古本屋の買い取り
〜余り高望みしないように〜
はじめに言ってきましょう。あなたの価値観は間違いであり勘違いであると。
率直に言ってしまえば、古本屋に本を売るというのは「処分してもらえて僅かながらお金ももらえる」というものです。決して「高く売って儲けよう」と思ってはいけません。だってね、不要のものを無料どころか金出してまで引き取ってくれるんだから、古紙としてゴミに出すよりよっぽどお得なのよ? つーか要らなくなったものは無料以上に処分できることをありがたく思いなさい。ごめんね、上から目線の言い方で。
というのはもちろん古本屋店員の驕りでもあるんだけどさ。でもね、正直そういうもんだよ。だって率直な話、喩えば動かなくなったパソコンはタダで引き取ってもらえるだけでありがたいじゃない? なのに、古本屋では買い取りの査定価格に難癖付けるお客さんが絶えない。自分の中でもっと価値があって、もっと高値になる筈だと思い込んでいる。
あのさ、古いライト・ノヴェルはもう要らないから。
売れたものは廃れる、それが古物商の鉄則である。だからアニメ化した漫画とか、これを書いている2009年の今で言えば『1Q84』とか『告白』とか、そういうものは「時のもの」であって、長い目で見れば決して価値が出るものではないから。
大体にして、新しいもので定価の1割というのが古本の買い取り価格の相場である。だのにエンターキングなんかが「横山光輝の『三国志』は揃っていれば6,000円で買います!」みたいな誇大広告をしてしまって、お客に「古本はお金になる」と思い込ませてしまっている。その実、実際に来ると「カヴァーが痛んでますねー」「焼けてますねー」「発行年数が古いですねー」などと言われて希望価格の半額以下になってしまう。でもそれが古書業界の常套手段だ。安く仕入れて高く売る、そうじゃなくちゃ商売人はやってられない。ましてや古本屋なんて一冊一冊の粗利が低いからね。だのに誇大広告をする業者は出るし、それに伴って贅沢なお客は来るし、BOOK・OFFの価値観で来る人もいるしで、古き良き古書業界はスーパーの即売会と化してしまっている。「お客様は神様です」という神話的な価値観にすがっている人が多い。
現実的に考えてくださいよ。誰が30年前の文庫を高く買えると思う? 『セカチュー』が今でも商品になると思う? BOOK・OFFで105円コーナーの常連になってるものをどれほど忸怩たる思いで眺めてると思う?
元来書物というものは財産であり、消費するものではなかった。それを角川文庫が「本は読み棄てるもの」というイメージを作り、BOOK・OFFを筆頭とする「新古書店(厳密に言えば「古本屋」ではない)」が価値観を崩し、今の「本は浪費するもの」という価値観を形成してしまった。それに応じて文壇も、いまが受ければそれでいいさ的な、刹那的なものになってしまった。
そのあおりを食らうのが、古本屋である。
古本は、ちょっと前までだったら「綺麗じゃないけど貴重」「汚いけど安い」「入りにくいけど味をしめたらパラダイス」だった。しかし前述した「新古書店」の「安くて新しくて綺麗な話題の本が揃っています!」というイメージに屈服してしまった。無論、そういった店では大正時代に発行された文豪のオリジナル本とか、戦中の『軍人勅語』とか、絶版になった新書などは買い取りもしない。コアな人に売れる僅かな本よりも、多くの流行に流されて売れるペーペーな本の方が優遇されるのだ。そして現代人は本さえ浪費するものとして当然に思い、自分の中での価値観を作ってしまう。古本屋の常識など糞食らえ、こっちはお客様なんだぞ的な。まぁそこまで言いませんけど(言ってるか)、価値観が相場とズレてしまっているのである。Amazonに出品されている中古を見てごらんなさいよ。1円からばっかりだから。または馬鹿じゃねえの的なプレミア価格だから。
無論、相場を知っている人は少ない。ただでさえBOOK・OFF的な価値観がはびこってしまう現在だ。北原白秋の『邪宗門』初版より、『ぼく、オタリーマン』の増刷の方が高くて良いと思われてしまうのはしょうがない。
だがね、本を読んだり扱ったりする人には、「公共的な価値観」を持ってほしいんだ。私的な「これは俺の中では価値あるんだけど、おたくはどう?」という値踏みではなく、相場を鑑みた感覚を持ってほしいんだ。それを崩したのが前述の「新古書店」なんだ。書物を「浪費するもの」に仕立て上げてしまった文化遺産の代役なんだ。しかしそれが、実際に「庶民の声」でもあるんだ。
はっきり言おう。みんな、「利用されてる」んだぞ? と。
流行り廃りに流され、恒久的な価値観さえ見出せずに手塚治虫のオリジナル初版を10円で売ってしまう。そうして買った業者も105円で売ってしまう。それがいかに、誤った価値観の産物であるのかを、実感してもらいたい。あるいは、中途半端な自覚はやめて頂きたい。だったら古紙業者に無料で処分してもらいなさい。その方がよほど気楽だし二次被害も出ない。
儲けようと思うのなら、現実を知ってください。最新の確実に売れるコミックだけを大量に売ってください。
そういうことが言いたくて、この駄文をアップする。決して古本屋の戯れ言ではない。飽くまで本を文化遺産と思いたい、古い価値観の人間の訴えです。そういう古本屋店員の嘆きです。そうさ、葉桜書房は「新古書店」ではない。「古本屋」なのだから。
なぁんてことを、最近店で読んだ本に触発されて書き残しておきます。