『シングルズ』


THE SINGLES

 私の敬愛する市川哲史氏プロデュースの2枚組ベスト盤。「入門編にして応用編」の文句に恥じず、世にある数種の「ジャパン・ベスト」の殆どを放ってでもこのベストは手に入れるべきであろうと思う。なぜなら、他盤では小出しにされていた所謂「アリオラ時代のレア音源」が、ここに大多数集結しているからなのだ。さすがジャパンの良き理解者、市川氏の仕事である。尊敬に値するぞ、マジで!
 だけど、自分の楽曲理解度の浅さに対する批判を恐れず言ってしまうが、その殆どの別ヴァージョンに大差はない。これはアリオラがとにかく売ろう売ろうとして、別ヴァージョンを乱造したことの証ともなろう。無論、中にはまったく異なるものもあり、貴重なものばかりであるのだが……だからこそ今回、言葉少なであるライナーの解説よりも解りやすく、ここにそれらの違いを記すことにした。別ヴァージョンと呼ばれるものの理解に、少しでも役立てば幸いである。
 願わくば、同様の企画をヴァージン・レーベルに於いてもやってほしいものだ。シングル曲のヴァージン音源は、殆どが埋もれたまま今日に至っているのだから。
(未説明楽曲を除く邦題は省略、それらは各アルバムを参照のこと。なお『シングルズ』のプログラムにヴァージョンが無表記であるものは表記せず、解説内で触れている)


[Disc-1]

1.Don't Rain On My Parade
 ファースト『果てしなき反抗』と同ヴァージョン。

2.State Line
 ステイト・ライン
 デビュー・シングルとなったDisc-1の3.のカップリング曲にしてアルバム未収録曲。しかし当時の彼ららしく、ディスコテックではあるのだが、ひときわテンポがゆっくりで、同時期の『果てしなき反抗』収録曲とはまた違った趣を見せている。ただ、特別な面白味もなく終わるのも同様だが。

3.The Unconventional
 ファースト『果てしなき反抗』と同ヴァージョン。

4.Adolescent Sex
 ファースト『果てしなき反抗』と同ヴァージョン。

5.Sometimes I Feel So Low
 セカンド『苦悩の旋律』と同ヴァージョン。

6.Love Is Infectious
 セカンド『苦悩の旋律』と同ヴァージョン。

7.Life In Tokyo (short version)
 ライフ・イン・トウキョウ
 売り上げが伸びないジャパンに苛立ったアリオラがジョルジオ・モロダーを起用し、作られたジャパンの代表曲。それでいて最も別ヴァージョンの多い曲でもあるが、残念ながら、本作だけではカヴァーしきれないほど多数のヴァージョンが存在する。この「ショート・ヴァージョン」は最初に世に出されたもので、8.とのカップリングでシングル化された。そのために“part 1”と表記されたり、無表記であったりする場合もよくある。初期作品再販企画ボックス『プロフェティーク』のボーナス・ディスクに収録されていたのもこのヴァージョン。曲自体は「元祖エレ・ポップ・ナンバー」で、シルヴィアンが東京での生活にインスパイアされた歌詞を軸にして製作されたもの。またサード『クワイエット・ライフ』のヨーロピアン・モダーン・ミュージックとダンス・ミュージックの融合の布石になった重要曲。

8.Life In Tokyo (part 2)
 これはそのカップリングで、インスト・パート、それもリズム・トラックを中心として切り取り、再構築。そういった手法により別の曲として作り上げたもの。いや、間奏部分を拡大解釈したもの、と言えば話が早いか。ヴォーカル・トラックは後半にコーラス部分が入るのみ。

9.I Second That Emotion
 セカンド・ザット・エモーション
 サード『クワイエット・ライフ』のプロデューサーでもあるジョン・パンターが采配を振るい、シングル用に作られた、スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの67年ヒット曲のカヴァー。その直後のジャパンが得意としたエレ・ポップ的解釈で、佳作である。それもジャパンには珍しい、割と真っ当なミディアム・テンポ・スタイルなので、彼らの楽曲中で最も聴きやすい曲と言えるだろう。

