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旅日記 〜アナトゥルスのアマテラス〜
辛 レイ
拝啓母上様。 今日も今日とて私は、貴方様の遺言通り、「人生におい て大切なものとは何か」を見つける為、いろいろな国を 巡る旅を続けております。 先日、『アナトゥルス』という村を訪れました。そこで は何とも変わった出来事が、私を待っていた訳でして…。 本日はその『アナトゥルス』での出来事を、少々母上 様にお聞かせしようと思います。 五十嵐 柳 + + + + 真夏の、灼熱の太陽が照りつける砂漠の中、薄汚れた 茶色のマントをかぶった少年は目の前にある村に立ち寄 るべきか否か悩んでいた。 少年の名は、五十嵐 柳〈いがらし やなぎ〉。ついこ の間、18だったか19だったかの誕生日を迎えた、身 長150cmという少し(?)小さめの至極一般的な少 年だ。 「…目先の幸せか、それとも確実な安全か…」 柳がこの村への立ち寄りを悩む理由はいたって簡単で ある。 ここ数日間、砂漠の真ん中ということもあり、これと いって立ち寄れる村もなく、柳は砂漠用のバギーカー(1 日¥600でレンタルOK♪ 購入は¥50000)で 休み休み走っていた。前に立ち寄った村で購入した水や 食料は当然尽きかけていたし、柳の体力的にも限界が近 い。ずっとテントで寒い夜を過ごしていたのだ。無理も ないだろう。 ならば村に寄ればいいと思われるのだが、いかんせん、 それにも難があった。 暗闇なのだ。 目の前の村は、そこだけ半円状の黒いバリアのような もので覆われており、うっすらとしか村の様子が見えな いのである。まるで何かに封印でもされているかのよう に…。 長年の旅人の勘とでも言おうか、柳はこの村に入るこ とに酷く嫌〜〜〜〜〜な予感がした。 が、この村を素通りすれば、砂漠のど真ん中でエンジ ンが切れ、食料も水も尽き、誰にも見取られることなく 干からびるという至上最悪な結果も十分考えられる。そ れに、もしかしたらコレは村独自の技術により砂漠の寒 暖から村を守る為のものだったりする…かもしれない。 「目先の幸せ…だな、やっぱ。」 柳は決断した。どのみち危険な可能性があるのは変わ らないのなら、今の幸せ(になるかはまだ分からないが) に手を伸ばす方が利口というものだろう。 再びバギーカーに乗り込み、柳はそのバリアを突っ切 るようにして、村の中へと入っていった。 (…気持ち悪…) 村の中に入っても、辺りは薄暗かった。人通りがなく、 誰もいない。そもそも建物自体が少なく、とても小規模 な村なようだ。 「判断ミスったか? ま、いいや。何か探そ…」 村の入り口と思われる場所にバギーカーを置き、柳は 自分の足で歩き出そうとした。 とその時、少し前の曲がり角から一人の男が出てきた。 柳の目にも落胆の色が見えるその男は、此方には気付 いていないようなので、柳は歩み寄り、声をかけた。 「すみませーん!」 「あ、はい何でえええええ!?!?!?」 男は柳を見ると、一目散に柳の方へと走りよってきた。 「あ、あの…?」 「…ま、間違いない、大変だぁ!!!!」 そう言い残すと、男は何処かへと走り去ってしまった。 「…俺、何かしました?」 少し悲しくもなったが、ここでへこんでいても仕方が ない。柳は再び歩き出そうと… ダダダダダダダダダダダ どこからともなく、地響きが聞こえてきた。すると、 先程男が出てきた場所から、村人総動員と思われる程の 人間が、一斉に柳の方へと走ってきた。 各々の顔は恐ろしいとさえ思える形相で、柳は思わず 数歩あとずさる。 そして、村人達は柳の前でピタッと足を止めた。一人 の初老の男性が前へ出てきた。 「よ、よよよよようこそ我がアナトゥルス村にお越しく ださいました勇者様! 何のお出迎えもできずに申 ―――し訳ありません!」 「!?」 男性の表情はいたって真面目だった。 いきなりのことに驚いたというのもあったが、柳が最 も気に なったのはソコではない。 (ゆ、勇者様?) 「あ、あの勇者って………………俺?」 当然柳は聞き返した。 すると男性は柳の手をとりギュッと握り締め、言った。 「もちろんです! さぁ勇者様、とりあえず宿の方へ! 勇者様に相応しいこの村一の宿を用意させました!」 「ちょ、ちょっと! 俺勇者なんてもんじゃ…」 「初めは皆そうおっしゃるのです。