迷った時が買い時
〜それは一種の「出会い」だ〜
様々な古本屋に通うようになって、実感したことがある。
それは「あーこれ欲しいけどどうしよう」と悩んだ時は、いっそ買ってしまった方がいいということだ。
そういう物に限って次に行くとなくなっていたり、行く機会ができなかったり、興味が失せてしまったりする。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉通り、興味指数が高いうちに買ってしまった方がスッキリする。喩え他の店でもっと安いのを見かけても、買ってしまったのであれば諦めがつく。それでやいのやいの言っている人には、「新品より安いからいいじゃん」と言いたくなる。
よく「欲しいけど他の店ではもう少し安い」だとか「BOOK・OFFなら105円だろう」などと思うこともある。僕だけでなく、そう主張する人も多い。
けれどそういう刹那の損得勘定は、実際役に立たない。なぜならそうやって買い惜しみした本は、結局その他の店は見かけないことが殆どだから。それに欲しいと感じた時こそ、それを純粋に楽しめる時期だから。
彼を批判するわけではないが、僕の知人が260円の漫画を買い渋り、なぜかと訊くと「BOOK・OFFでは250円だから」と言ったことがある。たった10円でも渋るうえに、それがBOOK・OFFにあるとは限らないのに。そもさん、中古買いを当然としているのもどうなのだろう。けれどそういう考え方をする人がものすごく多くなっているのも事実だ。
余りに暴利価格でない限り、そこにあるうちに買ってしまった方が確実に手に入る。ケチって他の店をあたって徒労に終わるより、さっさと買ってしまった方が早いし確実だ。
本に限らず中古は、偶然の確率で成り立っている、一種の「出会い」だ。
かつて音楽仲間だった人が、中古CDについてこう言ったことがある。
「買わずに後悔するより、買って後悔した方がいい」
至言である。僕がここで書いていることを言い詰めている。
この言葉のお陰で、僕は本でもCDでも服でも、中古は機会と値段が折り合ったら迷うことは少なくなった。欲しいと思った時はその本を読みたい(CDを聴きたい)感情が高まっていて、しばしして醒めたらその程度の欲求なのだと思うようになった。
これって流行りものにも言えると思う。テレビ化や映画化している時は馬鹿売れした漫画や小説も、ブームが去ると阿呆みたいな値段で叩き売りされる。それって、流行ってると高くても買っちゃうけど、流行ってないものは安くても買わない流されがちな庶民感覚と同じなんじゃないか。流行ってないけど評価の高いものはそれなりの値段になるし、自分の中で価値あるものは少し値が張っても欲しくなる。時期が過ぎていても安けりゃいいやなものもあるし、安いから買ってみようかなってものもある。
そうして買うか買わないかを判断するのが、自分の中での「欲しいレヴェル」なんじゃないかな。
それを目先の損得勘定を盾にするのは、本当に欲しいんじゃないんじゃないかと思う。何度も言うけど本当に欲しかったら中古なら少しぐらい値が張っても買うだろうし、寧ろ新品で買うだろう。流行と損得勘定をごっちゃにしちゃいけないと思う。
「流行りものはあとで安くなってからでもいい」
とか、
「流行りものだから多少高くても今手に入れたい」
というのは、しごくまっとうな感覚だと思う。でも、
「流行りものだけど安く手に入れたい」
というのはワガママだと思う。以前書いた、新刊でも売れてる本を中古で探すような庶民根性。
流行を気にするなら、いきなり中古をあたるのは間違ってると思うんだけど。中古は所詮「不要になって売られたもの」なんだから、どうしても古いものになるのが当然。だけどサイクルの早い新古書店のお陰で、その当然の感覚が薄れてしまった。そしてそれが庶民感覚にまでなってしまった。
だから、「迷った時」も「流行性を考えて迷う」ことが多くなった。
劇団ひとりや麒麟の田村、品川祐といった芸人の小説が典型的な例だろう。それらは誰しも「数ヶ月すれば中古でめちゃめちゃ安くなる」とわかっているのに、新刊で大ヒットしてしまった。だから今や新刊で買う人は皆無だし、中古でも叩き売りが当然になっている。こうなると、迷うこともなくなる。「話題だから早いうちに新刊でも買おう」か「105円なら試しに買ってみてもいい程度かな」の両極端になるから。
店長が言ったひとことがある。
「ベスト・セラーっていうのは、普段本を買わない人が買うから売れるんだ」
確かに。流行本ばかり読んでいる人は、普段は本など読まない人が多い。
そういう価値観を考えるのが、中古を狙う人にはあって然るべしなんじゃないかな。高いと言う人には相場を知ってほしいし、他店がどうのと言う人は、本当に欲しいのかと疑いたくなる。
さらには今、漫画やCDが売れないと嘆かれているのも、そういう「価値観のズレ」から生じているのが大きいように思う。
昔は流行りものならとにかく買ってしまうのが当然だった。多くの人が「話題に置いてきぼりにされたくない」という価値観だったからだ。だからCDなんかミリオン・セラーが当然の如く連発され、漫画も100万部がザラだった。安室が歌えない女子はコケにされ、ジャンプの話ができない男子は仲間外れになった。
