18.ブートレッグの意義を考え直す

〜私の購入スタンスも含めて〜

 ブートレッグ、あるいは海賊盤。
 あなたは、それを購入したことがあるだろうか?
 地方にお住まいの方であれば「何それ?」と思われる方が多かったそれは、しかし最近では、正規盤を凌ぐ勢いで全国的に流布している。もともと高値であることが多く、正規盤と違って幾らでもリリースされるので、もはやブートにかけた金額の方が高い、という方も少なくないかも知れない。
 これは、端的に言えば「非正規盤」であり「ミュージシャン側が発売を認めていないもの」である。しかもこれらは、彼らの所属する事務所、メーカーなどを通さず、自主的に増産される。観客がレコーダー類で「隠し録り」したものから、流出デモ音源などで編まれたものなど多種多様あるが、近年ではライヴ音源中心に落ち着いてきている。
 こういったブートの横行はミュージシャンにも多大な影響を与える。喩えばピンク・フロイドは発表前の楽曲をライヴで演奏するのが常であったが、ブートにそれが収録・販売され、かなりの売り上げをマークされてしまった。それによりライヴでの新曲披露はいっさい行われなくなったし、ロジャー・ウォーターズなどは堂々と「客どもの中に偏執狂はいやがるのか?」など、痛烈な皮肉を浴びせるようになった。ボブ・ディランやポール・マッカートニーは流出したライヴ音源が売れてしまうのを逆手に取り、それらをもっと上質の音源にマスタリングし直して正規発売してしまうという荒手で逆襲する。その手法を受け継いでいるミュージシャンは多数いるが、その究極がキング・クリムゾンのロバート・フリップであり、一連の「オフィシャル・ブートレッグ」シリーズである。

 特筆すべきは、やはりフリップだろう。彼はブート対策を徹底して行っており、稚拙な音質で似たような音源を出されるのをひどく嫌っている。だからこそ、自身や周辺が保持するライヴ音源から重要な局面をセレクトし、ブート業者など敵にならない高音質マスタリングを施し、リリースを続けている。こうすることでブート音源の稚拙さを暴き、売り上げを減退させ、撲滅させんとしているようだ。
 確かに、そのかいあって、クリムゾン・リスナーの多くはブートに頼らなくなってきている。現に2000年ツアーなど、日本公演に先駆けて欧州でのツアーがブートとしてリリースされていたが、売れ行きは芳しくなかったようだ。なぜならリスナーは、フリップがツアー終了後に全体から優秀な部分を切り抜いてのライヴ盤をリリースすることを知っていたし、一日だけ、それも音質も知れたものではないブートを買う気にもならなかったのだ――偏執的な音源収集家を除いては。
 このフリップの一連の作業のお陰で、今までは頼りない音質とあやふやなデータばかりであった過去のブートは一掃された。だからこそ最近のクリムゾン・ブート市場は、ファンにとって記念すべき公演――日本公演など――を丸ごとだとか、そういった個人的な視点でのライヴ音源に絞られている。過去の音源を出したところで、フリップも唸る、よほどのものでない限り太刀打ちできないからだ。
 しかし、フリップ、そしてクリムゾンは寧ろ特殊な部類であり、他ミュージシャンは未だブートに頼らざるを得ない部分が多い。こと未発表曲やデモ音源などは、スタジオからの流出に頼るほかないので、ライヴと違って矢継ぎ早のリリースは望めない。だが、フリップほど発掘作業に熱心でないミュージシャンなどは、やはりそうした流出音源がブート化していく。
 このあたりが、問題となる。
 ミュージシャンが幾らブートを禁じようとも、聴きたいものは正規盤に収録されず、ファンは買ってしまうからだ。
 私が問題としたいのは、その部分だ。明らかに存在する曲、喩えば初期シングルやそのB面曲、ミックス違い、別ヴァージョン、デモ・テイクなど……そうしたものは、ブートの横行を批判するより早く、ミュージシャン側がきちんとリリースすべきであると私は考える。発掘作業もせず、ただ「買うな」と叫ぶのでは説得力がない。フリップのようにきちんと編集作業を行っているそばからブートを購入するのは「背信行為」とでも言うか、裏切りにも似た感があるが、寝そべったまま「買うなよー」と言うだけの人間の言葉には従えない。従って待っていても、いつ聴けるのか判ったものではないからだ。彼自身がやる気にさえなれば、その横行は防げるということはフリップが実証済みなのに。

 そういう作業が行われなくても、ブート業者の自主的な行いによって音源は暴露されていく。その末に、スタジオ音源が底を尽き……昨今のブート事情がライヴ音源に移り変わった、というのは前述通りだ。
 これにも、私は異議を唱えたくなる。同じようなプログラム、同じようなアレンジ、同じような音質……それらを集めたところで、それには大した違いも見受けられず、ただの収集でしかなくなってしまう。特筆すべき演奏なり楽曲なりが含められているのなら私も欲するところだが、それらを買い集めるよりも他ミュージシャンの正規盤に金を回した方が「音楽というもの」への理解は深まると思うのだ。そしてその「音楽への理解」がやがて「敬愛するミュージシャンの理解」に繋がることは述べるまでもないだろう。
 だからこそ私は、ブートの購入対象は基本的に「スタジオ音源」としている。正規盤では見られない側面を、それも正規音源理解に繋がる部分を、私は中心にセレクトすることにしている。すべてはミュージシャンの理解のための購入であり、また、そういった音源流出を見て見ぬ振りをするミュージシャンへのささやかな抵抗の意味も含んでいる。
 無論、クオリティの問題もあるだろう。大量のデモ・テイクばかりを押し付けられても、同質のライヴ音源を聴き比べるような気分になるし、大差はなかったりする。そのためミュージシャンのやらんとすることへの理解に繋がらないのであれば、私はスタジオ音源でも購入しない場合が多い。喩えばシド・バレットのテイク違いであればドキュメントとして重要であるが、すべてが落ち着いていた頃のエアロスミスのテイク違いは重要度は低い。そのミュージシャンに対する敬愛の度合が違うということも関与するのは事実だが。

 こういったことから、私は、クリムゾン関連のブートはいっさい買わないことにしている。フリップの指針に気付けなかった頃に「買ってしまった」幼稚な盤や、ありがたく頂戴した盤を除いては。それでもフリップは「21世紀の精神異常者」のエイドリアン・ブリューがヴォーカルを採るライヴ・テイクを公開しないので(執筆当時)、それだけはブート購入にも近い手段で入手した。しかし私は、それは「背信行為」とは思わない。
 こうした具体説明で、私の言わんとすることをつかみ取ってくだされば、幸いである。
 結局は、購入の是非などリスナーによるのは当然だし、その判断する点がリスナーごとによって違うのだから。だから「フリップは音源を出し過ぎだ」と叫ぶのはもうやめようではないか。そう叫ぶべき相手は、ブート業者であり、あなた自身である。その発言は、熱心な発掘作業を繰り返すフリップの態度を当然とした、リスナーの奢りであり甘えである。
 自分の欲するものを、買えばいい。
 その原則を忘れてはいけない。フリップは、単にその対象を提示してくれているだけなのだから。感謝こそすれ、筋違いの紛糾などするなかれ。彼の仕事はハイ・クオリティなものであり、決してブート寸前の「乱造」ではないのだから。

 私信めいたことを最後に記すが、本文は決して、あなたの好みや追求対象を否定する文章ではない。ましてや個人批判などではない。それだけは読み取って頂きたい。
 このサイトの文章を眺めてくださる方々は解ってくださるだろう、という甘えを抱いたうえでの発言になってしまっているのだけれども。