全曲解説:提供曲・その他
〜楽曲・歌詞提供やオムニバス参加など〜
天野は外に向けての活動も行っていた。それをここにまとめることとする。直接的な関与は薄いものの、天野の能力や立場、順応性を推し量るには資料となるだろう。
[オムニバス]

V.A./会社案内(CD)
一部店舗及び、「音倉レコード」の公式サイトによる通信販売通販のみで発売された、音倉レコードに在籍するミュージシャンによるオムニバス盤。ジャケットは表裏ともに天野の筆による(力の入った)油彩で、まるで走り書きを重ねたような抽象的かつ印象的な「表」と、羽の生えた「存在」を描いた象徴的な「裏」は彼女の芸術性を推し量るためには、重要な判断材料となるだろう。楽曲としては、ややボーナス・トラック的な立場でシングル・ヴァージョンの「箱庭」を提供している(というよりも収録されている)。ライヴの模様を収めた映像版『音倉レコード会社案内ビデオ』も通販のみでリリースされ、そちらには3曲のアコースティック演奏と「箱庭」のビデオ・クリップが収録されている。
[歌詞・楽曲提供]

B.N.W.(Brand New World)/Over Drive(CD)
一部店舗での販売から、「音倉レコード」の公式サイトにて通信販売されるに至った少女ヴォーカル/ダンス・ユニット4人組のデビュー・マキシ。天野が作詞・作曲した楽曲を2曲提供(クレジットは「ヒメギミ」であるので「天野そのもの」による提供ではない。なお、編曲は天野のシングル5曲のリミックスを手がけていたイズタニ
タカヒロ)しており、こちらはその表題曲。
テンポのゆるいシンセ・ベースを機軸にしているため単調な感はあるが、ストリングスや鍵盤の音には魅力的なフレーズを多く含む。しかし惜しむらくはメンバーの声の分離(ミックスの関係もあるのだろうが)。ヴォーカルの力量差がはっきり聞き取れてしまい、特にブリッジ部分での「棒読み」ならぬ「棒うたい」がどうしても気になってしまう。歌詞は普遍性を高めるために薄めてはあるものの、やはり天野らしさが滲む。「唇は触れるためにあるの」というフレーズは、その変換の一種。またブリッジ部分の「スピードは私が……」という一節は失礼だが、ならぬ邪推さえしてしまいそうだ。
天野曲「ダンデライオン」との併聴を強く勧めたい。やはり「ダンデライオン」の提供先は、このB.N.W.であっただろうことが推測・確信できるからだ。
ただ、この曲はもともと「ミサイル」というタイトルで、歌詞も一部が異なっていた。ところが諸々の問題(当時、戦争が勃発したバック・グラウンド)から歌詞を変更、そのフレーズを抜き出したタイトルも変更……となり、やがてこうしたタイトル、歌詞、アレンジに落ち着いた。しかし天野は不満だったのだろう、少しばかり思わせ振りなフレーズを含む原曲を、バンド・ヴァージョンらしいロック・アレンジに変えて「プライベートライオン リターンズ」にて演奏し、自身のリ・リリース・シングル『Love
Dealer』でのカップリング曲としてスタジオ録音を収録するに至った。
B.N.W.(Brand New World)/裸足のマーメイド(CD)
前述の「Over Drive」のカップリング曲で、こちらも天野による作詞・作曲。
お手軽なダンス・チューンながら、ギターやストリングスは魅力的……これでは「Over
Drive」と同じようだが、打ち込み主体の曲で逆に生楽器との絡みが武器になるのはよくあること。言うなれば、それだけリズム部分は普遍で、魅力が少ないということでもある。また、ヴォーカルがそれを補うほど魅力的ではないのが結局は惜しまれる。どんな楽曲でも、歌主体である限りヴォーカルが出来を左右するのだから。ただ、ギターが絡む様は特筆に値する。
こちらの方がより普遍的な歌詞になっており、B.N.W.としてはマッチするのではないだろうか。本作の主役は作詞・作曲を手がけた天野ではなく、飽くまでB.N.W.であることをお忘れなく。個人的には「ドミナント」などという言葉はなかなか聞いたことがなく、普遍性を醸しながらも「らしさ」が残る(すべて「わたし」はひらがなである、なども)のが面白い。また「あなたは未来は予想つかないとこがいいと言うの/最後は不動のものが欲しいくせに」という一節は、他の天野作品と同列に値する秀逸な表現。
こうした楽曲提供が機会となり、B.N.W.は天野のライヴ『メグに逢えたら』にもダンサーとして参加することになる。

