Kula Shaker
“PILGRIMS PROGRESS”

〜インド思想からキリスト教視点へ〜 (2010/07/10)

 復活直後に『ストレンジフォーク』というアルバムをリリースしたクーラ・シェイカーが、3年振りになる復活後第2作を発表した。それも復活劇が話題となったためか、限定仕様盤を含む形態で。
 というのも、前作発表後に大傑作セカンド『ペザンツ、ピッグス&アストロノウツ』をリイシューして限定発売するなど、ああやはりクーラはビジネス的な側面が強く残っているのかも、と思っていた。本作“PILGRIMS PROGRESS”も、ボーナス・トラックを追加した日本盤(邦題は『ピルグリムス・プログレス』)を予約しようとしたところへ、一部ショップ限定で別仕様が発売されると知り、慌ててそちらを取り消した。
 本作は、12曲入りCDの「通常盤」、そこへボーナス・トラックを加えてクリスピアン自身が曲順を変更した16曲入りの「日本盤」、通常盤にアルバム未収録音源が収録されたCDを追加してブックレットとポスターを同梱した「限定盤」、さらにそこへLPとTシャツを追加した「豪華限定盤」の4種類が、現在のところ発売されている。
 最後の「豪華限定盤」を買えばファンの鑑なのだろうが、私は基本的にミュージシャンのアイテムは「楽曲・音源」でもって価値を判断するので、「限定盤」を選択した。言うなれば、ブックレットもポスターもない、CD2枚組だけの仕様があればそちらを購入しただろう。しかし特別盤には仕様を豪華にするのが世の常だ。
 よって本文は「限定盤」の仕様を前提に話を進めていく。

 思えば、前作『ストレンジフォーク』はどうだったのだろう。
 たしかに復活作としては興味深い作品だった。鍵盤奏者がチェンジしていたのも大きく、作風も以前のおさらいをしながら新しい方向性を探っているようなものだった。しかし言い詰めると、中途半端だった。「傑作」とは言えなかったのかも知れない。
 私はそちらを「傑作」と記してしまっていたが、今にして思えば、クーラの復活劇を祝いたい一心でそのような表現を用いてしまったのかも知れない。その実、本作リリースまでの3年間、それほど聴いていなかった。新作のインフォメーションを受けて、「ああ、もう3年も経ったのに、まるで聴いていないじゃないか」と再認識した。決して悪い作品ではないが、復活作にしては印象が薄かった。
 そこへ復活後第2作の、通産4作目となる本作“PILGRIMS PROGRESS”の登場である。
 それを聴いて、また驚かされることになった。

 本作は、「ロックンロールしてやるぜ!」と意気込んでスタジオ入りしたメンバーが、一気に雰囲気にほだされて温和な曲を中心に作曲していってしまったという、トラピスト・ビールで有名なベルギー南端の街、シメイに建設した自身のスタジオで録音されている。クーラ初のセルフ・プロデュース作でもあり、それがこうした作品に仕上がっているというのは、実に意外なことだった。
「こうした作品」「意外」というのも、本作はアコースティック・ナンバーが中心なのだ。
 今までのクーラのイメージといえば、グルーヴ感たっぷりでインド風味、そしてサイケ。とかく動的なイメージが強かった。ところが本作では、大半の曲が「静的」だ。もちろんアクティヴな曲もあるが、「やかましい」曲はものすごくまれ。これはできあがった音源を聴いたバンドにも驚きだったという。中世的な街並み、深き森や川、精霊や過去の遠い記憶にインスパイアされたという、実にスピリチュアルな作品に仕上がっていた。

「最終的に仕上がった音楽は、僕らにとっても驚きだったと言えるね。ロック然とした楽曲がどうもしっくりと来なかったのに対して、たとえば“Ophelia”とか“Winter's Call”といったスロウで長めの曲は、魔法がかかったようにどんどん生命を帯びていくように感じられたんだ。作品が形になっていくにつれ、この森や川や霊や過去の記憶といった環境に僕たちがどれだけ影響されたかってことを強く感じたよ」
(クリスピアン・ミルズ)