さ、参りましょう勇 者様!」 その言葉が合図のように、村人が柳の周りを取り囲む。 「だ、だからちがうってば!」 柳の意見はまったく聞き入れられず、半ば拉致られる かのように村人数人に、柳はエッサカホイサと運ばれ るはめになってしまった。 「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!!」 天照様がそのお姿を隠し、村が暗闇に覆われし時 古より受け継がれし勇者の血をひく少年が現れ その麗しき美貌と透き通った美声・鮮やかな瞳で 再び天照様を我等が前に呼び戻すであろう これは二百年に一度の物語 + + + + 「と、言う訳なのでございます勇者様。」 宿に荷物を置くと、柳はすぐさま、村の南端にあると いうセントラルパークと呼ばれる所に招かれ(?)た。 そして、村長(先程の初老の男性だ)より、ことの事 情を聞かされたのだ。 「つまり、この村が今こんな状態なのは、“天照様”の 力が消えたからだと。」 「ええ。我々の村は古来より、天照様のお力で存続して まいりました。寒暖の調節・適度な雨など、そのお力 は強大です。このような砂漠の真ん中に村ができたの も、すべては歴代の天照様のおかげなのです。」 「歴代…と言うと?」 話の腰を折って悪いとも思ったが、柳は村長に問う。 「我々の村の天照様は、村人の中より生まれます。天照 様がお亡くなりになった時に、次の天照様が、額に緋 色の石を授かって誕生なさるのです。まぁその石が天 照様の証とでも言いましょうか…。」 どうやら天照様とやらは人間らしい。 「それが半年程前、急に天照様が我々村人の前にお姿を 現されなくなったのです。天照様のお力なき今、村に 太陽は現れません。当然雨も降りません。おかげで作 物も育たず…」 太陽は現れない。雨も降らない。なのに気温は村の外 となんら変わりない。今更ながらに柳は、一番初めに 見かけた男の落胆の意味が分かった気がした。 「しかぁし! そんな時、貴方様がお越し下さったので す勇者様! 我々を救うべく!」 「へ? だ、だから俺は…」 「『勇者じゃない』と、今までに我が村を救って下さった 歴代の勇者様も、最初は皆そうおっしゃったそうです。 しかし、どの方も皆、天照様を村人の前に呼び戻して 下さったと、村の古文書には書いておりました。」 慌てて反対しようとした柳を遮るかのように村長が言 った。 「で、でも俺にそんな力は…」 「いいえ! 我々も何も根拠もなしに申している訳では ありません! 貴方様のお姿が、村に伝わる伝説と瓜 二つなのです!」 村長は何の疑いもないように言い切った。そして柳の 方をじっと見つめ、言った。 「その何とも麗しき美貌!」 柳はいたって童顔である。(常に実年齢より4・5歳は 下に見られていた) 「透き通った美声!」 声変わりがまだなだけで。 「あざやかな瞳!」 黒だ。 「貴方様を置いて勇者様は他にいません! これほどま でに伝説通りのお方が現れてくださるとは!」 「・……………………………」 浸りきっている村長には悪いが、何とも複雑な気分だ った。 からかわれている? とも思ったが、村人の様子を見る 限りそれはないだろう。 しかし、村長の言葉を信じろというのはいくらなんで も無理な話だ。柳にしてみれば何一つ当てはまってい ないようなものなのだから…。 が、「勇者様!」 「勇者殿!」 「どうか我が村をお救い下さい!」 柳に向けられる村人のまっすぐな瞳。 これから逃れる術を、柳は知らなかった。 「…お、俺にできることでしたら…」 柳は極めて、「お人好し」だったのである。 始まりは、確か3つのときだった。隣の家の、これと いって親しくもない女の子―近所では我侭娘と評判だっ た―につき合わされ、柳は初めての“家出”たるものを させられた。お金も持っていない女の子の為に、柳は少 ない小遣いをはたいて昼食などを買ってやったのだが、 やれ口に合わないだのデザートが不味いだのさんざん文 句を言われ、柳の残金は34円まで落ちたのだった。も ちろん、何だかんだ言って女の子は柳が買ってきた物全 てをたいらげていった。 そして、大体三時間程経過した時、突然女の子が「家 に帰る」と泣き出し、彼等の家出はあっけなく終了した。 と、ここまでは良かった。 ところがだ。両親に家出の理由を聞かれた女の子の返 答は、柳の正気を疑うものだったのである。 