B.N.W.(Brand New World)/Ride On(CD)
B.N.W.のサード・マキシ・シングルは『ピリオド./Ride
On』という両A面仕様だが、2曲目、つまり実質的なカップリング曲となる「Ride
On」を、天野がまたも「ヒメギミ」名義で提供している(なお、1曲目「ピリオド.」は天野やその人脈との交流も多いQoonieの提供曲。こちらはしっとりとしたポップ・ソング)。
まさか、また抜けきれないリズム主体のアレンジに落ち着いてしまうのか?……と思いきや、以前の提供曲に比べ、アレンジに力が入って垢抜けた仕上がりになっている。明るい曲調はひたすらダンサブルではあるが、曲間に何度と差し挟まれるように配置されたギターや、(鍵盤の)小刻みなストリングスなどが雰囲気を盛り上げている。シンセ・ベースの進行も解りやすいながら単調過ぎてはいない。
歌詞が特に面白く、最低限の荷物とお菓子を持って、女ひとりで方向音痴なドライヴの旅に出るというものなのだが、旅につきものの切迫感や漂白感はまるでなく、非常にのんびりとしている。コミカルな曲調と相俟って、「秘密サークル タイガーマシーン」による「君が好き♪」にも近い雰囲気と言えるかも知れない。
ひょっとして、だが……カタカナで発音すると「ライドン」になるこの曲は、天野の「ライオン」の対曲ではないだろうか?

9nine/白い華〜White Garden〜(CD)
9人組アイドル・ユニット9nineのデビュー・アルバム『first
9』収録曲。作曲、天野月子。さすがにアイドル・グループのために書いたとあって、ロック色はなくポップ色が強く漂う。単音弾きのギターが効果的に響いている、打ち込み主体でブライトな、そしてしっとりとしたDメロが入っている楽曲進行はどこか天野らしい。安直なダンス・ビートには走らず、純然たるポップ・ナンバーとして1曲目に君臨している佳曲。白い華に自らの弱さを思い知り強さを得る、という作詞は山下知恵。アレンジは音倉組の戸倉弘智と藤田謙一。ストリングスやシンセサイザーの響きは彼らの手腕によるものだろう。
のちに『ウマ・サーモン』で天野ヴォーカルでリメイクされた。
9nine/cotton candy(CD)
同じく『first 9』収録曲。作詞、天野月子。さすがにアイドル・グループのために書いたとあって、きわどいフレーズはないが、天野の純愛ものに近いタッチを醸し出しており、天野が乙女チックな歌詞を書くとこうなるのか、という感触。ファースト・キスの淡い想いを綴っていたりと、「はじめて」の愚かさと勇気を描き、やがて恋には終わりが来ることを予見している。少女的でありながら大人へ成長する様を描いた、思春期独特の少しばかり「青い」味わい。ポップでキッチュ、そしてコーラスなどはパーカッシヴな作曲はJin
Nakamura。アレンジは音倉組の戸倉弘智と藤田謙一。電子音やディストーション・ギターの音色は彼らの手腕によるものだろう。
なお、このアルバムは作詞・作曲陣が豪華で、Qoonieなども楽曲提供している。また、オビには「手が届かない、でも触れてみたい。そう思わせてくれるアイドルは、本当に久しぶりな気がします」という天野月子によるコメントが掲載されている。

