『レイン・トゥリー・クロウ』


RAIN TREE CROW

(左がオリジナル盤のカートン・ボックス、中央がオリジナル・ジャケット、右が2003年再発ジャケット)

 91年に結成された「実質的再結成ユニット」唯一のアルバム。最終作『錻力の太鼓』の延長ではなく、寧ろ土着的な『孤独な影』を拡大解釈したようなアルバム。しかし当時のヨーロピアン・モダーン・ポップではなく、インプロヴィゼイションに主体を置いた演奏主体のアルバムである。後期ジャパンとそのさらなる行方を探るうえで、理解に役立つアイテムであることは間違いない。またソロ活動に転じた4人が、折しもインプロ主体の音楽を共に実践していた頃の会合であるところも興味深いし、これを一度きりの会合としたのもシルヴィアンであること、残る3人は時折活動を共にしているということなど……様々に、興味深い事項が連鎖しているのだ。
 別項でも書いているように、私はこれを「ジャパンのアルバム」としては取り扱いたくない。しかし「実質的な再結成」であることは間違いないし、後期ジャパンやその後の彼らへの理解に対する要素として、やはり取り上げたく思う。
 また、3曲入りシングルが同時期に発売された。そこからアルバム未収録の「アイ・ドリンク・トゥ・フォーゲット」が2003年再発盤にボーナス収録された。デジタル・リマスターが施され、ジャケットやブックレットも新装されたが、日本盤など一部の盤はCCCDなので要注意! CDの輸入盤を探したいところだ。


1.Big Wheels In Shanty Town
 ビッグ・ホイールズ・イン・シャンティ・タウン
 アルバムの導入曲となるインスト。土着的な女声コーラスが、否が応でも雰囲気を盛り上げてくれる。また楽曲もアフリカン・ビートの復活であり、そうなると必然的にドラムに重点が置かれ、アルバム全体を通してジャンセンの活躍がめざましい。

2.Every Colour You Are
 エヴリ・カラー・ユー・アー
 土着的なリズムにもシルヴィアンのヴォーカルが割合違和感なく溶け込めるというのも再発見である。言うまでもなくジャンセン大活躍なのだが、カーンのフレットレス・ベースもやはり突出している。バルビエリのシンセによるギミック音のせいか、どこかサイケデリックなイメージも。
 シルヴィアンのソロ・ベスト『エヴリシング・アンド・ナッシング』にリマスターされて収録。

3.Rain Tree Crow
 レイン・トゥリー・クロウ
 このユニット名にして、アルバム名にして、タイトル曲。言わば彼らのテーマとすべき楽曲だろうか。短いが静謐極まりなく、成長したシルヴィアンの歌唱が際立つ曲。よく聴くと、様々な楽器が鳴っている。また詞中の「烏(カラス)」はシルヴィアンが自身を揶揄したものであり、そうなると「樹」はその止まる場所、つまりバンドであり、はたまた「雨」は烏を襲う災難であると解釈できる。苦難を乗り越えるためにジャパンという仮面を選んだ彼の心情吐露、なのだろうか……。

4.Red Earth (As Summer Time Ends)
 レッド・アース
 美しいアコースティック・ギターが冴えるインスト。個々の個性を主張してばかりだった4人が、ようやくにしてそれが均一化された楽曲を作ろうと励んだナンバーであると言える。催眠効果さえありそうなジャンセンのタム回しが特徴的だ。

5.Pocket Full Of Change
 ポケット・フル・オブ・チェンジ
 少しズラしたジャンセンのドラムが、まず印象的。そこに被さるバルビエリの幽幻的なシンセといい、相変わらず消え入りそうに呟くシルヴィアンの歌声といい、本作は浮遊感溢れる曲調のものが多い。しかしよく聴いていると、カーンのベースが時折唸るのがまた懐かしい感覚さえ醸し出す。コーラス部分などきわめて美しく、佳曲であると言える。一瞬演奏が止まってしまうことさえも、自然体な演奏で心地好い。また「過去の亡霊」と「変化」を歌った歌詞にも興味が湧かないわけがないだろう。

6.Boat's For Burning
 ボーツ・フォー・バーニング
 ジャパンでは考えられなかった長さの、1分にも満たないシンプルな曲。ギターとハイ・ハットのみの、まったくもってシンプル極まりない曲だ。だが歌詞は強烈で、自己の完全否定のために存在する哀しい曲。

7.New Moon At Red Deer Wallow
 ニュー・ムーン・アット・レッド・ディール・クロウ
 カーンの低いクラリネットの音色を中心とした、暗く、地味なインスト。しかしよく聴けば、アヴァンギャルド系にも通じる精神錯乱を描いたような音である。それがニュー・ウェイヴの代表者であった、もとジャパンの4人から紡ぎ出されるということが、興味深くはあるまいか。

8.Blackwater
 ブラックウォーター
 淡々としたリズムに絡むバルビエリのシンセといい、味付けに専念しているカーンのベースといい、シルヴィアンの儚い歌声といい……本作中、最も美しい曲と言えるだろう。特にサビ部分の美しさは何物にも代えがたい。
 シルヴィアンのソロ・ベスト『エヴリシング・アンド・ナッシング』にリマスターされて収録。

9.A Reassuringly Dull Sunday
 ア・リアシュアリングリィ・ダル・サンデイ
 7曲目にも似て、地味で短い実験的なインスト。

10.Blackcrow Hits Shoe Shine City
 ブラッククロウ・ヒッツ・シュー・シャイン・シティ
 前半部分は前曲の雰囲気を受け継いだような暗いインストだが、後半部分に入っていくぶん曲らしくなり、シルヴィアンのヴォーカルが被さってくる。やはりシルヴィアンが自身を烏に喩えたものであり、嘲笑しているかのような詞だ。そしてまた、儚く曲は消えてしまう……

11.Scratching On The Bible Belt
 スクラッチング・オン・ザ・バイブル・ベルト
 淡々とした、奇妙なリズムを主体としたインスト。やはりここには「アヴァンギャルド」とジャンル分けされる音楽への接近が確実に潜んでいる。とすれば本作は、アフリカン・ビートとシルヴィアンの歌心と実験性が渦巻く、問題作であったことに間違いはない。特にカーンのクラリネットが薄気味悪く、シルヴィアンの奏でるマリンバやバンジョーがまた、リスナーを奇妙な感覚に陥れる。

12.Cries And Whispers
 クライズ・アンド・ウィスパーズ
 アルバム最終曲は、今まで嘘ばかり歌っていた自分を省みて、真実に生きようとする意味の込められた前向きな歌詞が心を打つ。それを、シルヴィアンが歌っているということに大きな意味があるのだ。それも叫びと囁きの内に、しかしひっそりと……やはり囁くような歌唱が、消え入るようにして、このユニットの音は静かに終わっていく。
 シルヴィアンのソロ・ベスト『エヴリシング・アンド・ナッシング』にリマスターされて収録。

13.I Drink To Forget
 アイ・ドリンク・トゥ・フォーゲット

 シングル収録曲で、2003年再発盤にボーナス収録された2分弱の短いインスト。キーボード主体の、鍵盤と各種効果音が交錯する、幻惑的かつ前衛的な曲。
 シングル『ブラックウォーター』のカップリングだったこの曲の収録をもって、レイン・トゥリー・クロウ名義での曲はすべて聴けるようになった。