全曲解説:V

〜初のビデオ・クリップ集〜

 以前よりビデオ・クリップの完成度が高く、その一般発売が熱望されていた天野だが、本作をもって「ほぼ大体の」クリップは眺めることが可能になった。現時点で観ることができないのは、版権が完全に音倉レコードにある(ために収録できなかった)「Love Dealer -type 2003-」と「進め☆タイガー」の2曲。それを除くこれまでの全曲のビデオ・クリップは、めでたく本作に収録されている。
 ジャケットは「パーマン」のTシャツを着た天野がピース・サインをするという、ポップでサイケなもの。なぜパーマンでピース・サインなのか?……それは簡単。「P」と「V」で、「PV」の意味を成しているからだ。
 同時発売だったシングル・カップリング集『ウィノナ ライダース〜月の裏側〜』と併せれば、天野月子の「A/B面」を共に楽しめるだろう。


00.菩提樹(Instrumental)
 何と、ライヴ前に必ず流れている菩提樹のインストゥルメンタル・ヴァージョンが、(かつての期間限定サイト「天野軍」を彷彿とさせる)インデックス画面に使われている。マニア諸氏はこの音源も必携のこと。楽曲での、ストリングスの流麗さが充分に堪能できるヴァージョンだからだ。


01.箱庭
 シングル・ジャケットの恰好と、赤のキャミソール+ロング・スカートの天野とが繰り広げる強烈な映像は、観る者に邪推を催す。神社の境内と密室とでの演奏と、トマトに関するショットが絡み合う(デビュー曲にしては随分と)力の入った内容。
 クレジットがないので断定はできないが、同名インディペンデント映画の登場人物(主人公「ネジ男」)が機械工として登場しているようだ。彼の持つネジと、天野の噛みちぎるトマトが合わさった「機械仕掛けのトマト」は、「自分自身」のことではないだろうか(または「繋いで わたしを あなたを」という歌詞とリンクし、性行為ともとらえられる)。圧迫されて、血を吹き、押し潰されて……機械となることを望む。トマトをむさぼるということは、自らが自らを食い尽くすということ。扇風機の周りに転がるトマトの群れは、自らの過去の群像。やがてネジ(ボルト)は、「わたし」の口から吐き出されて「あなた」へ手渡される……扉を開け、手に入れたすべてを置いて出ていける今となって、それは不要になったから。
 同名映像作品(今となっては見られないのだろうか?)には間違いなく、この曲と映像との関連性を紐解く要素が含まれている筈だ。
 なおこの曲は、『音倉レコード会社案内ビデオ』にも全尺が収録されていた。


02.B.G.〜Black Guitar+Berry Garden〜
 シングル・ジャケット通りに白のワンピースで天野が森の中で歌うこの曲のビデオ・クリップも、秀逸だ。
 森を歩き、ギターを手に入れる場面は、様々な描写(森の中、物語的な紙芝居中の王子と魔法使い、剣を鞘から抜くように網を構える天野……)と相俟って、アーサー王にとってのエクスカリバーを連想させる。単純に考えれば、それほど大切な物ということ。少しヒネれば、本人の証となる物。天野が「黒いギターを入手した」記念に作られたこの曲は、後に彼女のトレード・マークとなる「ヒメギミモデル(通称:ヒメ)」の誕生をも意味しているのだ。アーサー王にとってのエクスカリバーは、天野にとってのヒメである、と推察できる。
 なお、恋人が烏の化けた姿だった、というオチは、歌詞を読んで推して測るべし。無論「あなた」のことを示唆している。
「物語は繰り返される」という文字で終わる真意は、それこそ恋愛とかけているのではないだろうか。同じことの繰り返し、の……
 森の中とメリーゴーランド、そして紙芝居とで織り成される映像は、数あるクリップの中でも最も「ポップ」でとっつきやすいもの。それが楽曲とリンクしているとも言えなくもない。


