『ライフ・イン・トウキョウ
〜JAPAN・トリビュート・アルバム』

LIFE IN TOKYO 〜 A TRIBUTE TO JAPAN
96年発表の、日本人ミュージシャンによるジャパン・カヴァー・アルバム。何とその年の最優秀アルバム賞だかを受賞してしまったというスグレモノだったりもする。プロデューサーはあの市川哲史氏。熱烈なファンであり理解者でもある彼だからこそ可能であり、実現した「世界一面白い、ミュージシャンの敬愛溢れたトリビュート・アルバム」である。何より各楽曲を理解し、トリビュートしている姿勢が垣間見られる。そこらへんの「テク披露のための偽り看板トリビュート」とはワケが違うのだ。
また、所謂「ヴィジュアル系」と呼ばれるミュージシャン(正確には世間で「ヴィジュアル系」とされる人々とは違い、その彼らにさらなる影響を与えたジャパンの遺伝子であるのだが……)が多数参加し、その敬愛振りを見事に披露しているのが非常に面白く、納得できる点だ。とにかく「面白い」ぞ。ジャパン・フリークを名乗るなら聴かずにはいられない一枚だ!
1.Life In Tokyo
原曲は「元祖エレ・ポップ・ナンバー」であった筈のそれを、KYO(ex:
DIE IN CRIES)とそのバック・バンド、Alien's
Stripper(解るかな? このバンド名もジャパンの影響だ)が演奏し、ロック・ナンバーに仕上げている。本作中最も恰好良く、またジャパンの代表曲がこれであることを再認識させられるナンバー。その「徹底してロック的解釈をしてやろう」という潔い姿勢が好ましく、またKYOもシルヴィアンの遺伝子を受け継いでいることを認識させてくれる。とにかく勇ましい!
2.Automatic Gun
セカンド収録のロック・ナンバーを、Scudelia
Electroがエレ・ポップに仕上げて演奏。つまり1曲目とは逆転的な発想であるわけだ。イントロからしていきなりT-レックスの“20th
Century Boy”の有名なフレーズが被さるところが、シルヴィアンに対する理解が向けられていて心地好い(マーク・ボランもボウイと並んでシルヴィアンのヒーローのひとりである)。それも違和感がまるでないところが、ジャパンに於けるT-レックスの影響を体現しているかのようで興味深い。まさかスクーデリアがジャパン好きだとは思いもしなかったが、やってくれるものだ。
3.Ain't That Peculiar
藤井麻輝(ex: SOFT BALLET)が独自のパーカッシヴな解釈でもってリメイクした楽曲に、RYUICHI(ex:
LUNA-SEA、現在の河村隆一)のねちっこい歌声が絡みつく。おお、ジャパンでも一、二を争う「ねちっこい歌」を彼が歌うとは! 批判を浴びることも多いRYUICHIの歌唱法が役立った曲であり、間違っていなかったと肯定できる曲でもある。しかも彼はジャパンを知らず、バンド・メンバーだったSUGIZOの参加により興味を持った、という「奇しい絆」による参加だったりもする。面白いものだ。さらには歌詞を日本語訳してしまうというスタンスも、潔くて好ましい。そして藤井のアレンジがまたひねくれてること……因みに、私が本作を買ったきっかけは、実はこの曲と10曲目に関与しているフジマキ目当てであったりする。それをさらなるきっかけとしてジャパンを逆転的に知るとは、自己顕示欲の多いことが多く、呆れてしまいがちな「トリビュート・アルバムというもの」もなかなか捨てたもんではない。
4.The Experience Of Swimming
再販でもってようやく『孤独な影』に収録された、もともとはシングルB面曲。キーボード・インストであった原曲が、NORIKO(Dream
Dolphine)による幻想的なヴォーカルが加わり、さらに透明感溢れるものになっている。そのインスト・パートも本作参加者の中でも最も愛情あふれるSUGIZO(ex:
LUNA-SEA)と、d-kikuによる、アコースティック・ギター・パートなどが追加された美しい曲。この3人をしてLe
Fouなるユニットを、このアルバムのために結成。このユニットの存在は後々のSUGIZOのソロなどにも実は影響を与えている。こんな曲を採り上げてしまうところが、SUGIZOのジャパン愛好振りを表しているかのようで、微笑ましい。
5.Fall In Love With Me
