OFF THE WALL
〜The Spirit of PINK FLOYD〜

〜2009年03月13日 於 東京国際フォーラム〜

 昨今、トリビュートなるものが実に多い。
 その殆どは演奏能力のひけらかしや、新人紹介の場となってしまい、今や「トリビュート」という言葉の意味さえ忘れられてしまった。
 しかし中には、本当に対象を尊敬して演奏するミュージシャンもいる。
 今回の「OFF THE WALL」なるバンドも、そのひとつと言っていいだろう。ピンク・フロイド公認のカヴァー・バンド(コピー・バンドではない)で、華麗なステージと卓越した演奏力でフロイド・ナンバーを完全に演奏する。その実力は確かで、ヨーロッパでは観客を熱狂の渦に巻き込んだ。
 その「OFF THE WALL」が、来日公演する。
 その噂が確かなものになり、彼らは、日本の地を踏んだ。

 東京国際フォーラムは、余り人が入っていなかった。
 大丈夫なのだろうか? 本家のロジャー・ウォーターズのソロと同じステージを使ってしまって。そう思ってしまったが、それは杞憂に終わった。開演までにはかなりの集客数のホールがほぼ満員。平日だし、中心の客はサラリーマンだし、時間的なものだったのだろう……と思えば、後に「チケットは売れなくて半額で売られた」という情報が。なるほど、宣伝不足にしては入ったのはそのせいなのね。
 ステージの中央には本家より小ぶりだが、しっかり円形スクリーンが設置されている。ここにフロイドのスケールを求めてはいけない。そこには「OFF THE WALL」のロゴと狂気のジャケットをあしらったイメージが浮かんでいる。本家よろしく、そこにイメージ画像が浮かぶのだろう。
 ステージが暗転し、観客の拍手の中、楽器演奏陣の6人のメンバーが現れて横に並び、ポーズを取る。いよいよ開演だ。会場には「シシファス組曲」らしき音楽が流れている。それにノイズが混じり、風の吹く音がして、演奏は始まった。
 そう、1曲目は「吹けよ風、呼べよ嵐」。やや派手でもあり地味な感もあるが堅実な演奏に、手数の多いドラムがよく聞こえる。間奏はアンビエント的にシンセが鳴り、“One Of These Days……”の喋りは生でマイクを通された。円形スクリーンには炎が渦巻き、ライトが眩しくたかれる。CG映像が少し安っぽいが、冒頭を飾るのに相応しい演奏だった。
 演奏終了後、ヴォーカリストの男性とふたりの女性コーラスが現れ、メンバーは9人になる。重い効果音が始まる。まさか? と思ったら、何と「戦争の犬たち」が始まった。フロイドでも不人気のこの曲を演奏するとは。意外だったが、ウェットながら乾いたヴォーカル、美しいコーラスに彩られてこの曲を見直した。ヴォーカルはもとジェネシスのレイ・ウィルソンに声質が似ていて、さながらその頃のジェネシスのライヴに行ったような気分にさせられた。これは本当の感想であり皮肉でもある。前曲ではパーカッションを叩いていたサックスの男性(アイリッシュなのかスカート姿)が前に飛び出してソロを取り、喧騒を作る。
「こんばんは、東京! ファンタスティックなショウをお届けするよ」
 そう宣言され、次曲へ。時計の音が鳴り響く。そう、「タイム」だ。「パコ、パコ」というイントロの音はパーカッションで再現され、まるでロジャー・バンドのように手数の多いドラムが曲を進めていく。安定した演奏と、実力が解るソロ・パート。円形スクリーンには時計や狂気、炎などオフィシャルな画像が映る。フロイド(というかギルモア?)公認のバンドということが解る。リックのヴォーカル・パートはサックスの男性が取っていた。大活躍だ。
 パーカッシヴな演奏が始まる。「幻の翼」だ。再結成フロイドの中でも結構人気の高いナンバーなので見る目も厳しくなるが、軽快な出だしから重厚なコーラス、突き抜けたギターと、本家を凌ぐほどのエンタテインメント的な演奏だ。規模は小さいが再結成フロイドのステージを見ているようだった。円形スクリーンにはビデオ・クリップの映像が流れていた。
