抗鬱日誌

〜すっかり治って〜

 統合失調症も、もはや治った。
 という自己判断をして、医者に行かなくなり、殆ど薬を服まなくなった。
 本当は自己判断はよろしくないのだろうけど、自分の躰のことは自分が一番よく解る、とは言ったものだ。毎日働くようになり、生活のリズムも安定し、そのうえで文章を書いたり本を読んだり音楽を聴いたりと、プライヴェイトも充実している。その充実感が、僕に「もういいだろ」と投げかけたのだ。
 現に毎食後の投薬をやめて数ヶ月経つが、まったく変化がないどころか、逆に調子がいい。
 ようやく僕は、病人ではなくなったのだ。
 まだ不眠症は治りきっておらず、たまに睡眠導入剤を服むこともあるけど、それも少ない。何十錠も残っているのでこれが切れたら病院に行けばいい。少なくとも、手帳を持つことはもうないだろう。
 ここまで回復したのには、一時期、ほぼ完全に仕事を断って治療に専念したからだ。これが働きながらではこうも早くは治らなかっただろう。実家に戻ったのは正解だった。それでも足掻いて仕事をしようとしたが、どれも合わずすぐ駄目になって、より精神に負担をかけることになっていた。そこでパタッとやめてからは、みるみる調子がよくなってきた。プレッシャーを背負うことがなくなり、生活費を得なくてはならないという状況からも脱したので、親にすがってしまったのではあるが、結果的に、復調に繋がった。そうしてまた仕事を(それも義務感で嫌々働くのではなく、自分に合った仕事を)続けられるようになり、もはや「普通」に戻った。
 僕が声を大にして言いたいのは、前述のように「できることなら完全に休んで回復させること」だ。
 頑張り過ぎてしまったから、精神の病になってしまったのだ。だから治すには、頑張ることをやめるのが一番手っ取り早い。
 そう思えば、デイ・ケアなんて自分が病人であることを認識させられる辛い集まりだったし、医者が禁酒を勧めるのはいかにも事務的な感じがした。それで医者は、治ったとは言わないで投薬を続けるように言った。だけど、もう病人じゃないのに病人扱いされるというのは、酷く苦しいものだ。酒に酔って動作が緩慢になっているのも「精神病者によくあることだ」と言われ、慣れた新宿に出るのも危ないと言われ、みんなが僕を「病人」として扱った。それは別格視して間に壁を作るのと同じ行為だ。なおのこと、精神病者は「狂人」と同じ扱いを受ける。自分はもうマトモだと思っているのに、やっぱりおまえまだ狂ってるよ、と言われるも同然のことなのだ。それは当人の自信と現実感を失くさせる。
 だから、以前書いたように、精神病者は特別扱いをすることなく、「普通に」接してほしい。そうでなければ、相手も当人も特別扱いをして、させて、悪循環になる。それこそ傷を舐め合っているデイ・ケア・ヒッキー状態だ。それでは回復しない。少なくとも数年では。
 また、当人も意識すべきだと思う。狂人扱いを受けていることを自覚し、嫌だから無理に治そうと足掻くのではなく、寧ろ舌打ちしながらそれを認めて、俺は狂ってるからしょうがない、と開き直るぐらいに。それぐらいの図々しさがなくては、繊細な神経のままでは治らない。無論、神経過敏だからこそなる病気なのだが、いつまでも敏感なままでいては病「気」に負けてしまう。森田療法もあながち間違いじゃない。
 精神の病は、気の病。
 強い気を持てるようになれば、自然と回復する。
 大切なのは、精神論的だけど、楽しみや生き甲斐、目標を持つこと。そうでなくては、いつまでも現状を打破することはできない。あと、ささやかなポジティヴな気持。もうどん底まで落ちたんだから、あとは上がっていくだけだ、と考えよう。過剰にポジティヴ気取ってはいけない。アクセルが空回りするだけだ。
 そんなことを言われても、急にポジティヴになれないのはよくわかる。だから、ゆっくりやっていけばいい。車やバイクは最初からトップ・スピードは出せない。徐々にスピードを上げていくものだ。
 それには理解ある相性のいい医者を選び、くだらない自分でも許容してくれる家族や親友を大切にし、何より自分自身を愛すること。
 誰かの小説じゃないけど、自分を愛することのできない人は、誰かを愛することはできない。その逆も然りだ。誰かに大切にされていると実感することで、相手を大切に思うことができる。そうしてそこに安定を見る。変に気を遣われるのは、その実本当は愛されていない証拠だ。
 こういうことを考えられるようになったのは、
 実際、病気になったお陰だとも思う。

 さぁ、これで、このコーナーはおしまいとしましょう。
 治りかけの一時は、ネタがあれば何か書き続けようと思ったけど、病人を慰めても何も生まれない。喩えば癌患者が奇跡的に回復するのだって、結局は周囲の気遣いではなく、当人の意志の強さが成し得ることなのだから。

 それでは、皆さん、お元気で!
 お疲れの出ませんように。