03.菩提樹
 シングル・ジャケット通りのロケーション(崖っぷちでロング・スカート)でギターを抱えて歌っており、また洋館の中での演奏風景や目隠しなどもまじえた印象的なフィルム。なお、ライヴのステージ上でもこの貴婦人の恰好は披露され、付き人の烏(B.G.のビデオ・クリップに登場する「黒子」的存在)が裾を運ぶという趣向になっていた。
 メジャー・デビュー曲ということもあり、映像にも力が入っている。楽曲自身の主張力に加え、モノクロ/カラー、寄り/引き、などの映像技術、また古書や拘束された男、という「小道具的存在」がさらに雰囲気を盛り立てる。
 なお、崖を背にして古書を読む天野のカットは、この曲を引っ提げたライヴ『Pia Debut Live Review』VHSのイントロにも流用されていた。


04.スナイパー
 ここでの天野は白のスーツに身を包み、風が吹き荒れるスパイ組織の部屋で歌っていたり、「プレイボーイズ」と共にGメンの如く横並びで道を闊歩する。その表情が歌い方と相俟って、妙にコケットに映る。「拳銃アクション」も最後を筆頭に、随所で披露している。本作中唯一、ジャケット通りの恰好をしていない曲。
 スナイパーである天野がスナイパーに狙われているだとか、組織に入ってからはそこに風が吹きすさぶだとか、天野とプレイボーイズが並ぶ「背丈表」が「尺寸勘定」になっているだとか……小さなトリックが多いので、見るほどに発見がある。
 またこの映像は、印象的な「J.Jウォーク」と呼ばれる歩き方により、ドラマーJ.Jがキャラクター性を強めたものでもある。


05.Treasure
 ここでは天野はシングル・ジャケット通りの赤いバスローブや、黒のドレスで歌っており、ビデオ自体もマネキン(=人間の抽象)の男女を組み合わせるなど、抽象的ながら興味深いものになっている。それは「理想と現実」の折衷、そのパノラマを見せているようだ。
 そのマネキンが最初はヴェールを被せられていて、それを天野が取り払って自ら被る、というのは相手方の何か(喩えばトラウマ)を自らこうむる、ということの抽象描写に思える。そのうえでマネキンを倒してしまうのは、相手のコンプレックスを自己に取り込み、解消したことの証ではあるまいか。さらには、マネキン型の花瓶にハイブリット・カラーという花が飾られているのも印象的だし、プレイボーイズがマネキンから人間化するのも、「人形」がこの時点で出現しているのも、興味深い。
 しかし最も注目すべきは、天野「自身」が宝箱の上に座っていることだろう。それは即ち、「宝物=わたし」であることを示し、歌詞と深くリンクするからだ。


06.HONEY?
 天野はこの曲では、ラフなジーンズ・スタイルにこの曲のトレード・マークである「HONEY? Tシャツ」を着てギターを掻き鳴らしている。これまでのクリップの中で、最も等身大でスウィートな天野がそこにはいる。他のメンバーは登場しない。
 四方のライトが光る中、歌う天野は虚飾でない「実寸」を示している。それと交錯するメトロノームやヘッドフォンは、「一時の安定」や「外界への拒否」の象徴だ。その折衷の中、天野は懸命にひとりで歌っている。それこそが「実寸」。初期は虚飾要素の多かった天野が、自分を晒すようになっていく中間地点。それがこの曲であり、その過程をリアルに感じられる映像と言えるだろう。


07.人形
 夕陽をバックに歌う、ジャケットの恰好をした「一兵卒」と、白い指揮官制服を着込み、地下水路で苦しむように叫ぶ「アーマノ長官」が交錯したもの。
 カメラ・ワークや全体的な雰囲気は「菩提樹」のビデオ・クリップを髣髴とさせる。様々な情景を織り混ぜた世界で、同一人物であり、分身でもある筈の「一兵卒」と「アーマノ長官」が交互に映る。この曲と、アルバムのポイントになる「メグちゃん」人形や、絵本「時計台の鐘」の扉絵になった(自画像にも見える)「メグ」もそこに度々映し出され、それらすべてが「天野月子」を投影したものと推察できる。綺麗な服を着た「アーマノ長官」は過去。汚れた、しかし等身大の服を着た「一兵卒」は現在、そして未来。そのせめぎ合う様が歌詞と相俟って表現されているに思える。或いはそれは、「偶像と実像」の闘いにも見えるだろう。この楽曲が持つ、天野にとっての重要曲であることの意味を考えれば。そう思えば、J.Jが「メッセージ・ボトル」を流す様は、自己を取り戻せぬ人物が「救いを求めることの象徴」にも見える。
 なおこの曲は、DVD『メグに逢えたら』にも全尺が収録されていた。


