイルズオブファンタジア(Tales of Phantasia)』(1999)に登場する「ライカーガス」は、もろにリッチ然とした黒ローブの骸骨です。『ヴァルキリープロファイル(Valyrie Profile)』(1999)では魔法使いの姿ですが、アンデッドではないと思われます。こう見ると、もはやライカーガスは日本のRPG文化が産んだモンスターといっても過言ではありません。

 Lycurgusはもともと人名で、普通「リュクルゴス」と書きます。「ライカーガス」は英語風の発音になります。複数形も合わせて「リュクルギ」か「ライカーガイ」とすべきでしょう。また、Lycurgusはラテン綴りで、ギリシア語では「Λυκουργοσ」です。ギリシアではポピュラーな名前で、現在でもよくある男子の名前です。古代に話を限定すると、この名前の有名人は3人います。
 まず、アテネAthenaiのリュクルゴスLykourgos (390BC?-324BC?)。政治家で弁論家。財政の専門家ですが、マケドニアの支配と戦ったり、ディオニソス劇場の再建、三大悲劇詩人像建立などの仕事をしたりしたことでも知られています。弁論の方は、『レオクラテス弾劾(Against Leocrates)』の1作品だけが残っています。ここに挙げる3人の中では、実在したと確実に言えるのはこのアテネのリュクルゴスだけです。
 2人目は、スパルタSpartaのリュクルゴスLykourgos。紀元前8〜9世紀の人だといわれていますが、実在の人物ではないようです。彼は伝説的なスパルタの法制者で、スパルタの制度や慣習を全て決めたことになっています。具体的には、ニ王制、長老会、民会の制定、貧富の格差の解消、軍事的共同体の形成などです。名高い「スパルタ式教育」も彼が始めたそうです。また彼は紀元前776年に、エリスElis王イピトスIphitos、ピサPisa王クレオステネスCleosthenesと休戦協定を結び、古代オリンピックの開催を決めたと言われています。そういうこともあって、ヨーロッパではリュクルゴスはスポーツ教育家の元祖のような捉えられ方をしています。ゲームで言えば、GURPS『イン・ノミネ(In Nomine)』(1997)では、リュクルゴスはスポーツを司る大天使として扱っているらしいですが、これもその延長線上にあると考えていいでしょう。
 最後は、トラキアThraciaの王リュクルゴスLykourgos。神話上の登場人物です。アイスキュロスAischylos (525/4BC-456/5BC)の悲劇に描かれているほか、『イリアス(Ilias)』でも言及されています。ドリュアスDryasの息子、エドノス人Edoniの王リュクルゴスは、ディオニソス信仰を禁止、弾圧したため、ディオニソスの神罰を受けます。彼は発狂した上、民衆に殺されてしまいました。ディオニソスは小アジアの新興宗教であり、信女たちmaenadesの狂乱の儀式は為政者(男)たちから疎まれます。当然のようにギリシア各地で弾圧され、その都度弾圧した張本人は呪われました。リュクルゴスも一例に過ぎません。イリアスでの彼は、「神に歯向かったらひどい目にあう」例として挙げられていました。

 さて、Wizのライカーガスはどのリュクルゴスでしょうか。イラストの石版や先述の本の記述からすると、法律家であるスパルタのリュクルゴスであるようです。特にヨーロッパでは、スパルタが一番有名です。しかしアダムスの引用元だけに、簡単には判断できません。イン・ノミネの例でもわかるように、スパルタのリュクルゴスは単に体育会系の偉人であって、悪魔扱いされることは珍しいでしょう。その点ではトラキアが近いでしょうか。
 いったいどれがライカーガスなのだろう、と考えていてふと思い当たりました。よく考えたら、別に特定しなくても、あいつら仲間を呼ぶじゃないか…。


LYCURGI

 ライカーギは、生きているときはスパルタの哲学者リュクルゴスであった。哲学者としては最高の人物であったが、自分の能力に慢心し、すべての叡智と真理を窮めてみせると神に誓ったのである。しかし寿命ある人間に、そのようなことができるわけはなく、全うすることなく肉体は滅ぶ。しかしその精神と魂は成仏できず、永遠に地上に留まることになったのだ。
 さすが元哲学者であっただけに、強力な能力を持っている。クリティカルヒットやパラライズ、石化の能力まで持ち、メイジの呪文を6レベルまで唱えることができる。
 しかも自分の怨念を増幅することによって、最高9体まで増殖させることができるのだ。これならレベル50のファイターと戦うのももう怖くはない。

『ウィザードリィ4 地上への道』p82
ログイン編集部監修、ゲームアーツ著、発行 ビジネス・アスキー、1989


update: 20000724