 暗転し、緑のレーザー光線が乱反射され、水滴のような音が響く。まさか、そう、そのまさかだ。「エコーズ」である。幻想的な演奏が繰り広げられ、完全にコピーされている。しかしヴォーカリストはステージを去っている。どうするのだろう? と思えば、コーラスの女性ふたりが歌い出した。意外だった。しかし美しくハモるそのヴォーカルは繊細で、違和感がなかった。ただ、残念なことに間奏になったところで演奏は終わり、ワン・コーラスまでの演奏だった。長尺曲だから時間上の都合で、仕方ないアレンジなのかも知れない。
 レジ・キャッシャーの音がする。もちろん「マネー」だ。ヴォーカリストが戻ってきて、叫ぶように歌う。円形スクリーンには歌詞のはしばしとイメージ画像が浮かび、切迫感のあるものになっている。サックスが闊達で、ギターはユニゾンされ、演奏は俄然盛り上がる。最後は、完奏してから間を置いてエンディングを迎えるオリジナルのアレンジだった。
 淋しげなギターが響く。「ヘイ・ユウ」だ。絞るような歌声に、刹那い気持になる。間奏ではヴォーカリストがライトを持ち、ステージ上を走り回る。その間奏はヘヴィな演奏で、ベースが饒舌だった。しかし印象が薄かったのも事実。
 ヘヴィなイントロから響くギターのカッティング。これは「ラン・ライク・ヘル」だ。場内から自然と(?)手拍子があがる。ヴォーカルはヴォーカリストと、女性ギタリストのふたりで男女交互にひとつのマイクで歌っていた。サイケな鍵盤ソロが繰り広げられ、ディスコテックながら幻惑的な演奏だった。ただ文句を言うなら、余りに本家を意識した展開だった。
 盛り上がった後、緑のレーザーと幽玄的な鍵盤に静まる場内。「狂ったダイアモンド」だ。この公演が(日本側の一方的な売り文句である)リチャード・ライト追悼公演であることを忍ばせるような、重厚で深い演奏だった。ギターはブルージィでありながらトーンがやや軽く、しかし完全なコピーだった。円形スクリーンには大きな眼が映されている。それが次第に引いていき、シド・バレットの顔が浮かんだ。それから様々なシドの画像が散りばめられた。水滴のようなギターと、泣くようなギターの、ギター2本のハモりが気持いい。サックスはややアドリブ気味で、メロウな雰囲気を盛り上げる。最も聴きどころのある演奏だった。さながら『パルス』のようなアレンジだった。
 ここで意外な曲が登場。「ヤング・ラスト」だ。最初は何という曲か思い出せなかったぐらい、単独でのライヴ演奏は珍しい曲だった。この曲をチョイスしたセンスは意外だが唸らせるものがある。この曲にもサックスが入り、「ああ、初めてサックス入りの『エコーズ』を聴いたフロイド・ファンはこういう心境だったのかな」と思わせた。だが、再結成フロイドのものと言ってもいいほど秀逸なアレンジで、グルーヴィな間奏、ファンキーなエンディングと、意外性もあり充実したものだった。
 メロウなピアノとサックスが鳴り始める。それは「アス・アンド・ゼム」。サックスはいい意味でも悪い意味でも音が若い。円形スクリーンには戦争のフィルムが映し出され、この曲のメッセージを反映している。本家よりメロウかも、と思えるほど卓越した演奏だった。しかし「9.11」の映像を使ってしまうのは余りにも帝国主義だと思った。
 そのままメドレーで、サイケながら織るような鍵盤ソロに移る。まさかの「望みの色を」だった。ギターもサイケで、サックスのソロも入った、オリジナルのイメージを増幅したような演奏だった。
 ということは……やはり、次曲もメドレー。もちろん「狂人は心に」だ。水を打つようなギターを弾きながら、女性ギタリストがスキャットする。ナレーションは独自に録音されたものだった。
 そうなると、当然のこと次は「狂気日食」。大団円という言葉が似合う盛り上がり。円形スクリーンには様々なフロイドのオブジェクトが飛び交い、やがて『狂気』のジャケットが映し出され、収斂するように演奏は終わった。
 大喝采の中、ジャム・セッション的な演奏が始まる。メンバー紹介だった。ヴォーカリストが各人の名前を呼び、呼ばれたメンバーは楽器や声でソロを取る。そして最後に“We Are Spirit of PINK FLOYD!”と叫んで締め括られた。
 ここでまた意外な曲が登場。それはピアノのイントロで判る「虚空のスキャット」。誰が歌うのか? コーラスのふたりか? と思えば、女性ギタリストがマイクを握り締めて絶唱。意外なほど「スピリット」の入った歌唱で、ギターだけでなくヴォーカルも一人前だった。だが、原曲に勝っていないのは当然というか仕方のないところ。それでもよく歌えた方だと思う。
