10年振りのバイク乗り
〜よみがえる感覚〜
シャルロットは、数日後の2009年2月11日の大安に納車された。早い仕事だった。僕は仕事の休みをズラして「彼女」を迎えた。
バイクを恋人だと思ってしまうのは、初めてだった。と同時に、それが理解できるような気がした。お下がりではない、中古でもない、純潔の清女。その薄い頑丈な膜を、僕は破ることになった。
はっきり言って、ひと目惚れだった。衝動買いにも等しかった。だけど、僕は彼女を愛することを誓った。といっても僕は仏教徒なので、仏壇の前で「事故りませんように」と正座して線香をあげるぐらいしかできなかったが。
納車されてすぐに、僕はそのまぁるいフォルムにウットリした。

「やっぱり可愛い」
というのが、まず最初の感想だった。恋した相手が思い通りだったことに快哉を打ったのだ。思わず僕は丸みを帯びたボディを撫でていた。
「10年振りのバイクだ。大丈夫だろうか?」
そう思いながら、良心的なバイク屋がサーヴィスしてくれたチェーン・ロックをメットインにしまい、同じく頂戴したゴーグル付きのヘルメットを被って、彼女にまたがる。


ブレーキを引きながら、セル・ボタンを押す。
キュルルルン、
原付特有の、軽快なエンジン音が響いた。これだ、と僕は口を開いてセルから親指を離した。感覚がよみがえってくる。念のためウィンカーを左右ともに点灯してみる。カッチ、カッチ、とやけに大きい音で反応する。ブレーキを引いたままアクセルを回す。
ドゥルルルン、
幼いながらも立派な、一人前のエンジン音がした。もう大丈夫、僕はブレーキを離して走り始めた。
まずは家の隣りにある中学校の周りを一周してくることにした。時間的に人通りも車も少なく、左折ばかりなので簡単な道だ。キュルルン、軽快な音を立ててシャルロットは走り出した。4ストということで出だしの加速こそ以前のセピアより遅い気がするが、安定した走行と燃費のよさを見せる。中学校を一周して戻ってきた頃には、僕はすっかり10年前の感覚を取り戻していた。
いける、
僕は思ったより重量感のあるボディを押して、再び走り出した。任意保険の手続きも済ませていないというのに、走りたくて仕方がない。車道へ、県道へ、そして国道へと僕は走行範囲を広げていった。
隣り町の古本屋で一服した。何て清々しいんだろう! 僕は煙草の味が全身に染みるのが解った。寄寓にも、僕の愛飲する煙草「わかば」と、シャルロットは似た色をしていた。

運命だったのかも知れない。
思い付きで立ち寄った店で、衝動的に買ったバイクが、それしかカラーがなかったというのに同じ色をしているということ。フィットするような乗り心地のよさ。納車日に国道まで出られてしまう勇気。すべて、シャルロットがもたらしたものだ。
僕は昂ぶる気持を抑えきれずに、詩をしたためたりもした。それほどに入れ込んでいた。
今日からまたバイク乗りだ。