「ひっく…だって…柳君が紅葉にど―――してもついて きてって言うから…紅葉怖くて怖くてぇ…ひっく…断 れなかったんだもん…」 柳の両親をはじめ、近所の人々は皆その女の子、紅葉 の性格は嫌というほど知っていたので、誰もその言葉を 信じなかった。 ―――紅葉の母親を除いて――― 紅葉はとりわけ、母親の前では“良い娘”だった。よ って母親の紅葉に対する信頼は、海よりも深く、山より も高い。どこぞの親が紅葉の母親に紅葉の文句を言った としても、 「うちの可愛〜〜〜〜い紅葉ちゃんがそんなことするは ずないでしょ!? どうせおたくの○○さんが嘘でも ついたにきまってますわ! まったく、お宅はどんな 教育をなさってるのです? もう一度自分の子供を見 直すべきですわ!」 この母親の性格は柳も十分に知っていた。ので、紅葉 の言葉を特に否定はしなかった…と言うよりそんな時 間を与えてももらえなかった。 その後、柳にとっては実に不道理な説教を延々三時間 も続けられ、なおかつ紅葉自身に何十回と謝らされると いう、何とも虚しい結果に終わったものだ。 これはほんの一例にすぎない。幼い頃から断るという 行為を知らない柳はたいてい他人の頼みを聞いてしまう。 たとえそれでどんな結果になろうとも、柳のお人好しは 治らなかった。もはや性格の一部となっているのだろう。 世の中諦めも肝心だ。 + + + + 村長と共に、柳は村を歩いていた。一件を引き受けた 後、それではと連れ出されて今に至る訳だ。 先程は慌てていてゆっくり見ることもままならなかっ たが、村は確かに寂れていた。店と思われる場所にほと んど食料は置かれていないし、田畑は完全に乾ききって いて、とても作物が作れるような状態ではない。この村 の住人がどれだけ苦しんでいるかは、柳の目にもはっき りと分かった。 「いやはや…お恥ずかしい限りです。無償で助けていた だくというのに大した食事もふるまえませんで…」 柳の前を歩く村長はそう言って、何とも申し訳なさそ うに柳の方を振り返った。村長だけではない。すれ違 う村人皆がわざわざ足を止め、柳に土下座までしてゆ く。 これには柳もいささか心を痛めたほどだ。自分は勇者 などという大層な者ではない(かもしれない)という のに…。 「そんな、少しでももらえただけで助かりましたから。 それに、天照様とやらにも少し興味ありますし…」 この言葉に嘘はない。村一つをたった一人の人間が守 っていたというのだ。会ってみて損はないだろう。 「流石は勇者様、お心が広うございますなぁ。貴方様な らきっと天照様も…」 「あ、そういえば、その天照様ってどんな方なんです か?」 ピタッと、村長が足を止めた。汗がたらたらと流れて いる…ように見える。が、すぐに(あきらかにおかし い)満面の笑顔で、こう答えた。 「そ、それはもうお美しい方でございますよ! 滑らか で美しく輝く黄金の髪、肌荒れなどとはとうてい無縁 な若々しい肌、何人をも虜になされてしまう程の麗し き黒曜石のような瞳…。そして額には天照の証である 緋色の石! わ、私の口では天照様の素晴らしさ全て を語ることはできませんが、とにかく! お美しい方 なのです、それはもう!」 すべてを言い切った時、村長は何故か激しく息切れを していた。何かを必死で取り繕ってるように見えたの は気のせいだろうか? 「は、はぁ…そうですか…」 と、柳は適当にお茶を濁した。あまり深く突っ込まない 方がいいだろうと判断した為だ。 「じゃ、じゃあその天照様は今何処に?」 再び柳は尋ねる。 すると今度は、随分落ち着いた様子で村長は答えた。 「我々が今向かっているのが其処なのですが、村の中央 に位置している天照様の神殿でございます。あ、ほら、 見えてきましたぞ!」 柳は村長が指差す方を見た。すると… 「うっわぁ…」 そこには、少し小さいとはいえ、とても美しい立派な 神殿があった。てっぺんには、おそらく太陽がモチー フなのだろう、球形の赤い物体が飾られている。(天照 の証という石も想像できる)神殿の美しさはすぐ近く まで来ても変わらなかった。 壁は一面大理石のようだ。不思議とここだけは寂れた 様子が見られない。 「神殿自体には、一応誰でも入ることは可能です。現在 も、数人の村人が神殿内の掃除や天照様の食事を作っ たりしておりまして…」 どうぞ、と村長に案内され、柳は神殿の中へと入る。 