ツーリング:2010/08/23〜24@渡良瀬〜日光
〜日帰りだけど連日みたいな〜
約1年を経ての、わたらせ渓谷!
やはりツーリングは夏が似合う。バイクで走るさなかに感じまくる、じかに感じる風が吹き抜ける爽快感といったら、勝るものはない。それは夏にこそつよく感じるもので、冬は恨めしいほど寒くてしゃあない。それに寒いと死んでしまう。
「寒さで死んだホームレスは数えきれないが、暑さで死んだホームレスはいない」
とはエッセイが余り面白くない村上龍(わああ、失礼な)にしては至言であるが、今年の暑さはマジで尋常じゃなかった。熱中症で死ぬ100歳以上の老人が消えて年金がっぽがっぽ、という、書いてて矛盾する意味わかんない風潮になっていた。実際の話、部屋の一輪挿しが駄目になるペースが早いのを感じる。
でも、晴れてなきゃツーリングは楽しめない。ひゃっほーと走って風を感じて涼しくなり、赤信号で停車して「ま、まだか……」とじりじり汗を掻く。それが正しいツーリングでしょう。違うか?
なので、テンション高くいきましょう! と思うも……実際には、僕ははじめはそんなに高くなかった。
というのも、僕はプライヴェイトが充実した多忙とエアコンがない部屋で送る猛暑での睡眠不足が続き、ちょっと衰弱してこのサイトもロクに更新できない状態になっていた。そこへきて、警察さんに生涯2度目の交通違反でつかまってしまい、ああシャルロットに傷が付いたあああゴールド免許があああ、という直後。さらには自分の運転に慢心し始めてツーリングのワクテカ感を忘れそうになっていた頃。ぜーんぶ自分の問題なのだけど、純粋な頃に較べるとテンションは高くなかった。こうやってみんな大人の階段をのぼっていくのだね。てかあんたもうおっさんやないけ。
でも、それはそれ。
やはり楽しいものは楽しいのだ。
なので、今回はめっちゃ写真撮りまくり、の長文になりそうなのであしからず。っていう書き出しからいきなり長いでしょ? よーし、断っておいたから存分にいくぞー!
や、走り終わったら急にテンション上がってきたのです(それはそれでどうなんだ)。
やはり今回も、ウッチーと僕のふたり原付ツーリングです(メンバー募集中!
← ほんまか?)。
当初は込み合う交通状況を考えて朝5時集合、そんであっちに着いてゆっくり回って一泊してゆっくり帰ろう、というプランだったのだけど、前日のウッチーとの打ち合わせで「そりゃ無理だよ」ということになって、んじゃま8時に集合しますか、いや8時半にしよう、という感じに落ち着いて、ゆっくり落ち合うことができた。けれども僕は暑い暑いエアコンなしの部屋ゆえに睡眠不足が解消されないままだった。
集合場所は、ふたりとも(特に僕)お世話になりまくっている近くのショッピング・モール。ここは24時間営業のスーパーもあるので、そこでさっくり朝食やドリンクを調達してから行きましょう、ということなのです。
僕が到着すると、後ろから久し振りに聞く、空冷にさえ聞こえてしまうほど軽快な水冷エンジンの「パパパパパ」という音。おお、まるでからっぽゆえに響きまくる蝉の胴体のようにいい音をしている(失礼)。やはりウッチーのアプリリアだった。ほぼツーリング用のため眠っていたので前日までメンテして、すっかり往年のええ音を鳴らしている。

ついうっかり、「アプリリア」と呼んでいたのだけど、ウッチーによるとそれは会社の名前であって、ビーノでいえば「ヤマハ」と呼んでいるようなものだそう。だから本当は「RS50」だそーだ。これからなるべく気を付けてそう呼ぶことにしよう。
「おまえ、それツーリングの恰好じゃねえよ」
ウッチーの開口一番が、それだった。僕はブーツにデザイン系シャツ、それからハットに赤縁のおしゃれ眼鏡という専門学生崩れのようなスタイル。むー、たしかに「ツーリング」ではないかも。唯一ウェスト・バッグだけが「それらしい」。や、でも、日の高いうちにさくっとあっちに行ってさくっと泊まって、また日が昇ったらさくっと帰ってくる予定なので、めっさ軽装だったのだ。ウッチーも「着替えとタオルぐらいあればいいんじゃね?」と言っていたので。この時点でツーリングをナメてますね。
「や、ゴテゴテしたいかにもな感じより、シャル子(ウッチー命名)に似合ったスタイリッシュなツーリングという感じでさ」
「阿呆か」
まぁそんな感じで落ち合い、ウッチーのアプリリア、もといRS50のオイルをホームセンターで調達補給したりして、ゆるりと旅は始まった。
ひとまず一番近い「道の駅 庄和」に寄り、英気を養う。

