もうひとつの居場所
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もうひとつの居場所
2019/10/29 7:57
こんな雨降る日の午後は、
静かな場所ですごしたい。
図書館は、そんなときの
「もうひとつの居場所」。
岸政彦の小説「図書室」の一節を。
公民館の鉄の門を抜けてすこし歩くと、重いガラスの両扉の正面玄関がある。右の
壁には小さな窓枠が開いていて、受付のおばちゃんがいつも小さなテレビをつけっぱ
なしにして居眠りをしていた。私はおばちゃんを起こして挨拶をすると、小走りに図
書室に向かう。薄暗い廊下を抜け、右に曲がると突き当たりに図書室のドアがある。
図書室は、たぶん本が日に焼けないようにだろうけど、北向きになっていた。でも
壁一面がガラスで、ソテツや桜が植わっている中庭から差し込む柔らかい光が部屋の
なかいっぱいに広がっている。黴と埃の匂い。真ん中に大きなテーブルが二つあって、
いつもふたりのおじいちゃんが新聞を広げて居眠りをしてる。この公民館の大人はみ
んな寝てる。
テーブルの奥の、 いかめしい大人むけの単行本や辞典が並んでいる大きな灰色の本
棚の列の向こうが、子ども用のスペースになっていて、私はここが本当に好きだった。
学校の、 いつもは優しいけどたまに驚くほど冷淡に、嫌な感じになるおばちゃん先生
もいないし、仲が良いけどときどきうんざりする女の子の友だちもいないし、いちい
ち気を使って顔を立ててあげないとすぐに怒って機嫌を悪くする、ただめんどくさい
だけの男子たちもいない。学校という、 いろいろ楽しいこともあるけど、でもやっぱ
り行かずにすむなら行きたくない場所と、心から愛してる母親と猫たちがいて暖かい
こたつもある自分の家とのあいだにあって、ちょっと大人になったみたいにひとりに
なれる場所。
三島賞候補作。
大きなガラス窓の前の新着棚にあります。
表紙は淀川の写真。
●新着図書さらに増えました。
●窓の新着棚には主に文芸作品。
●カウンター前の棚たちにもたくさん置いています。