全曲解説:メグに逢えたら
天野月子年末スペシャル2002 Live at 日本青年館

〜初ホール・ライヴ録音〜

 初のホール録音にして、ポニーキャニオンより唯一発売された一般流通ライヴ映像。『メグライオン』メイキング・シーンの抜粋と「人形」のビデオ・クリップという特典映像を含む、DVDのみの販売となる。横幅の比率がやや高い、ビスタ・サイズ。
 疾風の勢いで駆け抜けた2002年を締めくくると共に、セカンド『メグライオン』の終章でもある、まさに「総決算」コンセプチュアル・ライヴ。各種演出は過去に類を見ないほど多く含み、見どころがとかく多い。冒頭には「人形」のモノローグに使用されたピアノの単音をバックにした短いリハーサル風景と、「菩提樹」のインスト・ヴァージョンをバックにして「樹」のセッティング風景、楽屋や会場の様子が流される。楽曲のヴァージョン違いのみならず、視覚的な部分での見どころも多かったので、収録日のライヴ終了直後に執筆した筆者によるリポートと併せてお読み頂ければ幸いである。(恐らく極度の緊張により)歌唱に安定が欠ける場面は多くあるが、内容の濃さはそれを差し引いて余りある。
 また「B.G.」や「Treasure」などの、今までのセット・リスト常連やシングル曲を敢えて無視した面もあるプログラムが、何より『メグライオン』コンセプトの集結を優先したライヴであることを伝えており、好ましい。


01.菩提樹
 ライヴではおなじみの「菩提樹S.E.」に導かれ、青い光に満たされての開演。フルレンス・ライヴ作品すべてに収録されている、間違いなしの代表曲にして現在のオープニング常連。すっかり貫禄に満ちた演奏と、幾度もの経験が活きた安定した歌唱は再現を重視した一時の不安定過ぎるものより優れており、作品として残っているライヴ中、映像を含んで過去最高の「風格」と言える。シャラによるギターの音色がフィードバック気味にひずんでいるのも、ヘヴィ感の増した一因。しかし歌唱を音だけ聴くと安定感は薄く、その面のみで言えば『氷の美SHOW』に劣るか? とはいえ、迫力と説得力はそちらより数段増している。

02.スナイパー
 明るいライティングに変わって「年末――!」と叫んで開始されるのは、久々のエレクトリック・ヴァージョン。それまでアコースティック・ヴァージョンで演奏されてきた経験が活かされ、伸びやかな歌唱が楽しめる。喩えば、歌詞中では「不透明な罠」の最後の一音、その声の伸びを聴くといい。『氷の美SHOW』ではアコースティックであり、Rieのコーラスが目立つ録音であるのに対し、こちらは飽くまで天野を主体としている。シャラのギター・ソロはややアドリブ的。また、コーラス部分でダブル・クラップする前列の観客席がしっかりと映っているカメラ・ワークも好印象。もちろん最後には「拳銃アクション」も披露されている。

03.HONEY?
 当日の開始時間が遅れたことを告げるMCを挟み――あの「献血してましたの」を含む――開始されるこの演奏は、もはやどこか落ち着いた感がある。そのため多少パターンを解りやすくしたJ.Jのドラムを筆頭に、演奏陣との絡みも存分に味わえる好演奏。特に、ことあるごとアドリブを繰り出すシャラは、この曲でのギター・ソロはツアー/ライヴごとに異なったものにしている。

04.羊
 ガウンを脱ぎ、赤のドレス・ジャージになってようやく披露される『メグライオン』収録曲。いささか再現に徹している感は強いが、初披露であるとは思えないほど安定した歌唱(と、あやうげなゆらゆらリズム)。リズム隊が忠実な再現であるのに対して、特筆に値するのはシャラのギターがトーン自体若干変わっており、ブルージーなアドリブを多く含んでいること。彼は本作でアドリブを多用するので要注目。

05.ライオン
 ライオンを好むことを告げるMCにより開始を宣言される、この時点での最新作『メグライオン』中核曲のひとつ。効果音でリズムを構築したイントロ(不可解な効果音はシャッターを切る音というより、檻の格子を切るチェーン・ソウのようにきこえる)が設けられたこの曲は、それまで落ち着いていたあっきーのベースが映える。佳作曲でありながらアルバムでは(楽曲配置などから)若干地味な印象が拭えなかったが、生歌唱では特にヴォーカルが活き活きとしており、虚空に歌う“I love you so much〜”の部分でのカメラ・ワークなどと合わせて非常にステージ映えする。もちろんフェイド・アウトだったエンディング部分もエクステンドされ、完奏されている。

