村瀬“KEN”健二

〜この一枚なら何でも入ってる〜

ジョージ・ハリスン
『ブレインウォッシュド』

 急逝したジョージの未発表曲をジェフ・リンが中心となってアルバムとして仕上げた、ジョージの「最新作」。ジョージが時間をかけて作り上げたやわらかな音空間に酔える。愛息ダニーも参加。デジ・パックだけだった日本盤と違い、輸入盤はドキュメンタリーDVD付きでステッカー入りなど複数のボックス仕様が出た。写真はそれ。

 まいった。
 CIAだかKGBだかの謀略によって、僕が選ばれてしまった。何に? 無人島で暮らす孤独感の調査だそうだ。そんな馬鹿馬鹿しいデータ採集などお断りだが、相手が悪い。従わなくちゃ殺す、というイキオイなのだ。
 そんな中、娯楽だけは提供してくれるという。といっても、1枚のCDのみだが。何でも、ポータブルCDプレイヤーの中には1枚のCDしか入れちゃいけないという。電池は幾らでも持っていっていいそうだから風呂敷一杯に用意したけど、肝心のCDが思い付かない。
 シオンさんとかどうだろう? いや、都会に戻りたくなってしまうな。戸川純は? 駄目だ、興奮して眠れなくなってしまう。じゃあ僕のルーツのBUCK-TICKはどうだ。うんうん、これはいいぞ。『殺シノ調ベ』なんて何度聴いても飽きないからなぁ。
 いっそ邦楽から離れてみよう。ピンク・フロイドはどうだ? いや、郷愁に誘われてしまう。キング・クリムゾンはどうだろう? こりゃあ次回作が聴きたくなって駄目だな。すっとぼけて、デペッシュ・モードあたりは……飽きるだろうな。ドアーズは? 多分無人島に咲くマジック・マッシュルームの虜になってしまうだろう。じゃあ王道でビートルズはどうだ!……どれを持っていけばいいか判らない。そうなると、やっぱり思い入れの強い一枚に限られるのだろう。
 そうなると、真っ先に思い付いたのは、僕はジョージ・ハリスンだ。けど、『慈愛の輝き』なんかは、本秀康さんのようにリアルで好きだった人に限る。どうしても生まれてきた時代とか思い入れがあるからね。僕は本さんには敵いませんよ、『慈愛』については。
 じゃあ、誰にも敵わないぐらい愛しているアルバムって何だろう?
 即決。僕はジョージの「最新作」である『ブレインウォッシュド』を選ぶ。晩年のジョージが最もジョージらしく、根を詰めてレコーディングした傑作だ。このアルバムを聴いて何度涙したか解らない。今でも、「マルワ・ブルース」なんてジョージが楽しんでギターを弾いているようで涙が出る。唯一、リアル・タイムで体験できたジョージの作品でもある。僕はジョージの目醒めが遅かった。だから新作で聴けたのは唯一、『ブレインウォッシュド』のみとなる。
 それだけに思い入れは深い。先に挙げた「マルワ・ブルース」から、最終曲まで、何度涙しながら聴いたことか。そうなると感情移入用の酒も欲しいなぁ。猿酒を分けてもらうことにするか。魚釣りは自信がないけど、椰子の実を取るぐらいだったら何とかなりそうだ。野生化してくれば魚だって猪だって、無造作にモリで突き刺してるかも知れないけどね。よし決まった。CIAだかKBGには南国の島をリクエストしよう。だって北海の孤島なんて生きるだけで精一杯で、音楽を聴く余裕もないでしょう?
 もしも無人島にギターを持っていけるのなら、教則本も持っていって、長い生活の中でジョージの曲のコード弾きをマスターしたいと思う。それができたらスライド・ギターにチャレンジだ!
 いつまで経っても『殺シノ調ベ』とどっちにしようか迷うけど、こっちに決めた。無人島の生活じゃあ、泣きたいこともあるだろう。笑い過ごしたい日もあるだろう。どんな日にも『ブレインウォッシュド』は合っている。
 何もない島に「エニイ・ロード」を築き、「魚座」を聴きながら魚を釣って、「悠久の輝き」の日暮れを見詰め、「絶体絶命」な猪狩りをする。そして命尽きる時には「ブレインウォッシュド」の最後の詠唱で意識を閉じるのだ。
 助けが来ても来なくてもいい。僕はこのアルバムと共に生きていく。そして死んでいくのだ。

むらせ“けん”けんじ
 当サイトの管理人。プログレをメインとしながらもブリティッシュ・ロックを主に好み、邦楽やクラシックまで聴き漁る音楽オタク。一応フリー音楽ライターでもある。小説家志望。