21.顰蹙のレコメン講座
〜これもまた「音のくくり」にあらず〜
好評なのかどうかは解らないが、このシリーズは続けていく。
やはり世間に広くは認知されていない、それでいて曖昧なジャンルというものはまだまだあるのだから。
今回は「レコメン」である。
皆さんはこのジャンルを、耳にしたことがあるだろうか?
最近では大手外資系CDショップなどが「レコメンド(recommend=推薦)」という言葉を用いて「その店のお勧め」を陳列したりしているが、それとこれとは、言葉こそ似ているがまったく違う。そういった「ジャンルには関係ない」という部分が共通するとも言えなくもないが……。
本稿で言う「レコメン」とは「レコメンデッド(recommended)」のことであり、先述の「レコメンド」の過去形になる。もとは同じ語なのだから勘違いしても無理はない。だが、この「レコメン」とはもはや一ジャンルを差す言葉であり、また同時に、アヴァンギャルドと表裏一体のものでもあるのだ。
この言葉を知るには、まず(当然だが)歴史を遡る。そうして現在から30年弱の英国、そこで「プログレッシヴ・ムーヴメント」が衰退する寸前、まるで交代するかのように登場したグループ「ヘンリー・カウ」にスポットを当てなければいけない。
ヘンリー・カウは、アンチ・コマーシャリズムを軸としたアンダーグラウンド系ミュージシャンの集合体として、73年に『レッグ・エンド(旧邦題:伝説)』でアルバム・デビューを果たした。若干のメンバー・チェンジを行っているが、その中心メンバーはフレッド・フリス(g)、ティム・ホジキンソン(sax,
key)、ジョン・グリーヴス(b)、クリス・カトラー(ds)、リンゼイ・クーパー(basoon,
oboe)。
その音楽性は、昨今では「プログレ」に当て嵌められてはいるが、店によっては「アヴァンギャルド」でもある。またその本質は「ジャズ・ロック」であり、しかし人脈的には「カンタベリー」でさえある。後期にはスラップ・ハッピーと合体し「超人的技法と歌の融合」に成功。だがそれが要因のひとつにもなり解散、寧ろ分裂/解体してしまう。
だが彼らは、解散前にある組織を作り上げた。
それが「ロック・イン・オポジション」であり「RIO」と略されるものである。
その名称が示すように、この組織は「既成の概念に反対する」ものであり「カウンター・カルチャーとしてのロック」復興を目指していた。飼い犬のように成り下がった脆弱なロックではなく、本来の、反権力としての音楽を思い出そう、と。
その際に、優れた技巧や思想を持つのに発表場所がないミュージシャンのため、流通組織として設立されたのが「レコメンデッド・レーベル」だった。これにはヘンリー・カウ自身が、ひろく音楽を膾炙していた筈が、瞬時に商業路線に変更したヴァージン・レコードにクビにされた(これは有名な事実で、数多くのカンタベリー一派もそれが原因で失墜している)ことが大きな要因となっているのだろう。
レコメンデッド、
この言葉は、ここから始まったものだ。
呼びかけに集まったアンダーグラウンド・ミュージシャンは多く、また、ヘンリー・カウが分裂しても彼らは新しい仲間を集っていった。まるであらゆるジャンルが死なないように、子孫は拡大していったのだ。その中で、レコメンデッド・レーベルも続いていき、アンチ・コマーシャリズムに基づく自由な作風のバックアップを続けながら現在に至る(日本では「ロクス・ソルス」が販売を請け負っている)。
そのレーベル名、
そのアンチ・コマーシャルな作風、
その高祖であるヘンリー・カウからの影響、
これら3要素が「レコメン」の特徴であり、ジャンル名称として定着した内実である。つまりは……
「アンチ・コマーシャリズムに基づく、ヘンリー・カウを代表とするミュージシャンに触発され、レコメンデッド・レーベルやその周辺で活動をするミュージシャン」
こそが「レコメン」であると、言えるだろう。
そしてレコメン・ミュージシャン達は拡散や分裂、あるいは集合を繰り返し、それでもその作風を今でも活かし続けているのだ。
ところで、私が今までの文章中に「レコメンとアヴァンギャルドは表裏一体」という意の文を述べておいたのはお憶えだろうか?
それをもう少し、噛み砕いてみよう。
「レコメン」は今まで述べてきたように、反権力あるいは反既成概念として、つまりカウンター・カルチャーとして誕生、発展したジャンルだ。その音楽的本質はヘンリー・カウが母胎であるのだから、子供達の殆どはそれに従っている。既成のそれではなく、新しいスタイルの探求手段としてのジャズ・ロック。「反ロックとしてのジャズ・ロック」に。
一方の「アヴァンギャルド」は「前衛的な」という意のフランス語である。音楽的には、こちらもジャズ・ロックを根本表現としているものが多くある(そうでもなく、もっともっと「前衛的」なものも多いが……)。では語源であるフランスから代表例を挙げてみるとすれば、エトロン・フー・ルルーブランが思い浮かぶ。彼らの音楽は暴走寸前の「かなり前衛的なジャズ・ロック」だ。
こうしてこの2ジャンルは違う言葉で、しかしニュアンスは異なりながらも、同じ側面を持っている。ヘンリー・カウが後期に合体(寧ろ吸収)したスラップ・ハッピーは「アヴァンギャルド・ポップ」であったことも見逃せまい。そう、結局は「レコメン」も「アヴァンギャルド」もヘンリー・カウから発生し、ヘンリー・カウの分裂と共に別々のジャンルとして確立したのだ。フレッド・フリスやクリス・カトラー、ダグマー・クラウゼはレコメンとして「アート・ベアーズ」というバンドで活動を続けることになり、アンソニー・ムーアやピーター・ブレグヴァドはソロとしてアヴァンギャルドや実験音楽に回帰。変わったところではジョン・グリーヴスは「ナショナル・ヘルス」に加わることで一気にカンタベリー系ミュージシャンに深く交わり、ソロではアヴァンギャルドにも染まっていた。
特筆すべきは、この「レコメンの祖」達の殆どは、現在でも作風を変えるなどしながらも、現役で活動していることだ。スラップ・ハッピーの3人はソロを続けつつも再結成したし、フレッド・フリスはジョン・ゾーン、ビル・ラズウェルに代表されるニューヨーク人脈と深く関わる。ジョン・グリーヴスはすっかりジャズ・ロック・ヴォーカリストとしての実力と風格を身に着けた。他のメンバーの多くも、精力的な活動を行っている。「レコメン」周辺の作品を聴き続けていけば、そのうち会えるだろう。
なぜレコメンの祖たる彼らは「RIO」の呼びかけに応じて集まりつつも失速していった殆どのミュージシャンと違い、こんにちまで活動を続けられるのか?
それは、ジャンルや表現手段にこだわらず活動してきたという彼らの行動こそが「レコメン」の体現化であり、それでいて各個人の行動は、本人の強い信念に基づいているからだ。超人的技法を身に着け、多くの表現手段を持ち、あらゆるフィールドで活動できる実力を育ててきた彼らにとっては。
そしてその彼らのスタイルを参考(あるいは継承)とした新しいミュージシャン達が、世界各地で大きな評価を得ているという事実も見逃すな!