地図画像は、テキサス大学のサイト
The Perry-Castaneda Library Map Collection
において公開されているものを使用しています(以下同様)。
5. ラーワルピンディからラーホールへ
パキスタンの交通手段は「バス」が主役です。市街地、都市校外、そして都市間にさまざまなバス路線があって、どのバスもほぼ満員で走り回っています。乗客が屋根に登ったり車体にしがみついていて、鈴なり状態で走っているバスもあります。どうしてこんなに沢山の人が移動する必要があるのか不思議なくらい多くの人がバスを利用しています。主要都市間を移動するにはバスのほうが列車を利用するよりも手軽で早く、たいてい予約していなくてもすぐに乗れます。
ラーワルピンディで二泊したあと、3月28日にバスでパンジャーブ大学があるラーホールに移動しました。バスステーションに行くと、客引きが各々のバスの行き先を連呼しているので目的のバスはすぐにわかります。バスには一応運行予定があるようですが、定刻に発車するわけではなく、席が埋まるまで発車しません。運行中のバスがほとんどすべて満員なのはそのためです。バスにはランクがあって、ボロい車体でシートは狭くて硬く、エアコンがないのが最も安くて、車内の快適度に応じて料金が上がります。もちろん私は最上級のやつに乗りましたが、それでも料金は55ルピー(当時のレートで約400円)でした。
ラーワルピンディからラーホールまでの道のりは約275kmで、約450年前のムガール帝国の時代に作られた「グランドトランクロード」と呼ばれている道路の一部を走ります。10時30分ごろに出発し、ラーホールについたのは約5時間後でした。ボロいバスはスピードも遅いので、同じ路線でも所要時間が長くなります。現在ではラーワルピンディとラーホール間には高速道路ができたのでそれを利用する路線ではもっと早く着くはずです。鉄道のラーホール駅近くのバスステーションに到着しました。バスステーションのすぐ近くに安宿が数軒並んでいたのでとりあえずその一つに部屋を取りました。旅行のガイドブックにはラーホール駅近くには「泥棒宿」が多いと書かれていますが、幸い私は被害にあいませんでした。
6. ラマザーン
イスラム教を国教とするパキスタンでは、「断食の教え」がそれなりに厳しく守られています。断食は、イスラム暦の第九月であるラマザーン月に行われ、その月の間はイスラム教徒は日の出から日の入りまで飲食をしてはいけないことになっています。イスラム暦は太陰暦であって、うるう月を設定していないので、一年の日数は太陽歴とくらべて平均約11日少なくなっています。イスラム暦の日付は太陽歴よりも毎年約11日ずつ早くなるので、ラマザーン月の期間もそれだけずれて行きます。西暦1990年のラマザーンは3月28日から始まりました。
ラマザーンが始まると、日中は人前では食事ができなくなりますから、食堂や茶店(チャイハナ)は日中は当然お休みになります。食べ物を扱っている商店もたいてい閉ってしまいます。断食をまじめに実行している人は、早朝のまだ暗いうちに起きてお祈りを済ませてから食事を取り、その後日没まで何も口にしません。役所や学校は始業時間が早くなり、業務・授業は午前中でおしまいです。街の食堂は日没直前に開店し、客が集まってきます。そして、マスジット(モスク)のスピーカーから日没の合図が響き渡ると一斉に食べ始めるのです。非イスラム教徒は断食につきあう必要はないのですが、断食している人の前ではさすがに飲み食いできません。イスラム教徒であっても幼児、妊婦、病人、旅行者などは例外で、断食しなくてもよいことになっているようです。
ラマザーン中は日中おとなしくしているので、その反動のためか、夜の繁華街はいつもより活気があります。ただし、繁華街といってもいわゆるバザールよりもりっぱで小綺麗な商店が並んでいるだけであって、お酒を出す店はありません。夜中に出歩いているのは、家族連れの場合の除いて男性だけです。若いパキスタン人は街のあちこちにたむろしていて時々バカ笑いしたり奇声をあげたりしています。しらふで、しかも男性だけのグループでよくあれだけ騒げるものです。やはりこの国では飲酒を自由化しないほうがいいのかもしれません。断食期間中は夜の内に買いだめ、食いだめすることになるので、他の月よりもむしろ消費が増えて経済は活性化するのだそうです。消費不況に悩んでいるどこかの国も断食するといいかもしれません。
パキスタンでは、この年のラマザーン明けは、北西辺境州を除いて一日か二日延期されました。イスラム暦は太陰暦であることは前に述べましたが、計算上の月齢で宗教上の行事を進めてはいけなくて、月齢を肉眼で確認しなければならないのだそうです。ラマザーン月の最終日に曇ったり雨だったりして月が見えない場合は断食を続行しなければならないのです。ラーホール(パンジャーブ州)では一日遅れで断食明けが確認されました。その日の夜には爆竹や銃が打ちならされ、バイクや車がやたらとエンジンを吹かして走り回り、とにかく人がわんさと街にくり出します。
ラマザーン月があけると「断食明けのお祭り」があり、2日間の休日が定められています。この二日間はほとんどの商店が営業をやめてしまうので、外国人はその間に必要な物をあらかじめ準備しておくか、外国人向けの高級ホテルを利用するしかありません。お祭りといっても、私が見るかぎりでは、日本のお祭りのような催しがあるわけではなく、断食期間中と同様に昼間はひっそりとしていて、夜に人がわらわらと集まって騒ぐというパターンのようです。
...つづく
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