 それまでのクーラといえば、唸るベースに絡むドラム、疾走するギターにサイケなハモンド・オルガン、といった感じのサウンドが主体だった。それらが合致してインド風味に仕上げたのが「いわゆるクーラ・シェイカー」だった。ところが本作は、全面的にアコースティックに徹しており、ガット・ギターやウッド・ベース、カナモノにはブラシまで使っているような音触り。曲によってはチャーチ・オルガンらしき音まで使っていて、また生ストリングスが加わっているものもある。まるで急転換だ。
 中にはエレクトリック主体の曲もあるが、それは全体の比重からすると少ないうえ、騒々しくない。雰囲気を出すためにエレキを鳴らしている、といった感が強い。つまり、本作においてエレクトリックは「雰囲気を出すための技術」であり、「グルーヴを出すための主体」ではない。飽くまでサブなのだ。
 そのため本作は、一聴しただけでは各曲の雰囲気も似ているものが多く、するっと聴けてしまう。だが何度も流していると、その差異に気付き始めて楽しめるようになってくる。前作が「クーラの雰囲気」を出すことに集中していたのに対して、本作は「アルバムの作品世界の雰囲気」を楽しめる、純粋な意味での「作品」になっている。
 だから、1曲1曲についていちいち触れるのは、よそうと思う。最初はそうしようと思っていたのだが、それよりもむしろ「全体」を眺めることが大切な作品であるように感じられたからだ。
 瑣末な部分よりも、全体としての仕上がりが、とてもいい。
 そのうえで、随所にビートルズからの影響が強く出ている。こと、ライヴをやめてスタジオ作業に集中するようになったビートルズの、「静的」な部分に。ヴォーカル・フレーズから雰囲気、リフなど、つよく意図的に「醸し出している」のが感じられる。

 本作のタイトルは、1678年に出版され200ヶ国語以上に翻訳されたジョン・バニヤンによる、2部に分かれた著名なイギリスの文学書『天路歴程』の原題“Pilgrim's Progress”より引用されたもので、直訳すると「巡礼者(移住者)の発展・進歩」といった意味になる。しかも本人の作ではない第3部が出版されて世間にもひろまってしまったという逸話もある。
 かつてのインド(的)思想から転じて、本作にはキリスト教的な価値観を感じられるのはそのためだろうか。
 たとえば最終曲“Winter's Call”は笑ってしまうぐらいあからさまに、ビートルズの「アイ・ウォント・ユー」(『アビィ・ロード』収録)を意識しているが、延々と続いたあげく唐突に終わって次曲で雰囲気が急転換するそちらと違い、本作のそれはゆっくりとフェイド・アウトしていき、やがて無に還る。インド風味満載だったかつての作品のように、輪廻もしない。「赦し」を得て、天へ昇って消えていく。その雰囲気を、グルーヴ主体だった今までには使われずにいたチャーチ・オルガンの音がイメージ増補している。
 また、原題よりアポストロフィを省いているのにも意図的な面を感じる。「巡礼者の進歩(Pilgrim's Progress)」ではなく、「巡礼者たちの進歩(Pilgrims Progress)」としているような……つまりクーラは、自分「たち」を巡礼者「たち」であると言っているように思われる。
 そんな思わせ振りな、アルバムだ。相変わらず思わせ振りで、ファンとして嬉しく思う。
 クーラに対しての固定観念から脱却したうえで、何度も聴くと、次第に味わいが深まるだろう。1回だけ流して「なんだこれ」と放ってしまってはもったいない。
 この作品を流しながら、ブックレットの写真を眺めて、「みんな髭生やしたりして、いい齢の取り方してるなぁ」「クリスピアンだけはいまだにアイドルみたいだなぁ」などとぼんやり感慨を抱ければいい。それがクーラ・シェイカー・ファンとしての、本作の楽しみ方のひとつのように思える。
 クーラとともに、リスナーも成長しているのだ。
 それを実感できる、アルバムと言える。

