第60回「生涯現役講座」 記録

2002−12−1(日) 13:30〜15:20

横浜市金沢地区センター大会議室   参加者 33名

講演:「誰にでも作れる五行歌の楽しみ」

五行歌の会主宰  草壁 焔太氏


講師の草壁さんは46年前に着想し、8年前に同人雑誌「五行歌」を創刊したのをきっかけに本格的な活動を開始されました。本日は横浜歌会から代表の松本希雲さんと司会をしていただいた織田元康さんのお二方も参加されました。

草壁さんの講演の後、参加者同士で評点を下す歌会を行ないました。かなざわ会会員から予め提出された17首をリストにして出席者に配布し、全句について優れていると感じた歌から3点、2点、1点とランク付けし、その合計点で優劣を競うというものです。(ただし、自分の作品には評点を下せません)

門口代表は冒頭の挨拶の中で、集まった作品が当初期待していたより少なかったことに触れて「やったことがないからやらないではなく、やったことがないからこの際やってみよう」という気持ちを持つのが生涯現役の精神であると述べています。

草壁さんの講演は軽妙な語り口と分かり易い表現で行なわれました。 キーワードは、●感動、●フレッシュな感性、●自然体、●生きた言葉、●語彙はいらない、●教養も学歴もいらない、●文学臭さ感じさせない、●子供に返る、等々含蓄に富んだものです。


 <講演要旨>

〇五行歌の広がり

五行歌について最近は新聞にも出ているので見ている方も多いのですが、五行歌の運動を始めたのは8年半ぐらい前です。運動を通じて日本は広いなとつくづく感じました。なかなか多くの人が知ってくれるまでにはいきません。皆さんが知ってくれるというのは大変なことだと思っています。全国に支部が120から130ぐらいあります。そういう状況になっても、まだ初めて聞きましたという方も多いのです。日本は広いなと痛感させられています。

五行歌は大変な勢いで伸びています。伸び率は大体年間70%ぐらいです。これくらい伸びているものは他にはありません。いま私が悩んでいるのは大衆動員ができないことです。たとえばキムタクが歌をうたえば6万人という女の子がわっと集まってくるのが、詩歌の話をしますと言うと30人ぐらい集まって来れば上等です。いろいろやりましたが、詩歌はレベルがちょっと高いようです。書くことに喜びを感じる人となると一遍に6万人も集まって来ません。その代わり一旦書かれますと、自分の気持ちをすっきりと書き表わすことができます。周りの人も分かってくれるので皆さん熱心になられます。

神奈川県には歌会は6つか7つあり、横浜、港南台、藤沢にもあります。その数は年間2倍づつくらい増えています。金沢地区にもいずれ2つ3つできてもおかしくはないと思っています。是非どなたかやっていただきたい。8年間に20人から30人の会を120作ったということは、私やりますという人には全部やってもらっているからです。 一種の改革ですからあまり勿体をつけていると進まないと思っています。全部自分でやったのではこんなには出来ません。

〇五行歌の解説

・子供の作品から (五行歌というのは先ずサンプルから見ていただくのが早いと思います)

(当日配布した資料『作品サンプル集』から子供の作品3首をとりあげて解説)

   かげは         せみが        「べんきょうしなさい」

   なぜくろい       しんだのは      「しゅくだいしなさい」

   なに色でも       だれか        「おてつだいしなさい」

   よかったのに      いのちのはねに     おかあさん

   黒いんだ        ふれたから      「しずかにしなさい」

  (長谷部渚 7歳)    (小澤光希 5歳)   (きのうちしゅん 8歳)

私はこれには驚きました。子供達がこんなに上手い歌を書くのです。しかし、全部上手いというわけではありません。子供が書き始めるとその子はいつか必ず上手い歌を作るのです。でもいつでも上手な歌を書くわけではありません。

・五行歌を作るには

五行歌を皆さんに作ってもらおうとしたとき、「私は語彙がない」とか、「教養がない」とか、「文学が・・・・」とかよく言われます。間違えているのではないかと思うのです。五行歌は文学でも何でもないのです。自分で思っていることなのです。文学だと言うのはおかしいのです。何とか文学とかではなく要は感動できるかどうかなのです。その証拠に子供達には語彙はありません。教養も学歴もありません。文学も知りません。何で子供達の歌が良いのかということです。

要するに考えることさえできれば誰でも素晴らしい歌が書けるということです。優れた詩歌人の場合、 最終的には子供みたいになっています。一茶とか良寛とかですね。芭蕉にもちょっとそうしたところはあります。子供に返っているところがあります。そんなに文学と言っているわけではありません。

