全曲解説:アルバム未収録曲

〜優秀なカップリング曲群を筆頭に〜

 ファースト・アルバム発売時点から、既に天野には未収録音源が多かった。それのみでもう1枚のCDを作ってしまえるほどだ。
 天野は現在のところシングルには必ずアルバム未収録のカップリング曲を用意している。他にも一部限定販売品やライヴ限定物販もあり、今後も多角的な展開が予想される。そうしたものを、ここでは収録形態などではなく、純粋に発表順に記述していく。
 また一般には「アルバム・イメージを代表する曲」「アルバムにそぐわないので漏れた曲」「別ヴァージョン」「テキトーなお茶濁し」などが多いカップリング曲だが、天野のそれは前述の通り未発表曲ばかり、それも完成度は軒並み高い。決して捨て曲はなく、寧ろライヴで披露される確率さえ高い。タイトルも一部を除けば言葉遊びになっており、歌詞や曲調も呼応することが多くある。天野の世界観を研究するにあたっては決して外せない要素であると言えよう。
 ただ、今となっては入手困難なものも存在する。願わくば、値段の急騰しているそれらを何かしかの形で解放してほしいものだ。機会を失うとずっと聴けない、というのは楽曲を論じることもできず、評価外となってしまう可能性も考えられるから……。


[プレミアム・ソング]

Love Dealer
 一時期、一部店舗で限定販売された1曲入り8cmシングル(100円!)収録曲。全国的に発売されていないので、シングルの順番には数えられていない。現在では既にプレミア・アイテムとなり、100倍以上の値段は当然になってしまっているが……ありがたいことに、天野はこの曲をライヴではよく演奏する。しばらくの間、入手可能なものではライヴVTR『Pia Debut Live Review』が唯一の収録音源だったので、通販及びライヴ会場限定販売のそちらを愛聴していたファンは多い。現在は“Type 2003”として天野のヴォーカルのみ再録音、及び楽曲全体にニュー・ミックスを施してシングル化されている。
 時期的には「箱庭」の後なので、確かに「ステロイド」を連想させる電子音がフェイド・インしながら楽曲が始まる。それにストリングスが続くのだが、それが大々的に導入されたのはこの曲が初めてだろう。以後、天野とストリングスは実に相性の良い組み合わせとなっていく。その厚いストリングスが配されているため、それが他者と天野との類似性を隔てる要素にもなる。そして以後、彼女にとってストリングスは重要な武器となり、それが炸裂したのが「菩提樹」というわけだ。コーラス部分には高い声が重ねられており、多少のエキセントリシティを感じさせるが、歌詞は彼女の中でも最も真摯で純粋、前向きなものだ。やがて楽曲はイントロにあった電子音が再登場し、突如の停止で終わる。
 恋愛事となると悲観的な歌詞になる傾向のある天野だが、この曲ではそれを微かに漂わせながらも飽くまでポジティヴに、自らを花に喩えて(これは各国文学に最も多く見られる比喩のひとつである)相手のもとで咲きたいと願っている。そこまで深読みせずとも天野の曲中では普遍性が高いもので、よくあるバラード・タイプのポップ・ソングとしても聴けるだろう。純朴で、ひたむきで、まっすぐな魂……天野の楽曲の中で、最も純粋な慈愛に満ちている。取り繕うことでキャラクター化した「君が好き♪」よりも、純粋な慈愛に。
 なお、ジャケットは黒地に天野の名とタイトルが白字で印刷され、中央に前述の『箱庭』封入ステッカーからの流用写真が据えられたシンプルなもので、天野中唯一の3インチ・シングル。中古品を扱う店頭で注意深くお探しあれ。


