15. ラーホールを出発
5月10日の朝7時に、3日前に入居したばかりの学生寮を出発。バイクは快調に走り始めましたが、大学の敷地を出て300mくらい走ったところでいきなりエンスト。スターターをキックしてもエンジンは始動しません。数十回キックしていいかげんに疲れてきたところで、燃料コックが「リザーブ」になっていることに気がつきました。燃料がなかったのです。売り物のバイクに燃料をたくさん入れているはずはないので、出発してすぐに燃料を入れるつもりでしたが、ほとんど空の状態だったとは予想していませんでした。近くのガソリンスタンドまで押して行き、燃料を入れて数回キックするとエンジンがかかりました。ところで、「ガソリンスタンド」は日本独特の呼び方なので通じません。パキスタンでは「ペトロールポンプ」と呼ぶのが最も一般的であるようです。
20分ほど走って市街地を抜け、ラビ川にかかる長い橋を渡ります。ラーホールを含む広大な平原は地理的にはインドとパキスタン両国にまたがって広がっていて、「パンジャーブ地方」と呼ばれています。パンジャーブはこの地域を流れるインダス、サトレジ、ジェーラム、ラビ、チェナブと呼ばれる五つの川に由来します。地元の言葉で「5」を表す「パーンチ」と水(川)の意味の「アーブ」を合成したものだそうです。これは市販のガイドブックから仕入れた知識です。
橋を進むと対岸側に料金所のようなゲートが見えてきます。ゲートから50mくらい手前で警官に呼び止められました。警官は「外国人は通行税100ルピーを払え。」と言ってきました。彼は荷物を満載した私のバイクを興味深そうに眺めていました。ここで、「荷物検査」などと言われたらたまりません。一刻も早く立ち去りたいので100ルピー札を差し出しました。この日は出発早々のトラブルで気が動転していたことと、ラーワルピンディまで275kmを走らなければならいので焦っていたため、この警官に余裕を持って対処することができなかったのです。冷静になって考えれば、警官が一人で橋を警備していて通行税を取るというのは変な話です。ニセ警官だったのかもしれません。その先の通行料の徴収ゲートで支払ったのは25パイサ(1/4ルピー)でした。そこからは、最初にラーホールに来るときにバスに乗ってきた「グランドトランクロード」を逆方向にひた走ります。ラーホールから離れるに従って気分が落ち着いてきました。
16. ラーワルピンディまで
HONDA CG 125は出がけのガス欠以外はトラブルもなくよく走ります。100kmほど進んだところで燃費の確認のため燃料を入れてみました。1リットルあたり33kmで、満タンなら300km以上走れることがわかりました。
それから先の道中は暑さとの戦いになりました。パンジャーブ地方は5月から日中の気温が40℃を越えるようになります。舗装道路の上は太陽の照り返しでさらに気温が上がります。こういう場合、日本だったら、あっというまに汗だくになるのですが、こちらでは暑さは感じるもののほとんど汗はかきません。「暑いな」と思うようになって数十分くらいで急に喉の乾きを感じるようになりました。乾燥していて体温よりも高温の空気のなかで高熱を発するのエンジンの上に跨がった状態でオートバイを走らせることは、巨大なドライヤーの熱風を浴びているようなものです。汗をかいているように感じなくても、身体の水分はどんどん奪われているのでした。
軽い目眩を覚えるようになってようやく脱水症状に陥ったことに気がつきました。すぐに道路沿いの小さいバザールに入って果物とミルクをミキサーにかけたものを飲んでしばらく回復を待ち、そこからは、少しでも乾きを感じたら休憩して飲み物を摂るようにしました。12時過ぎにジェーラムに着きました。ラーワルピンディまでの道のりの中間地点よりも少しピンディ寄りに到達したことになります。ここから先は平原から小高い山と谷が繰り返すような地形に変わります。次の写真のように道路の周囲には荒涼とした景色が広がり、人の気配も極端に少なくなります。