携帯電話との果てしなき戦い:09
〜人の杖を蹴る男〜
以下の会話と説明は、私が相対した男との実話である。
エゴイストと嘘吐き、どちらが正当であるか、それは読者の判断に任せたい。
私「優先席では携帯電話の電源を切ってくれないか」
男「……(無言で渋々携帯をたたむ)」
私「電源を、切ってくれないか」
男「……(無言で渋々電源を切る)」
男は携帯電話を手に持ったままにしている。
私「携帯電話はしまってくれないか」
男「……いちいちうるせえなぁ」
私「しまってくれ。見るだけでおかしくなる」
男「うるせえ」
男は私の杖を蹴り始めた。
私「刃物をちらつかされて怖がらないことはないだろう? しまってくれ」
男「うるせえ」
男は私の杖を蹴る。
私「なぜそんなに蹴るんだ」
男「おめえがうるせえからだよ」
私「なぜうるさく言ってるかといったら、あなたが間違っているからだ」
男「うるせえ」
私「どっちが間違ってるんだ?」
男「うるせえ、電源切ったら関係ねえだろうが」
杖を蹴る男。揺らぐ私の体。
私「見ているだけで不整脈が起こるんだ。しまってくれ」
男「うるせえ、逆向いてろ」
杖を蹴る男。杖を落としてしまう私。拾ってくれたのは見知らぬ周囲の人だった。
私「これだけ蹴られたんじゃ、お返ししていいのかな?」
男「うるせえ、二倍返しにしてやるよ」
何度でも男は杖を蹴る。
私「私が弱者だから、そんなに強気なのかい?」
男「うるせえ、弱者を盾にすんな」
何度でも男は杖を蹴る。
私「差別者」
男「うるせえ」
何度でも男は杖を蹴る。
じきに私は息が荒くなり、その場に倒れそうになった。
私「それで社会人か……」
男「うるせえっつてんだろ」
再び蹴りによる杖の落下。再び拾ってくれる見知らぬ人。
女「こちら、座ってはいかがですか」
私「ごめん、携帯で人殺しする差別者の正面なんて座りたくないんだ」
やがて私の降りる駅に到着する列車。
男は、最後まで携帯電話をしまってはくれなかった。
私「バイバイ、差別者くん」
こんな朝の出来事に、私は、哀しいどころか情けない気分でいっぱいになった。
男の理論は「うるせえ」のみだった。
こんな「電車」に、私はいつまで乗り続けなくてはいけないのだろうか。
奇しくも社内には「東京メトロはより快適な乗車を……」というアナウンスがこだましていた。
やはり弱者は、弱者としてしか生かされないのかい?