SOFT BALLET
『INDEX - SOFT BALLET 89/95』
〜宝石箱かゴミ箱か〜 (2009/10/29)

今回は作品の性質上、「解説」ではなく「解析」のようなスタンスでこの文章を記す。
コアなファンを対象とした叙述なので、SOFT
BALLETをよく知らない方は他のサイトを参照されたい。
SOFT BALLET20周年を記念して、ボックス・セットが制作された。
それはアルファ〜ビクター時代の、いわゆる「活動停止前」の音源を網羅したもので、版権の都合で収録できなかった『FORMs』や、ソニーからリリースされたビクター時代のベスト盤『SOFT
BALLET 1992-1995 the BEST + 8 OTHER MIXES』のボーナス・ディスクに収録されていたレア・トラック、インディーズ時代の音源を除き、ライヴに使用した打ち込みを10曲分収録したボーナス・ディスクを追加した全141曲。そのため全曲集ではないながら、まとまってはいるのでこれをどう呼べばいいのか少し判断しかねるボックスになっている。
ファンの間で騒然となったのは、全曲が「アルファベット順」に収録されていること。そのため「BODY
TO BODY」や「EGO DANCE」、「TWIST OF LOVE」に「VIRTUAL
WAR」はヴァージョン違いの無間地獄に陥る。それらヴァージョン違いはそのヴァージョン名のアルファベット順に収録されている。
「無理に流れを作るのはやめて、飽くまで『インデックス』として、全体のバランスを調整することに励んだ」
というのがリマスター担当の藤井の弁。アルバム単位ではなく、曲単位、辞書のように聴きたい曲を恣意的に選べるようになっている。そういえば『INCUBATE』発表直後、藤井(森岡だったか?)は「CDではプログラムやランダム機能が使えるので、曲順は余り気にしなくなった。自由な曲順で聴いてほしい」と発言していた。ましてやiPodなどの大容量音楽再生機器がひろまっている現在では、それにすべて取り込み、シャッフル機能で聴くことが企画段階で想定されていたのだろう。
全音源はリマスター監修を藤井麻輝自らが行っており、それが予想外の効果をもたらしている。音が全体的にクリアになり、一音一音がよく聞こえるようになった。喩えば「LAST
FLOWER」を聴けばもともとは混在して聞こえていた効果音が、ひとつひとつ分離して明確に存在しているのがよく解る。「TWIST
OF LOVE acoustic version」では殆ど聞こえなかった後半のアコースティック・ギターがよく聞こえるようになった。
そのため曲の長さをいじるまではしなくとも、大きく音のバランスが変えられて今までは埋もれていた音が聞こえるようになった曲が多々ある。そういった調整ではなく、素人耳にも明らかにカットなり追加なりされた異なる箇所も多い。
まずはそれらを列挙しよう。
BODY TO BODY new recording '95
最初のサビまで歌い終わったところにドラム、打撃音、ベースの順に2小節ずつ音が重なっていくリズム・トラックが計6小節挿入。メドレーだったエンディングはワン・フレーズ繰り返して完奏される。
BRILLIANT FAULT AND SKY WAS BLUE
クロス・フェイド気味だったエンディングのメドレー部分を早めにフェイド・アウトして切り離している。
EGO DANCE new recording '95
イントロの冒頭がほんの僅かだが切られ、エンディングもカットしていて唐突に終わる。
FRACTAL
イントロが丸ごとカットされ、代わりに20秒弱のループ音が配されている。
INFANTILE VICE
オルゴールのような音やギターがかなり前に出ている。
INSTINCT?
