全曲解説:Winona Riders〜月の裏側〜
〜お楽しみ or コア入門編〜

今までのシングル・カップリング曲を総括、また現在のスタイルで再録音した企画盤。サード・アルバムに予定されていた「ウィノナ
ライダース」というタイトルはここに活かされた。奇しくも、拙ページと同じサブ・タイトルを設けられているが、これは雑誌「TRASH」の天野月子特集にあったエッセイ・ページのタイトルと、B面集である意を含んだものだろう。
10曲中8曲が再録音/リメイクではあるが、立場としては編集盤であるので、4枚目のアルバムであってもオリジナル・アルバムではない。各曲をライヴで演奏し続けてきたことの現れだろうか、全体的に低音が強調され、グルーヴ感が強化されている。
3rd『天龍』のメジャー感で天野世界に入ったリスナーも多いだろうから、続く形でリリースされた本作は、より深い天野月子の世界に入るにはもってこいの材料となるだろう。また、今後これらのヴァージョンでのライヴ演奏も期待できる。
ジャケットはジーンズに皮ジャン、そして星条旗模様のヘルメットという出で立ちの天野の後姿(=月の裏側)で、裏ジャケットのアメリカン・バイクと共に天野のルーツがアメリカン・ロックにあることを示唆している。また、ブックレット内では各シングルのジャケット・アウトテイク写真がそれぞれ使用されており、見応えのあるものになっている。
なお、それぞれの出展はシングルにあるので、原典については「アルバム未収録曲」の項を参照頂きたい。
同時発売だったビデオ・クリップ集『V』と併せれば、天野月子の「A/B面」を共に楽しめるだろう。
01.G.B.〜声変わりRiders mix〜
バロック音楽風のピアノ・イントロから一転、元祖天野流グルーヴ・ナンバーへ突入する。ヴォーカルがリテイクされ、Rieのコーラスを重ねたものに、さらに電子音などが付加されたミックスになっている。演奏自体はオリジナルに近いものの再録音されているようで、特にギター・トーンほかの細部が異なる。
02.ステロイド〜声変わりRiders mix〜
こちらも、ヴォーカルをリテイクしたニュー・ミックス。オリジナルでは多少の加工がヴォーカルに施されていたが、こちらはライヴ感あふれる生々しい仕上がり(「カカッ、カッ」のハンド・クラップも縮小気味)。ドラムの音が変わっていることからも判るように、オリジナルに忠実ながら演奏自体も再録音されているようだ。特に全体的にS.E.が増減しているのに注目。
03.スパイダー〜月にほえろ!〜
オルガンがフィーチュアされ、「太陽にほえろ!」風(数箇所、それっぽいギターの音色も入る)とでも言えるだろう、ややスロー・テンポになって落ち着いたヴァージョンに変わった。パーカッシヴな側面が売りだった、オリジナルのディスコテックな要素はほぼなくなり、歌謡曲風の「歌もの」になっている。ギター・ソロなどもまったく変わり、本作中、最も変容した1曲と言えるだろう。
本作中、唯一ライヴで「ヴァージョンを宣言して」演奏された曲でもある。それは「ツアーオブザ燃えよ!ドラゴン」でのことで、ギター・ソロはまったく即興的なものに変わっていた。
04.亀(inラウンジ)
付加された「in ラウンジ」の意味が、冒頭のゆったりとしたピアノからも解る、ラウンジ・ミュージック風の仕上がり。こちらも打楽器が目立つオリジナルに対して、スローな打ち込みだけで歌われるので歌謡曲風に聴こえる。優雅なピアノと伸びやかなヴォーカルの絡み合うチル・アウトな様に着目したい。また、第7パラグラフの「いつかは飼いたい〜」が「わたしも飼いたい〜」に置き換えられていることから、ヴォーカルを歌い直していることが解る。
これまでの全作中、唯一アレンジがプロデューサー戸倉によるものではなく、ピアノを演奏している河野伸によるもの。
05.Pleasure〜エンジェルタイプ〜
Rieの透明なコーラスが冒頭に配され、まさに「エンジェルタイプ」なスタートを切る。ギターやシーケンスはオリジナルからの流用だが、リズム・パターンが変わり、新たな打ち込みやシンセ・ストリングスなど効果音的な付加が目立つ。本作中では、最も遊び心と開放感のあふれるアレンジ。印象的だったギター・フレーズが原型のまま残されているのは特筆に価するだろう。天野のヴォーカルは原曲のものと同音源。
06.ミサイル
オリジナルと同音源。
07.人魚
オリジナルと同音源。
08.象〜半ナマ〜
半分生演奏、それが「半ナマ」の意。打ち込み主体で様々な効果音が付加されていたオリジナルに比べ、アコースティック・ギターを中心としてエレクトリック・ギターを被せた演奏は「生」。シンセ・ベースと打ち込みだったリズムもリズム隊による演奏になっている。それでも打ち込み部分も多く残るので、「半生」というわけだ……というように演奏は大きく変わったが、天野のヴォーカル自体はリテイクされていない。
09.巨大獣〜第二次形態〜
ピアノを中心としたシーケンスなどは同じだが、全体に生ストリングスがフィーチュアされ、オリジナルにあったスケール感をますます増している。天野のヴォーカルもリテイクされており、この曲を何度も歌ってきた経験が活かされた、落ち着きあるものになっている。エンディングではギターとストリングスがユニゾンになり、やがてストリングスを残してフェイド・アウト、そしてストリングスも引き潮のようにフェイド・アウトしてから、ディスク冒頭と同じピアノ・ソロに展開して終わる……これはつまり、本編がここまでであり、次曲はボーナス・トラックのような扱いであることを宣言しているのではないだろうか。また、最終パラグラフの「太陽はまた昇り傾いてく」は歌われていない。
10.BOGGY!(原宿にて)
原宿の喧騒を被せてストリート録音したように擬似録音された、生ギターとヴォーカル(+雑踏)だけによるアコースティック・ヴァージョン。オリジナルに落ち着く前の、最も原曲の形を垣間見ることができる。この曲は以前よりアコースティック・コーナーでも演奏されていたので、ファンにとっては違和感は少ないかも知れない。曲の最後には「良かったね、うふふ」「あっ、そう?」などという「生」っぽい会話も聞かれる。
なお、この曲と「スパイダー」「象」の3曲でのギターは、Rieのサポートなどで知られる宍倉聖悟によるもの。他にも外部ミュージシャンが起用されており、同メンバー一辺倒になっていないのは評価に値する。