SION
『Naked Tracks 3〜今日が昨日の繰り返しでも〜』

〜SIONの、SIONによる、SIONのための「金色のライオン」〜 (2010/07/11)

 SIONの宅録音源『Naked Tracks』の第3弾が出た。
 これを私は、即座に予約してすぐさま手に入れたのはよかったのだが、どうにもうまく、文章に書けそうな気がしない。そもそもこの宅録シリーズは、ホーム・デモにも似た裏側的な側面が強くありながら、作品としても成立しているという、わりあい微妙な立ち位置にあるからだ。
 果たしてそれを、オリジナル・アルバムと同枠で批評してしまっていいのだろうか?
 そんなふうに考えつつ、日常に屈しているうちに、前作『Naked Tracks 2−鬼は外−』について書くことができなかった。時間と余裕ができないまま新作とは言えない時期になり、結果としてスルーしてしまった。
 だからこそ今回は、何かしか書いてみたいと思う。
 また微妙に、新作とは言えない時期になりつつあるから。

 そもそも『Naked Tracks』とは何か。
 それをSIONファンであれば「そんなのみんな知ってるでしょ」となってしまうだろうが、ご存知ない方も多いと思われるので、軽くおさらいしておこう。
 このシリーズは、その名の通り「裸の曲たち」を集めたもの。つまり、SIONひとりによるホーム・デモ集のようなもの……なのだが、単なるアコギ弾き語りの一発録り寄せ集め音源集などではなく、きちんとSIONひとりによるコーラスや楽器の多重録音を重ねて「デモなんだけどデモじゃない」レヴェルにまで仕上げたもの。SIONの、SIONによる、SIONとファンのための音源集。
 そのため『住人〜Jyunin〜』『鏡雨〜kagamiame〜』のように前後のオリジナル・アルバムに同じ曲が収録されることが多く、しかしそちらはバンド・アレンジになっているので、外伝的な作品という側面が強い。シリーズ第1弾『Naked Tracks〜光へ〜』について書き記したページがあるので、詳しくはそちらを参照されたい。
 だが、バンド・マジックで洗練された曲もいいが、デモ独特の空気感が、SIONにはとても似合う。ましてや、「歌詞を聴かせる」SIONの曲なのだし、ゆったりした曲をや。それでもSION自身、それを公式な作品として正規流通に乗せてリリースするのは、いろいろな意味で気が引けるのだろう。だからこその、通販限定アイテムとなっている。
「ファン・サーヴィスのようでいて、けっきょく自分のひとりよがりじゃないのか」
「プライヴェイト録音なのだから、作品レヴェルまで達していないんじゃないか」
「それをファン向けの通販限定とはいえ、作品としてリリースしていいのだろうか」
 そんな思いがあったのかどうか、正直、『Naked Tracks 2−鬼は外−』は、やや方針が曖昧になっているように感じられた。それもあって、私も文章を書くのをためらっていた。直筆サインの入ったポスト・カードを同梱してもらっておきながら、非常に申し訳ない気分になった。
 そうして前述のように、新作として純粋に評価できなくなっていた。
 出来は、ファンとしては、まったく悪くないのに。
 このシリーズを続ける精神部分こそが、気になってしまっていた。

 しかし今作、『Naked Tracks 3〜今日が昨日の繰り返しでも〜』は、そんな迷いを吹っ切ったような感を受けた。
 何よりも、「金色のライオン」のカヴァーを収録していたことに、このシリーズの意義が見えた。
「プライヴェイト録音なら、本当にプライヴェイトなアルバムになってしまえ」
 という潔い姿勢が見えた気がした。
 この「金色のライオン」は、SIONファンならご存知だと思うが、一時期SIONバンドのコーラスとして参加していた川村カオリの代表曲である。そうしてSIONと交流し、楽しく歌っていた矢先に……彼女は、虹の橋を渡ってしまった。
 苦しかっただろう、辛かっただろう、涙さえ出ないぐらいに。
 そんなことを、人の痛みに敏感なSIONが思わない筈がない。川村カオリが亡くなってからしばらくは、SIONのブログも追悼ムードだった。それからも彼女に関して書かれた文章や、生前のはつらつとした写真、そしてSIONの想い出がことあるごとに綴られていた。
 そうして本作にて、「金色のライオン」がSIONひとりの手によって、カヴァーされた。
 SIONの、SIONによる、SIONのためのカヴァーだった。

