睡蓮
『THE DAWN』+『月白』

〜「応用」と「実現」〜 (2009/12/23)

 睡蓮のミニ・アルバムとライヴDVDが同時発売された。
 3部作でひと区切りを付けた睡蓮は、アニメ『ヘルシング』に提供した3曲を中心としたCDと、総決算的なライヴDVDを用意した。

 まずはCDを見てみよう。
 本作『THE DAWN』は前述のような契約上の都合が強そうで、実質的に企画盤のような立場と判断して構わないだろう。5曲中3曲(うち1曲はヴァージョン違い)がタイ・アップ曲で、純粋な意味での新曲は2曲のみ。よってCDでしか睡蓮を聴かないリスナーにとって新曲は4曲ということになる。
『ヘルシング』に関わる3曲はそれぞれ、「柘榴」がDVD7巻の挿入歌で、『Magnolia』は6巻のエンディング・テーマ、「浸透して ver 2.0」は7巻のエンディング・テーマ。これらはコアなファンには既に知られた曲であったらしく、歓喜で迎えている者も少なくない。

 オープニングを飾る「柘榴」はゆるやかな電子音主体の打ち込みから始まり、妖艶な芍薬のヴォーカルがねっとりと絡み付く。淡々としたリズムに長短を使い分けたストリングスが混じり、あやしく、深く吸い込まれる。冒頭に相応しい、展開を期待させる思わせ振りな楽曲。今までの曲に較べて打撃音が目立つ。桐棚に分裂した自己が祭られ、透明な膜に覆われた外に血を求めるという歌詞は抽象的で、いかなる解釈も可能で睡蓮らしい。
『ひたひた』からの伝統で、冒頭曲のメドレーで続く「白露」は、ぽろりぽろりと弾かれていたピアノがやがてワルツを刻み、デカダンな雰囲気を漂わせる。響くベースがピアノと共鳴し、大正浪漫さえ感じさせる、憂鬱さ加減が心地好いナンバー。エンディングに近付くと流麗なストリングスがますます気分を作ってくれる。そしてピアノの囁きで終わる。叶わぬ想いを白い露に喩え、それでも「こがれています」という本心だけは誤魔化せない歌詞も、ひねくれた自己愛らしくてマッチする。他者への愛情は、自己愛の延長に生まれるものだ。
 一転して「Magnolia」はアップ・テンポというか、攻撃的な曲。エッジの効いたなギター・リフに、芍薬のスキャットや藤井の鋭いギターが突き刺さる。パーカッシヴなリズムに、流れては区切るような、睡蓮のダークな曲特有のヴォーカル・ライン。グランジとインダストリアルを足したような印象で、今までの睡蓮にありそうでなかったタイプの曲。ここでもピアノやストリングスがいい味を加えている。英語詞はまた抽象的だが、あらかじめ失われた愛を求めるという睡蓮らしいラヴ・ソングのようだ。
 続く「それはもはや沈黙として」は打ち込みとストリングスのみの淡々とした楽曲。他の曲が凝っているだけに少しばかり地味で、やや単純に仕上げられた感があるものの、睡蓮ではここまで打ち込みを強めた曲がなかったのも事実だ。しかし歌詞は味わい深く、「あなたというタブー」に触れたくとも敢えて触れず、ならば沈黙として処理しよう、という悲観的ながら潔い諦念を描いている。
 最終曲の「浸透して」新ヴァージョンは、原曲と余り変わっていないように感じられる。大きな違いとしてはエンディングがメドレー処理されておらず単曲に仕上がっていることぐらいで、それ以外にこれといったアレンジは正直、聞き取れない。確かに数箇所に効果音が足されているようにきこえるのだが、劇的な効果はなく、楽曲としてはこれといって大差はない。

 3部作の「基礎」「発展」「完成」に次ぐ本作は、言わば「応用」と言えるだろう。
 一種の企画盤ではあるが、だからこそコンセプトなどにこだわることもなく、思うままに佳曲が詰められている。その結果、諸楽曲の完成度はそれまでより数段高くなり、また曲の流れも計算されているのか、違和感がない。敢えて言うなら「浸透して」が終わると、『六歌ノ音』を聴き馴染んだ身としては次曲に続かずに終わるのに違和感を受けてしまうが、それはボーナス・トラックのようなものだと解釈すればいいだろうか。それ以前に「それはもはや沈黙として」で終わっても突然な感じがする。これはこれでありなのだろう。
 睡蓮がどんなプロジェクトかを最も体現しているのは『音ヲ孕ム』であり、コンセプチュアルなのは『ひたひた』、全体の流れでは『六歌ノ音』が挙げられるだろうが、まだ睡蓮サウンドを知らない若いリスナーには、本作を薦めるのも良いのではないだろうか。単純に曲の完成度がなべて高く、また現在の睡蓮サウンドなのでリアルな彼らを知ることができる。

