18.万年人手不足

〜コンビニ・バイトが長続きしないワケ〜

 コンビニは、常に人手不足である。
 まぁそれは場所とオーナーとバイトくん本人によりけりなんだが、比較的長続きしない傾向が強い。特に親元で暮らしているスネかじり大学生や高校生などはすぐに辞めてしまう。
 なぜか?
 答えは簡単である。
 仕事が、まず多過ぎるのだ。
 コンビニというと、いつでもレジにいてピコピコやってりゃいいと思ってる超絶原始人はいないよね? いやー、これがけっこういるんだな。そういうヤツが「何だよバイトのクセに!」とかホザいてくださる「お客様」なんだよな。
 勘違いしないで頂きたい。コンビニは、単なるミニ・スーパーではないのだ。スーパーのパートのようにモノ売って暇があれば隣りのパートと雑談してりゃ給料がもらえるほど甘い仕事じゃないのだ――すまんパートの人、あなたにはあなたなりの苦労もあるだろうけれども。
 コンビニは、名前の通り「コンヴィニエント」な存在である。
 それは、客のワガママがあればそれをいちいち叶えてしまうという、トンデモネエ客への気ぃ使いな仕事なんである。だから仕事は、客から要望(という名のワガママ)があれば幾らでも増えていく。つい数年前まではミニ・スーパーでもよかったのが、最近では何でもできなければ「不便」などと言われる、飽食ならぬ飽欲の時代なのだ。
 だがそこに、店員が人間であるということは考慮されていない。
 食い物に雑貨に本に菓子に煙草に酒に手作りアイスにおでん……と、売るモノでさえ爆発的に増えていくのに、それの品出しや検品や発注や予約や何だかんだと、食い物ひとつにも苦労が重なる。ジュースなんかもハコで爆発的な数が届くのだから、本当に肉体労働なのだ。さらに店内にはコピーにファックスに最近じゃ携帯電話やマイラインなどの各種加入やATMやナビゲーション・システムなどもある。そのくせそれらの操作方法などは、実は店員はいっさい教わらないケースが多いのだ。因みにナビゲーション・システムなんかはスマートメディアとの関連でいろいろできるスグレモノらしいが、パソコンとネットとプリンタさえあれば要らない気もするブツである。そこへきてそういったハイテク機器(死語か)の扱い方も解らないくせに、それが自分のワガママを叶えてくれるモノだと知ると、店員にビシバシ質問してきたりする。それも、ビデオの予約もできない人間の質問なんだからタチが悪い。そんでもって答える店員だって、操作方法や何ができるかなどいっさい知らないのだ。教わっていないのだ。なのに、答えられなかったら「勉強不足」として「店員として失格」の烙印を勝手に押されてしまうのだ。
 無理を言うなよ。
 モノ売りだけでも教える仕事が多過ぎて、そこまで教えられないんだよ。
 つまりは、自覚的な店員じゃないとそれらは扱えない。自分でコピーやファックスを使う人間じゃないと。それを知らずに「ちゃんと教われよ」なんて言うのはやめてほしい。本当に。
 よく言われるんだよな。
「店の人間なんだから店のこと全部知っとけよ」
 って。
 じゃあ、あんたは会社のことを全部知ってるのかい? コピーやお茶汲みだって女子社員にやらせるクセに。さらには家族のことだって本当は知ってやいないだろうに。あんたの娘は本当は(以下略)
 さらに加味するべき要素として「個人の仕事の領域」がある。
 発注だって全部の品物をひとりができるワケがない。だから店員が部署を分担して発注なり管理なりをするのだ。なのにそれを知らない客に「××って雑誌はありますか?(しかも探さずに)」と訊かれると、雑誌担当者ならホイホイ答えられるが、それ以外の人間は客と同じ立場で、しかし客に気を使うというよりイヤな立場で、必死に探さにゃならんのだ。「サラダはいつ届きますか?」と訊かれても、彼の時間内にはサラダが到着しないケースだってある。そのうえ届いたばっかりの「ばんじゅう(弁当などを入れるボックス)」の山を見て「○○は届いてるかしら?」なんて、透視でもできなきゃ解んない質問はやめて頂きたい。店員は、地道にそれらを検品して何が届いているのかをチェックするのだから。
 つまり、経理の女の娘に「あー人事の谷口君いるかね?」と訊くようなことを、客は無自覚のうちに行っているわけだ。それを「知らないんだからしょうがないじゃん」と開き直るのはいい、だが、あなたの質問が店員にさらなる仕事を与え、レジの列を増やし、さらに彼の仕事の遅滞を促すなどの様々な効果があることだけは自覚して頂きたい。
 そんなふうに、憶えるべき仕事が余りに多いところに店の風習や他の店員との関係だの常連客のクセなんぞも憶えなきゃいけないから、記憶装置がパンクしてしまうのである。
……でも。
 でも、辞める人間の殆どは、仕事が憶えきれないから辞めるんじゃないんだな。
 彼らの辞める原因の多くは「客商売がイヤになった」というもの。
 いいですか、もう一回言います。

「客商売がイヤになった」

 はい、その原因が解りますか?――特に「お客様」!
 コンビニ店員は、常に人間観察を強いられるも同然の仕事だ。客の気分をなるたけ害さないように気を使い、常連客などはレシートが不要なヤツだとか、袋が要らないヤツだとか、そんなクセまで憶えなきゃいけない。憶えろとは言われないが、客商売ゆえに、憶えることを強いられるのだ。じゃないと常連の「お客様」の気分を害するからだ――その殆どが、客が口を利けば済むような些細なことなんだけど。
 客は両替や無断トイレがアタリマエだと思ってるわ、わざわざ奥に置いた新しい弁当を無理に持ってくるわ、いつまでも立ち読みしてるわ、自分のミスを店員のせいにするわ……ある種の「人間不信」に陥ってしまうのだ。
 だから、客がイヤで辞めていった人間は、しばらく客商売などできない。いや、下手をするとずっとできないかも知れない。心にトラウマを背負ってしまうのだ。
「お客様」のワガママによって!
 だと言うのに、コンビニの本社は「お客第一」精神を掲げる。店員は仕事に押し潰され、割に合わない安い給料しか与えられず、働けば働くほど人間の醜い部分をまざまざと見せ付けられることになる……。眠っても疲れが取れない仕事、実はナンバー・ワンでもおかしくないぐらいだ。
 だから、願わくば、
 そろそろワガママを言うのは、やめてください。
 僕らも、人間なんだから。