エンブリオ

〜今夜はキャンプ・ファイアーだ〜

グランド・ファンク・レイルロード
『グランド・ファンク・ツアー75』

  当時セールス的には今一歩だったアルバムだが、初期の荒々しさからアメリカン・バンドへと登りつめ、そしてポップに変化していった彼らの推移が手に取れる。収録曲はバランスよく収められライヴ版ベストといえる。ヘヴィでシンプル、タイトなリズム、エフェクトの薄い原音に近いギターにオルガン、マークの伸びやかなヴォーカル、ドンの荒々しいヴォーカル。輝きを失わないライヴの名盤。キッス、エアロスミスへと進化していくアメリカン・ロックの原型。

 ここは一体どこだ?
 どうやら小さな島らしいが、人は住んでいないようだ。
 まるで神隠しにあったように、それまでの記憶が飛んでいて思い出せない。
 近くに場違いなコンテナを見つけた。
 あまりに小さくて、あやうく見落とすところだった。
 開けてみると、いくつかの野菜の種袋、下着を含めた衣類が少し、鶏2羽、マッチ、クワ、ナイフ、麻紐、「これでサバイバル生活もバッチシ」のムック本、ラジカセなどが入っていた。
 まず、ラジオをかけてみると、雑音ばかりで、ダイヤルを回しても同じだった。
 そして、肝心のテープがないので、何も聴けない。
 おいおい、それよりもまず、食料の確保だろう、と自分にツッコミを入れた。

 これからこの孤島で自給自足の生活が始まる。
 まず、そこいらの木々を集めて寝床を作る。
 小枝に麻紐をつけ、そこらの小さなカニをつかまえ、それをエサにして魚を釣る。
 水分はヤシの実から摂る。
 鶏卵は、漂流してきた鉄板を利用して目玉焼きを作る。
 昼間はいいが、夜が大変だった。虫の大群が皮膚を襲ってくる。
 なんちゃらかんちゃら忙しい時間が過ぎていった。

 ヤシの木にナイフで毎日ひとつづつキズをつけていく。
 あれから1ヶ月が過ぎたことになる。
 今日も朝から陽が照りつけるような暑さだ。
 寝床から1km歩いたところで魚釣りを始めるのは午前中の日課だ。
 何かビニール袋のようなものが砂浜に落ちている。
 昨日はなかったはずだ。
 よく見ると、中に何か入っている。
 カセットテープだ。
『これを聴けば、あなたはハッピーになれます』
 一緒にこの紙片も付け加えられてあった。
 これは俺の筆跡だ。
 思い出した。
 今から30年も前に隅田川に放り投げたものだ。
 そうか、今こうして自分の手元に届いたというのも何かの縁だな。
 LPから90分カセットに入れた『グランド・ファンク・ツアー75』。
「フットストンピン・ミュージック」から始まる。
 わっははははは。今夜はキャンプ・ファイアーをやるぞ。
 鶏も1羽絞めて、鍋だ、鍋!鶏鍋だ!
 野菜の成長は悪いが、問題ではない。

「オー・ワンダフル」では、20歳頃付き合っていた女のことを思い出した。
 一緒にゼップの映画『永遠の詩』を観に行ったな。
「ハートブレイカー」はもちろん1971年7月の後楽園球場で皆なと一緒に唄ったさ。
 この水平線の日の出を見れば、「シャイン・オン」そのものだ。
「ザ・レイルロード」がかかれば、朝の仕事の始まりだ。
 カウベルが鳴れば、昼休みの合図だ。って「アメリカン・バンド」…などなど。

 バン! あっ、ラジカセのスピーカーが音を立てて火を噴いた。
 音量を常にマックスにしていたためか?
 トホホホ。一応、カセットテープは無事だった。

 ある朝、いつもの波音にテンポの早い連続音が加わり、目が覚めた。
 船だ。それも視界に大きく見える。
 叫び声を上がる。「孤独の叫び」以上だ!
 オレの存在に気づいたのだろう、こちらにだんだん近づいてくる。
 当然、唄うね。
「アイム・キャプテン/クローサー・トゥ・ホーム」を!

 ボートに乗った船員がこちらに向かってくる。
「お〜い、大丈夫かぁ〜」と、声をかけてきた。
「申し訳ありません。そのまま戻ってください」
「何を言ってんだ? どうして帰りたくないんだ、我が家へ?」
「このままボートに乗ってしまったら、ここでの暮らしが夢になります…」

 引き上げる船員を静かに見守りながら、カセットテープと30年前のメモをビニール袋に入れて引き潮を待って海に投げた。

えんぶりお
 ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンの大ファンにして、あらゆるブートまで手に入れるファンの鑑。サイト『エンブリオの一杯のラーメン』では、ほぼ毎日食べるラーメンのリポートが軽妙な文章と共に味わえる。別名「老子」。KENを(今はなき)『GOLD WAX』のライターにしてくれた偉大な人。意外と戸川純なども好き。