「やっぱりおまえ、ツーリングの恰好じゃねえな」
僕は改めてそう言われ、漫画家の喜国雅彦がスキー旅行にロック丸出しなスタイルで登場して周囲を呆れさせたことを思い出した。そういう人なんです、きっと。勘違いした中原中也みたいな恰好だと思ったよ自分で。
でもふたりとも先日購入したアーム・カヴァーをして、ついでに僕は日焼け止めを顔から首にかけて塗って、日焼け対策はバッチリ。男が日焼けを気にするなんて、と思われるかもですが、中途半端な日焼けほど情けないものはないんですよ。昨年の筑波山のあとにそう思いましたよ。グローブだけはしっかりしていたので、「お? ゴルフ焼け?」とさんざ言われてうんざりしてました。おれゴルフなんてやったことねえっつうの。
「現地まで目算どのぐらいだい?」
「うーん、バイク屋のオヤジに聞いたら、3時間あれば行けるんじゃないかって言われたぜ」
そんな会話をしつつ、またゆるやかに再出発。
そのまま国道4号に乗り、軽く走って、この先はしばらくないから、とのことでコンビニ休憩。暑さのためあっという間になくなったドリンク補充や軽食、そしてアイスなどを買って一服する。


ここで買った、60円のメロンバーがめっさうまかった。クリーム・ソーダ風味で、カッチカチでもないのでおいしくいただける。なのに成分にはメロンのメの字もないという不思議。ま、よくあることですけど。
たしかにそのあと、しばらくコンビニなどの休める場所はなかった。次に寄れたのは「道の駅 思川(おもいがわ)」。もうすでに栃木である。そこにはツーリング同好会的な方々が集まり、やはり小休止していた。

「ウチら、めっちゃ浮いてるね」
「おまえが浮いてるんだよ」
「あ、僕だけスクーターだから?」
「ちげえよ、おまえの恰好だよ」
と、またも恰好を指摘され、ややトホホな気分になる。やはりみんな、タンクトップやらツーリング用の上着やらジーンズやら、いかにもツーリング、な中において僕はたしかに浮いている。「ヤマダ電機の帰りに道の駅に寄った変な奴みたいだぞ」とウッチーに言われました。なぜにヤマダ。でも何となくわかる。
そこからは、ひたすら国道4号を直進。んで122号に入って、やはり道の駅で休憩する。

ここは「道の駅 くろほね・やまびこ」といい、入口の表示は「くろほね」だけだけど、「やまびこ」という名の食堂があった。
ふきのとうだとか山椒だとか、変わったアイスが売っていた。


ま、食わんかったけどね。
そこで一服していたら見事なまでにお似合いなカップルがふらふらしていて、「似た者同士が付き合うって本当なんかなー」と思っていたら、その女子にそっくりなご婦人が現れ、あら彼らは家族だったのね、とひとり勘違い絵巻をひそかに展開した(どうだっていいことですが)。
走りを再開し、やがて国道一直線でやや退屈だった道も、いつしか山道になってきた。
や、実はね、僕ちょいと睡眠不足も走り慣れもあって、真っ直線のコースではやや意識が飛びそうになってました。目がしぱしぱして意識がうつらうつらして(あぶねえなあ)バイクで走ってる実感がちょいと薄かった。
でも山道になると、集中して運転せにゃ危ないので意識も戻ります。なのでようやくちゃんと運転していたら、急にウッチーが停車、引き返し、道あいの小さなスペースに導いた。
「ただ走ってばっかじゃ、つまんないだろ?」
と、景色を眺めつつの小休憩。
おお、粋なはからいというか、気が利いているというか。それとも自分自身も少し飽きていたのか?

