Live at SHIBUYA QUATRO
23th, September, 2003
〜エンターテイメントへの足がかり〜
さぁ……何て言えばいいんだろう(ボズ・スキャッグス)。
まずは、この文章を書いている自分のウェットンに対する現状を示さねばなるまい。それが実は最も重要なことかも知れんのだし。
はっきり言って、飽きています。
と言うのも、例の「ブートまがい/ブートあがりのライヴ盤乱造」が続き過ぎ、しかも納税の価値ある還付品が返ってくるキング・クリムゾンと違って、納めたくない税金になってしまったのだ。最近のウェットン関連の「オフィシャル」ライヴ盤は。ウェットン本人が本当に許しているかどうかは別として、ね。
そこへきて、どう持ち上げたって「懐メロのオン・パレード」になるのは誰の予想にも違わず。だけど前回の来日での演奏と歌唱は良かった。だから今回の来日も「まぁ定例行事だから」「社員旅行みたいなもんだから」という気分じゃある。
けど、酷過ぎるだろうあの出来は。
なので以下、結構手先加減で書いてしまう恐れアリなのを先に申し上げておくので「ウェットン先生は何をなさっても素晴らしいお方なのです!」という方はお読みくださらぬよう、重々申し上げておきます。後からメールで「何ですかアレ!」とか送ってくんじゃねーぞ(←
この時点で投げ槍か?)。
さて。
とはいえ、彼もプロだ。きちんとほぼ時間通りに現れ、演奏でも場内を盛り上げた。爆笑MCがやたら飛び、アンコールにだって応じた。
けど、けど、
あの歌声はないだろう。
「最初の一声」からして、いきなり「酒嗄れ声」なのだ。酒呑んでリハしたらこんなになっちゃったよ、という感じの「嗄れ声」なのだ。まさに。客が「あれっ?」という反応をしたのは間違いないぞみんな。しかもベースだって流れるようになんて弾けやしない。突っかかるわリピード回数間違うわ歌い出しトチるわ声出てないわ、で、まるで「アマチュアのライヴみたいだった(同行者談)」という言葉まで飛ぶ始末だ。
さーどうする。そんな出来の演奏を、どうやって「リポート」する?
で、お気付きだろうか。ここではまだ「ウェットンの状態」しか書いていない。なので、その「状態以外」のところには何箇所も見るべきどころがあったのだ。曲順を追っていくことで、それを弁じていくとしましょう。
まず、イントロは『ロック・オブ(×オヴ)・フェイス』の冒頭曲「モンドラゴ」だったのだが、そこから続いたのは「孤独のサヴァイヴァー」。そこでウェットンはサビを歌う時に左手の人差し指を掲げる。前までは「僕が唯一残った生存者だ」という歌詞の意味とマッチングしていたもの、今や彼のお仲間達はプログレ・ブームの流れを受けて誰も彼もが復活している。意味を成さない、ただのポーズになってしまっているのだ。
続いて「闇の住人」が終了したところへ湧き上がる「U.K.! U.K.!」コール。最近のライヴじゃお馴染みの風景だし、ウェットンはそれを受け取って上機嫌だ。それを言われたら怒って帰るアラン・ホールズワースでもビル・ブラッフォードでもない(彼らとはそういう「ポピュラー性」みたいな部分で反発したのだが実際)。でも、真摯(生真面目)なファンにとっては「何て失礼な!」となるだろう。僕だって、ソロのウェットンが好きなものだから、彼が「ソロ曲を演奏したいけど、みんなバンド時代の曲を聴きたがるからね」とインタヴューに答えていた頃にそれが起こったら「何を!」となっただろう。でも今の彼は、酔ってインタヴュー受けて酒嗄れ声で歌うヒトなのだから、居酒屋の「一気! 一気!」みたいなもので、無礼ながらその場では楽しいもんだ。
そこでさっそく繰り出される「キミタチ、サイコダヨ」。おおっ、まるで吉本じゃあーりませんか。いやマジで。もはやパターン芸なのであるこの台詞は。皆さん承知じゃあるだろうけれども。
続くMCが、ビミョーに可笑しかった。
「この曲は、エイジアからの曲だよ……君達はどこから来たの?」
(This song from Asia...Where are you from?)