 ここで、本家より借りたのであろうS.E.が響く。その効果音だけでファンなら解る、「あなたがここにいてほしい」の始まりだ。ふたりのギタリストはアコースティック・ギターに持ち替え、ヴォーカリストはもちろんスキャットもする。円形スクリーンには様々な時代のフロイド・メンバーが映し出され、特に「LIVE 8」の再会写真と、「5人フロイド」の写真がクローズ・アップされていた。「あなたがここにいてほしい」の「あなた」とは、フロイドそのもののことかも知れない。もはや再結成は望めない、ふたりも鬼籍に入ってしまったフロイド。そういう意味では鎮魂歌のようだった。本家よろしく、会場も自然と(??)合唱していた。
 ここで本編はラストを迎える。最後の曲はシニカルな選曲で、「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール パート2」だった。コーラス部分の合唱から始まり、「ザ・ハピエスト・デイズ・オブ・アワ・ライヴズ」のエンディングから演奏がスタートする。円形スクリーンには映画『ザ・ウォール』のフィルムが映され、いやがおうにも気分は盛り上がる。コーラス部分はマイクを差し向けられ、客席は大合唱。ジャム的な間奏を挟み、大団円と言うに相応しい、コピーではない、バンドらしいエンディングで本編は幕を閉じた。
「ありがとう東京、またね」
 ヴォーカリストそう言い残し、メンバーはステージを去る。暗闇の中、客席からは自然と(???)アンコールを求める拍手が起こり、鳴りやまなかった。メンバーはほどなく(というか予定調和のように)再登場し、本当に最後の曲に入る。
 まるで本家の『ザ・ウォール』ライヴのように、「イズ・ゼア・エニバディ・アウト・ゼア?」というS.E.から、重厚な鍵盤と踊るようなギターが始まる。そう、最後は「コンフォタブリー・ナム」。円形スクリーンにはこの曲をイメージしたのだろう患者とナースのCGが展開しているが、ちょっとチープだ。男性ギターの語るようなソロに、ハスキーな女性ギターのコーラス。余り目立たないが堅実で悠然とした男性ギターのソロはギルモアが乗り移ったようだ。最後にはサックスが加わり、女性陣がコーラスして、演奏は苛烈な熱を帯びる。そうして再び大団円を迎え、炸裂するようにバンド・ノイズが掻き鳴らされた。
 円形スクリーンには“THE END”の文字が浮かび、メンバー9人は横一列になって礼をして、ショウは終わった。

 コピーとかカヴァーとか、トリビュートとかいう定義に踊らされる暇はなかった。ファンであれば、文句を言う前に納得してしまう内容だったに違いない。それほどに充実した、満足感のあるステージだった。本家では決して見られないようなアレンジや、ファンの思い描くフロイド像をファン目線から再現してくれた貴重なライヴだった。
 帰りしなに見た売り場では、OFF THE WALLのライヴDVDを買う列ができていた。そうやってもう一度見たくなるほど、充実したステージだったのだから。
 これからも、もはや再結成できなくなってしまった本家の代わりに、フロイド曲を演奏し続けてフロイドの伝統を守り続けて欲しい。
 今後のOFF THE WALLに期待だ!


<SET LIST>

01. One Of These Days
02. Dogs Of The War
03. Time 〜 Breathe(reprise)
04. Learning To Fly
05. Echoes
06. Money
07. Hey You
08. Run Like Hell
09. Shine On You Crazy Diamond
10. Young Lust
11. Us And Them
12. Any Colour You Like
13. Brain Damage
14. Eclipse
15. Member Introduction
16. The Great Gig TIn The SKy
17. Wish You Were Here
18. Another Brick In The Wall part 2
Encore
19. Comfortably Numb