 続いてDVDだが、こちらは手短に述べたい。
 睡蓮のライヴを見たのはこれが初めてなのだが、凝ったセットに対してステージングは淡々としている。漆黒の中で演奏するメンバー(藤井など映りはするものの、暗くて殆どその姿が確認できない)と、その中心で歌う芍薬。些細なドラミングやギターなどの差異こそあれど、SOFT BALLET時代のようなライヴ用のアレンジはされておらず、まるでオリジナルに忠実な演奏と歌唱。しかしその分、演奏力の高さと、何より芍薬のヴォーカリストとしての実力が解る。伸びやかでいてヴィブラートやブレスを巧みに使いこなし、曲によって歌声も使い分ける。オペラのように声を張らず、自然な声量でそれができるのは実力の証だ。
 決してお部屋ユニットではない、「実現」を目に見せてくれるライヴだ。そのうえであやしげな雰囲気と、睡蓮独特の世界観も体験できる。だがライヴ・バンドのようなノリはないのは睡蓮ファンなら想像できるだろう。期待した通りのステージが楽しめる。MCや歓声はまるでなく、純粋に生演奏での楽曲を楽しむことができる。
 ディスク2には、数日間のバックステージの様子をモノクロで収録している。ここでも芍薬主体で、藤井はリハ演奏ぐらいしか登場しない。それ以外に出てきたかと思うと、相変わらずおかしな仕草を見せたりするのも微笑ましい。怖い姿なのに。ステージのゴシックな衣装と違って、眼鏡やワンピースなどの素顔の芍薬が見られるのもファンには嬉しいだろう。今までのCD掲載写真が芍薬中心だったことを考えると、藤井は支配者でありながら裏方に徹し、芍薬の魅力を全面的に打ち出しているのかも知れない。『THE DAWN』のジャケット・イラスト然り。
 このディスクにはさらに、5曲の固定カメラでの撮影もおさめられている。動的でないので芍薬の動きやメンバーの演奏はよく見られないが、光を駆使した退廃的でいながらきらびやかなステージの装飾がよく望める。ディスク1のショットと見較べてみるといいだろう。

 この2作は、睡蓮からファンへの「存在証明」だ。
 このユニットの可能性としての「応用」を提示し、世界を「実現」できる映像を見せる。
 それは彼らが、確かな表現力を持った人間であることを証明している。もはや単純に「音楽」というより、遥かに「美的」な世界観だ。
 睡蓮はどうしてもひとくくりで見られてしまいがちな元ソフバ・メンバーの中で、最も「音楽の可能性」を追求しているように思える。
 いずれは姿を現すだろうフル・アルバムがどうなるのか。それとも小さな世界観をこまめに提示しやすいミニ・アルバムでのリリースを続けるのか。
 今後の展開に大いに期待したい。

*追記*

 一部ショップではこの2作の同時購入特典として、未収録音源3曲を収録したCDが配られた。
 内容は「Magnolia(Hellsing ver.)」、「カナシミ(flow in her veins 2.5D ライブ音源)」、「月に泣く(flow in her veins 2.5D ライブ音源)」の3トラック。
「Magnolia」別ヴァージョンは、勘違いしそうな事前告知の「未発表フル・ヴァージョン」というよりも、正確には「アニメに使用されたヴァージョンのフル・サイズ」というもので、実質的にリミックス・トラックと言える。ストリングスが殆どなく、バンド・サウンドが強調、ギター・リフやドラムが音割れするようにノイズが加えられ、暴虐さを増している。基本的には原曲と同じだが、個人的には曲の秘めたる激しさを増したこちらの方が好みだ。ストリングスを消しているので、最後がギター・ノイズだけで終わる。寧ろ原曲のストリングスは付加要素であり、こちらこそがオリジナルと言えるかも知れない。
「カナシミ」「月に泣く」はDVD未収録の同ライヴ音源。やはりさしたるアレンジはなく、ハウリングが入る箇所がある。スタジオ版と較べると双方ともエンディングがスタジオ版とは多少変わっており、曲間を空けずメドレー編集されている。
 このように、些細なヴァージョン違いとアレンジの少ないライヴ音源なので、オリジナル音源とさほど変わりはないと言える。ライトなファンには不要であり、コアなファンだけが持っていればいいだろう。
 ちなみに、私は尻切れトンボな感のあった『THE DAWN』にこの3曲を加えた8曲に編集して繰り返し聴いている。こうすると流れがまたよくなるので、両方ともお持ちの方はお試しあれ。


THE DAWN
1. 柘榴
2. 白露
3. Magnolia
4. それはもはや沈黙として
5. 浸透して ver 2.0

(NFCD-27240)

月白
flow in her veins 2.5D at 赤坂BLITZ
<Disc-1>
1. 昼間
2. 杳として
3. 鶏頭
4. 月ノシュク
5. 左手
6. 夕鶴会
7. 春の國
8. 葉蔭行進曲
9. 根ノ音ニタユタヘ
10. 浸透して
11. すきま
12. 腐葉土
13. Spine
14. Lotus
<Disc-2>
Making Of “flow in her veins 2.5D”
Fixed View:
杳として
月ノシュク
葉蔭行進曲
すきま
腐葉土

(NFBD-27243 〜 4)