“LOST & PROUD”というタイトルが設けられた、付随ディスクについても触れておこう。
 イントロを含めた9曲(多くの事前情報ではそれが欠けて8曲と表記されている)プラス、“Peter Pan R.I.P”のビデオ・クリップをCDエクストラ収録したCDで、日本盤のボーナス・トラックはこちらに全曲収録されている。そのうえデモ音源なども含んでいるので、全音源を集めたい方には迷わずこの「限定盤」をお薦めする。
 しかし急ごしらえだったのか意図的なことなのか、CDが収納されている紙スリーヴ裏面には、異なった順序で曲が表記されている。しかもイントロ曲は表記されていない。そのため、正しい収録順はブックレットにあるものを参照されたい。このページではそちらの正しい曲順に基づいたプログラムを記しておく。なお1曲目の“Intro”は、日本盤ボーナス・トラックでは「インタールード」というタイトルになっているインストゥルメンタルと同一らしいので、全曲を揃えるには日本盤も買わなくてはいけないと思ってしまったファンはご安心を。
 とかく静的な印象が強かった本体に対して、こちらはいくぶん動的な面が強く、従来のクーラ像が好きな方にはこちらの方が楽しめるのではないだろうか。じっさい、最初の印象はこちらのディスクの方がよかった。
 しかし繰り返して聴くうちに、やはり本体「ディスク1」こそが「作品」である、とも実感できた。
 ディスク2は「音源集」であり、作品ではない。流れを整えてそれっぽく仕上がってはいるが。
 なお、無料配信限定だった音源(クリスマス曲“Baby Jesus”と、ビートルズの“Baby, You're Richman”のカヴァー)は収録されていない。

 日本盤のプログラムはクリスピアン本人による独自の曲順が編まれている。曲順だけを記せば、
「Disc-1の1、8、2、3、5、7、4、9、6、10、11、12、Disc-2の1、4、3、9」
 という編集だ(プログラム詳細は表にて後述する)。
 これを私は、2枚組の音源を用いてCD-Rで再現してみた。するとどうだろう、こちらの方が流れが自然かも知れない。クリスピアンがわざわざ曲順を指定したというのも頷けるし、また「日本だけ、なぜ?」とも思ってしまう。思えば復活直後のミニ・アルバム2枚も、本来は配信限定だったものを日本のみCD化したものだった。
 クリスピアンが日本に特別な思いを寄せてくれているのか、日本盤版元のソニーに利用されているのか。
 それに流れがよくとも、これでは今回のストック曲がすべて聴けるわけではない。そのため、音源視点で収集しているリスナーにとっては、まだ収録時間に余裕があるのにデモ曲をすべて省き、デモではない完成曲さえ収録しないという日本盤を、プログラムが変わっただけで買えるもんか、と思われるだろう。そのため、そうした方には私と同様、自己編集で日本盤を再現するといいだろう。
『ストレンジフォーク』では海外盤にいっさい未収録のボーナス・トラックを収録してファンを喜ばせてくれたものだが、今回はそのような中途半端な位置に終わっている。それがかえって商業的作戦に見えてしまうので、残念だ。
 歌詞対訳とクリスピアンによるコメントだけは、気になるけどね。


PILGRIMS PROGRESS
<Disc-1>
1. Peter Pan R.I.P
2. Ophelia
3. Modern Blues
4. Only Love
5. All Dressed Up (and ready to fall in love)
6. Cavalry
7. Ruby
8. Figure It Out
9. Barbara Ella
10. When A Brave Needs A Maid
11. To Wait Till I Come
12. Winter's Call
<Disc-2 “LOST & PROUD”>
1. Intro (instrumental)
2. Sister Breeze
3. High In A Heaven
4. Space Caravan
5. Let It In (demo)
6. Light Years Ahead Of Our Time (demo)
7. The Phantom (instrumental)
8. Witches & Wine (demo)
9. Sweet Symphathy
<CD Extra>
Peter Pan R.I.P (video)

(SFKS 003 BX)



ピルグリム・プログレス
日本盤独自プログラム(by クリスピアン・ミルズ)
1. ピーター・パンよ、安らかに
2. フィギュア・イット・アウト
3. オフィーリア
4. モダン・ブルーズ
5. オール・ドレスト・アップ
6. ルビー
7. オンリー・ラヴ
8. バーバラ・エラ
9. カヴァルリー
10. ウェン・ア・ブレイヴ・ニーズ・ア・メイド
11. トゥー・ウェイト・ティル・アイ・カム
12. ウィンターズ・コール
<日本盤ボーナス・トラック>
13. インタールード
14. スペース・キャラヴァン
15. ハイ・イン・ア・へブン
16. スウィート・シンパシー

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