10.Quiet Life
 サード『クワイエット・ライフ』と同ヴァージョン。

11.Life In Tokyo
 Disc-1の7.の「ニュー・エディット・ヴァージョン」と呼ばれるもの。だが曲の長さはまったく同じで、大差もない。強いて言えば間奏部分のスネアの音が目立っている程度だろうか。その名称に違い、恐らくはリミックスの類であろうと思われる。

12.European Son
 ヨーロピアン・サン
 セカンド『苦悩の旋律』リリース後の武道館公演で初披露された楽曲で、シングル・リリースは『クワイエット・ライフ』の後になる。カーンのフレットレス・ベースが傲慢にふるまうこの曲を、私は重要なターニング・ポイントであると考えるのだが、その解説は別項にて。

13.Quiet Life
 シングル用リミックス・ヴァージョン。要は繰り返される演奏部分を随所に削り、1分16秒ほど短縮したエディット。それはイントロ部分や、ギター・パートに顕著だろう。

14.A Foreign Place
 フォーリン・プレイス
 初めてシルヴィアンがメンバーと共作した曲で、共作者はバルビエリ。インスト・パートに於いてバルビエリが不可欠であったことを示すキーボード主体の、3分ほどのインスト曲だ。既に東洋的イメージを匂わせるフレーズがキーボードとベースに現れており、その後の展開を考えると興味深い。つまり西洋人である彼らにとっての「異国の地」とは東洋であったわけだな、と当然ではあるが実感させられる。

15.European Son
 オリジナルとはまったく違う、斬新なリミックス・ヴァージョン。エレ・ポップ的解釈を拡大しており、テクノ寸前のダンス・ミュージックとなっている。それは最初のドラムやリズム・パートであるシンセの音色の変化に顕著だろう。またストリングス音が歪められているのも特徴。

16.Alien
 サード『クワイエット・ライフ』収録曲のリミックス・ヴァージョン。だが収録時間も含め、大差はなし。主に音域の調整などを行ったのだろう。

17.I Second That Emotion
 Disc-1の9.のニュー・リミックス・ヴァージョン。10秒ほど収録時間が長いが、これといって目立った変化があるわけでもない。

18.Halloween
 サード『クワイエット・ライフ』収録曲のリミックス・ヴァージョン。収録時間が3秒ほど長いが、これも大差はなし。強いて言えばイントロのドラムの音が若干小さくなった気が……気のせいか? だがやはり音域調整などの意味でのリミックスなのだろう。


[Disc-2]

1.Life In Tokyo
 これがまたややこしい、前述のものとは違う「リ・リミックス・ヴァージョン」。“part 2”の一部と融合することにより、30秒ほど拡大されている。イントロ部分を一聴すればそれは明白だろう。

2.Life In Tokyo (theme)
 同名曲中、本トラックのように“theme”と付くものはインスト曲。“part 2”製作と似て、リズム・トラックを軸に引用して、そこにやはり引用した演奏を肉付けしていったもの。ただ、その演奏はニュー・テイクであるらしい。そうすることでこの曲をテーマ化し、言わば「インストゥルメンタル・ヴァージョン」とでも呼ぶべき楽曲に仕上げている。

3.All Tomorrow's Parties
 サード『クワイエット・ライフ』収録曲の、スティーヴ・ナイによるリミックス・ヴァージョン。インスト・パートが2分以上も短縮されている。つまりはエディット・ヴァージョンとでも言うべきものだ。

4.In Vogue (Live In Tokyo)
 80年に実現した2度目の来日公演を収録した幻のドイツ盤シングルから。スタジオ・テイクではエンディング部分がフェイド・アウトであったものを完奏しているために、30秒ほど短い。演奏自体は割合忠実な再現だが、ディーンのギターなどに違いが見られる。
 さらに初期の3曲を合わせた4曲のライヴ・ヴァージョンが『アセンブラージュ』(初期日本盤)と『ベスト・オブ・ジャパン』にも収録されているので、そちらも参照されたい。

