アダム
聖護院かぶら
氷河期が始まって
一匹の猿が樹上を 追われた
野原に孤独にたたずむ猿は
むなしく頭上に広がる世界を見上げた
仲間たちは縦横無尽に闊歩し
彼の入るスキマなんてない
まるで彼が再び登ってくるのを
拒むかのように…
「人」よ たとえひとりきりでも
自らその二本の足で
大地をしっかり踏みしめて立て
司書室登校
本がある
教師がいる
仲間たちがいる
教室なんか要らないね
ウタウトリ
籠におさめられた鳥たちは
決められた歌を
競い合うようにして歌う
歌えない鳥は役立たず
大切なこともみえなくなる
大切なことはなんだろう
ある日ぼくは突然
でたらめな歌を歌い始めた
でたらめでしかなかったそれは
次第に形をとっていって
たとえ誰に誉められなくとも
ぼくの作った歌の続きは
ぼくだけにしか歌えないから
この閉めきった籠の中からでも
大切なことがみえてきた
ただ白いだけの
寂しさは二種類あると思う
母親とはぐれて泣いているあの子供
僕が手をさしのべたら
もう寂しくなくなって
笑い出すかな
ところが子供は泣きやまなかった
きっとお母さんではないと駄目なんだ
他の人では埋められない
代わりのきかない想いを
もう知ってるんだね
願わくば
この子の母親が
早く見つかりますように
虫捕りの少年
少年は夏の中にいる
あの虫の背中を
来る日も来る日も追いかけている
少年は夏の終わりに気付きはじめている
季節は巡ってきたし この先も巡る
夏の虫は ほんの少しの間しか
人に姿を見せてはくれない
少年は今日も網を握る
朝の澄みきった空気 寂しさの現実感
けれど今だけは
僕の夏はあと何日だろうか
山道
もし君が
世界で一番高い山に
登りつめたとしても
いつか地盤が沈下して
他の誰かが君をまたぎ越えて
もっと高い所に立つ日がくるだろう
それから君もどんどん沈んで
やがて誰からも忘れ去られて
後には虚しさしか残らないかもしれない
一等の旗が永遠に
君だけのものだったらいいのに
いつまでもベルトはまとえない
それなら君は 山道に
花でも植えて歩こうか
愛すべき人々へ
誰かに好きになってほしくて
誰かの力になろうとするのは
そんなに不純な動機だろうか
人から感謝されたくて
善い行いをすることは
偽善でしかありえないのだろうか
無償ってすごいかもしれないけれど
人から人へ
好意から好意へ
そんなささやかな見返りに
人々は喜びを見出して
希望を持って
生きている