たとえば五行歌とか、俳句のような短い作品の中で文学などと言ったらもうお終いです。余計なものは書かないようにしなければなりません。文学臭さがないように書いていくのが五行歌です。 相手に文学だなと思わせてしまったときにその歌は駄目になってしまいます。だから子供達の歌が良いということの証明でもあるのです。

・若い母親の作品から

 看護婦さんに

 笑いかける

 私の赤ちゃん

 今からちっくん

 されるんだよ

 (陣内洋子)

これは有名な歌です。“ちっくん”という語に何とも言えない味わいがあります。赤ちゃんの腕、表情、痛いだろうなという母親の気持ちも入っています。この子はこの痛いことをずっと生涯やって行くのだなという思いもあります。それくらいこの“ちっくん”という母親語には大きなものが出ています。一般の言葉感で見ると、この“ちっくん”は一番幼稚な言葉だと思われています。ところがそうではありません。人間が人間を育てるという一番基本的に大事なところ、若い母親の気持ちが入っているこの“ちっくん”という言葉が幼稚であるわけがないのです。一番大事なところかもしれません。多くのものを含んでいます。予防注射と言ったのでは全然面白くありません。人間の再生産をするという一番大事な仕事をしている女の人が、今まで日本の文学史の中で自分の産んだ赤ちゃんのことを書いた作品はありません。21の勅撰和歌集の中に女の人が赤ちゃんを育てて素晴らしいと書いているものはありません。人間の愛情の根本とも言えるものを和歌集では表現されていないのです。

五行歌では表現できるのです。これを和歌で書くのは大変です。五行歌というのは自然体で誰にでも書けます。たとえば“ちっくん”がそうであるように誰の言葉でも良いのです。生きた言葉を使うと教養語を使うよりも多くのものが入ってくるのです。教養語を使うと冷たくなるばかりであまり多くのものは入ってきません。 

・使いたくない表現

四文字熟語は五行歌には使ってもらいたくありません。皆が使い古している表現方法は好ましくないのです。教養語も良くないです。もっとフレッシュな自分の感性からくるもの、生きたもので訴えたいものです。 ここで生涯現役というのは生きているということで、これはいろいろな権威に頼らないということです。自分の考えを創ってそれを表わしていくことです。四文字熟語というのは依存しているのです。いかにも教養ありそうな世界で依存しているのです

・方言を使った作品から

     あんたら議員が          おれも

    「ダムは人のためや」て       おめも

     言うてる人らが          自分だげ えばえ

    「要らん」て            そただ生き方

     言うてるやんか          してねよなあ

    (織田元康  関西弁)      (菊江 寛  秋田弁)

五行歌の場合、方言をそのまま使えます。子供言葉、母親言葉など全部使えます。人間というものは皆さん自分の中に方言を持っています。必ずしも地方の人ではなくてもその人独特の方言や訛りを持っています。自分の言葉の特徴を持っています。完全な標準の言葉というのはないと思います。生きた言葉でバシッと書かれると良いのです。書く目的は自分の思っている根本のことを最終的には書くことです。

・誰でも名作を書けます

私は自分の歴史に刻み込みたい。自分の考えを刻み込みたい。誰でもできるはずだし、それをやろうとすべきではないでしょうか。今まで五行歌を大勢の方に勧めてきましたが、大体3~4年たつとその人はその人の名作を書きます。中にはこの人はもう駄目だろうと思う人もいます。思ったことをそのまましか書かない人もいます。しかし、3年もたつとバシッとした歌を書いてきます。

滅多に見られないものを見たときにこういうビシッとその通り書くのが最高の技になるときもあります。 いろいろひねくり回さなくても、必ず良い作品を出してきます。それを見て私は人間観が変わりました。今まで人間は偉いとか偉くないとかがあると思っていましたが、五行歌をずっとやってまして、これはないのだと気付きました。皆同じくらいの輝きを持っています。個人差はありますが、人間の根本に燃える輝きというものは同じです。五行歌はそれを引き出してくれるものだと思いました。

扇動者のように見られますが、それくらい言わなければいけないと考えています。そんなことで皆さんおやりになるあいだに自分にだけしか書けないものが沢山ありますから、これを刻んでくだされば良いと思います。                 

< 歌 会 >

司会の織田さんから得点の集計が発表されました。17首全句(別掲五行歌作品)について評点3を入れた人から順次その理由を述べてもらい、作者は作った動機や感想を披露して和気藹々のうちに幕となりました。参加者は五行歌というものを肌で感じ、なかには早速、歌会の見学を申し込んだり、入門書を購入された方がありました。

