浪漫飛行


古本屋文吉



 

あなたと恋をした帰り 私はつじつま合わせに走る

母親に付いて買い物に行き 別れて その足で君のもとへ向かう

ピンポーン

少し髪を触ったり 背筋を伸ばしたり

ガチャリ

君は 相も変わらずおかしな人で 幽霊みたいに手を出して ひょこ

ひょこと出てきた

「おー」「オー」「久し振り」「うん 久し振り」

「どうしたん?」

「これ 持ってきた 随分遅くなった割に大した物じゃないんやけど」

口を丸めたビニール袋を渡して 自転車を立てる 少しばつが悪く

なる

「誕生日おめでとう」

 

 

 

 

 

君の顔が明るく 私の好きな くにゃりとした笑顔になる

「開けていい?」「帰ってから開けて」「うん」

「何してたん?」「さっきまでそこで買い物してたから」「ふーん」

「あの人に会ったらどうしようかと思ってちょっといい服着てきた」

「丁度今帰ったとこやで」「えっ」「ついさっき」「えー」

「会いたかったなぁ」「あかんよー」

他愛なく 変わりなく 会話は続く

笑う声も 叩いてくる手も 変わっていないけれど 横顔だけは少し

大人びたようで

「なぁなぁ」「んー?」

「あの人とちゅーしたん?」

 

 

 

 

 

でも こけると やっぱり変わらなかった

「したん?」「してない」「したんかー」「してない」「ふーん」「そっちは?」

「  してないよ」「ふーん したんかー」「してない」

変わらない君を 見ていると 背中の 未だあなたの手の 存在感

が残っている辺りから

どす黒い 羽が 生えて ゆらめいている 気がする

それは先に進む為のものではなく過去に固執し  変わらずに進ん

でいく君に

嫉妬して 貫いてやろうとするもので

私は結局いつものように

「じゃあ そろそろ帰るわ」「うん?そうか」「うん 帰る」

 

 

 

 

「そういえば ノート」「あ」

「時間あいたからもっかいこっちが書いとく 又今度渡すわ」「 わか

った」

結局いつものように

「ばいばい」「うん また」「ばいばい」「気をつけて」

 

 

もしお返しをくれるというのなら私の望みは一つです。

君はどうか変わらないで下さい。わがままは承知です。

その黒髪もやけた肌も細くて長い指も優しい声も思い出も変わら

ないでいて下さい。

もし聞き入れてもらえなくても私は

例え世界中が君の敵になろうとも君を守ると言った約束を守ろう

 

 
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