しかしこのウッチーのはからいのおかげで、僕は自分が今度は運転に集中してばかりで、まわりの風景を楽しんでさえいなかったことに気付かされた。そもさん、「ツーリング」なのだから、旅っつーか風景なくしてなんですか。ただ走るだけならいつでもできる。ましてや移動手段や運搬手段の面がつよい自動車でなく積載さえままならないバイク。遊びがなくて何の人生ですか。レールの敷かれた人生なんて。エスカレーター式の慶応大学のおぼっちゃんじゃなくてよかった。そこに入る金も学力もありませんでしたが。
なんてことをぼんやり考えると、まぁイキナリ風景がキレーに見えること思えること。や、じっさい綺麗だったんだけどさ。
ああ緑。ああ空気。そしてシャルロット、君よ。僕はいきなり詩人の心情に戻って走りを満喫しはじめた。これだね、ツーリングって!
しかるのち「草木ダム」の展望台に到着。

もー、ダムだっつーのに眺めがいいんである。これこそウッチーに旅情を取り戻してもらったおかげか。

「うん、道の途中に湖があるって記憶してたんだよ」
「いや君、ここ湖ちゃうで。ダムやがな」
「いいんだよ、俺が湖だって言ったら水たまりも湖なんだ」
「そんなもんでっか」
なあんて会話をしつつ(やや誇張)、なんてことないダムなのにやたら感慨に耽る。
そして階段の下にあった、車はここを左に走ってね標識がやたら気になる。

こういう看板や標識はいたずらされるのが常だけど、なぜ「パルコ」のシールが2枚も貼られているのだ。回し者か?
なんてどうでもいいことも気付けてしまったのは、ウッチーに旅情を取り戻してもらったからだ。
「つーか、ここどこ?」
「県で言えば群馬じゃねえかな」
「え、渡良瀬って栃木ちゃうのん?」
「ここは途中っつうか、うねうね行って渡良瀬に行くわけで……あー、もう、いいんだよ!」
そうだったのか。まっすぐカクカク行けるものじゃないんだ。と思って自分の思考がやや直線的であったことを恥じる。
そんなうちにまた栃木に入って、この先はほんとにないぞ、という「道の駅」、つーか休憩所に寄る。

「(例によって)ここはどこ? いつになったら渡良瀬に着くの?」
「は? もうここは渡良瀬だぞ」
「え! え? そ、そうなん?」
うーむ、自分の地理感のなさに我ながら呆れてしまう。
「じゃあ、わたらせ渓谷って? ずっと前に行った龍王峡みたいにごっつごつしたところとか通るんじゃないの?」
「阿呆か。バイクでそんなとこ行けるか? 今まで川とかそういうのがあっただろ」
「うーむ、言われてみれば……」
風景を眺める余裕が取り戻されたのでそれらは認識していたけど、実感はなかったのだな。
「とりあえずさ、この先何もないんだったら、ここで食事しようよ」
「そうだな。朝にパン食ったぐらいだしな」
そう、我々は猛暑ゆえ水分は厭になるほど補給していたけど、メシはほっとんど食べていなかった。実は途中で佐野を通過したので、そこでおいしい佐野ラーメンを食べようという話になっていたのだけど、ライダーのためのガイド付きマップルにおいしいと評判と書いてある店が見付からなかったり、そこで食べようと思っていたためスルーしていたり、極めつけはちょっと遠回りした店が定休日だったりで、まったくメシにありつけなかったのだ。かといって旅によくあること、テキトーな食事でお茶を濁すような無粋な真似はしたくなかったのだ。喩えば旅先でマックや牛丼を食べるような。ワガママっちゃワガママですし自業自得ですけど。でもじっさい、ふたりともそんなに腹は減らなかった。
なので迷わずここで食事。もう半ば仕方ない感がつよいので、大きな期待はせずに食券を買う。それをカウンターに置いて席に着いたら、おばちゃんが「ここはね、食券を買った時点で厨房に注文がいってるの。だからテーブルで待ってて、番号で呼ぶことになってるのよ」と食券を我々のテーブルに戻してくれた。ああたしかにカウンター下に「てめー食券はここに持ってくるんじゃねーぞ」的なことが書かれている。いやだってほら、一般的な感覚がね。やはり我々はそういう環境で育っているからね。と言い訳。してないけど。