06.時計台の鐘
 天野が青ジャージに着替え、その衣装にまつわる和やかなMCから始まるこの曲では、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリン2本という弦楽四重奏が加わり、生のストリングスの迫力が楽しめるのが何よりの注目点(なお、生ストリングスは他にも数曲で披露される)。気力がこもり、ミックス所作が施されていた原曲よりも数段落ち着き、素朴で甘い歌唱になっているので、楽曲自体の純朴さが活かされ、より琴線に触れる演奏ではないだろうか。フェイド・アウト気味になっているため原曲のエンディング部分の完奏が解らなかったリスナーは、こちらのエンディングを併せて聴くといいだろう。

07.カメリア
 メンバー紹介と最初のライヴについての面白可笑しいエピソードのMCに次ぎ、早くもこの曲が登場(前曲から背後のスクリーンには「月」が映っていたので、宣言されていたわけだが)。アルバム『シャロン・ストーンズ』やそれに伴うツアー『氷の美SHOW』ではクライマックスに配置されていた「大きな起伏曲」だが、本作では寧ろ「いち楽曲」として演奏される。劇的な絶唱だった『氷の美SHOW』に較べて歌唱はずっと安定し、生ストリングスが本作中最も美しく溶ける。ベース・ソロやコーラスの妙味も原曲以上に発揮されている。劇的パフォーマンスを差し引き、原曲の美しさを純粋に引き出したこの演奏は、思い入れの強い楽曲も「いち楽曲」として演奏できるようになった、成長の証拠と言えるのではないだろうか。

08.ダンデライオン
 本編をリズム・トラック中心に再構築したイントロ(これが良い出来で効果的)を加えた冒頭部分では、視覚面はBrand New Worldによるダンスが、聴覚面ではRieによるスキャットが気分を盛り上げる。本編では、歌唱をそつなくこなしながら「あやうげなダンス」でBrand New Worldに混じる天野が本作中でも大きな見どころ。後半にはJ.Jもダンスに乱入し、視覚面での山場となるだろう。楽曲自体は基本的に原曲の再現だが、またもギターはアドリブ気味なので、聴き比べもできる。

09.Merry Tiger
 ライヴの度に大好評となる「タイガーマシーン」関連のサービス・トラック。同日の会場で販売されたカセットテープ「タイガーマシーン〜第二章〜」の2曲目であり、もちろん初披露。こちらもBrand New Worldとレモン色J.Jタイガー参加による視覚面での楽しみが大きいが、楽曲的にはまたもシャラに注目したい。原曲では手すきになっている部分にもギターが入り、またJ.Jによる語り部分のバックに響く「ジングル・ベル」の鍵盤や、コーラス部分のヴォーカル・フレーズなどをユニゾンで重ねたギターが強調されているからだ。なお、原曲での表記は「Merry T'ger」。

10.人形
 ピアノの単音をバックに、シングル『人形』初回盤ブックレットの物語をステレオ効果発揮で朗読したモノローグ(当日は言葉を被さず、そのままの朗読だった)に導かれ、天野の壮絶な叫びから楽曲が始まる。冒頭部の8小節は、最初の4小節がオルゴール音に弦楽四重奏が加わったもの、続く4小節はオルゴール音のみと、さながらシングルとアルバムの両ヴァージョンを含んだもの。エンディング部分ではオルゴール音のみになっている。全員の気合いの入った「天野軍」スタイルに負けず迫力に満ちた演奏で、本作に先立った何度かの披露が活きている。楽曲終了後、気迫に押されて拍手さえできない観客の姿が、この楽曲の生々しい出来すべてを表しているのではないか。グルーヴ感の強い楽曲である筈なのに、棒立ちに天野を眺めてしまう観客が殆どなのも印象的。「カメリア」で絶唱を繕う必要がなくなったのは、この「中核曲」が存在するからだ。

11.日曜日
 アルバム通りに展開するこの弾けた楽曲は、ライヴ時では低音の歌唱が不安定がちに響いていたが、ヴォーカルを全面に出したミックスで違和感がなくなっている。弦楽四重奏の引き続きの参加も喜ばしい。なお、以前の天野であれば再現していたに違いないテープ・エフェクト(ブレーキ音)はオミットされており、そういった面でもライヴ感の強調というコンセプトを実感できるかも知れない。