ISSAY(ex: DER ZIBET)と森岡賢(ex: SOFT
BALLET)のふたりを中心に、TATSU(LA-PPISCH)と藤田タカシ(DOOM)を合わせた4人がSUICIDEというユニット名を名乗り、カヴァーしている。これがまた美しいのだ。日本が誇る自己耽美男ISSAYの歌声(確かにシルヴィアン的影響力は強い)といい、自閉的な少年時代からの脱却をシルヴィアンの歌詞に見出したという森岡の、最も精神性がジャパンに近いふたりによるカヴァーなんだから、これが「究極の自己耽美ソング」であるこの曲に似合わないわけがない。特に「人生をジャパンに救ってもらった」と宣言しているモリケンは嬉しいことこのうえなかっただろうなぁ。
6.Quiet Life
4曲目ではユニットであったSUGIZOが、この曲はひとりの名義でカヴァー(d-kikuも参加)。彼はLUNA-SEAのツアーなどで多忙だったにもかかわらず「どうにか俺に2曲演らせてもらえませんか?」と懇願したほどのジャパン愛好者なのだ。そしてそれは、このカヴァーにも現れている。原曲のディスコテックな曲調を覆し、幻想的なものにしたそれには、実はひっそりと“The
Other Side Of Life”のパートが演奏されていたりもする。実に芸が細かく、愛情が感じられる。
7.Sons Of Pioneers
これはRYUICHIによる「開拓者のキミ」という副題が設けられた、またも日本語解釈カヴァー。参加者はR.H.D.と名付けられたユニットで、メンバーはRYUICHI、HIROKI(media
youth)、d-kikuの3人。ジャパンを知らなかったRYUICHIが、その楽曲群の中でも最も「ねちっこい」2曲を選んでいるというのが面白い。やはり知らずとも、共通する部分を嗅ぎ取ったのだろう。曲はこのアルバムにあって割合忠実なカヴァーだが、随所に後期ジャパンが“Ghosts”で使ったようなギミック音が込められているのがまた面白い。
8.Communist China
名義はバーニングファイヤー featuring SHOTA。その実体はKEN(ex:
Gilles de Rais)と田村直美を中心にしたユニットであるのだが、なぜSHOTAなのか解る人は解るだろう。田村直美がPearlというバンドに在籍していた折の名前であるからだ。バックはKENの他にも友田真吾、中村KOMETAROが参加。本作にあって数少ない初期のカヴァーであり、そのせいか他の曲と比べて違和感さえあるところが興味深い。ロック・ナンバーであった原曲に恥じず、さらなるロック的解釈を施している。
9.Visions Of China
奇しくも“China”繋がりである。しかも、この曲は何と後期ジャパンの準メンバーであった土屋昌巳がカヴァーしている。「本物」さえも引き寄せてしまうトリビュートに、そしてそれをさせてしまったジャパンにもはや乾杯するしかない。Kim
Morrisonも参加……誰のことか解るかな? その独特のベース・ラインとブックレット内の写真を見比べてみよう。シルヴィアンのすぐそばにいた土屋昌巳だからこそできるカヴァーであり、またその歌唱法も近いことに気付く。似てるのだ、すごく。聴きやすくしている割にはオリエンタルなリズムも残しているところはサスガ。なぜならリズムはKim
Morrison「本人」であるのだから……。
10.Nightporter
最終曲はTORRIDと名乗るふたり……3曲目で優秀なパーカッシヴ的解釈を見せた藤井麻輝と、彼がスカウトした沖縄出身の渡真利愛を中心とし、藤田タカシ、寺谷誠一、横山和俊と組んだバンドである。しかし中心は間違いなく藤井と渡であり、この会合が後にフジマキと渡に「she
shell」というユニットを組ませたのだから何があったものか解らない(後に渡は脱けてしまい、ユニットも消滅してしまったけれども)。そしてこの曲も、原曲にあった憂鬱さを全面的に醸し出し、そのうえでパーカッシヴなスタンスを採れるという面白いカヴァーだ。藤井はジャパンの解散ツアーを「追っかけ」したほどであるのだから、彼が「究極の自己耽美ソング」であるこの曲をカヴァーするのも頷ける。またそれが見事に気持ちよくないのも、彼がジャパンの造詣が深いことの証だ。だけれども、渡の歌声は確かにフジマキがスカウトしたくなるほどに気持ちいい。そのギャップがまた、面白いのだな。