ちょっとでも英語ができて、よかったなぁ、と思う。
そうして演奏されたのは「ドント・クライ」だったが、出てない出てない、とにかく声が。続く、アメリカの「9.11」を通過だの踏襲だの云々言われている『ロック・オブ・フェイス』リリース後だからこそ、さぁ響くか? と思った「ヴォイス・オブ・アメリカ」も……やっぱり、声嗄れがなぁ。本当に。そんぐらい酷い声嗄れだったのだ。しかも声が伸びず、高音が出ないのでファルセットに転じている。うむむ、泣けんぞ、これじゃあ。
と、ここでやっと「ニュー・アルバム『ロック・オブ・フェイス』からの新曲だよ」と告げられたのはアルバムの中で最もとっつきやすい「ア・ニュー・デイ」。この曲は鍵盤奏者のジョン・ベックと、ギタリストのジョン・ミッチェルのコーラスの甲斐あってまだまだ良いものです。エンディング部分は「余りに急に消えてった」アルバムのそれよりも、だいぶ自然に収まった。
「キング・クリムゾン時代の古い曲」と宣言された「土曜日の本」も、歌唱はちょいと辛いものがある。しかもミッチェルがユニゾンで弾いている!……まさか、ウェットンがトチった時のためなのか? しかもピッキングハーモニクスで「パ―――ン……」と響かせてからはタメるタメる。ほんとに日本人なんじゃないだろうか(笑)。ウェットンもミッチェルもその「タメ過ぎ」に苦笑いしていた。
「エイジアからの、嫉妬の歌だよ」という「偽りの微笑み」もアコースティック。但しこちらは、ベックとのデュオになる。こうした「慣れた曲」でやっと声が出てきた印象がある。って、それじゃ今までのはストレッチか! とは言わんといてください。
「次は『バトルラインズ(日本盤:ヴォイス・メイル)』からの曲だ」
というMCから、おやまた表題曲か「ホールド・ミー・ナウ」あたりかな? と思えば、シンセが「ライト・ホエア・アイ・ウォンテッド・トゥ・ビー」のイントロじみた音を出している!――しかも実際に演奏されたのは「ウォーキング・オン・ジ・エアー」だった。意外や意外。この曲をバンド・サウンド然とした音で聴くのは実際、新鮮だった。この曲の生演奏を聴けたのは収穫かも知れない。
「ソフトな曲が続くね。でも、ロックン・ロールだよ!」
今日のウェットンはいやに闊達だ。声が出なくてベースももつれ気味なのを気に病んでいるのか?
「次の曲は――死についての歌だ……セックスと死、どっちがいい?(笑)」
おいおいおーい、シリアスな曲をそんな紹介したらちゃんと聴けないじゃないスか。でも、その後に演奏された「フー・ウィル・ライト・ア・キャンドル?」は(声の出具合はともかく)実際、荘厳な雰囲気をきちんと醸し出し、同窓会じゃない拍手を呼んだのじゃないかと思う。
「ジョン・ベック、ジョン・ミッチェル、そしてもうひとりのジョン!(自分)……おおっと、ごめんスティーヴ。ドラムス、スティーヴ・クリスティ!」
今日のウェットンはやたらと陣営を紹介する。これはひょっとして、自分が不調である(酒云々は抜きとして、実際に彼は病を患ったりなどしていた)ことと、それをきちんとサポートしてくれている演奏陣への感謝の意を込めているのかも知れない。
「キミタチ、サイコダヨ!」
「ジョン、サイコダヨ!」
こんなやりとりもあった。もはやここまでくると微笑ましい。
「次の曲は、物語になっているんだ。でもね、キング・オブ・ロックンロール!」
陶酔するように鍵盤を撫でるベック。「ランデヴー
6:02」だ。慣れた曲だし、ここまでくるとウェットンの声もだいぶ出てきている。不調なら不調で、こうした慣れた曲を中心にしてもいいのに。
「ええと、次は――またセックスの歌かな?(笑) ねぇ、オズワルド?」
