19.忘れっぽい人々

〜海馬体をもっと鍛えよう〜

 さっきまでの雨が嘘のように晴れた、雨上がり。
 うーん、雨やんでよかった。ゴハンも買ったし、とりあえずコレ食べてから……あっ! カサ忘れたぁッ!
 ということはありませんか? ええ、コンビニには忘れ物のビニール傘がゴロゴロ転がってたりします。だけど忘れ物はカサだけじゃないのです。代表的なものはやはりカサだけんども。
 そこで今回は、そんな忘れ物にまつわるお話をしましょう。
 でも……えーと、何書くんだっけ? 忘れたなぁ(はい、つまらん基本的なボケですね)。

 忘れ物というのは、対象物が「自分の手元を離れたまんま」に「その場を去ってしまう」から起こる現象である。だから前述のカサなんかその好例で、カサ立てに置いたままのカサを持ってきたことをついつい海馬くんが忘れてしまうということなのだ。
 でも、それと争うほどに多い忘れ物は、とにかく「コピー関連」である。
 これにはお釣り忘れと、コピー機に乗せておいた原稿の忘れ物とがある。
 前者はたまーに「お釣りを出し忘れたんですけど……」と言われるが、残念だね。あるワケない。次にコピーしたヤツが殆ど「おおッ役得」とばかりに使ってしまうからだ。ええ、忘れたあなたが悪いのです。だからどうして店員に逆ギレすんだよ! 「お釣りの分ください」とかムリ言うんじゃねえよ! 甘えんな!
 で、後者だが、これがまた面白い。本やプリントなんかはよくあるけれども、僕の勤め先は場所柄、やたらと学生証の忘れ物がある。澄まし顔の大学生くんを写した、立派な学生証がバックルームに5枚ぐらい並べて貼ってあったりするのだ。免許も然り。そしてふたつとも、忘れたヤツはなかなか取りに来ない。きっと「コンビニに忘れた」ということも忘れているのだろう。いやマジで。きっと再発行しちゃってるのよ。
 でも、今までで一番インパクトのあった忘れコピー原稿は何だろう? と考えてみると……「採用通知」だろうなぁ。「貴殿を本社社員として任命いたします」とか何とか毛筆で書かれて赤い立派な判が押してあるヤツだぜ? おいおいそれを忘れちゃいかんだろう。ハナッから上司に怒られること間違いない。度忘れ社会人決定である。もう昇進は諦めなさい。
 でも、やはりコンビニといえばレジ。レジ関連も忘れ物の宝庫である。そこには店員も客もいるのに、なぜか忘れ物をしてしまうのだ。
 意外と盲点にして、結構ありがちだったりするのが、電子レンジであっためた食べ物だ。これは客が群れを成して列になっている時に発生する。つまりは、あたための途中で次の人をさばかなきゃいけないから、店員も既に会計だけは済ませた客には注意が逸れるわけだ。そのままひとりふたり分のレジをこなした後、唐突に鳴った「チーン!」の音でハタと気が付く。ああそうだ、あの客どこ行ったんだ? と。
 それが店内にいて、雑誌を立ち読みするなどして時間を潰していた場合は良い。よくある光景だ。けれども問題は、客自身が自分であたためを頼んだ品を忘れる場合だ。こうなると店員は店の外に出てダッシュしなきゃなんないし、大抵の場合が間に合わず、店から出た時点でそいつの影なんぞありやしない場合が殆どだ。
 これは店員だけを責めるのは酷ってモンだぞ。だって店員は他の客をさばかなきゃいけないから、そいつにばかり注意を向けることはできないのだ。もしそうせよと言うのなら、まず神様に頼んで人間の目を4つぐらいにしてくれたまい。ムリを言うなよ、ってなもんだ。
 しかし客も客である。どうして自分の身銭を切って食べたいものを選んだというのに、わざわざ忘れてくれるのだろうか。はっきり言えば注意力不足だ。それはもちろん客の注意力不足なんだが、店員のそれに責任転嫁される場合が殆どであるのでたまったもんではない。カネ払ったらあんたのモノなんだから自分で管理しましょうや。
 また、荷物がいっぱいな人はレジを自分の机代わりに使ったあげく、なぜか忘れていったりする。荷物のうちどれか重要なものに気が向いており、他への注意力が散漫になっているのだろう。けれども、買ったばかりの品物を忘れていくヤツが多いのにはウンザリする。雑誌とかジュースとか、手で持っていけるために袋に入れなかったものがその対象だ。カネを払った時点で客は満足し、なぜか去ろうとする。おいおい、あんたはコンビニに税金納めにきたのかよ。おおいいねコンビニ税! でもやっぱり、店員がモノつかんで走って追っかけていくんだよなぁ、客を。
 最後は、やっぱりお釣りですかね。
 これはねえ、カネにうるさい「お客様」のことだから忘れやしねえだろう、と思うものの、結構忘れるヤツがいる。特に公共料金を払った場合に多い。お釣りのうち、札を受け取ったら「小銭は要らねえよ」と吐き捨てるタクシー客のように風を肩で切って去ろうとする。しかぁし「小銭のお釣りが残っております」とか言うと、おっとっと、なんておどけた振りして戻ってくるんだけどね、オッサンが。
 これは良く言えばお金に執着しない、悪く言えば細かいことに気が付かず所作が大まか、という証明でもあると僕は思うぞ。心当たりのある人、悔い改めよ。キリスト教徒のロザリオが忘れられているという信じられん事態もありました、そういえば。
……ああ、無責任と自由奔放を勘違いする馬鹿親が自分の子供放ったまんま店から出てったりもする。どうして人間まで忘れるかなぁ。

 とまぁ、いろいろと忘れっぽい人々はいるけれども、一番忘れていることがある。
 いいか、思い出せ。
「店員も人間だ」
 ってことだぞ。
 そのくせプライドだけは忘れなかったりするから、困ったものである。