Love Dealer -type 2003-
 プレミアム・ソングの筆頭的存在にニュー・ミックスを施し、天野本人の希望により新録音ヴォーカルを重ねたリメイク・ヴァージョン。そのためオリジナル版の価値が下がる心配はないだろうから、数字崇拝者は安心しているといい。だがヴォーカル・イコライジングも目立ったオリジナルよりも、こちらの方が「生の」天野に近く、多くのライヴとリリースを重ねた「今の」天野による歌唱であり、何より「本人の」意志が強く活かされた仕上がりとなっている。オリジナル版を所持する方は、それとライヴVTR『Pia Debut Live Review』での演奏、そして本作の「値段ではなく純粋な出来」を比較してみるといい。歌唱力のレヴェル・アップと、自らの表現方向を見出した自信に気付かされるだろうから。ファン・サーヴィスに近い側面を持つ楽曲ではあるが。
 ニュー・ミックスでの顕著な違いは、曲の前後にある。冒頭部分では弱々しくフェイド・インしていた機械音はライヴよろしく一定の音量になり、最後はそのリピートをなくしてこれまたライヴ同様にバンド演奏の最後の一音とストリングスの残響で終わる。壮大なストリングス加減や泣き泣きの曲展開は、天野が好む歌謡曲を引き合いに出すなら、久保田早紀の「異邦人」あたりに雛型を感じることもできるだろう。そうした天野の「歌謡曲素質」は、実際にはシングル『箱庭』先行発売盤の次にドロップされていたこの曲で、既に(ひっそりとではあるが)確立されていたのだ。本作のジャケットにそれを感じ取ることもできるだろう。
 因みに、ヴォーカル新録音などもあって、当初は「Love Dealer 2003」という仮題が設けられていた。結果的には、外面上では「Love Dealer」ではあるものの、ジャケット裏側には「Love Dealer−type 2003−」との表記がある。そうした推移にも「同曲ながら別物」であることの意志が現れていると言えるだろう。それはさながら「B.G.〜Black Guitar + Berry Garden〜(胸キュンタイプ)」にも似て。
「コンプレックスを武器に変えましょう」
 この歌唱が、最も変わった部分だ。歌唱自体が借り物感を払拭した「天野の」ものになっているし、様々な作品やライヴを経験した今、その説得力が数倍に増しているからだ。エコーのかかっていたものやイコライジングの強かったものは「ナチュラルに」なっている。
 ジャケットは、一面の赤に天野自筆によるふたりの女性(昭和歌謡界の誰かに似ている気も……片方は「ヒメギミ顔」になってはいるが)のイラストが掲載されたもの。それぞれの胸もとには「L」「D」という、本作を意味する頭文字が描かれている。盤面にはコーラス部分でとる「両手でハート」のイラストが描かれており、ライヴ・カットを交差させたビデオ・クリップ(未発売)でもそのポーズを見ることができる。


[以下シングル・カップリング曲]

ステロイド
「箱庭」カップリング曲。
 疾走感溢れる楽曲で、音色には少しばかり近未来的な雰囲気も漂う。それと天野とのギャップが面白い。完成度はそれほど高くはないが、そうした独特の奇妙な味があり、カップリング曲の中では「巨大獣」ほどではないが人気が高い。中途半端なサイバー・パンク感覚は彼女の目指す要素ではないだろうから、以降「80年代的な電子音」に姿を変えて挿入されていく。刺激的だが味わいは濃くない。
 サビ前は8分の14拍子(つまり「8 + 6」)になるなど挑戦的な姿勢も見える。その甲斐あって出来はとても良く、好評の声高いカップリング曲でも2番目ぐらいに人気がある。80年代からの影響もカッチリした構成や、クラップ音など各所に垣間見える。
 歌詞は抽象性が高く、しかし言い詰めると「あなた」を忘れられない「恋愛依存症」になった「わたし」が、ステロイドの力を借りるというものだ(その副作用も……)。効く薬なのに、使い過ぎると効かなくなり、依存性も高い。そして量が増えて悪循環を起こす。そのため、「来ないで」「離さないで」などと反対の意味を持つ言葉が用いられている(呑みたくなくても呑んでしまう、アルコール依存症を思い浮かべるといい)。コーラス部分が音色と噛み合い、やはり近未来的な雰囲気がある。
 なお『箱庭』には通販仕様と通常盤があり、内ジャケットの写真やクレジットなどが異なる。通販限定盤には同名映画のワン・シーンの写真が用いられており、ステッカーは入っていない。店頭通常盤は初回盤のみ、手鏡を見ながら口紅を塗る「初めて書いたヒメギミ」のイラスト・ステッカー封入。
 なお、シングルのカップリング曲は「ステロイド」から「象」まで10曲、その殆どにリテイクやリミックスなどが施され、『ウィノナ ライダース〜月の裏側〜』としてコンピレーション・アルバム化している。


G.B.〜ゴールデンバニー〜
「B.G.」カップリング曲。
 天野自身によると「痩せ我慢の歌」というこの「元祖天野流グルーヴ・ナンバー」は、確かにそうした描写が歌詞に綴られている。物語性は薄く、歌詞よりも楽曲に重点が置かれている。タイトルの「B.G.」は例によって略であり、副題になっている“Golden Bunny”と、さらに“Golden Boy”の意味を持つ。そのため、この曲も天野の得意とする「『あなた』と『わたし』の歌」と解釈することもできるだろう。「B.G.」の主人公の素を、この女の裏の顔を描いた曲で感じてもらえたら、と天野は言う。
 それでもこの曲は楽曲自体の魅力が強く、グルーヴ感の強いリズム隊を中心に仕上げられている。それを活かしたのが『Pia Debut Review』のライヴ・ヴァージョンで、そこではプレイボーイズがインスト・バトルを展開するのだ。その間に天野は衣装替えを行うという趣向。その部分をフェイド・アウトしてオミットしたものは『Treasure』にも収録されている。
 なお『B.G.』初回生産盤のみ「少女の仮面を脱ぐヒメギミ」のイラスト・ステッカー封入。