EARTHSHAKER/Sully(CD)
渾身のアルバム『AIM』収録曲。作詞、天野月子。「わたしが自分の軌跡に刻みつけたい世界と、EARTHSHAKERに鳴らし続けていってほしい世界、そのふたつを思い描いて書いた」とのこと。どこまで天野色を出せるか、どこまでEARTHSHAKERのヴォーカル、西田“マーシー”昌史色に染まるか、そのぶつかり合いを「コラボレイト」できるか、が天野の挑戦する視点だったという。そのため、歌詞はそのシェイカー路線でありながら、両者のせめぎ合いのようなものが感じ取れる。錆びた刃物を「代用品は他にないだろう、たったひとつを愛でていく」というあたりに「たったひとつのものを愛でる」スタンスが見受けられる。まず最初に「美しい世界はもうないというのなら」「冒涜の果てに」という言葉が浮かび、「冒涜」を意味する英語“sully(サリー)”を人名読みにして「シュリー」となったそうだ。なお、天野が作詞に於いて「俺」を主語に用いたのは初めてのこと。
作曲はシャラ。メタリックな楽曲がマーシーのヴォーカルと相俟って映える佳曲。キャッチーで新鮮味あふれる。作中でもポップな仕上がりになっていて、EARTHSHAKER初心者にもお薦めできる曲。
のちに『ウマ・サーモン』でEARTHSHAKERの演奏陣を招いて天野ヴォーカルでリメイクされた。

EARTHSHAKER/ロシアンルーレット(CD)
EARTHSHAKER活動25周年アニヴァーサリー・アルバム『QUARTER』に、天野が前作に続いて歌詞を2曲提供している。天野の弁によると、EARTHSHAKERのヴォーカリスト、マーシーは性別だけでなく声質もかなり違うので、同じ歌詞を歌った時の印象もかなり変わってくる(EARTHSHAKERも天野も歌った「Sully」を参照のこと)。そこで今回は「マーシーが歌うことで完結する世界」をこっそり目指してみた、という。月子節満載ではあるが。天野はデモ・テープを聴きながら歌詞を当て嵌めるとのことで、その時に浮かぶ言葉を重んじて作詞するという。
この曲のデモ・テープを聴いて思い浮かんだのは「戦争のドキュメント映像」だという。そこから「銃」、そして「弾丸」へと連想され、このタイトルとなった。最近の日本の荒み具合を見ていて「周囲に流されて銃を使っているうちは、いつかその弾丸は自分に当たってしまうかも知れない」という警告の意味を込めて書かれたもの。つまり、「君を守る/僕を裁く」銃は、しかし、どちらに当たるか判らない。そのうえで「引き金が僕を正す」と、まるで自分にロシアン・ルーレットが当たってしまうことを予見しているかのような歌詞になっている。それが「警告」だ。他の誰かではなく、自分に対しての。最後まで、自己と見詰め合った歌詞と言える。そして「ひとつの標的が終われば また誰か探すのだろう」と、ゲームは続いていく……。
作曲はシャラ。タイトルから連想されるのとは違いミドル・テンポで、EARTHSHAKERの曲としては平均的なもの。。
EARTHSHAKER/WILL(CD)
同じく『QUARTER』収録。この曲を聴いて天野が思い浮かべたのは「ヒカリ」。確かに歌詞中にも「ヒカリ」という単語が何度も出てくる。そして“will”という英単語。「〜する予定だ、〜するつもりだ」というこの言葉は、同じ意味の“be
going to”とは少し違う意味合いがあり、明確なプランが待ち受けているわけではない場合に使う。また、名詞では「意志」など、さらに法的用語では「遺書」を意味する。そこから天野は「遺書」を選んだ。日本語では「死にゆく者の願い」のような意味が強いこの言葉は、英語では「残していくあなたへの贈り物」という意味を持つ。それに感銘を受けた天野は、いつか詞にしたいと思っていたという。
「まだ列車は来ない」というくだりは、「君が鳴らすベル」という、自身が出立の瞬間を決めること、その「遺志」が伝える寸前であることを表現している。そのうえで、「君に教えよう/授けよう」と伝えられる「雨はいつか終わる」「枯れる事ない花束」は、去りゆく「君」へ残す「僕」の贈り物だ。この別れは暗いものではない。どこか希望のある、新しい扉を開くための別れだ。
作曲はシャラ。アレンジやメロディは暖かいもので、天野は「歌詞を書いていてうるっと来た」と言う。ハード・バラード・タイプの曲はどこか希望的なものを感じさせる。