5.Life In Tokyo (12″extended version)
 ドイツ盤12インチのロング・ヴァージョン。やはり“part 2”の各所を融合させることで、4分近い拡大を行っている。特にイントロと、中盤以降の繰り返されるコーラス部分にそれが見て取れる。寧ろ“part1”と“part 2”を完全に融合させてしまった感があるので、両方を楽しみたい場合には手っ取り早いのかも。

6.European Son (12″version)
 ドイツ盤12インチのロング・ヴァージョン。オリジナル・ヴァージョンを基本として、そのインスト・パートのリフレインを増やすことによって1分20秒もの拡大を実現している。イントロは言うまでもなく、また中間部など、ドラムの音の質を変えて挿入している部分があるのでそれが解る。エンディング部分の“European son”のコーラスもやたら繰り返される。

7.Sometimes I Feel So Low (12″version)
 幻のアメリカ・デビュー・シングルに採用されていた12インチ・ヴァージョン。違いはイントロ部分の、少しずつ大きくなってくるドラムの音が5秒ほど長くなっているぐらい。

8.Adolescent Sex (re-recorded version)
 80年にリリースされた「リ・レコーディッド・ヴァージョン」。イントロ部分に演奏が追加されるなどして、30秒ほど演奏時間が長い。だがそれ以外は割と忠実な再現で、特にシルヴィアンの声質など変化は少なく、録音時期は発売時期よりずっと前、恐らくはセカンド発表前後であったと推測される。BGMによる廉価盤ベスト・シリーズ“BEST OF BEST”の『ベスト・オブ・JAPAN』にも収録。

9.Life In Tokyo (extended remix)
 Disc-2の1.の12インチ用ロング・ヴァージョン。だが極端な話、Disc-2の1.との大差はなく、拡大のための基本構成も似ている。

10.Life In Tokyo (12″theme)
 Disc-2の2.の12インチ用ロング・ヴァージョン……とされているが、その収録時間や内容に殆ど違いはないので、リミックスの類だろう。Disc-2の9.のカップリング。

11.All Tomorrow's Parties (1983 remix)
 Disc-2の3.の12インチ用ロング・ヴァージョン。つまりはアルバム・テイクを短縮したトラックのロング・ヴァージョンという奇妙な立場になっている。長さとしてはその中間に属し、アルバム・ヴァージョンより30秒ほど短い。縮めたヴァージョンのリフレインを増やすなどしての拡大なので、アルバム・ヴァージョンとはイントロなどに違いが見られる。

12.I Second That Emotion (extended remix)
 Disc-1の17.の12インチ用ロング・ヴァージョン。やはりインスト・パートを繰り返して水増しすることにより、1分20秒ほど拡大されている。それはイントロにまず現れており、あとはエンディング部分に集約される。特にエンディングは原曲がフェイド・アウトであったのに対して、こちらではリズム・トラックだけになった後に静かに終わる。違いが最も解りやすい一曲か。

13.Halloween (12″version)
 Disc-1の18.の12インチ用ロング・ヴァージョン……ということになっているが、やはり演奏時間は同じで、リミックスの類。若干シンセの音がよく聴こえるか?

14.European Son (extended remix)
 Disc-1の15.の12インチ用ロング・ヴァージョン。つまりリミックス・ヴァージョンの音色で、1分40秒ほどインスト・パートの拡大を行ったものということになる。

15.Quiet Life (extended version)
 Disc-1の13.の12インチ用ロング・ヴァージョン。またも短縮されていた曲のロング・ヴァージョンということになるが、そのためにまるで原曲に戻っている。よって、単純にリミックス・ヴァージョンと考えるべきだろう。

16.Fall In Love With Me (12″version)
 そのカップリングだが、長さもまったく同じで、やはりリミックスの類。