キング・クリムゾン:オリジナル邦題

 クリムゾンのオリジナル邦題は、30周年記念紙ジャケットによるリマスターでもって再販されるにあたり、全面復活している。だから現段階では「消えた邦題」はなくなったも同然なのだが、全アルバムを買い換えるなど膨大な金がかかるがゆえ、買いを控えた人間が多いのも事実だろう(筆者もそのひとりである)。そういった方にはぜひ参考にして頂きたい。
 また、30周年リマスター盤もすべての邦題を復活させているわけではないので、購入された方にも参照して頂けると幸いである。

『クリムゾン・キングの宮殿』〜『アイランズ』
21st Century Schizoid Man 21世紀の精神異常者
『クリムゾン・キングの宮殿』収録の、キング・クリムゾンという歴史のオープニング・ナンバーであり、永遠に冠されるべき邦題。だのに阿呆なメーカーが……詳しくは別項を参照されたい。30周年リマスター盤でもこの邦題は復活しなかった。
42nd at Treadmill トレッドミル42番街
『ポセイドンのめざめ』中の曲「冷たい街の情景」のさらに内部のインクルード曲。再販前は「踏み車の42番目」であり、まったく言葉の意味が違う。
Lady Of The Dancing Water 水の精
『リザード』収録。「踊り水の女」ではイメージが湧きにくい。いっそ「水の精」とイメージを固定化してしまった方が受け入れやすいかも知れない。もしくは、そういったイメージ付けでもしないとゴードン・ハスケルのヴォーカルは手助けできないかも……
Sailor's Tail 船乗りの歌
『アイランズ』収録の中期クリムゾンの名曲インスト。なぜこの程度のタイトルが再販時に一度消されてしまったのか不可解でならない。また30周年リマスター盤では「船乗りの話」になっている。
Prelude:The Song Of Gulls プレリュード:かもめの歌
同じく『アイランズ』収録のインスト。「かもめ」という生物は日本人にとって「かもめ」であって、“gull”ではない。「蛇」と“snake”とは認識の具合が違うのだ。


『太陽と戦慄』
Book Of Saturday 土曜日の本
これはまったくの直訳ですね。特に面白味はない。
Exiles 放浪者
ストーンズでの“Exiles”は「ならず者」としてメインストリートを闊歩するのだが、クリムゾンでは「放浪者」として『太陽と戦慄』という砂漠をひとり、渡り歩いていくのである。


『暗黒の世界(スターレス・アンド・バイブル・ブラック)』
The Great Deceiver 偉大なる詐欺師
この邦題は、のちのちロバート・フリップ自身を示す言葉として度々ライナーや解説に登場する。だのにその曲名がカタカナだというのはどういうことか?
Lament 人々の嘆き
嘆きとは、誰によるものなのか? 人々である。さらには「“Lament”=嘆き」という認識は一般的ではない(違和感をなくすためにはある程度英語力が必要)ので、敢えて提示しておいた方がよかろう。
We'll Let You Know 隠し事
少し意訳は入っているが、カタカナにしてしまうと意味が解らなくなってしまいかねない。
The Night Watch 夜を支配する人々
私は数あるクリムゾン邦題の中でも、これは特に守りたい。「夜警」と言えば味気ないが「夜を支配する人々」と抽象化することで、当時のクリムゾンの熱い夜を空想することもできる。
The Mincer 詭弁家
直訳である。わざわざカタカナに戻す必要はない。
Starless And Bible Black 暗黒の世界
タイトル曲であった筈なのだが、前回再販時に於いてアルバム・タイトルもろとも「暗黒の世界」に封じられてしまった。私はクリムゾンを聴き始めた頃、一連のアルバムを揃えた筈が『暗黒の世界』というアルバムを持っていないと懸念していたものだ。本作1曲目と同じく、ライナーはオリジナル邦題をそのまま用いた弊害である……せめて統一せえよ。
Fracture 突破口
「暗黒の世界からの突破口」でありながら、本当は永遠の袋小路に迷い込んでいたクリムゾンの皮肉な状況を表すに相応しいタイトル。さらには、やはり“Fracture”という単語の認識もそれほど一般的ではないので、訳しておくに越したことはない。そうでないと、前述の皮肉的状況も連想できない。


『レッド』
Fallen Angel 堕落天使
うーん……これは「堕ちた天使」か、素直に「堕天使」にでもした方がいいのか。「堕落」のままだと、のんべんだらりとしている様が思い浮かんでしまう。
One More Red Night Mare 再び赤い悪夢
「安直に訳してみました」の典型。特に言うこともない。
Providence 神の導き
この邦題は、キング・クリムゾンというバンドが「神に導かれるが如き」即興演奏を行っていたという象徴となる。この曲自体も即興演奏であるので、寧ろ実証となるかも。
Starless 暗黒
これについては賛否両論出ると思う。寧ろ「スターレス」という言葉自体に重みがあるので、邦題になると安直な気がしないでもない。が、歌詞と照らし合わせるとバンドの行き詰まりなどが邪推でき、納得もいく。いっそ最初から「聖なる暗闇」だとかの意訳をしてしまえばよかったのかも?
30周年記念盤でも、この曲だけはオリジナル邦題に戻されず「スターレス」のままだった。『21世紀の精神異常者』とほぼ逆で、こちらは原題が意味を持ち過ぎてしまったのだ。クリムゾンの誕生を告げた「21世紀の精神異常者」から、正式な解散宣言を具現化した「暗黒(スターレス)」までの間に。
その誕生と終焉のタイトルが、上記の意味で対になっているのも、興味深い点である。


『ビート』
Two Hands 二つの手
80年代以降のクリムゾンにしては珍しく、この曲だけは邦題が付いていた。しかし直訳。まあそんなもの。