無類のラーメン好きのウッチー(写真は反転じゃなくて彼は左利き)は迷うことなく「翡翠ラーメン」を注文。なぜにヒスイかというと、麺が翡翠色、つまり緑なのですよ。だからどうしたという話ですが、調べてみるとほうれん草を練り込んであるそう。
スープを口にしたウッチーが、ぼそりと「……うまい」とつぶやく。え、ラーメンにうるさいウッチーが? と思いつつ、少し飲ませてもらうと、たしかにフツーなのにフツーにうまい。それはひょっとして腹が減っているからかもだけど、ドライブインなどのラーメン類はそれをブチ壊しにするぐらいまずいのが定番だ。
なのにこいつは、たしかにうまい。たしかに、フツーにうまい。びっくりだ。
期待したウッチーが翡翠麺を食べると……なぜか無言。
「どした? 肝心の麺は」
「つーか、味しねえ」
なななんと、名前のもとになっている目玉の翡翠色の麺は、フツーよりフツーである。ちょっとおすそわけしてもらったら、うーむ、たしかにフツー。これこそフツー。ほうれん草練り込み云々はあとでわかったのだけど、この時点ではさっぱりだった。でも、じっさいうまかったよ。650円でした。

5個で250円という安さゆえ、ふたりとも注文したのがこの揚げ餃子。そりゃ栃木ですからねー。それにお値段的にもいいじゃないですか。
先に僕が、タレを使わずにそのまま食べてみる(これを僕は餃子でよくやるのだ)と、あらまぁ、素材の味がよく出ている! アンがいい感じに練られているうえ、ぱりっぱりの皮もまたいい。さっすが栃木。馬鹿にしてごめんねごめんね〜、と反省する(や、馬鹿にしちゃいないけど)。そしてかつて仲の良かった栃木出身の大学同級生を思い、「マリコちゃん(仮名)元気かなあ」などと思い馳せる。
ウッチーも「昨日の夜に食ったラーメン屋の餃子よりうまい」とコメント。よかった、途中やたらあった山岡家で食を濁さなくて(失礼な言い分だな、それ)。

で、僕はこのソースカツ丼を注文。というのも、ここまで来る途中にやたらソースカツだソースカツだいう看板なり張り紙なりのぼりなりを見て、「そういやこのへんはソースカツも有名なんだっけ?」とぼんやり思っていたからだ。あと、同行者と同じものを注文するのも芸がないなあ、と思って。
しかしこれがまぁよくあることですが、サンプルではどーんとごはん上を埋めていたカツが写真のような状態。ごはんもソースで味が染みているようなサンプルに対してキャベツどっちゃりで白米そのまま。ま、愛嬌愛嬌。それでも充分多かったし。
食べてみると、こちらはまぁ、いろんな意味で期待通り。味が濃くてうまいんだけど「まぁこんなもんだろう」感がつよい。それはあれだ、翡翠ラーメンが予想以上にうまかったからだ。残念ではないけれど、まぁ妥当かな、と。750円だからいいんじゃないの、と。
もったいないのでふたりとも残さずペロリ。つーか食の細いウッチーの残りを僕がいただいたという貧乏臭いありさま。すまん、作ってくれた人に悪くてなるべくぜんぶ食べたい人なんだ。と善人ぶっておこう。
食事中に「蛍の光」が流れ始め、あやや閉店じゃないですか、と慌てると、支配人っぽい男性が「あ、ゆっくり食べて結構ですよ」と言ってくださる。すまねえすまねえ。どうやら道の駅系は午後5時を基準に閉まるらしい。一気におなかいっぱいになってしまった。