12.Butter Fingers
 この流れからでは、少し意外な選曲。しかし「核」を晒した「人形」を経た後では、この歌の「術中にハマった?」などの詞が以前より強い意味を持ち、ライヴではドラム含みで完コピされる「有名曲フレーズ・コピー」も諧謔的に響く。歌唱の出来云々よりそうした自己揶揄的側面と、演奏陣の弾けた雰囲気を楽しみたい。中でも、ソロも披露するあっきーのベースが生きている。

13.トムパンクス
 そのまま勢いは止まらず、会場はヘッドバンク状態に突入。マイク・スタンドを倒し、クラッカーが炸裂、天野が跳ねては客席へマイク・アピールなども行い、演奏も疾走……本作が「ライヴ」であることが最も楽しめる1曲。原曲と較べると3連バス・ドラムが削られるなど、細工的だった部分には若干の簡略化が図られ、それが結果として突っ走るライヴ感を強調している。やはり歌唱や演奏の出来云々で語るのではなく、昂揚した雰囲気を擬似的に楽しみたい。天野のジャンプで曲を終了させる、まさにロック的なエンディング部分などライヴの賜物。

14.箱庭
 初ホール演奏の感慨を語る、涙ぐましいMCから始まる。冒頭部分の歌唱で口をパクパクしてしまったのは、その初ホールにしてこの「すべての開始地点となった楽曲」を歌える感慨から起こったことと思いたい。震えがちな声など、出来よりも(天野自身とリスナーの)感慨が先走る。なお「コロシテ」の響き方はシングル・ヴァージョンに準拠したもの。

15.巨大獣
 やはり本編の最後を締めるに相応しいこの曲は『氷の美SHOW』と同じくピアノを軸としたイントロが設けられている。従来では常に最後であることが弱点になり、日により歌唱の出来差(或いは原曲との差)が気になる楽曲ではあったが、前曲で感慨を晒した後なので本作でのこの曲は落ち着いた優秀な歌唱になっている。エンディング部分はもちろん、おなじみのパターン+乱打演奏で終わる。

16.クレマチス
 J.Jの呼びかけにより、観客の声援が天野を呼んだ「掟破りのアンコール」曲。彼女がアンコールに応じたのは、これが初めてになる。
 そのシーンに「メグちゃん人形」が掲げられることからも推察できるように、天野はまさに、その恰好で現れる。それが『メグライオン』コンセプトの体現化であり、集結であることは無論のこと。しかし、かねてより「あのハリボテのスカートがもう少し自然な形であれば……」などと無粋なことを思っていたのだが、一時的な過熱が引き、やや冷静になったところで観た本作映像でもって認識を改めた。あれは、ああした「不自然」な形であることに意味がある。即ち「人形」であることの、「作り物」であることの具現化。それにより、コンセプトは筋通りの意味以上の輪郭を増しているのだ。「衣装替えが済んでいるので、予定されていたことが解る」といったニヒリズムは言いっこなしにしたい。
 せり上がるS.E.から開始され、バンドも弦楽四重奏も原曲をほぼ忠実に再現するこの曲も、そうした「単純な演奏の差異」以外の側面を大きく含む。この曲は初演奏である筈だが、忠実な再現力と充分な気迫歌唱により、原曲にも遜色しない。

[以下、特典映像]

Making of meg Lion〜pilot edition
 セカンド『メグライオン』のレコーディング風景をとりまとめた、10分弱のドキュメント・フィルム。『メグライオン』関連楽曲の仮歌入れや、演奏陣のフレーズ練習などの模様が展開される。そうして楽曲とバンド演奏ができあがっていく様が見て取れ、天野と彼女を取り巻く周囲、そしてそこから作り出される楽曲世界を楽しむ(研究する)うえでは実に興味深い。何より『メグライオン』や本作と連結して、天野を偶像ではなく実像として見詰めることができる。ただひとつ、残念なのは「パイロット版」であるという表記。インストア・ライヴで流されたものから編集/カットを施したものであり、それよりさらにエクステンドされたフル・サイズは限定DVDボックス『おもひで』に収録されている。

「人形」promotion video
 CS放送を中心に、天野の楽曲中最もヘヴィ・ローテーションされたビデオ・クリップ。シングル、アルバム、ライヴ、絵本……と『メグライオン』で多角的に展開したコンセプチュアルな仕組みの中には、このクリップ自体も一要素として含まれる。詳しくは『メグライオン』内の「人形」を参照。(一般販売のみで数えると)既に7曲のシングルがあり、すべてにビデオ・クリップが制作されていたのに、それが「テレビ再生を前提にした」製品に収録されたのは初めてのことになる。