9nine/砂の城(CD)
9nineのセカンド・アルバム『second 9』には天野が4曲楽曲提供している。この曲は作曲は天野月子、刹那く儚い作詞は「白い華」でも知られる山下知恵。アレンジはあっきー。透き通った旋律から始まり、ダンス・チューンにならない程度の適度なゆるやかさ加減で曲は進行していく。コーラス部分では「追っかけ」をするバック・ヴォーカルがぴったり。他曲に較べるとややパンチの足りない出来に感じられるが、刹那い歌詞を壊さない淡々とした曲調は過剰でないのでそれなりに楽しめる。この曲では天野もコーラス参加している。
9nine/MONSTER(CD)
同じく『second 9』より。作詞・作曲ともに天野月子なので、最も力の入った提供曲と言えよう。実際、天野は自分の曲としてこの曲を書いていたのを提供したのだという。アレンジはあっきー。歌詞はアイドル・ユニット提供曲だけあって適度にソフィスティケイトされているというか、解りやすいラヴ・ソングに仕上がっている感もある。そのうえで敵わない相手、それもモンスターに恋をしているという少しひねった趣向を凝らしており、アイドル・ソングの歌詞になりがちなアルバム全曲の中で最も奥深い。曲もなかなかよく、ハンド・クラップの波からハード・ロックのビートへ移行していく様が滑らか。今作の指針は「アイドルがハード・ロックに挑戦」というもので、前作でもそのきらいは多少あったが、今作ではそれが強化されている。全体的に鋭いギターで統一されており、中間部ではベイ・シティ・ローラーズの「サタデイ・ナイト」を髣髴とさせるフレーズさえ披露される(ラモーンズの「思い出のロックンロール・ラジオ」とも同じリズムだが、天野の作曲への影響を考えるとローラーズだと思われる)。アルバム中、最も味わい深い曲と言えそうだ。
9nine/Cherry(CD)
同じく『second 9』より。作曲は天野月子。禁断の果実を口にしてやめられなくなるという歌詞はAs。アレンジはあっきー。透明感あるギターに骨太いベース、重くなり過ぎないドラムと適度にエッジを効かせたナンバーに仕上がっている。際立った特徴はないが、一聴すると天野の歌でもおかしくないような錯覚にとらわれる佳曲。
9nine/恋花(CD)
同じく『second 9』より。作曲は天野月子。歌詞はAs。アレンジは戸倉弘智。オルガンの旋律で始まり、水滴のようなキーボード・プレイやストリングスが重なっていく。ミドル・テンポの淡々とした曲調だが、純粋ながら壊れそうな恋心を描いた歌詞の雰囲気を壊さないアレンジに落ち着いている。歌詞世界になぞらったバラードとして聴けば充分に楽しめるだろう。随所に登場するオルガンが楽曲の肝となっている。
この『second 9』にはシャラにやっすん、マスカレード・ポロに戸倉といった天野人脈がこぞって楽曲提供・参加しているので、天野ファンなら入手しておいて間違いはないだろう。

no-no/ゼリービーンゼリービーンズ(サイト試聴)
活動停止宣言後の提供曲。作詞As、作曲T.アマーンが作品コラボレイトした、ヴァーチャル乙女ポップ・ライン。
コンセプトは「ノーネーム・ノンポリシー」。戸倉が立ち上げた新レーベル「Cocoon」のサイトにて視聴できたが、リニューアルに伴い姿を消した。その短期間での試聴で短いフレーズが聴けたのは、天野月子らしさの微塵もない打ち込みポップ。ここに活動停止後の天野の作曲家としての指針は見出せない。単なる消化試合としか思えない、やっつけ仕事。もはやお遊びに過ぎない。