それから食事後、ようやっと、そこからの景色を楽しむ。やはり色気より食い気ってやつですか。一服しつつ写真撮影などする。
しかしここは恐ろしいほど蚊が多く、シャツの上からも刺される始末。むー、さすが自然。The
自然。
だがもっと恐ろしかったのは、ここでのウッチーの発言だ。
「ていうか……5時になっちゃ、もう飛び込みでもどこにも泊まれないよな」
え。
「どこもチェック・インとかは3時ぐらいだろうし、観光案内所も5時じゃ終わるだろ」
え。え。
「あとはこのまま引き返して帰るか、もっと先に行っちまうか……」
え。え。え。
「でもこの先行くと、もう日光なんだよな。引き返せなくなるぜ」
それならば、腹は決まった。
「行こうか、日光。行こうか、いろは坂」
「おいおい、いろは坂は原付進入禁止だぜ(後日談:ほんとは行けるそうです)」
「え? そうなん?」
「それにおまえ、ずーっと前にいろは坂のバスの中で吐いたからなぁ。ひゃはは」
「バイク運転しながら吐かないっつうの!」
「まあいい。とりあえず、行っちまうか、日光へ」
「よーいやさー!」
そんなわけで、僕らは泊まるところも休むところも余りない、日光にまで行ってしまうことに決めてしまったのである。
若さゆえの果敢な冒険、などと言ってはいけない。ふたりとも、もう若くないのだから(情)。
日光へは、またひたすら山道を走る。走破するしかない。しかし山道なので車幅が狭く、何度もウッチーが左に寄るよう誘導してくれて、後続車を前に行かせる。ううむ、遅い身としてはそういうふうに自分からしなきゃいけないのだな、と学習する。
だけれども、8月だというのに、寒い。肌寒いぐらいじゃあるのだけど、さすが山道。走っているうちに耐えられず、停車してシャツを重ね着し、日よけのためだったはずのアーム・カヴァーを防寒として装着し直す。ウッチーも「懸命な判断だな」とシャツの袖を下ろす。
不安と疲れとでヘトヘトになり、やがて暗くなってきた頃にウッチーのアプリリア、もといRS50が燃料なくなる寸前。どうにかスタンドに辿り着き、補給が間に合った。彼のバイクは排気量こそ原付だけど、ガソリンは8リッター入る。けれども輸入車によくあるように燃費がよくないうえスクーターのように燃料メーターもないので、すぐに補給しなければならないのだ。いざガス欠になったら、「石油チュルチュル([C]ドクター中松)」もないので、僕のシャル子から移すこともできない。なので、危ないところだった。その恐怖感が否が応でも伝わってしまったので、ついでに僕も補給しておく。
もうすっかり暗くなり、あわよくば24時間営業で仮眠などできないものか、と温泉施設「やしおの湯」に飛び込む。ウッチーは3度目だそうだ。君は何だかんだ言って来ているねえ。なのにぶるぶる震えているのはなぜなんだ。学習しないのか? きっと僕もそういうタチだけど。つーかウッチーがいないとここまで来れなかっただろうけれども。
そして無情にも、営業は午後9時までだった。
しかも日光市民は300円だけど、一般は500円という「おめー、なんて排他的なシステムなんだよ」と思ってしまう料金体系。くそうと思いつつも温泉で500円なら安いじゃないか。というわけで入浴。行くか日光と言いつつもグロッキーだったウッチーもだいぶ回復する。まさに、温泉にうううと浸かったおっさんがよく言うように「生き返」った。
あがってから外の喫煙所で一服していると、出てきたカップルが相撲の話をしていて、男性が「あぶみ」について説明し、女性がそれを実演するという妙な場面に出くわした。うーむ、日光は奥が深い。「ライター貸してもらえますか?」と頼んできた青年もいた。んで戻って横になると、僕の方こそ軽く眠ってしまった。
そんで閉店(閉館?)時間が迫ってきたので、仕方なく「近くにファミレス、サイゼリヤがあったはず」というウッチーに従って外へ出る。同時に出たおばちゃんが「どこから来たの? どこ行くの?」と田舎の人の純朴さで話しかけてきてくれる。
何でも話によると、この温泉は市の施設だから9時に終わってしまうそう。なるほど、道理で市民は安くなるのか、と疎外感を克服。いいことじゃないですか。
「このへんは田舎だからねえ。何もないよ。この時間になるとどこも閉まっちゃうし。面白くないよ」
そ、そんなこと言っていいのかおばちゃん。仮にも観光地だぞ。名所だぞ。
そこからウッチーの記憶を頼りにファミレスへ。いかにも観光地の街道みたいなところをひた走ったのだけど、寒い寒い寒い! 8月だぜ? 真夏だぜ? なのに何これ。まるで秋口じゃないスか。バイク走行中の体感温度は気温1度で3度ぐらいに感じるとウッチーが言っていたことがある。ということは10度近く低いこの環境は、30度ぐらい低く感じるってことですか? さすがにそりゃないだろうけど、寒かったのは事実だ。
ようやくファミレスに到着。ウッチーの記憶によるとサイゼリヤじゃないかと言っていたそこはガストだった。なぜか今月、僕はこれで3回もガストに行っている。なぜそんなに行っているかは秘密だ。
「ごめんな、サイゼリヤじゃなくて」
「や、別にファミレスにこだわってるわけじゃないし、この場合は何であろうと関係ないっしょ」
というわけで入店。意外とがっついて食べ、さあ仮眠するか? という段になったものの、ウッチーは「そういう非常識な、俺が嫌ってきた連中と同じことはしたくない」と急に方向転換。おいおい、せやったらどないするのん、と言っていると、