見事、第一席に選ばれた宇多道子さんは、はにかみながらこう感想を述べています。

「いろいろ制約のある俳句や短歌と違い、これなら私にもできるかもしれないと思い、たまたまこの一句だけが頭に浮んだので書いて申し込みました。」

評点3を入れた参会者の一人は「“友だちいっぱい”が、ぐっと胸にきたので入れました」と、その理由を述べています。

                  五 行 歌 作 品

1              2              3

あっと言う間に        呆けたくは          出せば

いっせいに反発し       ないのだ           入る

うむを言わさず骨抜きに    老人は            まだ

えこひきする族議員      たかが囲碁だが        要る

おわりか、日本の経済回復   大きな目標!!        不思議な心と体

                          

4              5              6

生涯学習           定年後は           孫の顔

料理・体操・散策と      歩きましょう         見るたびに

歩こう会の交流で       読書しましょう        可愛さ増して

食事・運動バランス良く    自分を磨く          抱きしめ

生き甲斐の実現        スマートな時期        我が幸せここにあり

 

7              8 第一席          9

東海道            殊更に            パソコン、プリンター

歩いて見れば         誇れるものも         スキャナーとデジカメ

先人達の           ないけれど          揃って私をいじめる

苦労が偲ばれる        友だちいっぱい        でも折角の付き合い

石畳             宝です            押入れには入れないよ

 

10              11             12(第三席)

色付きし           これもよし          踊る笠

庭の楓を           あれもよし          みな美しう

賞でながら          よしよしよし         風の盆

植樹(うえ)し亡父を      と              八ツ尾の坂に

偲ぶこのごろ         これでよし          灯がともる

 

13(第二席)         14             15

ピンクのセーター       タマちゃんも         乳房から先に

可愛いいネ          どこかで拉致されたのか    電車に乗ってきた

との声かけに         安住の地を          グラマーさんに

はにかみ下向く        日本に            真正面に立たれ

ホームの老女         見つける           思わず目を伏せる

 

16              17

クンクン クンクン      ストレスを

何を探すかは         貯金替りに

人次第            溜めこんで

人生という          一人で悩む

道              ボケ老人

   ※ 第一席 8 宇多道子さん、第二席 13 齊藤佳子さん、第三席 12 山下芙喜子さん 

 

<質疑応答>

 いくつか質問が出ましたがその中から3問だけご紹介します。

Q:添削はしますか?

A:しません。詩歌というものは自分の中から出てくるものです。自分でやることが大切だという観点から添削はしません。人の歌を直すと徹底的にやればやるほど私の歌になってしまいます。相手のことが分からないから動機もいつの間にかずれてしまいます。同じ動機でも気持ちの持ち方が違います。私が女性の歌を直しても鋭すぎたり怖すぎたりすることがあります。これに手をつけ始めるとその人の世界を臆測できるという前提をつくって非常に歌会が悪くなってしまいます。人は神秘なものだし、このままでは心が伝わらないと助言はしますが、直すのは本人にやってもらうのが正しい方法です。さわるとその人は下手になってしまい、作品は添削者好みになってしまいます。

Q:五行とした理由は?

A:五行というのは五句という意味です。三句は俳句、五句は短歌系です。古代歌謡を見ても五句構成のものが46%ぐらいあり、分量が多いわけです。人間の気持ちや想いを表わすワンパックとして五句のものが半分近くあります。五句だと平均化できるのではないかと考え五行歌としています。

Q:五行歌を一言で表現すると?

A:「勝手に書くヤツだよ」でよいと思います。勝手に書くというこの言葉の呼吸が大切なのです。これは生きている言葉です。

 

<五行歌会のお知らせ>

(1)横浜五行歌会事務局 

  〒216-0004 川崎市宮前区鷺沼 2−8−17 松本 正(希雲)方 

  TEL/FAX  044-856-0504  TEL 044-866-2764     

  (歌会は第三水曜日午後6時20分から、及び第三木曜日午後1時から)

  神奈川県民センター(TEL 045-321-1121)で開催されています。

(2)港南五行歌会 

  港南地区センターで 第一、或いは第二土曜日午後2時から開催されています。 

 (世話人 田邉 文男 記)


第59回『成年後見制度と高齢者の財産管理』
 横浜弁護士会副会長 輿石(こしいし) 英雄氏(平成14年9月29日)