裕子
| 君は哲学的で、文学的だ。 繊細過ぎて壊れそうなのに、誰にも壊せないガラス球。 治君のことを思い出すよ。 彼は自分を疑い、信じ、貫き、そして自ら散っていった。 でも彼は、 君の前でしか、 笑わなかったんだよ。 君の手紙を読ませてもらった。 相変わらず自分のことをうまく表現できず、足掻いているね。 でもそれでいいんだよ。 その方が君らしいし、何より君が君である証拠になるから。 でも僕は、 少しだけ君の事、 羨ましく思ってしまった。 たまにはお酒を呑もうじゃないか? ねえ裕子、笑ってみせて? 君が無様だと言う無垢な笑顔、 僕はとても、大好きだよ。 君のマルボロに火を点けよう。 僕がライターを差し出せば、君は黙って煙草を寄せる。 あの日の事を思い出すよ。 みんなで埋めたタイム・カプセルに、君が僕への恋文を仕舞ったこと。 でも君は、 その事をずっと隠して、 僕に唯一の秘密にしたね。 君が囁くように歌うのが好きだ。 官能とは違う意味で、自然と、礼拝堂的に「何か」を感じてしまう。 でもそれがいいんだよ。 君は自分を取り繕った事がなく、泣き顔さえ極めて自然だった。 その顔が、 僕にとっての、 裕子そのものの自然体なんだ。 たまにはあの頃のように会いたいね? ねえ裕子、笑ってみせて? 君が知らないだけで君は素敵だ、 僕は今でも、君を大切に思うよ。 ふたりとも別の道を歩いている。 それが再び交わる事はあるのだろうか。 君はよく、僕に「聞こえる?」と訊いた。 僕は聞こえない振りをして、君の声をもう一度聞く癖が付いた。 その先に君が見せたのは、 「しょうがないなぁ、」 と言って膨れっ面をして、 その後に浮かべるのは無邪気な笑顔だった。 ねえ裕子、 もう一度…… |