中もわりと天井が低く、150cmの柳でなければ 少々狭苦しい思いをしていたかもしれない。 「この中にある一部屋、天照様のお部屋だけは勇者様し か入れぬ決まりでございます。後はトキ様くらい…」 「トキ…様?」 聞き覚えのない名前を聞き、柳は村長に問う。 「あ、これは失礼しました。トキ様はこの村でただ一人 の神官でございまして、今は天照様の身の回りの世話 をしておられます。」 これまた大理石の階段を、二人は上がる。 「勇者様にやっていただきたいことは、その部屋から天 照様を連れ出していただくことなのです。…天照様ご自 身から…」 ここにきて、柳はようやく自分がすることを理解した。 「はぁ…。その、すべきことは分かったんですが、そも そも天照様はどうしてこんなところに篭るように? 封印…でも?」 柳の言葉を聞き、村長はギクッと立ち止まる。 しばしの無言。 「あ、あの…村長?」 「ゆ、勇者様! い、いい急ぎましょう! 善は急げと いいますし、ささ、参りましょうぞ!」 明らか〜〜に怪しい様子で、村長は階段を駆け上った。 慌てて柳は後を追う。 何なのだろうか? 時々見せる村長のこの動揺っぷり は…。 「勇者様、ここでございますよ。」 また普通の表情にもどった村長が足を止めたのは、何 とも極一般的な扉の前だった。 否、扉というよりむしろドアといった方がいいかもし れない。てっきり礼拝堂の仏教版のようなものを想像 していた柳としては、いささか拍子抜けだった。 まぁ、何を言ってもこれが現実なのだが。 「えっと、開けます…よ?」 いつの間にか、(何故か)少々離れたところにいる村長 の了承を取り、柳はドアノブに手をかけたその時… 「こっの大うつけ者ぉぉぉ!!」 部屋の中から聞こえてきた声と共に、柳の顔面に激痛 が走った。柳がドアを開ける前に、向こう側から勢い よくドアが開いたのだ。(不運なことにドアは引き戸だ ったらしい)こみあがる涙をおさえ、柳はドアに向き 直る…と、開いたドアの下に、小さな少年が転がって いた。 「うぅ…あぅ…」 ちまちまとした動きで、必死に起き上がろうとしてい る。身長だいたい4・50cm。年齢にして3・4歳と いったところだろうか? 銀髪のショートヘアーで、大 きめの眼鏡をかけている。だぼっとした服装は、まるで 神官のようで…ん? 「と、トキ様ぁ!」 「ほえ…そんちょぉ…」 …んん? 「トキ様って…ま、まさか!」 嫌な予感が頭の中を駆け巡る。が、それを確かめる前 に少年は自分が出てきた(吹き飛ばされた)ドアの方に 向き直り、誰かに話し出した。 「天照さまぁ…。これは全部村のみんなが天照さまのた めに作ってくれた物なんですよぉ?」 少年はドアの方に向かって尚も話す。 「それにこれはぁ…」 「ええい、だまれだまれだまれぇぃ!」 すると、部屋の中から再び声が聞こえた。 「わらわはぴーまんとやらは好かんと言ったであろう が!」 柳が部屋を覗き込むと、なにやら食事らしきものがひ っくり返っている。すると先程の台詞から察するに、 このお怒りは食事に“ぴーまん”が出されたからだろう か? (そんなことで怒る天照様って一体…ってええ!?) 柳は心の中で驚きの声をあげた。柳の瞳に映った者を 見て。 「あ、あの、この人が天照様? で、もしかしてそっち の子が神官だったり…………………」 おそるおそる柳は村長に問う。部屋の中に見た人物を、 半泣きになっている子供を、信じたくなかったからだ。 「ん、何じゃそち。 わらわに何か用か?」 「あ、天照様、この方が貴方様をお…お…救いしてくだ さる勇者様でございます。」 と、村長が部屋の中の人物に言った。 「ほう、この者なのか。わらわの…」 「ちょ、ちょっと待って下さい! じゃぁやっぱりこの 子達が!」 柳はその者の言葉をさえぎって言った。 柳の目に映った、部屋の中のソファーに座っていた人 物。 確かに、足首まである、下の方でリボンで一つにくく られた、美しく長い黄金の髪。 確かに×2スベスベとした若々しい肌。 確かに×3黒く綺麗な瞳。 確かに×4額には天照の証だという緋色の石。 そして巫女のような服装。村長から聞いていた通りだ。 ―――彼女が先程の少年と同様、身長が4・50cm ほどしかないということを除けば――― 柳はがっくりとうなだれる。密かに絶世の美女を想像 していた為、あまりのギャップに耐えられなかったのだ。 (ど、どう見ても子供じゃないか!) 