24.店員は「人間」です

〜一店員、そして一人間の嘆き〜

 今まで小出しにしてきましたが、とうとう総括します。
 余りにね、店員が「人間」として扱われていないきらいがある。それこそ機械か超人かのように。
 これは、店員からの切実な願いです。
 そろそろ、我々を、人間として扱って頂けませんか?


[視覚]

 私の目は、普通のものが前にふたつしかありません。
 だから、あなたがコソッとレジに品物を置いただけじゃ、あなたがそこにいるなんて解りません。レジにいても後ろを向いて作業することはしばしばあります。遠くにいて作業をしている時なんか、特にそうです。小銭をジャラッと撒かれて、それがあなたの中ではピッタリでも、私の平凡な目はそれがピッタリだなんて瞬時の判断はできません。あなたが去ってしまった後に、不足していても怒りを飲み込むしかないのです。
 あなたは、後頭部にも目があって、しかも非常に鋭いのですか?
 私の目は、普通のものが前にふたつしかありませんけど。

[聴覚]

 私の耳は、きわめてありふれた耳をしています。
 だから、あなたがレジにモノを置いた音だけじゃ、あなたの存在には気付けません。すごく小さい声でボソッと言っても聞こえません。店員に伝える意志をもって、発言してください。遠く離れた場所で作業している時に、コソリとレジにモノを置いただけじゃあなたの存在なんか気付けません。さらには接客中なのに質問とかしないでください。聖徳太子じゃないんだし、対応するための口だってひとつしかない。
 あなたは、小さい音でもたくさんの声でも聞き分けられますか?
 私の耳は、きわめてありふれた耳をしていますけど。

[触覚]

 私の手は、平凡な皮膚が張っています。
 だから、あなたが弁当類を熱めにあっためて、と言うと私の手は火傷の危険性を孕む。カゴをレジに置いて、その取っ手を勢いよく跳ね除けるとそれが当たった私の手の甲は痛む。あなたが手渡した小銭を、私の手は幾らあるかなんて重さじゃ判断できない。私の手は鉄製でもないし、ハカリでもない。
 あなたの手は、そんなに万能なんですか?
 私の手は、平凡な皮膚が張っていますけど。

[意志]

 私は、親しくない人と阿吽の呼吸はできません。
 だから、あなたがレジにレシートをポイと置いても、それを捨ててほしいというあなたの意志は読み取れません。伝えてください。どうして喋ることを拒否するのですか? 基本的にうつむきがちなレジ作業なのに、あなたは弁当を温めるかと訊いても頷くだけ。見えないんです。明らかに視界の外なのに頷かれても解りません。あなたがレジにいつ向かうかも解りません。あなたが私の横をすれ違っただけで、私はレジに向かわなければいけないのが解りません。だってあなたは、レジをやってほしいという意志を私に伝えていないのだし。お願いしますのひとことも言えない人と、店員は意志の疎通をはからなくていけないのですね。他にも意志に関しては願うことが多くありますけど、キリがないし、どうせ受け入れてもらえないからやめておきます。
 あなたは、店員と以心伝心できますか?
 私は、親しくない人と阿吽の呼吸はできませんけど。

[腕]

 私の腕は、そんなに長くありません。
 だから、順番待ちの際にレジの隅っこに品物を置いたまま自分だけスライドする人、そこまでレジのスキャナは伸びませんし、私の腕も届きません。しかも隅っこだと、落として品物をダメにする危険性が高いのです。なのにあなたは平気で「取り替えて」と言うし、お金だって隅っこにちょこんと置く。私は上半身をグッと伸ばして、腰を痛めてそのお金をかき集める。落としたら、落ちやすい場所にあろうが落とした店員のせい。それでもあなたは、お釣りをレジから遠ざかった場所で受け取ろうとする。もっとレジに近付いてください。さらには、歩きながら手を伸ばす人に、たくさんの小銭を落とさずに渡せるものですか。あなたは動体視力と反射神経に優れているのかも知れませんし、手も伸びるのかも知れませんが。そういうことを店員にするのだから、ひょっとすると、ね。
 あなたとその品物は、それでも店員やレジから離れますか?
 私の腕は、そんなに長くありませんけど。

[足]

 私の足は、立ち仕事でガクガクに疲れています。
 だから、あなたが無人のレジに品物を置くと、他のレジにいる私は痛んだ足に無理を言わせて走ります。瞬間移動などできませんから。走るしかないのです。さらにあなたは、私がいるレジに来ないで、自分に近いレジに品物を置く。そこには「レジ停止中」のフダが置いてあるのに。あなたは私に「こっちに来い」と無言で攻める。そうなると私は、作業中のレジを放って、そちらに走らなければいけない。私の足は、そういった「お客様」のお陰でたくさんのマメができ、潰れ、腫れ、痛み、あまつさえ親指の爪が剥がれました。それでもあなたは、私に足を酷使しろと言うのですね。走れ、痛めろ、怪我しても知らない、と。
 あなたの足は、幾ら酷使しても平気なんですか?
 私の足は、立ち仕事でガクガクに疲れていますけど。

[感情]

 私は、喜怒哀楽が備わった人間です。
 だからあなたが傲慢な態度をひけらかすと、怒りが込み上げる。何度も繰り返されると、哀しくなる。なのに仕事を楽しくしちゃいけないと言われる。喜びなんかありやしない。毎日怒りを、そして悲しみを飲み込み続け、やがて私は消耗の毎日を繰り返し、神経を疲弊させていく。
 あなたは、感情を殺せますか?
 私は、喜怒哀楽が備わった人間ですけど。


 もっともっとありますけど、やはりキリがないし、どうせ改善なんかされないでしょうから、ここでやめておきます。
 そうです、店員は結局「お客様」に尽くさなければいけないのですから。
 相手がどんなに馬鹿だろうと傲慢だろうと無遠慮だろうと非常識だろうと失礼だろうと、我々は機械ですから、それを感じてはいけない。あまつさえ、超人なんだから完璧なまでに「お客様」に快適を与えなければいけない。
……「人間」に、そんなことはできません。
 私は感情を持ち、ごく平凡な感覚を持ち合わせた「人間」なのです。あなたと同じなのです。なのにあなたは、私を人間扱いしてくれない。まるで機械か超人のように、私に完璧を求める。
 あなたは、超人ですか?
 私は、ごくありふれた「人間」ですけど。
 店員である以前に、そんな弱い人間なのですけど……。

 店員が、人間らしく扱われる日は、来るのだろうか……?