巨大獣
「菩提樹」カップリング曲。
 捨て曲などではなく、なべて完成度が高いカップリング曲の中でも、疑いなく最も高い人気を誇るナンバー。「掟破りのアンコール」を披露した「メグに逢えたら」より前の長尺ライヴではほぼ必ず最後に演奏されており、その余韻の残る中、天野は歩き去っていく。予定的ながら、初めてアンコールに応じた『メグに逢えたら』でも「本編自体では」最終曲になっていた。
 冒頭の感傷的なギター・フレーズが天野の他曲と一線を画しており、独特の儚い雰囲気を持っている。虚無の音色、虚空を切り裂くような天野の叫び……間違いなく、未収録曲の中で最も傑作と呼べる楽曲だ。ピアノ部分の抜粋がイントロに付加され、最後はバンド・ノイズで幕を閉じるライヴ・ヴァージョンがどれも秀逸。
 この曲は表題曲である「菩提樹」のアンサー・ソングであるとのことで、なるほど、その後の「あなた」が「わたし」から去ってしまう物語になっている。しかし気を付けなければならないのは、そちらと「あなた」「わたし」の立場が逆転しており、大木だと思っていた「あなた」が急にいなくなってしまったことが歌詞に綴られていることだ。詳しくは筆者による「『菩提樹』論」を参照頂きたい。
 今や最後の曲として定着した感のあるこの曲だが、初期の披露ではそうでもなかった。流れの中腹に位置していたり、『氷の美SHOW』でも心斎橋では何と冒頭に配置されていたという。その一方で『音倉レコード会社案内ビデオ』では曲の性質上珍しい(「アコースティック・コーナー」に挟めない)アコースティック演奏もされている。
 なお『菩提樹』初回生産盤のみ「貴婦人ヒメギミ」のイラスト・ステッカー封入。

 現在のライヴでは必ず最後に演奏されて感動を呼ぶこの曲も、個人観で言えば、単発での印象はさほど強くなかった。荘厳さがこじんまりとした印象がある。しかしそれらは厳しい意見であって、天野のアルバム未収録曲中では間違いなく金星。慣れるまで時間が必要なだけ。屋上などの高い場所で、ふとした時に歌ってみるもよし。


スパイダー
「スナイパー」カップリング曲。
 決して叶わぬ恋心を、蜘蛛である「あなた」に恋してしまう、アゲハ蝶の「わたし」になぞらえて描いた歌詞が儚い。こと「せめてあなたの腕で終わりたい」と願うのは物語的とさえ言える。その歌詞は、まるで森山加代子の「白い蝶のサンバ」にインスパイアされたかのようなもので、併せて聴くとその共通点が垣間見られて非常に面白い。
 楽曲自体はイントロこそメロウだが、あっきーによるベースのグルーヴ感が強く、また2回ほど演奏される、J.Jによるハイ・ハットの「チッチッチッチ!」というフレーズが印象的。
 なお『スナイパー』初回生産盤には「相手を撃てずに涙を落とすスナイパー・ヒメギミ」のイラスト・ステッカー封入。

 ドラミングがひときわ凝っているこの曲も、天野の曲中では割と中庸な部類に入ってしまうのではないだろうか? 「青紫」と同様、決して悪くはないのだが、リズムを強調すると「普通の曲」になってしまいがちなのだ(ゆえに共感を呼びやすい、という側面も強くある)。ただ完成度はかなり高く、特にアレンジメントに成功した楽曲と言えるだろう。だからこそ、ライヴでは否応なしに盛り上がる。