「あ、あなたがゆうしゃさまだったんですかぁ。これか らしばらくよろしくです〜♪ 僕はぁ、神官のトキで すぅ♪」 少年の言葉に、柳は頭に2tの錘が落ちてきたのを感 じた。このちびっこい少女が村の守り神ともいえる“天 照様”で、こっちのちびっこい少年が神官だというの だ。信じろという方が無理な話である。この村では子 供である方が偉いとでも言うのだろうか? 「そ、村長あの…って、あれ?」 助けを求めるかのように、柳は村長のいた方を振り返 る…が、そこに村長の姿はなく、書置きが一枚。 『ファイトですぞ、勇者様vvv by村長』 ずるぅ (に、逃げた?) この時ほど、柳が脱力感を覚えた時はなかった。 が、引き受けてしまったものは仕方がない。さっさと この少女、天照をこの部屋から出してしまえばいいのだ。 天照がこれだけ(食事をひっくり返すほど)元気ならば、 やはりこの部屋から出られないよう封印されていると考 えるのが妥当だ。 幸い、柳にはある能力があった。「封印術解除」という、 まさに今の状況にうってつけの能力が。 この時は、すぐに終わると思っていた。封印をといて 天照をここから出して、さっさと旅に戻れると…。 が、人生そう上手くはいかないのだ。 「はぁ…。じゃ、封印解除するから、二人とも下がって てくださいね。」 ドアに手をかざし、柳は天照様とトキに言った。 「は? 何じゃ、“ふういん”とやらは。」 「……………………え?」 「だから、ふういんとは何じゃと聞いておるのだ!」 「だ、だって、この部屋に…」 封印がかかっているからあんた出られないのではと、 柳は口にすることはできなかった。また頭に嫌な予感 がよぎる。 「ふみぃ…このお部屋にぃ、そんなものかかってません よぉ?」 のんびりとした口調で、トキが言った。 「だ、だったら何故天照様は外に出られないっていうん です?」 一応敬語は忘れずに、柳は問う…と、 「疲れた。」 「……………………は?」 「だから、わらわが疲れたからじゃ。」 何も言えず、柳はその場に固まった。 「毎日毎日雨乞いだの何だの、飽きた。ま、そちが来た から、わらわも少しは楽しめるようだがの♪」 「……………………え?」 さらに訳の分からないことを言われ、柳はどう反応し てよいものか、分からなくなりつつあった。 「ほぇ? そんちょぉから聞いてませんかぁ? “ゆう しゃさま”っていうのはぁ、言い換えれば“天照さま の”ひまつぶし“に付き合わされる人のことなんですよ ぉ?」 「な!」 この時、柳はようやく理解した。村長の動揺の数々を。 「はふ…助かりますです。今まで僕一人で相手してまし たからぁ…。天照さま僕じゃ全然満足してくれなくて ぇ。」 トキが心底嬉しそうに柳を見る。ズボンにガシッとし がみつ いて。これでは嫌だなどと言えないではないか。 「当たり前じゃ! おぬしのような子供、趣味ではない わ! その点、おぬしはなかなかの容姿じゃの♪ ま、 わらわには少しも及ばぬが。」 天照が、柳を見て言った。 (…つまりあの伝説の勇者に当てはまる人物像ってのは、 この子の趣味に合った者…) ならば自分が選ばれたのも納得できる。ようするに… 麗しき美貌=童顔で可愛い系の容姿 透き通った美声=高めでかすれたりしない声 鮮やかな瞳=天照様と同じ真っ黒な瞳 というわけだ。 「さて。おぬし、名はなんという?」 天照が部屋の中から手招きしながら柳に問う。入らな いわけにもいかず、柳は足を動かした。そして答える。 「五十嵐 柳。柳です…」 「うわぁ、かっこいい名ですねぇ…」 足元からトキの声が聞こえる。まだ足にくっついてい るようだ。 「フム…柳、とな。ならばおぬしは“リュウ”じゃ!」 と、天照が柳に言った。柳を音読みするとリュウ、とい ったと ころであろうか? 「り、リュウ?」 「わらわが付けてやった名じゃ、誇りに思うがよいぞ♪ さ、さっそくわらわの玩具としての初仕事じゃ! “お 馬さんごっこ”をするのじゃ!」 …………・……………。 「あ〜いいですねぇ、天照さまぁ。」 「ふむ、今日は機嫌がよい♪ そちも乗せてやろうぞ! ほれリュウ、さっさとせんか!」 いつの間にか天照の手には鞭が握られていて…。 「だ…」 今更ながらに、柳は自分の予感は信じるものだと思っ た。幾度か警告していたというのに…。が、時すでに遅 し。後悔先に立たずである。 「だまされたぁぁああ!!!」 【続く】 |