題名: 20221205-「100分で名著」中井久夫
「100分で名著」中井久夫

2022/12/05



理論・知識と実践、そして、人格。
それらが渾然と融合しているのが
ほんとうの知者でしょう。

中井久夫という名前を知っていますか。

2022/8/9の神戸新聞v臂報記事から一部紹介します。

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阪神・淡路大震災などの被災者の精神的なケアに尽力し、
文筆家としても多くの業績を残した精神科医で神戸大名誉教授、
文化功労者の中井久夫(なかい・ひさお)さんが
8日午前11時5分、
肺炎のため神戸市の介護施設で死去した。
88歳。奈良県出身。自宅は神戸市。

京都大卒。東京大などを経て1980年、
神戸大医学部教授に。
統合失調症研究の第一人者で、
先駆的な診療法で高く評価された。

95年の阪神・淡路大震災では、
被災者の心のケアの必要性を早くから訴え、
支援体制の構築や支援者の育成に注力。
2004年に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究や治療、
相談などに当たる全国初の施設「兵庫県こころのケアセンター」が開設され、
初代センター長に就任した。

1997年に神戸市須磨区で起きた
連続児童殺傷事件の遺族らとも関わり、
犯罪や災害の被害者らの心理的な回復を支える
「ひょうご被害者支援センター」理事長として活動。

歴史や文化を巡る高い見識に基づき、
政治や戦争をはじめとする幅広いテーマに深い洞察を示し、
無名の人々に温かいまなざしを向けた文章は多くの人の共感を呼んだ。

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雑誌「現代思想」は2022年12月臨時増刊号として
「総特集=中井久夫」を組んでいます。

「精神科医・中井久夫の広大な足跡をたどる
長きにわたり戦後日本の精神科医療の最前線に立ち続け、
阪神・淡路大震災後のこころのケアに尽力するとともに、
エッセイの名手にして詩の翻訳家としても知られる中井久夫。
体系性を拒みつつも尽きせぬ豊饒な多面性にひらかれた
その世界を一望する、
追悼特集。」

そして、
今日からNHKの「100分で名著」が中井久夫を取り上げます。

『最終講義』
『分裂病と人類』
『治療文化論』
『「昭和」を送る』
『戦争と平和 ある観察』
の5つの著作を取り上げるそうです。

https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/trailer.html?i=36456

中井久夫と面識のあった人は、
「中井先生の懐かしそうな笑顔」
といった表現をします。

きっと彼の診察を受けた患者さんたちも
その笑顔に触れながら
治療の過程をあゆんでいったことでしょう。

自己の体験、知識、洞察、時代、行動、勇気、
決断、そして、優しさ。

こういうタイプの知者は、
(そうだとしたらとても悲しいけれど)
もう出ないかもしれない。

かつてはそういう人がたくさんいたように思います。
いまは、副読本のアンソロジーの中にしかいない。
ネットの中には、貧しい嘲笑しかない。

でも、
みなさん、
まずテレビでいいから、
中井久夫の表情に少しふれてみてください。

新しい時代の知者が現れることを期待して。

●北野図書館にある中井久夫の本

いじめのある世界に生きる君たちへ
復興の道なかばで
徴候・記憶・外傷
最終講義
樹をみつめて
治療文化論
清陰星雨
災害がほんとうに襲った時
私の日本語雑記
臨床瑣談