東川遥/三日月(配信音源)
戸倉が声とヴィジュアルのギャップに惚れ込み、プロデュースを決心した東川のCocoonでの初シングル。作曲・天野月子。打ち込み主体の、クラブ・ミュージックのような楽曲。良く言えば「ダンデライオン」のような作風だが、やはり作曲家・天野月子としての指針らしきものは見受けられず、無難で手抜きな感は否めない。寧ろ天野月子の「遺物」であり、残骸である。

この音源は『COCOON EP』という、通販限定のCOCOON歌手のオムニバス盤にも収録された。

志方あきこ/埋火(うずめび)(CD)
ゲーム・ミュージック界でカリスマ的人気を誇るシンガーのサード・アルバム『Harmonia』収録。天野が天野月子として最後の歌詞提供をしている。「地火水風」の四大元素をテーマにしたコンセプチュアルなアルバムで、全体的にヴォーカルを多重録音したヒーリング・ミュージック的な世界観。この曲は「火」をテーマにしたものであり、「埋火」とは灰の中に入れてもずっと小さく燃え続ける炎と、地雷のような武器、というふたつの意味のある言葉。そこに天野は「とある葛藤のようなもの」を見出したと言う。それは偶像視される自分と、現実の自分との葛藤だ。勝手に「物語」を作ってしまう周囲に対して、自分はいささか醒めた気持で現実を見詰めよと嘆く。そのうえで自己犠牲精神のようでいて、他者の介在する偶像視された自己を望まぬようにして、結局は自己に埋没している歌詞はなかなかのもの。こと天野の引退劇と被ってしまうが、そのような時期だからこそ書けた歌詞なのかも知れない。いち物質が理想(偶像)と現実のギャップに戸惑うさまが繰り広げられる。アルバム自体がコンセプチュアルな作りとなっているので、個別曲より全体を楽しむべきものだろう。
[カヴァー]

Rie/羊(CD)
コーラス担当にして「乳白色タイガー」の異名を持つRieの、「Rie名義」ではファースト・ソロ・ミニ・アルバム(この前にシングルを発表している)となった『One』。その中でRieは天野の『メグライオン』に収録されていた「羊」をカヴァーしており、カヴァーもとである天野もコーラス参加を果たしている(普段とまったく逆、というのが面白い)。
幾分落ち着いた感のあるアレンジは、上々。あれほど動的だった楽曲が、こんなにもゆったりとしたものに変換されるとは、思えなかったことだ。喩えば天野が「カヴァーのカヴァー」をすることでアコースティック・ヴァージョンに化けることさえできそうな、優秀な仕上がりになっている。他の収録曲と並列していても違和感がない。天野のコーラス“Sheep
swept me off my feet”も明確な声ではなく、ぼかしたようなイコライジングが施されている。飽くまで介助。だが、それはそうだ。本作の主役は、伸びやかな声をはつらつと発揮できるようになったRieなのだから。
『One』はとかく「天野人脈」として語られがちな作品――だから「羊」収録もレーベル側の意向だったのか? などと邪推もしてしまうが、楽曲はひとり歩きしている――だが、それではもったいない。バンドからデュオからコーラスからソロ……という幾多の経験を得たRieの積年の想いが詰まった、優秀なポップ・ミニ・アルバムだ。確かな実力と透明感のある真珠の歌声が堪能できる。
なお、ジャケットの「青い鳥」「青い魚」も天野による水彩画。油彩やペン画が多い天野には珍しい。
[絵本]