08.鮫
 シングル・ジャケット通りの勇ましい天野が、演奏陣の面々を従えて「殺陣姿」を披露する痛快なもの。その映像は、この時点での天野の指針である「侍スピリッツ」を具現化したものとして映っている。
 日光ウエスタン村で収録された映像は、孤軍奮闘していた指名手配の天野がプレイボーイズの救援を得るというストーリー的な要素を孕みながら、一種のエンタテイメントとしても楽しめる。それこそ、時代劇の活劇シーンを見るような気分で味わって頂きたい。また対決する布陣が「東 vs 西」であることも、何かの象徴のように思える。喩えば「侍スピリッツ=和志向」 vs 「洋楽志向のおべんちゃらJ-POP」とでも……何でかヌンチャクの「新鮮組」J.Jは今回もおいしいところを持っていく。なお、シャラは浪人、あっきーは忍者に扮している。
 また個人的には、この「和服天野」には……相当ビクンとクるものがある(失礼しました)。


09.蝶
 このビデオ・クリップは、本作中でも特筆に値する美しい出来映えだ。
 花模様の格子柱が並び立ち、桜吹雪が舞い散る中で、ジャケットの巫女めいた衣装で舞うように踊り歌う天野(花魁歩きも披露)と、蝋燭の炎に囲まれた中で強く願うように揺れ動く赤装束の天野が交錯する、幻想的なもの。タイアップ・ゲームのキィ・ワードが「姉妹」であることや、「死」を想起させる内容とリンクする巫女衣装も示唆的。
 天野は「赤装束は蝶に対する毛虫」と発言していたので、となると、そのもがく様は「蝶になりたいのになれない(毛虫は羽化すると蛾になる)」ものの象徴ではないだろうか。だからこそ緑壁の部屋の隅にたたずんだまま動かず、その手からは生々しい血の跡が――掌の跡――が残るのだ。叶わない願望を、投げた痕跡が。「蛾」の衣装の袖がアン・シンメトリーなのは、即ち「忌み嫌われる存在」の象徴ではあるまいか。生々しさゆえに均衡せぬ、実寸ゆえに忌み嫌われることの象徴。
 つまり、「蝶」は理想像。「蛾」は実際像、ではあるまいか。
 さらに言えば、巫女は「自分にないものを自分の場所へ導く」シャーマン的存在でもある。毛虫である赤装束にはそれはできず、もがくのみだが、蝶である巫女はそれができる。蝶となり、優雅に舞うことができる。
 これを「人形」の「理想と現実にもがくアーマノ長官と一兵卒」と対比させると、なおのこと感慨深いだろう。


10.劔
 この曲はシングル曲ではないものの、ビデオ・クリップが制作された。ザ・ビートルズの「ルーフ・トップ・セッション」風とでも言おうか、青空のもと、屋上ライヴ一発撮りというストレートなもの。勇ましいジャケット姿の天野がギターを弾きながら歌っている。因みに、このビルは「スナイパー」を収録したビルの隣りに建っているものだそうだ。
 イメージ喚起云々よりもライヴ感を重視した作りになっており、映像も演奏も生々しい。敢えて各スタッフの映像などを配しているのも、「リアル」をとらえたかったゆえの所作ではあるまいか。つまり、この映像は「現在のリアル天野」を表すものと言える。
 なお、収録曲『天龍』では次曲とメドレーになってコーダ部分が途切れているいるので、音源収集家諸氏は単曲で終わるこのクリップも要チェックのこと。