全曲解説:その他別ヴァージョン
〜リミックス他〜
好評なのかどうかは解らないが、天野の初期シングルの多くには「リミックス・ヴァージョン」が収録されている。いわゆる「外部による大々的再構築」のことだ。多くは「オマケ」的に収録されているので、天野自身が(直接的には)無関係なこれらは、楽曲として無視される傾向が強い。天野のヴォーカルは肉体的な響きを持つため、機械的な音との相性はそれほど良くないことも原因だろう。諸楽曲に見られる電子音は、飽くまで副要素として配されているために効果的なのだ。また、飽くまで「天野月子の楽曲」であるために、歌メロディは全尺残す、という題目があり、それが障害となっている。
他にも「別ヴァージョン」と呼べるものも存在するため、ここにそれを総括する。
但し、一部にのみ流布するラジオ・エディットなどは取り扱わない指針でいる。基本的には正規盤収録音源に限る。

箱庭(suginamix)
シングル『箱庭』収録。副題は付かないようだ。
天野の歌声を主体に残しながらも、強く「音響系エレクトロニカ」を思わせるリミックス。こと最初のサビ部分のドローンの使い方と、テルミンを模したかのように響くオカルト的な音色は印象的。この曲の歌詞の中核である「コロシテ」の声も、機械的にイコライズされて数回使用されている。原曲との距離は遠いが、リミックス群の中では優秀な部類。
なお、これら“suginamix”はリミキサーの「イズタニ
タカヒロ」氏が「杉並区在住であるため」そう命名されたという。

B.G.(suginamix)
シングル『B.G.』収録。こちらも副題はカットされている。
軽快な「クラブ・ヴァージョン」とでも呼べそうなリミックスで、一定間隔のリズムが全面的に打ち出されている。リズム主体であるため、天野の歌さえも添え物のように響き、しかしリズムに乗せられるコーラスは強調されているという逆転的展開。なべて凡庸だが、終盤の3声が同時に絡む部分は秀逸。

菩提樹(suginamix)
シングル『菩提樹』収録。
歌詞こそあれど、原曲の楽曲的原型はまるでない「弱アンビエント・テクノ」のようなリミックス。終盤は打楽器音が強まり、姿を変える。全体的にリズムが強調され、原曲の武器であった「負」のイメージを排したものとなっているので、いささか凡庸な印象が拭えない。無表情なシンセ・ベースに変換されたベース・ラインは面白い。
B.G.〜Black Guitar + Berry Garden〜(胸キュンタイプ)
シングル『菩提樹』収録。
こちらはリミックス・ネームに見られるように、甘酸っぱい仕上がで「余りいじらないこと」を逆に武器にしたヴァージョンになっている。原曲の骨格が色濃く残っているが、それもその筈。原曲の数パートを抜き出し、ピアノやサックスの演奏を追加したものなので、リミックスでも再録音でもない別ヴァージョン。ディストーション・ギターの音色はすべて消え、代わりにギターの透明な音は残され、付加されたピアノ・パートが肝となっている。また、ギター・ソロがサックス・ソロになっている。
この曲は、リミックスや別ヴァージョンの中では(常にシングル・ヴァージョンの「菩提樹」や、シングル発表前後で異なる「HONEY?」などを除き、明確なヴァージョン違いとしては)唯一披露されたことがある。2002年5/1のオムニバス・ライヴ『音倉レコード会社案内ビデオ』として通販限定でVTRに「わざわざ別ヴァージョンと宣言されて」収録されている。だがそちらはソロ部分もサックスではなく、ギターとなっている。そちらでも最終部分の“again”が声を張り上げたものではなく、ファルセットになっていたのは、その後のアコースティック・ヴァージョン(喩えば「天野月子 in 昭和音大」での、このヴァージョンに則ったバンド演奏)に発展したようで興味深い。

スナイパー(suginamix)
シングル『スナイパー』収録。
分解され再構築されたベースとドラムが一定周期で続く上に、ノイズ音が乗るという「弱インダストリアル」なリミックス。しかし歌メロディを殆ど再構築していないため、バッキング・トラックの差し替えという印象が拭えず、最も平凡なリミックスになっている。魅力を感じるのは歌もいじられた部分か。