あまのつきこ/メグとライオン(絵本)
ツアー・グッズとして、通販の物品として販売された、天野渾身の油彩絵本。たかが絵本と馬鹿にしてはいけない。本書はシングル『人形』に始まり、アルバム『メグライオン』を中心として、ライヴ『メグに逢えたら』で完結する「あなたとわたしのストーリー」の一部分を担っている。こうした一連の流れは、天野の「絵」の側面が発揮された本書を含め、考察したいところだ。
シングル『人形』初回盤封入の絵本「時計台の鐘」に続く(というよりも交差する)内容となっており、人形「メグ」がライオンと共に街を冒険する。油彩と半々で構成される物語は、見るもの聞くものすべてがはじめてのメグの「ルーツ探し」という中核をひそやかに見せている。実際よくできた絵本で、子供騙しには終わっていない。少なくとも(世辞や陶酔ではなく)筆者の琴線にも触れてしまった。
本書について拙論を提示しているので、並んで参照頂ければ幸いである。
[デジタル・ブック(DVD)]

天野月子/爆音生活〜もうひとつのおもひで〜
かねてより天野はサイトや資料などのコンテンツを形にしたいと考えていた。書籍化を考えたものの、発行部数や増刷などの管理、定価の高騰などから現実的に限りなく不可能と判断し、スタッフの案によりパソコンで閲覧するDVDという形に着地した。当初はコストが安く、追加生産もしやすいDVD-Rを予定していたが、最終的にプレスDVDとして生産されたので、データが劣化あるいは消えてしまう危険性を回避できた。
そうしてできあがった本作は所属していたレコード会社の立ち上げた数種の期間限定サイトや、初期の音倉公式サイトの頃から綴ってきたエッセイなど、2000年から2008年までの天野に関わる資料を418ページもの内容にまとめたものであり、そこへ写真や解説、イラストなどが網羅された一種の辞典となった。1ページずつ本を読むようにめくっていく形となっており、具体的な内容としては、
・爆音生活2001〜2008
・カツドウクロニクル(解説付きフォト・ブックレット。全撮影・レコーディングのおもひで)
・ライヴクロニクル(上に同じくフォト・ブックレット。全ライヴのおもひで)
・天野豆辞典
・付録:天野直筆コミック「秘密サークル タイガー☆マシーン」全話
といったもので、天野月子の総決算といった内容。
「爆音生活」での「思わせ振り → 不思議 →
天然 → お知らせ」といった流れは天野のキャラクター(イメージ)変化のようで、以前より追っていたファンならなおのこと楽しめる。
「カツドウクロニクル」では活動を作品や区切りごとに振り返っており、公開済だった写真に加え、未発表写真やイラストに天野本人による解説やコメントが添えられており、日記やアルバムを眺めているような気分にさせられる。この項のみ2000年より始まり、こと「意図的に勘違いした」宣材写真に驚くこと間違いなし。
「ライヴクロニクル」では全ライヴのレアな写真にそれぞれのコメント、一部はセット・リスト、さらに全「おしながき」イラストが掲載されている。オーディションや業界人のみのライヴも含まれているため、全ライヴを制覇したファンはまずいないので、コアなファンにも楽しめる。無論、ライヴに行けなかったファンにもマストだ。
「天野豆辞典」は「豆」なので、天野を知るうえで必要最低限のことを写真・イラスト付きで読める。
「タイガー☆マシーン」全話を収録した付録はオリジナルそのままの掲載で、コアなファンは懐かしく、見逃していたファンには天野のとぼけた創作性を改めて感じ入ることができる。
こうした内容は400ページ以上に及び、ファンにとっても天野と関係者にとっても感慨深く眺められるだろう。まさに「もうひとつのおもひで」であり、最後のページで「天野月子」からの感謝の言葉が述べられているのには言いようのない感慨を覚えるだろう。ちなみにどのページも、ページをバックして少し待つと、左端が僅かに揺れるギミックが隠されている。
音倉商店のみの通信販売。予約特典として、購入者宛てに天野直筆宛名入り年賀状が送付された。
ファンによる「いつまで活動停止した天野月子を商売道具にするのか」という批判も表面化したが、この企画は以前からあたためられてきたものであり、目先の儲けを狙ったものではないと解釈されている(関係者からの直接的なコメントはない)。そうした風潮やネタの限界、ひいては天野が「天野月」として音楽活動を開始したことから、恐らく「天野月子」名義ではこれが最後のアイテムとなるだろう……と思いたい。