Pleasure
「Treasure」カップリング曲。初期の曲では最も短く、約3分。
 冒頭のトマトに関する部分などに顕著な、ユーモラスな歌詞と明るい曲調が相乗して、天野の楽曲中最短でありながらも、ささやかな「喜び」に満ちた曲。タイトル・トラックを意識してか、打ち込みの音が目立つ作りになっている。特筆すべきはシャラによるギターで、天野がひとしきり歌い終わった時に演奏されるフレーズがどれも違う。それがこの曲の明るさを引き立てているのは確かだ。
 ツアー『氷の美SHOW』以降より、アコースティック・セットの中にこの曲は組み込まれる。しかしもとより打ち込みドラムやアコースティック・ギターが主導権を握る曲なのだから、それはある種の必然であり、違和感は特にないものになっている。
 なお『Treasure』初回生産盤のみ「赤いバス・ローブを着たヒメギミ」のイラスト・ステッカー封入。

「トマトに関する歌詞」が、筆者を貫いた。見透かされているような気分だった。こんなことが続くから、筆者には天野が他人には思えなくて仕方がない。似たような錯覚を抱くリスナーも少なからず存在するのだろう。コーラス部分の甘い声の繰り返しはとてもとても……。


BOGGY!
「HONEY?」カップリング曲。
 曲調はジャジー、或いはブルージーではあるが、天野の歌唱法はジャズ・ヴォーカルのそれとは根本的に異なり、ブルージーにはしているが、どうしてもロックになる。また楽曲自体もジャズなりブルースなりの「雰囲気」を醸したものであり、ジャズの理論、ブルースのスタイルなどに基づいているわけではない。
「沼地の」という意を持つタイトルではあるが、それは恐らく「泥沼のやりとり」という意を込めているのではないだろうか。なぜなら、手の届かない「あなた」と近付きたいために労苦を重ねたうえに病院通いとなり、それでも「あなた」をドロドロと求めてしまうという歌詞がそこにあるからだ。タイトルの音韻を求めた結果に付属した世界観だとは思うが。いずれにせよ「あなたが喉に引っかかって取れない」という歌詞は秀逸である。
 なお『HONEY?』は初回生産盤のみ「くれない鉄仮面」イラストのピクチャー仕様。


(左が初回限定盤、右が通常盤)

人魚
「人形」カップリング曲。
 泡の効果音で始まり、泡の効果音で終わるという、シングル表題曲「人形」さながらの前後構成。今までのカップリング曲の伝統を守った言葉遊びと、「表題曲に近い音世界」というパターンを踏襲している。カップリング曲群の中では重くハードな部類だが、ピアノやコーラスによりソフィスティケイトされている。
 実際には悲嘆の漂う歌詞であるのに、それをユーモアでくるんだ仕上がりになっている。ダンスホールやパーティといった世界観としては「Pleasure」に近いが、こちらの主人公はマーメイド、つまり人魚。その人魚がまるで人間と同じように生きている様子を描き、そのうえで、人魚であるために人間と結ばれない悲嘆がそこに込められている。その理由は血筋、という意が拡大するとヘヴィになってしまいそうだが「be動詞」「ちょっとだけ魚じみてるだけ」などの語に込められたユーモアがソフトに響いている。大意は「ちょっとの違いを大袈裟にしないでほしいのに」というもので「カタコトでもいいから共通の言葉で話そう」と訴えている。それでも相手には別物として見られてしまう自分を「家系のせい」と愚かしく嘆く、少しばかり自己中心な人魚。天野は、自分のみならず誰にでも潜む一部分を彼女の姿に投影したのだろうか。今までの(世界観なり音楽性なりが繋がることが多分にある)カップリング曲の中では、最も表題曲から切り離しても違和感を覚えない1曲。
 また『人形』初回生産分は天野月子オリジナル11ページ絵本ブックレット付デジパック仕様。通常盤とはパターン違いによる別ジャケットになっている。