やはりウッチーは疲れていたようで、このように何度も沈む。
でも彼は公の場で私の都合を持ち出すことができず、何度か落ちただけでまるで眠れず、逆に僕が1時間ぐらい仮眠できてしまった。さっきの温泉といい、思ったより僕は図々しいところがある。僕らしかいないガラガラの店内を気にしてウッチーは「満杯だったら逆に気兼ねなく寝られたかもな」と言っていた。うん、わかるそれ。闇に紛れて生きる俺たちゃ妖怪人間ベムベラベロ的な。
で、最近のファミレスはそういう仮眠野郎や朝まで騒ぐ青少年の対策も兼ね(もちろん深夜は儲からないという営利的な面もあるのでしょうけど)、午前2時ぐらいで営業が終わる。なので、それより早く店を出る。会計を済ますと、レジの女の娘が「お気を付けてお帰りください」と言ってくれた。ツーリング中の仮眠ということがばれていたようだ。
そうそう、興味深く思ったことがひとつ。こんな非日常なツーリングなのに、ファミレスみたいな日常的空間に来ると、会話も日常レヴェルになってしまうのね。やっぱ空間って大切、空間こそ雰囲気なのだわ、と思いました。旅館とかテントで寝ていたら日常どっぷりなお話などしなかったかもだ、きっと。
「よし、もうここからは先がないし、道が込まないうちに帰ろう」
とのウッチーの提案というか導きにより、僕らは帰途に就くことになる。何せこの時点で180kmも(休憩も余りないまま)走っている。そこへきて宿の見込みはなく、ふらふらしても込んで帰れなくなるだけだ。
だが行きに来た道を戻るのではなく、もっと近い、直帰できる道をひた走ることにした。うねうねした見どころもある山道ではないので、目算でも3〜4時間で帰れる。つーか片道3時間で行けるなんて言ったのは誰なんだ、と思ってみればウッチーではなく彼がバイク屋のマスターに聞いた話だった。高速を使った自動車での概算じゃないのか? というのが僕らの見地である。
で、気つけのために携帯していた「エスタロンモカ」というカフェインの錠剤を服み、何とか頭をすっきりさせようと試みる。僕よりずっとグロッキーなウッチーにも分け与える。携帯しておいてよかったわぁ。でも僕は持病の頭痛というか最近やたら夜になると左眼が痛くなるので、そのための痛み止めも服む。旅にお薬は必須だと痛感しました。
でも、僕はここのとこ走行中はMP3プレイヤーのおかげで音楽を聴きながら走れるのだけど、そこで始まったのはミッシェル・ガン・エレファントの「世界の終わり」だった……不吉。
それにしてもやはり、寒い。
途中で寄ったコンビニの駐車場にて、僕は思い付きで雨ガッパを着ることにした。ツール・バッグに常に入れてあり、それを着ればいくらかは寒さがしのげるんじゃないかと思ったのだ。じっさい寒く感じるのは気温よりも走っている風の体感温度の面が大きいのだし。
なのでカッパを着て、寒さ対策&がっさがさしないようにパンツ・インしたら、妙ちきりんな状態になった。