ミッチェルにそう問いかけるウェットン。当のミッチェルは「どうにでもしてくれ」といった素振り。そうして「テイク・ミー・トゥ・ザ・ウォーターライン」が演奏されたわけだが……ウェットンはどうも、ギタリストであればデヴィッド・キルミンスターよりもジョン・ミッチェルを気に入っているようで、やたらと彼に話を投げる。確かに、キルミンスターは「主役になれないもどかしさ」みたいなものを醸し出していたが、ミッチェルは「脇役だって目立てばいいさ」という、さっぱりとした感は受けられる。楽器交換やステージを整頓するために現れたローディ君まで肩を組んで紹介したりして、確かに「アマチュアみたい」ではあった。
そうなると、正直、続く「アフター・オール」は友人を失った歌なのに感動できん。ううう。
「トライトンを知っているかい?」
突然問うウェットン。ノリが悪いわけじゃなかった観客も、これには戸惑っている。
(因みに「イモリ」や「法螺貝」のことです)
「トライトンっていうのは、こういうノイズのことさ」
そう言ってミッチェルがギターを少しだけ鳴らす――なるほどね。続く曲が、それを証明してくれた。
キング・クリムゾンの「スターレス(暗黒)」。
この曲を、じっと腕組んで聴きたい観客も多かったことだろう。しかし、それは演奏陣が許さなかった。特にジョン3人はその演奏を楽しんでばっかりで、シリアスな感想を抱きたかった観客からは「あの聖なる曲をあんなふうに演奏するなんて!」とお怒りだと思う。そりゃごもっとも。でもね、考えてみましょう。クリムゾンの曲なんて既に、ビートルズの曲と同じように「ロック・クラシック」なのだ。または「クラシック・ロック」なのだ。そしてそれを演奏していたオリジナル・メンバーのひとりが、ジョン・ウェットン。ヘヴィ・ロック風になったフレーズや、宇宙服じみた服装のベックがクネクネして、首を振り回したり座った椅子を回転させながら鍵盤を弾いたりするのに、何か感じなかったかい? オアシスのノエル・ギャラガー似の顔をしたミッチェルがベロをへろへろ出しながらそれを楽々と弾きこなしていたのに、何か思わなかったかい?
諧謔精神を。
歴史なんて糞食らえ。
確かに、この曲を今にして演奏できる“Sole
Survivor”はウェットンひとりだ。それをどう改造しようが、改ざんしようが彼次第。そして彼が選んだのは「現代の若人にも聞ける音色」のギターとシンセ。インプロ的な部分へ突入するギターとベースのかけあいでしきりに“pause”をかける意味は、この曲がもともと持っていた静謐な意味を失い、エンターテイメントとして成り立ってしまう時代になっていること。かつてはそれを、シリアスに演奏していた自分……そんなものを、僕はその演奏から感じ取った。そりゃ主観じゃあるが、いにしえからのファンが「何だアレは!」とばかり言える時代じゃないのだよ。ウェットンが、皆が文芸復興に腐心ばかりしている反面、そんなの意味ないじゃないかと選んだ「孤独なサヴァイヴァー」の選択肢は、ポピュラリズムだったのだ。
現に、会場には若者が多い。リアル・タイムのリスナーより多いぐらいだ。そりゃ「クリムゾンの曲が聴きたいから来る」ってのは悪いわけじゃない。でもそれがハード・エッジな曲調になっていても文句など言えない筈だ。だって、その曲を作ったのは「彼」であるのだし、その曲にそうしたアレンジを許しているのは「彼」なのだから。
この「スターレス」こそが、ベックがクネってミッチェルがベロを出すこの曲(年配者ふたりはそれを許しつつ、どっちかというと堅実なプレイなのも面白い)こそが、この日の最大の収穫だったのかも知れない。
気付けばウェットンは、往年とまでは言わないが、かなりの声が出ていた。
感情の入る曲では、きっと彼は声を絞れるのだろう。などと邪推してみた。
アンコールは、まるでお約束。
かなりスロー・テンポの「レッド」に、ベックが鍵盤の音を「ウェットン好みに」タメ過ぎたためにウェットン自身が失笑していた「バトル・ラインズ」、そして大団円の「ヒート・オブ・ザ・モーメント」だった。
うむむ、確かに、お約束じゃある。