ミサイル
「Love Dealer -type 2003-」カップリング曲。
 B.N.W.(Brand New World)への提供曲となった「Over Drive」の原曲を、バンド・アレンジでセルフ・カヴァーしたもの。そのため、アイドル・グループ的なスタンスを採るB.N.W.には過激であり、また当時、戦争が勃発したバック・グラウンドから改稿せざるを得なかった、オリジナルの歌詞を復活、また疾走感を引き出したハード・ロック・アレンジによりまったくの別曲としてよみがえっている。ハード・ロック・アレンジとはいえ、音色はクリアにまとまっており、とかく爽快な疾走感が強い。また数箇所でミサイルをイメージした飛来音が響いたり、「ミサイルはわたしが〜」の部分はヴォーカルにイコライジングがかかっているなど、80年代的な要素はもちろん色濃い。一般向けを狙ったために凡庸なアレンジに落ち着いてしまった「Over Drive」との聴き較べをお勧めしたい。
 そのため、まず、先に聴くことができた提供曲「Over Drive」を知っていたとすれば、そのイメージされるものを棄てよう。この原曲は、そこから想像される域を越えた、破壊力に満ちた超弩級ナンバーに生まれ変わっているからだ。「ミサイル」というタイトルは歌詞のみならず、楽曲自体に宿るひそかな破壊性を体現し、また「ライヴ感/バンド感を強調する」という指針にも絡んで、空回りでなく結実している。ただ、ライヴ・テイクと比べるとすっきりと収まっている感はある。
 歌詞は男女間のやりとり――「ミサイル」を「何か」の「象徴」としてみるといい――を暗に描いたもので、憶測すればするほどエロティックな妄想を掻き立てるものでもある。だが表面的には恋愛を抽象しており、味があるものの、かといって濃過ぎるわけではない。「ミサイルは、心の爆弾。みんな心の核シェルターを持っている。誰にも内緒にしていたい、公にしたくない部分」というのが天野のこの楽曲へのコメント。
 ライヴでは、発売より4ヶ月も前に行われた「プライベートライオン リターンズ」で演奏され、話題をさらった。その頃からバンド・アレンジとして完成していたため、録音を想定していた可能性も考えられる。また、「Over Drive」のクレジットが内なる自己「ヒメギミ」であったのに対し、この「ミサイル」では堂々たる「天野月子」の作詞・作曲となっている。



「鮫」カップリング曲。
 天野は、過去曲に時折であれば変拍子を挟むことはあったが、それを前提に作られた楽曲はこれが初めてになるだろう。3拍子で始まった楽曲はやがてビートの連打で転調、4拍子に変化し、また撹乱されて3拍子に戻る。そしてまた転調し……といった展開を基軸として、この曲は作られている。曲調とタイトルのためか、ゆったりとした印象さえ受けるものの、実際にはテンポの早い楽曲。それなりの演奏力とヴォーカルの適応力も要するので、ライヴでの再現が望まれる。
 2nd『メグライオン』によって物語性を武器とした天野だが、その資質はこの曲でも遺憾なく発揮されている。歌詞は現代寓話風(そういった意味では「pigeon」に類するとも言える)のもので、ゾウガメを飼いたいのに現実的に難しく、飼いやすいミドリガメで我慢するよう説かれて訪れた店が営業していない、というもの。これは、様々なことへの比喩として流用することもできるだろう。本当は「あれ」が欲しいのに、言われるままに「これ」を選んだ末、「それ」さえも手に入らないという歌詞は……刹那性と疾走感だけではA面曲「鮫」に劣るが、歌詞の面ではこちらの方が味わい深く、楽曲の挑戦度もあいまって高い評価が与えられる。特に、フルートのような音で「裏メロ」が交わっているのはアレンジの勝利。表題曲より、奥底に見える音楽性は深い。
 後に、シングル『蝶』のカップリング曲「象」とリンクする楽曲。



「蝶」カップリング曲。
 前シングル『鮫』カップリング曲「亀」の姉妹曲と言っていいだろう、豊富な曲展開を見せる、打ち込み主体のトイ・ポップ。特にイントロ部分のパーカッシヴなリズムは「亀」にほど近い。コーラス部分の歌声は甘く、天野月子名義では(やはり陰を帯びながらも)至上の明るさを持っている。シングル表題曲から一転した雰囲気であるのも好印象。
 明るさは特に歌詞へ反映されており、あたたかく積極的な恋模様を描く様が秀逸。足の早い「あなた」と「わたし」の顛末を描写的に歌っており、やがて「わたし」の地団駄が「象のように」響いて、慌てて「あなた」が戻ってくるというコミカルなもの。一見するとちぐはぐなふたりも、「蝶」の隠れた表現である「自分にないものを持つ他者」の現実化として微笑ましく眺められる。
 この曲が「亀」と連動しているのは確実だろう。併せて「象亀」ということになる。そう思えばドラミングは象の足音で、時折響く鳴き声は、ひょっとすると(キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリューほど派手じゃないが)「象ギター」だろうか、などと思わせる。現代寓話的な内容も微笑ましい、ささやかな可愛らしさを持った佳曲。
 この曲が収録されたシングル『蝶』に先駆けて行われたライヴ「くれない鉄仮面団特別臨時集会vol.1〜ツアーオブザドラゴン前夜祭〜」から、ギター1本、いっさいのギミックを取り払ったアコースティック・ヴァージョンとして披露されている。そうして操作できる質感というものは「Pleasure」にも近い感がある。