「新宿ももう変わっちゃったね」
「君のあの娘は元気なのかい 君のあのギターは唄っているかい」
「またこんな風に会ったときは 昔話はよすね」
「終わりのない夢を 終わりのない唄を」

……これらの歌詞が、SIONの弾き語りによって、とうとうとうたわれる。
 SIONの人柄、彼女との交流などを知っているファンなら、お世辞ではなく、涙なくしては聴けない。
 本作中、最もシンプルな仕上がり(歌詞に応えているのだろう)なのに、最も楽曲時間が長い。「想い」が詰まっている。まさにカヴァーの鑑と言える録音だ。
 SIONは、もう吹っ切れた。これにて正式な追悼を済ませ、現存しない川村カオリを「生かし続ける」ことに成功した。
 それこそが本作の最大の意義であり、かつまた、この『Naked Tracks』シリーズの醍醐味が見えたと、実感できた。
 逆に言えば、このシリーズがなければ、SIONは川村カオリを「送り出し、また生かし続ける」ことができなかっただろう。
 それができただけで、SIONとしては心底有意義だっただろうし、それに感じることができるファンも、果報者だ。

 だから本作について、1曲1曲がどうのこうのといちいち書き記すような無粋な真似はしない。どうしてもファンゆえの甘えた記述になってしまうだろうし、ましてSIONファンにとっては「今さら」なことしか書けないからだ。
 ファンならぼんやりと、なんとなく感じ取っているだろうことを、敢えて私がここに書き残しておく。
 いちファンとして、ファンゆえに。

「あの子には 暖かい毛布を
 俺には 鋼のコートを貸してくれないか」
(燦燦と)

 どうもありがとう。
 よい夢を、おやすみ。
 また逢いましょう。
 それまで、お元気で。

「今日が昨日の繰り返しでも
 明日が今日の繰り返しでも
 生き倒すぜ 生き倒すぜ」

「新宿の片隅で」「街は今日も雨さ」と呟いていたギター弾きは、こんなにも、やさしくなっていたのだ。
 ファンなら、この歌詞がどの歌の何であるかなど、いちいち述べる必要もあるまい。
 むしろ今回は、ファン向けに限定させて書かせてもらう。
 それを感じられただけで、ファンとして冥利に尽きる。
 そんなファンを獲得できるのも、SIONの心底からの人柄ゆえだ。

 改めて、

 カオリさん、安らかに。

 SION、
 赤んぼからじいちゃんになるまで、
 がんばれがんばれ。
 たまには自分を褒めてやろう。


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Naked Tracks 3〜今日が昨日の繰り返しでも〜
1. カラスとビール
2. あの子の部屋の窓は叩くな
3. どんなに離れてたって傍にいるから
4. ひとり遊び
5.
6. 18000回以上も
7. 狂い花を胸に
8. 自分の胸は自分ではうまく温められない
9. お前のちょっと前を
10. キャラバン
11. 観覧車
12. 痛いくらいに強く想っていても
13. 二人は
14. 金色のライオン
15. 燦燦と

(SION-0003)

Naked Trac 2−鬼は外−
1. もうひとり分強くなる
2. やるせない夜2009
3. Teardrop
4. お前がいなけりゃ
5. 放つ
6. ちいさな君の手は
7. ライダース
8. kitatani
9. 頑張ってればたまに
10. 鏡雨
11. 花はいらんかね
12. 誰も見てなくても
13. 今日の全部を
14. 鬼は外

(SION-0002)