「ずっと昔のジャニーズのステージ衣装みたいだ」
とはウッチーの弁。ああ、それって何歳になっても少年隊の「仮面舞踏会」じゃね? と言ってみてふたりとも納得。もはや恰好なんて気にしてられません。してたら死んでまうやろ! 死なせねーよ! もはや意味わからなくなっている。
それで走ってみると、まるで体感温度が違う。やはり風なのだ。しかも道は「日光街道」。林の中をただまっすぐにひた走るのみ。そりゃ寒いっすわ。そのうえ林で時間も時間なので、朝露が樹木からしたたってきて、すわ雨か、とびびってしまう。ましてや伴走するのは伝説の雨男、ウッチーなのだから。途中の交差点で「俺、以前ここでゲリラ豪雨に遭ってさぁ」なんていう思い出を語れる人なのだ。きゃー、である。当日の出発前にも「予報ではゲリラ豪雨の恐れあり」というメールを送ってきていたのだから。
でも、さいわい、雨は降らなかった。
やたら電飾ぴかぴかな「それ系」ホテルが目立つ。5、6軒はあっただろうか。休憩3,000円、宿泊4,000円。そっかー、ワリカンすればひとり2,000円かぁ。いっそそれでもいいや……でも男同士だと泊めてくれないんだろうなぁ。女同士だと泊めてくれるって聞いたことあるけど。なんて考えていたら停車してウッチーが道端に吐いたりした。男ふたりでラブホに泊まることを想像して気持悪くなったのか?(まさか) 分け与えたモカも出てしまったようだ。
MP3プレイヤーは「太陽をつかんでしまった」を流している。太陽どころか「月はどっちに出ている」状態な午前3時。説明書ではこのプレイヤーは6時間充電でスピーカー再生では6時間再生だったけど、もう10時間以上経ってるぞ。前日に1時間充電しただけなのに。そのおかげで揺らいでいる意識が飛ばずに済んでいたのですけれども。
しかし、日光街道からようやく国道4号に入ると、その意識が揺らぐ揺らぐ。
何せ、ひたすら一直線ですから。それも信号停止もほっとんどなし。ようよう見慣れた「春日部」の表示を見て安心したものの、「73km」……と、遠い。
よく車で言われることだけど、安定した運転だと眠くなるというのが実感できました。何せおれ、一瞬、運転中に寝ちまったもの。ほんと一瞬ですけど。何度もうつらうつらして、まぶたが重くなって、気が付くと一瞬だけ意識が飛んでいた。あっぶねえなあ、マジで。なぜならプレイヤーが音量マックスで再生しても聴こえないぐらいの走行ノイズで、口ずさめるたぐいの曲ではない(いまいち歌詞を憶えていない、など)のが続き、やっとそういう曲のコーナー(THE
SPACE COWBOYS ← ごめんなさい、めっちゃB級だけど好きなんだ)が始まったと思ったら、とうとう充電が切れて再生が止まってしまったのだよ。
これはまずい、ということで、ウッチーを一時的に追い抜き、コンビニに誘導。じっさいものすげえ尿意ももよおしていたので、それを口実に。
「あと春日部まで20何キロだから、一気に行けるかと思ったんだけどな」
と言いつつ、ウッチーもトイレとコーヒーと一服。僕はカレーパンも食す。だってほら、越冬隊とか遭難者が寒いなか、食べてないとよけいに眠くなるって聞いたことあるし。現に走りながら僕は何度も「パトラッシュ……なんだかすごく眠いんだ……」「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」という自問自答を繰り返していたので。つーかバイクの走行中に寝たら車以上に軽く死ねますから。当然だけど。もう何回脳裏に悲劇的展開を思い浮かべたかわかりません。
でも、そこからは気温も上がっていたし、カッパも脱いでマッハです。そのまま春日部まで行くこともなく、いつしか初ツーリングで行った「関宿城博物館」の表示を見付け、赤信号停車で僕が「関宿城の表示があったよ」と言うとウッチーは黙ってうなずき、その方向へ道を曲がる。おお、ひょっとして最初からその方面から帰るように想定していたのか?
そうなったらもう、お手のものです。めっさ見知った道ですからね。
もうなんにも迷うことも心配することも眠くなることもなく、ふたりして順調な帰途に。途中の赤信号停車のたびに「このあとウチ寄る?」「まっすぐ帰る」だとか、「だけど実家に帰っても鍵がなくて入れないんだよな。この時間、家族は起きてないだろうし」「じゃあまた風呂屋にでも行ってからだを温めて時間潰す?」だとか、「やっぱおまえん家に寄るわ」なんてやりとりをしてた。つまり3回は赤信号停車したわけですね。
で、帰ってきました。
んもう、そのあたり、順調に。
時間的に、朝の5時半。出発が前日の朝9時だから、所要時間20時間30分。そのうち休憩や遊んだ時間を差っ引けば、ざっと概算15時間ほど走りっ放し。実に走行距離300km以上。
どはー、である。
エンジンを切ったら、冗談にもならないほどエンジンまわりが熱気を帯びていた。
「お疲れ様」
僕とウッチーは互いにそう言い合い、また愛車にもその言葉を投げた。
「このへんで、こんなにいろんなとこ行ってるビーノはないと思うよ」
「そうだな。次はどこ行こうか?」
「千葉、埼玉、東京、茨城、栃木と行ったから、あとは……」
「今日は群馬も通ったぞ」
「あ、じゃあ関東じゃあとは神奈川だけか」
「神奈川はつらいぞ」
「うん。でも、行けそうな気がするー」
もはや、当初3時間でさくっと行って、さくっと泊まって、ゆっくりリサイクル店めぐりなどしながら帰ってくるというプランとは完全に外れてしまったけど、それも旅の楽しさである。もうなんとも言えない満足感に浸りまくりながら、早くも次のステップを考えていた。
「また走ろうな」
「うん。ぜひともよろしく」
僕らは軽く、手を合わせた。
「気持悪っ」
ウッチーが笑いながら手をのけた。
まぁそんな特攻ツーリングだったのだけれど、そのためにお土産を買って帰ることもできなかった。
せめて買えたのは、途中に寄った「道の駅 思川」で10分ほど悩んだ末に買ってしまった和風猫Tシャツ1着である。