ところが今は、10万枚、10万部売れれば「大ヒット」と言われるようになった。新しいものも、レンタル屋や新古書店ですぐに手に入るようになったからだ。多くの人が程度のいい定価で買うよりも、安ければ中古でも程度が気にならないようになってしまった。中には中古にも良品を求めるワガママ極まる人も増えた。
そこへきて、漫画家や歌手の乱発が酷いので、絶対的な数が爆発的に増え、全体的な質が低下した。似たような格闘漫画や似たような恋愛ソングばかりになって、もはや「誰でも知ってる」漫画や歌は現在進行形では皆無になってしまった。それで入れ込んでる人でもないと新品で買うのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。ちょっと気になる程度だったら、まず中古を漁るのが当然になってしまった。
だから今は、売れっ子より中堅の方が相場が高いことが多い。売れっ子は変動が激しく、定価寸前の馬鹿高い値段から阿呆安い叩き売りまですぐに変わっていく。しかし中堅は最初からいい値段で落ち着いている。それは固定ファンが多いので流行りに関係なく、確実な購買層が存在するからだ。
ジャンプで言えば『こち亀』がいい例なんじゃないか。秋元治自身が売れたわけじゃないので、彼の単行本がすべて売れたわけじゃない。でも『こち亀』はアニメ化やドラマ化で一時的に普段より売れたこともあるのに、大ヒットまでいかない。そして確実な購買層が存在する。雑誌を変えれば、「IKKI」なんかの作家はそういう傾向が強いと思う。他の週間・月間漫画雑誌はちょっと流行に気を使ってるけど、この雑誌は余り気にしない。個人的に例を挙げれば日本橋ヨヲコとか。
巻数が多い『こち亀』はさすがに安いものも多いけど、日本橋ヨヲコは余り安くないように思われる。飽くまで相場的にですが。だからオタク受けするものなんかは、比較的値段が落ちないんだよね。けど『あずまんが大王』なんかは売れに売れたから、高くない。『よつばと!』は比較的高いけど。今は高い『けいおん!』あたりはしばらくしたら安くなるでしょう。
さらに、中古で「初版だから」「限定盤だから」と思い悩むのは、その初版なり限定なりに自分が思い入れしているから、自分の中で価値観がひとり歩きしてしまい、勝手に付加価値を設けているからだ。だから高いと悩むし、安いと喜んで買ってしまう。幾ら限定品でも売れたものは安くなる。
今、漫画の特装版ブームだけど、角川系とか日本橋ヨヲコはターゲットが絞られてるから相場はそこそこ高いみたい。でもDVD付きの『さよなら絶望先生』あたりは微妙なのよね。講談社の特装版は『ラブひな』や『ネギま!』の例があるから。あれのお陰で赤松健はメジャーになったし、その分限定も多く刷った。それで相場は大して上がっていない。それに似た匂いを感じてしまう。ま、まだすげえメジャーな感じはないから、意外といい線いくかもね。けど『南国アイスホッケー部』は安いままだから、「作家買い」はされていないのだろうな。
マガジンあたりはややマニア性があるから成り立つけど、ジャンプ・コミックスが特装版を始めたらちょっと怖いな……中堅ならまだしも売れ線でやりそうだから、そうしたら間違いなく相場崩れるぞ。まあ集英社は限定の特装版作るぐらいなら限定じゃないDVDを作って別個に売るでしょうけど。売れることがわかってるから。
かく言う僕も、以前BOOK・OFF価値観に染まっていて、損得勘定で動いていた。その失敗例をひとつ。
僕は村上龍の小説はどれも単行本で揃えているのだが、『昭和歌謡大全集』だけはなぜか失くしてしまった。そこで古本で見付けたら買おうと思っていたのだけど、ある日友人の車で初めて行った古書店にて、300円のものを見付けた。でも状態がよろしくなく、とっさに「BOOK・OFFだったらもっといい状態で105円だよなぁ」と思って買うのをやめてしまった。
けど前述の通り、中古とは一種の出会いである。その後も、その本と出会うことはなかった。僕はケチって買い逃したことを悔やんだ。すぐに行ける店でもなく、場所もわからない。しばらく悔やんでいた。
そのうちに、僕の中のBOOK・OFF価値観が崩れ、前述のような「欲しい時が買い時」と思うようになった。
そこへ、また友人とその店へ行く機会があった。まだ棚に並んでいたのを見付けた僕は迷わず、それを購入した。
帰ってラベル剥がしなどをしていると、カヴァー折り返しにBOOK・OFFの100円ラベルが貼ってあった(最安値が100円だった昔のBOOK・OFFは古本屋の常套手段を守って巻末に値段ラベルを貼っていたのだ)。しかし後悔することはなかった。手に入ったことが何より安心できた。
そういう経験もあって、出会いの重要視を勧めているんです。
何だか話が脱線気味になりましたが。
つまりは「悩むぐらいなら買ってしまって損はない」ということです。
逆に「買わないと後悔するケースが多い」ということです。
さらに言えば「悩むぐらいなら本当は欲しくないんじゃないか」ということもあります。
欲しかったら、悩まずに買ってしまいます。
自分の中で個人的な価値観があるから、悩むんです。
飽くまで、中古で言えばね。