太陽
「月」カップリング曲。
 シングル・カップリング曲での言葉遊びを始めてから、初めて言葉遊びでなくなった(それでも「月と太陽」でリンクはしている)カップリング曲。部分的にジャズのリズムを用いていたり、灼熱を思わせるサイケデリック度数の高いギターの遊びも効いている、ルーズなロックンロール。とくにギター・ソロなどピアノと相俟って「インド的」な旋律を聴かせてくれたりもする。そのギターは元Evita Temptationsのポロ(現マスカレード・ポロ)によるもの。
 恋に恋する乙女を客観的に描いた歌詞は、実はちょっとシニックだ。恋の標的である人は都合のいい詐欺師で女たらしのナルシシスト、彼に恋する乙女自身も自分に酔ったナルシシスト。それを客観的に「火傷負わないように遠巻きでいたい」と見詰めている。そのうえ「白い馬は来ない」と、理想主義を打ち砕いていたりもする現実的な歌詞だ。「月」は自分の一部なので、それを照らしてくれるプレイボーイズのテーマ・ソングとして書いた、と天野は語っている。
 ライヴ演奏での盛り上がりも期待できる「天野流ロケンロール」と言えるだろう。ライヴでは、「アマフェス2007〜天野月子withプレイボーイズ〜」で初登場となった。
 また『月』初回生産分には「月」のビデオ・クリップを収録したDVDが付属している。そのため一部ではプレミア価格になっているようだ。


ID
「イデア」カップリング曲。
 スクール・ライフにID(自我)の目醒めを描くという、果敢なスタイルの作詞が何よりのポイント。これは「イデア」が価値観を表しているのとともに、とかくこのシングルは「我」を強調している。とはいえ歌詞が難解なわけではなく、白紙の解答用紙を提出して「ストライキ」と呼ぶなど微笑ましい部分も多い。そうした先生と生徒のやりとりを描いておきながら、天野の歌い方はやや妖艶、というミス・マッチも楽しい。機械的な質問をくだす教師に、人間的なことやアクシデントを考慮しなくていいのか、というシニカルな視線でものごとをとらえていた天野の感性が光っている。曲調はダルでデカダンなロックンロールで、「BOGGY!」や「太陽」あたりを髣髴とさせるきらいもある。
 ライヴでは、「イデア」に続いて「くれない鉄仮面団臨時集会vol.2」で初披露された。
 シングル『イデア』は初回生産分のみ『金色のガッシュベル!!』描き下ろしステッカー・ジャケット仕様。



「聲」カップリング曲。
 タイトル通りの「萌え萌えソング」かと思いきや、軽快で楽しいロック・チューン。その曲調は実に無邪気で、純朴な雰囲気さえ漂う。久々に天野の「甘い声」が楽しめる1曲だ。
 一聴しただけでは単なる浮わ付いたポップ・ミュー0ジックで終わってしまいそうだが、この曲は、歌詞が特筆に価する。自分の好む対象を「萌え〜」などと呼んでしまうヴァーチャルの世界の住人を描いたもの。まるでそれは天野自身の熱狂的・偏執的なファンへ向けたメッセージでもあるかのように、諧謔的に響く。ユーモアと毒(時にこれらは一対にも同意にもなる)を兼ね備えた、天野流ブラック・ヴァラエティ・ソング。フェイク節満開の曲調と絡んで実に素晴らしい。「赤い彗星」などというフレーズにピンとくるリスナーは要チェックだ。
 ライヴでは「KERA presents 天野月子SPECIAL LIVE in 原宿RUIDO〜夏なのに、夏だからすぺさるライブ」から披露されている。コミカルな振り付けもブリッジ部分を中心として設けられている。それは「大きな栗の木の下で」であるらしい。
 なお、「天野月子」名義では初めて(「秘密サークル タイガーマシーン」では既出)主語が「ボク(僕)」になっている曲でもある。そのうえで「君」との対話式に行われるヴァーチャルな会話がキモカワイイ。



(左:初回盤/右:通常盤)

Bowling
「Howling」のカップリング曲。
 しょっぱなから打ち込み全開のテクノ・チューン。テクノ要素は天野の曲にしばしば顔を見せていたが、それが全体を構成するのは珍しい。コミカルな音色や曲調を駆使しており、愛らしく、玩具的な響きのある音色が全体を支配している。短いながら遊び心のある楽曲。打ち込みと効果音程度のギターのみで構成されている。遊び心が強いので佳曲とは言いがたいが、時折ふとした時に聴くと、とても楽しめる曲だろう。
 歌詞は「ストライクゾーン」「スプリット」「マイシューズ」……などなど、ボウリングになぞらえたものになっており、曲調に負けずこちらもコミカルで遊び心満載。それでいて、他者を隅へ笑いやって自分の道を突き進んでいく「あたし」の生き様をボウリングの球になぞらえて描いたものになっている。
 ライヴでは、演奏されていない。
 なお、ネット通販のみだった初回限定盤は「Howling」のビデオ・クリップを収録したDVD付き。CDのみの通常盤は「音倉商店」ほかでリリース。そちらは初回のみ「崖で吠える狼」のモノクロ・イラスト・ステッカー封入。なお、スリム・ケースでない通常プラ・ケース(バックレイが封入されている)でのリリースは天野史上初であり、「ゼロの調律」まで続くこととなる。