Treasure(suginamix)
シングル『Treasure』収録。
ギターの透明なワン・フレーズを主体とし、短いフレーズを被せ、さながらカップリングの「Pleasure」を思わせる明るい仕上がりにした「弱ミニマル」リミックス。歌はやはり全尺使用されているのだが、歌メロディ自体さえを強くいじれないために凡庸な感のあったリミックス音源にあって、これは秀逸。歌メロディさえもいじりまくり、各種エフェクトをかけるなど凝った趣向がなされている。特に後半のコーラス部分は原曲と歌のテンポさえ変わっており、スリリングなものになっている。個人観では『シャロン・ストーンズ』収録のシングル曲の中では、最優秀リミックス。
G.B.〜ゴールデンバニー〜(Live)
シングル『Treasure』収録。
初ワンマン・ライヴからの音源で、生演奏独特のテンションの高い仕上がり。実際には演奏後に音パートの展開を基軸としたインスト・バトルが行われていたのだが、こちらではその部分はオミットされ、フェイド・アウトしていく。後にライヴVTR『Pia Debut Live Review』にてフル・レンジ収録されている。


人形(ERROR○△□ TEGAMIX)
今までリミックスを担当していたイズタニタカヒロに代わり、EL-MALOの曾田茂一によるリミックス。
ベース・ラインを強調し、楽曲の持つ凶暴さを前面に出してループを活用した「ダブ的」ミックス。そこへテルミンのような浮遊音、或いは地鳴りのような効果音などが入り込む。原型をとどめていなかったものが多い今までのリミックスに比べ、比較的パーツが判りやすい。リミックスによる怪しげな雰囲気が、不思議と原曲の強烈な世界観を薄め、聴きやすくしている(聴きにくくすることが多いリミックスにとっては珍しい)が、それでもこのリミックスは優秀な部類に入るだろう。冒頭と末尾にはオルゴールの代わりに、氏による(?)不気味な囁きが差し挟まれている。これでシングル『人形』は3曲とも、「冒頭と末尾に同じアクションが入っている」ことになる。
箱庭〜蝶(カラオケ・ヴァージョン)
編集盤『ウィノナ ライダース〜月の裏側〜』とビデオ・クリップ集『V』の連動応募特典によるプレゼント用CD-R(ジャケットなし)。「箱庭」から「蝶」までのシングル曲9曲のカラオケ・ヴァージョンを収録している。歌入りではよく聴こえなかった音色も聴こえたりするので、天野月子研究家には必須アイテムか。

劔(Missing Link Version)
3rd『天龍』収録ヴァージョンでは「鮫」とメドレーになっていたので最後までフェイド・アウトしないが、ビデオ・クリップ集『V』ではエンディング部分が数秒だけ長く、単体曲として終わる。
また、『天龍』発売前に業界関係者に配られた8曲入りCD-Rラフ・ミックス音源では、この曲は単体として収録され、クラッシュやシンバルなどがまだ加わる前のシンプルな演奏になっていて、さらにはエンディングがさらに数秒長くなっている。

翡翠〜スリムType〜
シングル『翡翠』初回盤封入の応募葉書による、プレゼント用音源。オーケストラだった完成形に対し、こちらはエレクトリック・ピアノを主体とした「ちょっと豪華なデモ・トラック(天野談)」。次第に盛り上がっていくバンド・ヴァージョンと言える仕上がりになっており、ライヴではこの形での演奏が主となっている。儚げなチェロの響きも残されており、楽曲の核をとらえた、オーケストラとは違った「明るい刹那さ」が感じられる優秀なヴァージョン。ヴォーカルもリテイクされ、ソフトなものになっている。なお、ジャケットは『翡翠』のジャケットをスリム・ヒメギミ(げっそり)にイラスト化したもの。このヴァージョンは、ライヴでは「アマロ13」で初出となった。
翡翠〜スリムType〜(カラオケ・ヴァージョン)
『翡翠』プレゼント・シングルには、同じく「スリムType」のカラオケ・ヴァージョンが併録されている。カワセミ(翡翠)の鳴き声を模したであろうギミック音がよく聞こえるなど、素朴な発見も多い。

カメリア〜愛のバージョン〜
「翡翠」カップリング曲。
『シャロン・ストーンズ』に収録された天野随一の人気曲の、オーケストラによる生ストリングス・ヴァージョン。つまりこれら「愛のバージョン」は、生ストリングスをフィーチュアしたオーケストラ・ヴァージョンのこと。ヴォーカルもリテイクされ、原曲より優しげな歌い口になっており、特にエンディングは原曲とまったく違って独唱で終わっている。壮大な原曲に見合ったアレンジに喝采したい。
骨〜愛のバージョン〜
「翡翠」カップリング曲。
『天龍』収録曲中最もシンガー・ソングライター然としていた原曲を、大胆にオーケストラ・アレンジしたもの。ヴォーカルもリテイクされ、優しげな歌声がオーケストラと相俟って、逆転的に歌詞の素朴さを強調している。素材の優秀さを感じさせるアレンジが、見事だ。