メドレーだった冒頭を切り離し、単曲に仕立てている。
JEWEL SNAKE
イントロ冒頭をカットし、打撃音から始まる。エンディングもフェイド・アウトせずにカット。
MARBLE
イントロから明白なように、ピアノの音をすべてカット。
MEDDLER
ギターの反響が殆どなくなり、リズム・トラックが被さっている。鉄が軋むような絡まるような効果音が随所に足され、中間部からドラム音も追加。
MUCH OF MADNESS, MORE OF SIN
冒頭のクロス・フェイド気味だったメドレー部分を切り離し、単曲に仕立てている。
PILED HIGHER DEEPER
エンディングのドラム乱打がやや強められ、フェイド・アウトせずにリミックスと同様の形で完奏されている。
SAND LOWE beat mix
メドレーだったエンディングがやや早めにフェイド・アウトされている。
SPINDLE the Fluke remix
メドレーだったイントロをフェイド・インにして、単曲に仕立てている。
THRESHOLD yellow mix
後半(というより本編終了後)のインスト部分をすべてカット。
TWIST (of love) remixed by Andrew Barker
and Mike Hass
エンディングのメドレー箇所を切り離し、フェイド・アウトさせて単曲に仕立てている。
TWIST OF LOVE remixed by Nightmares On Wax
エンディングのフェイド・アウト部分に被さっていた「NEEDLE」の歌声(暗闇に 非情の炎)が消されている。
VIETNAM
エンディングのメドレー箇所を切り離し、単曲に仕立てている。
VIRTUAL WAR
クロス・フェイドだったイントロのメドレー箇所を、英語ヴァージョン同様に音量を平均値に上げて切り離し、単曲に仕立てている。
WHITE SHAMAN
イントロはオリジナル・ヴァージョンに準拠しており、『SOFT
BALLET 1992-1995 the BEST + 8 OTHER MIXES』にヴァージョン無表記で収録されたエクステンド・ミックスではない。
これらの所為は、メドレー箇所を整えるのは当然としても、オールド・ファンには意見が分かれるだろう。
個人観では、切る必要のないイントロやエンディングをブツ切りにしてしまったのは多少違和感がある。「MARBLE」のピアノ全面カットはライヴでピアノに徹していた作曲者の森岡を否定しているようにも思え、「MEDDLER」は単調なリズムの挿入により間が抜けたようにきこえる。しかし「INFANTILE
VICE」は少し怖い雰囲気のあった曲がかえって幻想的なものになっていて、これはこれで別ヴァージョンのように楽しめる。そう、目くじら立てずに別ヴァージョン(別ミックス)だと思えばいい。
ライヴ音源は、余り良いとは言えなかった音質を多少改善したぐらいで(それでもヴォーカルはお風呂状態)、その時の編曲を重視しているのか殆ど操作されていない。メドレー気味の箇所を違和感の少ないようにカットしているぐらいだ。「SPINDLE」などはうまく切り離されているが、それでも「BODY
TO BODY」の冒頭は「最初の打撃音は前のS.E.に含まれるのでは?」、「NEEDLE」の最後は「この泡の立つような音は次の曲に含まれているから入れなくてもよかったのでは?」などの違和感はある。しかし藤井がそう切る判断をしたのだから受け入れたい。
リミックス音源は、ヴォーカル曲で意図的に弱められていたヴォーカルが強くなり、通常の曲と大差なくなっているのと、僅かにあったメドレー気味の箇所を調整した以外は、殆ど操作されていない。これはリミキサーに敬意を示してのことだろう。あるいは下手にいじるとケチを付けたことになって問題になるからかも知れない。藤井が「あれだけはちょっと……」と述べる「BODY
TO BODY club mix」さえもいじっていないのだから。
さて、目玉のボーナス・ディスクだが、はっきり言ってマニアにしか楽しめない内容だ。
なぜなら、「ライヴ音源」ではなく、「ライヴに使用する音源」を収録している。つまり、打ち込みのバック・トラックをそのまま収録しているのだ。類推するに、「test
arrangement for live」はライヴに向けて制作されたテスト・アレンジで、「for
live」は実際にライヴで用いられたバッキング・トラックだろう。研究家には必須だろうが、単純にソフバの完成した曲を聴きたい人には楽しめないかも知れない。
しかし好事家の弁を述べさせてもらえば、ライヴに行けなかった人でもライヴ・アレンジが楽しめ、またメドレー的になっている箇所もあるのが面白い。ソフバの「音」が好きならBGMとして聴けるかも。
それでもやはり「これで歌のお兄さんがいればなぁ……」と思ってしまうのだが。
01.AFTER IMAGES test arrangement for live
オリジナルに準拠したもので、これといって目新しさはない。だが単純に美しいのでBGMとしては有用。
02.AMERICA for live
オリジナルのライヴ版のようなシンセ主体でありつつ、リメイク版に準じたドラミング。シンセの音色が多少チープ。中間部の笑い声はカットされている。フェイド・アウトせずテンポよく次曲に繋がる。