口と袖の裾が和風になっていてデザイン的にも「おおっ」だったのが、決め手となったのは表の猫の編み込み模様である。全体のデザインで60%購入を決め、残りの40%は猫の編み込みで補って購入決定に至った。黒と白があったのだけど、白は展示品しかないうえいろんな人に触られて汚れまくっていたので、結局黒を選んだ。白の方がデザイン的にもしゅっとしている感じがしたけど、実際的な話、じかに着るとおいら色素の濃い(かといって遊んでるわけじゃないぞ)ティクビが浮くんですよ。まー恥ずかしい。なので黒が無難かな、と。1,980円で、わんこデザインもあったけど一刹那も迷うことなくにゃんこデザインを選びました。猫馬鹿としてトーゼンだわな。
そんなわけで知人友人家族あれな人、にはいっさいお土産が買えなくてすまなかったのだけど、それ以上に旅っては自分のものですからね。あと一緒に行った人との間に残るものだからね。だからみんな旅が好きで、旅の話をするのが好きで、それを聞くのが楽しいんだと思う。非日常へのトリップを体験/疑似体験できるから。見地や経験とか以前に。
ウッチーが何度か訊いてきた言葉がある。
「これは日常なのか? 非日常なのか?」
いやいや。
それが同居するのが、旅なのですよ。
そしてツーリングなのですよ。
というわけで僕は、へっとへとになりながらも、旅のなんたるかを自分なりに学んだ気がする。ウッチーの導きによってまたいろいろ(狭い道では後続車に道を譲る、とか)学んだし、ツーリングするごとに成長している気がする。つーか成長て今さらですが。
どうせ冬になれば野垂れ死ぬだけのキリギリス(DER
ZIBET)。
今日はどこ行こ(SION)。
さあ君も、自分の中の旅に出よう(再びDER
ZIBET)。
そして未来世紀で恋をしよう(THE SPACE COWBOYS)。
大丈夫、ここにいるよ(秘密サークル タイガー☆マシーン)。
さあ、人生を楽しめ、俺!