全曲解説:アマフェスリポート2007
〜初のライヴ・アルバム〜

天野月子、初のライヴ・アルバムはそれまでの活動の集大成的な内容となった、2007年7月28日の東京キネマ倶楽部で行われたライヴ「アマフェス2007〜天野月子withプレイボーイズ〜」から選曲された、全13曲約70分で低価格という充実したもの。選曲からMCの編集まで天野月子監修による、言わばセルフ・プロデュース的なライヴ盤。「菩提樹」のような王道曲を選ぶのではなく、寧ろ「Stone」のような天野の中でのキィ曲が多く選曲されているのが肝。中でも「ゴネンジャー」にまつわる曲が多く、初披露の曲も選ばれているのは興味深い。初のライヴ・アルバムにして渋い選曲というのがファン泣かせというか、天野の意向を重視したものだ。代表曲群をライヴで味わいたければ、DVD『メグに逢えたら』などを観ればいい。
ライヴ会場及び「音倉商店」限定販売。なお、先行発売されたライヴ「ひ・め・の・ぼ・り」で購入するとオリジナル・ポスト・カードが付いていた。本作は限定商品ではなく、値段も内容からすると手頃なので、選曲が初心者向けの内容とは言いがたいが、天野のライヴ感を味わってみたい方にはぜひ聴いて頂きたい。
だが、コアなファンからの意見をすると、ライヴ盤としてのクオリティは決して高くない。選曲は初のライヴCDにしては初心者向けではなく、中途半端な編集箇所も多い。2枚組にして一公演を完全収録してしまった方がよかったと思われる。だからこそ、通販限定なのだろう。「天野月子・応用編」だと思えばいい。
01.混沌 -chaos-
前曲(菩提樹)のエンディング一音が伸ばされている部分からフェイド・インし、歓声を挟んでこの曲から本作は始まる。テクニカルなこの曲は特にJ.Jのドラムとあっきーのベースが巧妙で、聴く者を不思議な感覚にとらわせる。シャラのギターは透明なトーンで、天野のヴォーカルはやや甘い。
02.鮫
展開が続くように、怒涛の勢いでこの曲へ。「アマフェスー!」と叫んで入る冒頭から強力な音圧で、聴く者を圧倒する。ハイ・トーンのギターやドライヴするベース、ブラスト・ビートのドラムと、演奏は熱がこもっているが、肝心の天野のヴォーカルがやや息切れ気味。エンディングはややエクステンドされ、ドラミングで終わる。
03.MC 1
挨拶に続いてのメンバー紹介から、この日一番客席から笑いの起こった「ミドル・ネーム占い」のMCに入る。
04.Stone
グルーヴィに唸る演奏はベース・ラインが強調され、ようやくヴォーカルも安定し、迫力のある演奏になっている。早弾きも含まれるギター・ソロが異なるが、全体的にはオリジナルに忠実な演奏。恐らく、自己を描いた歌詞といい、オリジナルを重視した演奏といい、この曲こそ天野が「聴いてほしい」と願う曲なのではないだろうか。
05.砂糖水
一時期、ライヴ常連だった隠れた人気ナンバー。基本的にスタジオ録音の再現にとどまっているが、ギターのトーンがやや透明。エンディングはフェイド・アウトしていたオリジナルと異なり、ピアノとストリングスの旋律で完奏される。それ以外はオリジナルに即している。
06.風船
叙情的なナンバーが続くが、ドラムはアクティヴでスネアがやけに響いている。歌に入るとスタジオ録音では余り主張されていなかった打ち込みの音がよく聞こえる。ギター・ソロはオリジナルと殆ど違い、即興的なものになっている。天野のヴォーカルはやや力が入っている感もある。エンディングはドラムが違い、またギターのハウる音で終わる。
07.国道
冒頭に宣言されるように『ウマ・サーモン』のヴァージョンに即しているこの演奏は、ドブロのようなブルージィなギターから始まり、各所のギターがかなり変わっているというさらなる別物といった感じに仕上がっている。うねるベースに音色を使い分けるギターなど、特色が豊か。特にオリジナルはシャラではなかったギターはコーラス部分にソロ・パート、エンディングでは即興的な演奏になっている。このヴァージョンでは最初にして最後の演奏なので、意義ある貴重な収録と言えるだろう。
08.月
アコースティックでも度々演奏される曲だが、ここではやや動的な演奏。イントロでもギターが爪弾かれたり、ドラムはオリジナルと異なりずっとビートを刻んでいるなど、細かい部分は異なるが、基本的には原曲に即している。ソロ状態になる箇所があるベースと、叙情的なストリングスが曲の肝。
09.人形
ライヴではお馴染みの、アルバムとシングル双方のヴァージョンをミックスしたイントロから始まり、「行くぞー!」と号令されて演奏に入る。歌唱は力んだ感があるが、それも相俟ってよりグルーヴ感が湧く。ブリッジ部分のドラミングなど、細かい相違点は多々あるが、基本的にはライヴDVDでの演奏と同じと思っていい。やはりエンディングはオルゴールになっている。普段通り「日曜日」に繋がらないのはライヴに行き慣れていると少し違和感を受ける。
10.烏
ハイ・ハットのカウントから始まる、ドライヴ感溢れる演奏。少し息切れ気味だが天野のヴォーカルも力強く、いかにもライヴといった臨場感溢れる演奏。基本アレンジはオリジナル通り。本作中、最もオリジナルに忠実な演奏。
11.太陽
ライヴ初登場となる、オリジナル・ヴァージョンでの演奏。原曲ではサイケデリックだったギター(そちらはマスカレード・ポロが弾いていたので、こちらはシャラによる別物)がハード・ロックしており、ソロ・パートやエンディングはまったく異なる。短く唸るベースと土着的なタム回しのドラムによるリズム隊にも着目。この曲も「国道」と同じく、珍しい演奏なので収録の意義はあるだろう。
12.スナイパー
演奏は基本的にオリジナルに忠実だが、早弾きもまじえたギター・ソロや一部のハイ・ハットの使い方などが効果的。コーラス部分は観客にマイクを何度となく差し向けている。実際のライヴでは次曲にメドレー演奏されていたが、本作では最後の一音がエクステンドされて「トムパンクス」の冒頭でフェイド・アウトする単曲での収録となっている。時間的にはそちらも収録できただろうし、これには強い違和感が残るのだが……。
13.MC 2
次曲「Howling」にまつわるMC。
14.Howling
プレイボーイズでの演奏は初めてとなる、待望の感のあるバンド・ヴァージョン。ロック・バラード的な楽曲だがオリジナルより一音一音の輪郭が濃く、アクティヴになっており、クオリティは高い。相変わらずシャラのギターは演奏中やエンディングなどギミック的な音も好んで出している。
15.巨大獣
「本日はどうもありがとうございました。最後の曲です」とアナウンスされるそれはもちろん、この曲。従来のライヴ通り、ピアノ・シーケンスが冒頭に挿入され、エンディングはフェイド・アウトせずに各楽器の乱打となるエクステンド・ヴァージョン。歌詞が多少違っているのは感無量だったのだろう、と解釈したい。最後は「ありがとうございましたーっ!」という天野の謝辞があり、完奏されて間もなく「菩提樹」S.E.が入ってすぐにフェイド・アウトしていく。