セブンとデート
「HEAVEN'S GATE」のカップリング曲。
 ラウンジ調の穏やかな打ち込みナンバーで、シンセで鳴らされるサックスやピアノの音が雰囲気を出している。ゆったりとしたリラックスできる曲調。歌詞は、もしやこの「セブン」とは「ウルトラセブン」のことでは? と思わせるフレーズ(「黄金色した瞳」など)が多数出現し、ニヤリとさせられる。空想世界のデート風景を描いた、小粒ながら味わいのある曲。しかし「ゴネンジャー」あたりからの天野は少しばかり打ち込みに頼り過ぎている感もある。
 ライヴでは、演奏されていない。
 また『HEAVEN(S GATE』を先行発売したライヴ「ひ・め・は・じ・め」では、「当日限定キラキラ☆ジャケット・ヴァージョン」も発売された。


[以下「秘密サークル タイガーマシーン」名義]

進め☆タイガー
 ツアー『氷の美SHOW』での会場限定販売カセットテープ1曲め。
 これだ! と、筆者は快哉を打った。
 天野が「誰かに似ている新人」とばかり評されているのが『シャロン・ストーンズ』発表までの世評だった。しかしこの世界は、天野にしか表現できない。「お馬鹿なことを一生懸命やってしまう」という純粋さが垣間見られ、好感が湧いてやまない……「音倉レコード」の公式サイトでは天野本人による連載Web漫画「秘密サークル タイガーマシーン」が掲載されていたことがあり、天野とバンド・メンバーを主人公に仕立てた物語になっていた。それにオープニング・テーマとエンディング・テーマを作ろうという運びになったようで(あるいは、当初から予定されていたのか?)、漫画中でひそかにカセット・テープ発売を宣言していた。この曲はオープニング・テーマということになる。
 いやがおうにも「正義戦隊モノ」を髣髴させる、ジョークと本気スレスレの世界。幼い頃にそういったテレビ番組を見ていたリスナーならば、思わず笑い出してしまうだろうツボを得た楽曲となっている。天野はカセット販売を行ったツアー『氷の美SHOW』からこの曲を披露し、憶えやすい振り付けを早くもマスターした観客を煽るように踊っていた。打ち込みドラム主体の楽曲であり、そのため、披露の際にはドラマーであるJ.Jは席を外す。それと同時に「タイガーマシーン」の主人公格「レモン色J.Jタイガー」が登場し、天野と共に踊り狂って場内を湧かせた。
 ファン・サーヴィスに等しい楽曲なので、近くの人間を悪の組織に見立てるなど歌詞も内輪ネタに満ちたものだが、天野の世界に浸りきっているとそれも楽しめるのではないだろうか。なお、ゲーム番組『ゲームEX』のエンディング曲にも起用され、レモン色J.Jタイガーとドピンクタイガーが振り付けを踊るビデオ・クリップが作成された(未発売)。

 人によっては笑い種、人によっては嫌悪の対象、人にとってはフェイク感の評価。いずれにせよ内輪受けなので、それが楽しめる人用。だからチープなカセット販売でのプレミアム・ソングだった。しかし彼女のフェイク感を論ずるにあたっては必須の要素となるだろう。
 現在は天野自身によるイラストをジャケットにしてCD化され、この曲とその「第二章」はお手軽に楽しめるようになった。CDにはカラオケ・ヴァージョンも収録されているが、その代わり、それぞれの2曲目は収録されていない。


君が好き♪
 同ツアー限定販売カセットテープ2曲め。こちらは「タイガーマシーン」のエンディング・テーマという扱いになる。
 正義戦隊のエンディング・テーマに相応しい(夕陽をバックにして笑い合うような、男子諸君には解るだろうあの雰囲気)純朴なラヴ・ソングで、天野は最も純朴な歌い方をしている。これらはプレミアム・ソングであって評価外なのかも知れないが、ここまでに明るく、無垢で、闇の側面をまったく感じさせない天野は新鮮だ。天野は雑誌インタヴューにて「幼い頃は男勝りの勝気な性格だった」と答えているので、ともすれば、その頃に正義戦隊モノを好んで見ていたのかも知れない。それをメンバーにたむけた結果が、これら2曲ではないかと邪推される。未CD化音源のひとつ。
 なお、発表より半年後の「プライベートライオン リターンズ」にて、この曲は初めて(客席と一体感のある)ライヴ演奏された。

