「天野月子」とは何か?
〜実質的な「はじめに」〜

treasure, hid myself behind you.
「天野月子」とは何か?
簡単に言うことはできる。ひどい表現で切り捨てることもできるだろう。
しかし、それでは、この項の趣旨にはとうてい結び付く筈もない。
まずは、オフィシャル・サイト等にみられるものを再構築/加筆して、ごくごく簡素なプロフィールをまとめてみよう。
天野は幼くして「表現というもの」に興味を持ち、ピアノや絵画を経て、音楽を始める。大学では演劇を専攻し、一時はその熱も醒めかけたが、やがて音楽を自らの表現手段と決め、路上での弾き語りを始める。咽喉を痛める、地方CMの楽曲担当を降りる、などのトラブルもあったが、自分の実力を試すために製作したデモ・テープが現プロデューサーの手に渡り、シングル「箱庭」でインディーズ・デビュー。インディーズ・セカンド・シングル「B.G.」がCMソングに抜擢されて評判となり、やがてシングル「菩提樹」でメジャー・デビュー。ようやくにして発表されたアルバム『Sharon Stones(シャロン・ストーンズ)』は好評を得、オリコン初登場33位を飾る順調な滑り出しから活動を続けていく。2008年に活動停止を宣言、イラストレーターとして活動することとなる……愛称は「つっこ」。イラストを好み、自らを戯化した自画像「ヒメギミ」を様々な媒体に掲載する。多趣味にして、興味の湧くものにはとかく手を出してみる。ゆえに座右の銘は「天真爛漫」となる。
……こんなところだろうか。
細かく書くと、未だ秘された部分の多い天野のプロフィールだけでも考察文が書ける。それほどに、彼女は魅力に満ちている。筆者もその魅力に打ちのめされ、徹底的に愛してしまった質だ。しかし(本文執筆現在)まだ世間では駆け出しである彼女を好む筆者の嗜好は、言葉少なでは解ってもらえる筈もない。しかし筆者は――ふとした直感から彼女を求め、そしてその読みが当たり、こうして陶酔を重ねている筆者は――彼女へ向ける情熱をとどまらせることができず、コーナーを立ち上げた。
そのため、天野の魅力というものを、簡素にではあるがここ論じてみようと思う。
天野は、古き良き表現で言えば、シンガー・ソングライターの一種ではある。なぜなら彼女は、すべての楽曲の作詞・作曲を自ら行っているためだ。単純な理由ではあるが、本質でもある。
だが彼女は曲を書いて歌うだけではなく、寧ろ、それに付随する側面に多大なる魅力を有している。演劇を志向していた時期があるのを活かし、ヴォーカリゼイションや曲展開、ステージングなどにも劇的な要素を盛り込む傾向があり、それが大きな魅力のひとつとなっている。ただ歌ってりゃカネになるさプロデューサー様よろしくお願いします、というありきたりな新人とは、デビュー当時から明らかに一線を画していた。
その具体的な楽曲として、彼女の楽曲の中で筆者が最も魅力に溢れると考える「菩提樹」がある。この楽曲に天野の魅力は顕著であり、それを聴けば筆者の言いたいことは解るとは思うのだが……読者諸兄の興味が少しでも湧くよう、敢えて噛み砕いて言うなれば、以下のような要素が挙げられるだろう。
・どことなく、しかし常に漂う負の力
・狂気と背中合わせの母性
・ひたむきながら悲観的な姿勢
・悲観的ながら希求的な姿勢
・具象と抽象、日常と非日常の狭間
・それらを具現化する、楽曲に込められた壮大な世界観
・しかし、すべて嘘と言われても許さざるを得ないフェイク感
・それを包み込むユーモアとひたむきさ
・そうしたものを兼ね備える天野月子という人物そのものの奥深さ
こういった要素は、天野の作品には多く見られるものであるが、こと「菩提樹」にそれらは顕著である。それもできることならば、アルバム・ヴァージョンを聴いて頂きたい。筆者もそれをして、瞬時に彼女の世界に惹き込まれたのだから。
自信を持って言おう。戸川純に代表される、少しばかりエキセントリックながら純朴な女性ヴォーカリストを好むのであれば、一度でもいいから天野による「菩提樹」を聴いてみるといい。かといって、エキセントリック或いはシアトリカルな側面ばかりを求めてはいけない。天野はそれを普遍化し、ポップ・ソングに昇華させ、何度も味わえるものとして作りこんだことに評価が与えられるのだ。あなたがそういったヴォーカリストを追求している人物ならば、天野の表面ではなく奥底に潜む「何か」を直感できるだろう。
こうしたことは、天野自身がプロフィールを余り詳細には公言しないことにも理由がある。前もって秘されることで、表面からでも奥に潜む闇を見出したらば、それを探るべく彼女の世界に飛び込んでしまうからだ。だから、筆者は追っ掛けのように彼女をしつこく詮索することはしない。美しいながらもいつ落ちるか解らない椿の華のように、彼女を愛でるのみである。
また最後に、彼女のバック陣について軽く触れておこう。
それは最初から定着しており、ライヴ、レコーディング双方とも同じメンバーで行っている。彼らの演奏が天野の世界を構築するにあたって甚大な力となっているのは言うまでもないだろう。
バンド然としているそのメイン布陣は以下の3人。
・石原“SHARA”慎一郎(G.)
(「アースシェイカー」のギタリストとして言うまでもなく有名)
・山田“あっきー”章典(B.)
(TMR、大江千里などのサポート・ベーシスト)
・武並“J.J”俊明(Dr.)
(大江千里などのサポート・ドラマー、愛称のJ.Jとは“James
Jackson”の略)
このメイン布陣である男性3名はひと組のバック・バンドとして「プレイボーイズ」とも呼ばれる。ここに、時にはスタジオ作にも参加する八塚“Rie”りえ(ソロから女性デュオCiaoを経て、Rieとしてソロ再開、後にSeptemberを結成)がコーラスとして加わり、合計5名となるのが基本のところのライヴ・スタイル。ライヴでもスタジオでも演奏する彼らに、鍵盤をメインとしたスタジオ・ワークを行う戸倉弘智も主要メンバーのひとり(にして参謀或いは総帥役)。そこへ数名がピアノやストリングスなどで参加する、というのが基本的な形態。
それでは、天野月子という人物に魅了された(或いは、される可能性のある)方のために、筆者はせめてもの想像力の介助となろう。