原田宗典『平成トム・ソーヤー』

〜現代寓話としての青春劇〜(2009/02/24)


(集英社文庫)

 文庫で揃えたい、という作家がいる。僕にとっては中島らもやナンシー関などなのだが、原田宗典もそのひとりだ。なぜ文庫かというと省スペース・低コストを一応の目的としているのだが、それよりもっと「気軽に」読めるということもあるかも知れない。また「単行本で揃えるほど熱を入れていない」ということの裏返しのようにも思える。
 ってことは僕にとってムネノリは魅力的じゃないってことか? いやいや、彼の文章は文庫にピッタリなのだ。彼が得意としてきたお気軽エッセイは文庫でこそより気軽に楽しめるし、小説も重過ぎないので携帯に合う。じっくりと鎮座して読むよりも、電車の座席でどれチト読んでみるか、という感じがムネノリの文章にはよく似合う。
 と、思っていた。
 しかし、本作は単行本で読めばよかった、と思ってしまった。のちの『スメル男』にも似た「きっかけ → 事件 → 渦中 → 決行 → 落ち着いたラスト」という長編でのムネノリ黄金パターンなのだが、話がよくできている。前半が説明過多で後半がやや急展開な感もあるが、ムネノリの小説の中では最も読みやすく、読み応えのあるものではないだろうか。短編は憂鬱なミステリものが多いし、長編は黄金パターンなので、「ムネノリの小説をとりあえず読んでみたい」という方にはお薦めだ。初長編作だし、ムネノリ文学の第一歩に相応しいのではないだろうか。
 エッセイでしかムネノリを知らないと、若干のギャップがあるかも知れない。しかし、エッセイを読んでいるとなおさら楽しめる。ベッド・シーンの描写がコト細かでないのが、「イヤンイヤン原田恥ずかしいッ」っていう感じなのかと思ってしまう。村上龍だったらもっとエロ・グロに描きますよ。サワヤカでよいではないか。
 そうそう、お話自体を紹介するのを忘れてましたね。
 本作は原田宗典の初長編作品で、高校生スリ師が仲間と共謀して、三人で有名私立大学の入試問題をスろうとする話です。簡単に言えば。そこに各人のバックグラウンドやアクシデントが重なり、スリリングな書き口になっている。なぜ入試問題をスらなきゃいけなくなったかとか、どんなアクシデントがあるかは、読んでみてください。端的に紹介すれば、ヤクザとの絡み、家族関係、突然の恋、仲間の死……などなど。
 ただ、完成度は決して高くない。詳細設定が投げっ放しな感もあるし、話が急展開し過ぎる部分もある。理系でトップのスウガクが文系の大学に入ろうとするのも変だ。ちさと婆さんの運命やソム・ソーヤーとハックルベリー・フィンの喩えは説教臭いメッセージ的なものも受ける。だがスピード感やスリルはそれらを充分に補っている……だろうか? まぁそこいらのライト・ノヴェルなんかよりずっといい読み物であることには変わりない。のちの『スメル男』と並んで、ムネノリ長編のひとつの基盤になっている。
 でもね、正直なことを言うとね、原田宗典はやっぱりエッセイだな。小説になるとミステリ的な短編はポーみたいでいいんだけど、長編になると少しダレる。テンポよく書き進めたかどうかが見えてしまうし、ここで盛り上げとこうか、とかいう作者の読みまで見えてしまう。文体も意図しているのだろうけど、エッセイと似通った部分が多いし。それでも、ムネノリがずっと抱え続けてきた「憂鬱」は主人公ノムラノブオやスウガクに反映されているかな。会ったその日に抱きたくなるほどのキクチの魅力がいまひとつ伝わらなかったのは残念。
 けど、青春真っ只中にいる人にはとても面白いと思う。赤川次郎なんかよりずっとドキドキして、北方謙三なんかよりずっとあとに残る作品だ。現代寓話のような感覚で読んでみるといいと思う。

 僕は未読だが、『戦線スパイクヒルズ』という題名で漫画化されたという。機会があればそちらも読んでみたく思う。


(スクウェア・エニックス)

……と書いておいた矢先、ネット・オークションでその漫画を全7巻衝動買いしてしまったので、ネタバレにならない程度の感想を少し。
 かなり漫画オリジナル要素が多く、しかし小説のイメージを逸脱していないので楽しめた。寧ろ小説の見えない部分が見られた感じだ。それを認められるかどうかは読者次第だろうが、僕は漫画のオリジナル要素を支持する。世界に深みを与えているから。と言うと小説が薄っぺらいのかと思ってしまうが、そういうわけじゃない。小説を読んでから漫画を読むにはいいだろう。だがその逆だと漫画の「イメージ」が先行してしまうので、小説の「素直な感動」が得られない。でもやっぱりというか、少年向けになってはいるね。ライヴァルがいたりして。要人の過去を描いたりして世界観を深めているのも、解りやすいようにした漫画だからこそじゃないだろうか。でも、表現描写は正直小説の方がよかったかな。漫画だとどうしても「活劇的」になってしまうから。それが漫画の武器でもあり弱味でもあるんだけどね。
 というわけで、僕は「小説 → 漫画」という読み方をお薦めします。
 でも、どっちも面白いよ。