で、今回は、だ。
ひとつの意見としては「消化試合」です。日によってコンディションによって演奏の出来/不出来がマチマチなのはウェットン・ファンなら覚悟のうえだろうし、それで怒るなら次回は来なけりゃいい。そうした人が多ければ、ウェットンも「焼き鳥+日本酒」の来日定番コースを控えることでしょう(本当か?)。
もうひとつの意見としては、いかに自分が「ジョン・ウェットンという人」を楽しめているか。筆者の同伴者が漏らした「アマチュア・バンドの演奏みたい」とはそりゃ極端じゃあるが、そういうもんなのだ、今の彼は。プログレ亡きあと、いつまでもプログレの幻影を求められ、しかし自分はもっとポップなことをやりたい、という懊悩に悩まされて太ってしまった(←
コレは嘘)彼は。
「演奏を楽しむ」
という基本原理を、彼は悲しいかな、殆ど味わえなかった。ファミリーにキング・クリムゾンにユーライア・ヒープにロキシー・ミュージック、と有名バンドを渡り歩き、末に組んだエイジアだって売れてしまった。何だかんだ言っていつも彼は「栄光の中」に居たのだ。つまり「売れなきゃいけないプレッシャーの中」に居たわけだ。
それから開放されて、アマチュア・バンドみたいな演奏をしている彼が、実は結構楽しそうだった。
だからこそ、今回の「消化試合」も、僕にとっては「消化試合どころか真の笑顔を見た」ような喜びがあった。彼がミッチェル、ベック両名の若者をひどく気に入っているのも、そういう「演奏自体の楽しみ」を味わえるがためなんじゃないだろうか、なんて思いながら、場内には終了アナウンスが響くのだった。
ああ、アンコールの拍手の際に「ウェッ、トン! ウェッ、トン!」って声をかければ良かったなぁ。セカンド・アンコールがあったら声を出したんだが「ヒート・オブ・ザ・モーメント」が演奏されたから「ああ終わりじゃないかぁぁぁ」と後悔したものだ。ううう。
次回(いつだ?)は、アンコールの時に「ウェッ、トン!(with
拍手)」コールを!
ぜひよろしくお願いします。
彼に過去の栄光を求めず、そのエンターテイメント性を良く解っている方であればね。
きっと後からネットなど(の、個人範疇)で罵倒されるだろうライヴだったが、個人的には楽しめたぞ。
体調不良なのを押して、杖突いて参戦した甲斐ぐらいは、あった。僕の周囲に居た方々、すいません。杖突いて足腰ううう、ってなってたのはワタクシです。ごみんなさい。
……でも、正直な喩えを言えば。
今日の演奏がブートレッグ化されても、僕は買わないなぁ(苦笑)。
*付記*
翌日(マスコミ筋が多い日)は反省してか奮起してか、かなり好調だったらしい。
くそ―――っ。
でもいいもん。こういうこと感じられたからいいもんっ。
ぷん。
[セット・リスト]
| 1. | Mondrago |
| 2. | 〜Sole Survivor |
| 3. | In The Dead Of Night |
| 4. | Don't Cry |
| 5. | Voice Of America |
| 6. | A New Day |
| 7. | Book Of Saturday |
| 8. | The Smile Left Your Eyes |
| 9. | Walking On The Air |
| 10. | Who Will Light A Candle? |
| 11. | Rendez-vouz 6:02 |
| 12. | Take Me To The Waterline |
| 13. | After All |
| 14. | Starless |
| <Encore> | |
| 15. | Red |
| 16. | Battle Lines |
| 17. | Heat Of The Moment |
*「〜」で記された部分はメドレーか、それに近いスタイルでの演奏であったことを意味します。