03.HYSTERIA test arrangement for live
冒頭の吐息にリズム・トラックが重なり、ライヴ感を出している。本番に重ねるためだろう、遠藤のヴォーカルが入っているが、森岡が歌うことを前提としているのか、女性コーラスはとても小さい。歌フレーズ間が僅かにエクステンドされている。ややグダグダに終わる。
04.JAIL OF FREEDOM test arrangement for live
攻撃的だったオリジナルよりおとなしめの空間的なアレンジで、随所にヴォーカルが入っている。原曲が原曲だけに、リミックスのように楽しめるかも。それでも暴虐的なノイズ・ギターもある。フェイド・アウトするように終わりつつ、次曲に繋がる。
05.L-MESS test arrangement for live
打撃音や攻撃的なギターが満載で、シンセ・フレーズや馴染んだ転調がなければオリジナルとまるで違うアレンジ。いかにもライヴらしい。若干だがヴォコーダーを通したヴォーカルも入る。これもリミックスのように楽しめそう。
06.OPTIMAL PERSONA test arrangement for live
前半はオリジナルに準拠したもので、これといって目新しさはない。しかし後半はノイズ・ギターが暴れまくるというライヴではお馴染みのアレンジ。若干だがヴォーカルも入る。
07.PARADE for live
アレンジはオリジナルに準拠したものだが、エフェクト音がやや強く、ヴォーカルが殆どすべて(それも他の曲のように本番で重ねる前提の音量をかなり抑えたヴォリュームではなく、オリジナルに近い音量で)入っている。正直、最も面白味はない。
08.RIDE test arrangement for live
イントロからして空間的なアレンジで、歌より曲ありきの原曲の性質から、これもリミックスのように楽しめる。随所にヴォーカルが入っている。
09.THRESHOLD for live
自然発生的なノイズから始まり、リズムが重なってシンセ音が曲を形作る。「私は誰でもない〜」や藤井の叫びはヴォーカルが入る。スタジオ版にあった暴力性は抑え目で幾分単調だが、最もアレンジが加えられた曲と言っていい。最後は収束するように次曲に繋がる。再結成後のライヴでオープニングS.E.として使われていた。
10.WITH YOU for live
後期のライヴ・アレンジと言えばわかりやすいだろう、ライヴではお馴染みのダンサブルなアレンジ。打楽器的に鳴らされるシンセ音が印象的な冒頭からして、否が応でも気分を盛り上げる。ヴォーカルがないことで、細かな打ち込みが最も仕込まれている曲であることがよく理解できる。
本作は初心者向けではなく、寧ろソフバを愛してやまないマニアこそ楽しめる「辞書のような」ボックスだろう。ソフバを知らない人にはアルバムごとに聴いてほしいのが私の本音だ。喩えば初めて勉強しようという人がいきなり辞書を渡されても途方に暮れてしまう。どうしても教科書から始めた方が理解しやすいだろう。
付属ブックレットのインタヴューは、読んでいてとても面白い。森岡が自我が強いながら苦悩していたことや、藤井があのヴァーチャロイド開発にも携わっていたこと、そして遠藤の冷徹さ(と言うと聞こえが悪いが、答えたくない質問には答えない端的なメール・インタヴューなのでそう感じられてしまう)がよく読んで取れる。さらには、ソフバ再始動はもう望み薄であることも。
ただ、そのブックレットもいささか急ごしらえな感は拭えず、不備や不足が見られる。アルバム紹介ページでは『INCUBATE』が『EARTH
BORN』とミス・プリントされており、ヴァージョン違いで歌詞が異なる曲(ライヴや英語ヴァージョン)はオリジナル・ヴァージョンのみ掲載、それでも一部歌詞が漏れている曲もあり、やはり「SOMETHING
AROUND」は今回も歌詞が掲載されなかった。
入手困難なシングル収録曲などがほぼ網羅されているのは買い逃していたファンにはありがたいだろうが、ソフバの活動停止前の音源は現在すべて廃盤状態なので、こうした企画ものを出すのも否定はしないが、それぞれをリリースし直してほしく願う。それこそ新しいファン獲得に有用な手段だと思うのだが。せっかくリマスターもしたことだし、この音源を流用して作り直してもいい。もちろんメドレー部分は再現して。
ほぼ全音源を持っている私のようなソフバ馬鹿は、このボックスを編集してアルバムを再現すればいい。メドレー処理こそできないが、リマスター盤や独自のシングル・コレクションが自分で作れる。そういった遊びがでいるのは、アルファベット順の強みというか面白さだ。マニア志向なのは否定できないが。
というより、限定生産で2万超というシロモノを買うのは、マニアが殆どだろう。あるいはシングルの類が手に入らずにいて、ここでまとめて手に入れる中級者。ソフバをまったく知らない人が入門にいきなりこのボックスを買うとは思えない。
そういうわけで、マニア向けの結成20周年記念企画としてはいいのだが、新しいスタンダードとしてとらえられるかと問われれば、多少首を傾げざるを得ない。
これを契機に、オリジナル・アルバムの復刻を望む。
曲目省略。
詳しくはこちらを参照。
(MHCL-1601〜11)