題名: 20220602-見る
見る
2022/06/02

新しい本が毎日並んでいます。
ふ、とした時間に図書館にやってきて、
新しい出会いを。 

しばらく、
花よりも新緑が鮮烈な季節でしたが、
六月。 

あじさいが咲き始めています。 

木々の葉も濃くなり、
葉の作る影もまた濃い。 

建物が作る影も濃くなっています。
光あふれる日は、
影の造形が刻々と変わるのがおもしろい。
 

二年生が「見る」という文章を読み、
「見る」を実践しています。 

立ち止まり、
そのつもりで見てみると
世界のあざやかさが際立ってくる。 

カメラのない時代には、
それをことばで書き留めたのでしょう。
 

三年生も少し前ですが、
「見る」「聴く」をやってみました。 

ことばで書き留めることは、
やっぱり、
豊かな気づきを生みます。

三年生のメモを、いくつか。
 

●よく耳を澄ませるとまちなかの喧騒の中で鳥のさえずりや虫の音などが聞こえてくる。
 周りを見ていると自分は風を感じないのに木の葉だけがゆれている。

 

●雨上がりの朝、教室の中から窓の外の梅田の風景を見るs賈がかかっている。
 高層ビルが立ち並んで、いつもは凸凹して見える風景が、
 萇によって切り揃えられているように見える。

 

●教室から空を眺めると形を持たない雲が空全体にうっすらとベールのように広がっている。
 太陽の光が透けていてやわらかく淡い感じから春を感じる。

 

●朝、重いまぶたを開けてバスの窓から外を見るとだだっ広い川がずっと続いている。
 水面で魚が勢いよく飛び跳ねて波紋が広がる。魚も寝ぼけたりするのかな。

 

●最寄り駅に向かう通学途中で、毎朝見かける足の不自由なおじいさん。
 今日はいつもより顔の表情が朗らかだった。
 気温が上がり、体の調子がいいのかな。それとも昨晩よく眠れたせいかな。

 

●猛々しく、疉んでくる。反抗期のようにも見える。
 だが少し、何かに対する怯えが感じられる近所の犬。

 

●教室で一人佇んでいるといつもは聞こえない秒針の音が聞こえる。
 普段は気付きもしないほど小さな音なのに、酷くうるさく感じる。

 

●泳ぎ終わったあとの円陣で、他の部員をなんとなく見ていると寒すぎて顔が真っ青である。
 そして震えて泣きそうになっている。

 

●学校帰りの人通りの少ない夜道。マスクを外してたっぷりと息を吸い込んだ。
 夜の空気はこんなにも鮮明に輪郭を持っていたのかと思う。
 まだ少しひんやりと湿っぽい感覚が鼻の奥に残っている。

 

●下校を促すアナウンスが流れ、帰る支度を始める。
 ふと窓の方に目をやると、淡い桜色に染まった空が、
 世界を優しく包み込んでいるかのように果てしなく広がっている。
 春茜ももう見納めだろうか。

 

●雨が降る前、建物の中から外へ出た時に雨の匂いが鼻腔をくすぐる。
 ただの水の匂いとは違う、少し甘いような匂い。
 その匂いを嗅ぐと世界が青色に染るような気がした。

 

●机に座って耳をすますと家の前を車が通る音がする。
 意外とたくさんの車が行き来しているようだ。
 みんなどこに向かうんだろう。

 

●窓からでは空を見ても雨が降っているのか見えないが、道路には雨の跡が出来ている。
 どんどん道が濡れて色が濃くなっていく。
 

 書き留めなければ、消え去っていたさまざまな世界の表情。
 その中で、私たちは生きているのですね。
 ――今ここに、生きていること。 

 緑の木々が見える、
 赤いバラの花々も私と君のために咲いているんだ。
 そしてひとり思う、なんて素晴らしい世界だ。

 青い空が見える、白い雲も
 輝き祝福された日、暗い神聖な夜。

  そしてひとり思う、なんて素晴らしい世界だ。

   Louis Armstrong  What a wonderful world

 
 一九六八年、ベトナム戦争のさなかに作られ、ヒットした歌です。