 しかし、ここにいる天野は、本物だろうか? そう思ってしまうほどに、ここまで純朴な彼女は今までの作品からは想像だにできない。必ずや「負」の概念を引き摺っていた彼女が、ここまでまっすぐなラヴ・ソングを(幾らプレミアム・ソングとは言え)歌えるとは……これは、彼女が持つ様々な仮面を持ち替えているという証拠になる。それは優秀な演劇性人間だけが知っている、劇的パフォーマンスのコツにも似て……キャラクターは「演じる」のではなく、自分から「引き出す」のだ。
 だからこそ「タイガーマシーン」名義での天野の作詞作曲クレジットは、すべて「ヒメギミ」になっている。天野本人が引き出した「別の天野」が作ったものとして。


進め☆タイガー〜第二章〜
 ツアー「氷の美SHOW」でのカセットに続く、歌詞を変えたもの。『メグライオン』発表後のツアー「プライベートライオン」「天野月子 年末スペシャル『メグに逢えたら』」にてやはりカセット販売された。この曲は新オープニング・テーマということになる。
 基本は「第一章」となる原曲とまったく同じで、コーラス部分以外の歌詞を全面的に変えたもの。ベース、ギターなど演奏はまったく同じだが細部は異なり、まず打ち込みドラムは(前回ではイントロのみだった)冒頭の小刻みなリズムが基軸になっている。コーラスやS.E.の増減、音量調節なども行われており、喩えば「音叉は僕らのアイテム」という部分では音叉を重ねる音と使用する音が鳴る。「レモン色JJタイガー」による語り部分も新しく録り直され、もはや「自己パロディであるタイガーマシーンのさらなるパロディ」然としているのが面白い。
 やはりプレミアム・ソングの一種であるので、コア・ファンが楽しむためのもの(ゆえにCDではなくカセット・テープ)だろう。純粋に楽曲を評価するのは難しいし、原曲を知っている者には、ファースト・インパクトが武器となるこの曲が別の歌詞になるのには違和感がある。結局は好みの問題であり、許容心の広さにより、またコレクターズ・アイテムでもある。だが、サーヴィス精神とも言えるこのテープ販売は好評で、遊び心として大きく評価できるものだ。ライヴでは「プライベートライオン」から、第一章に代わるようにして披露されている。
 現在は、前述のようにカラオケ・ヴァージョンを併録してCD化されている。

 また私観ではあるが、前回は筆者には、正義のヒーローをパロディ化した漫画「セクシーコマンドー外伝 すごいよ! マサルさん」を髣髴とさせたのだが、今回のJ.Jによる語りや声を聞いていると、仮面ライダーをパロディ化した「仮面ノリダー」をイメージさせた(声や発音が似ている部分もあるが、それより着眼点やセンスとして)。以上、まったくの主観であり蛇足。


Merry T'ger
 同ツアー限定販売カセットテープ2曲め。こちらは「タイガーマシーン」の新エンディング・テーマという扱いになる。
 やはり「君が好き♪」に則った、甘い声によるものだが、意外や意外、レゲエを基調とした楽曲になっている。途中から曲調も明るく一定し、鐘の音のような鍵盤音でクリスマス・ソングらしさを増していくが、その中で意図的に音が外される部分がコミカル。その中、ひときわ明るく、甘く歌う天野が愛らしい。販売時期がクリスマス寸前ということが強く影響する楽曲で、ライヴ「天野月子 年末スペシャル『メグに逢えたら』」でも販売と同時に演奏され、好評を得た。クリスマス・ソングでありながら、サンタは黄色い虎というのが面白い(「虎ゾリ」などという発想の豊かさ!)。こちらにもJ.Jの語りがフィーチュアされており、弱々しい気障な男を演じている。なお、一応記しておくが、曲名の読みは「メリー・タイガー」。ライヴDVD『メグに逢えたら』では表記も「Merry Tiger」に改められた。もうひとつの未CD化音源。

 真摯に自分を晒け出した『メグライオン』をリリースして、ひょっとして天野はリアリティ一本槍になってしまうのか? と危惧したものだが、こうした形でも「直接的なユーモア」が残され、声の使い分けも味わえたのには自己満悦だけではない意味がある。