ジョージ・ハリスン
『オールタイム・ベスト』

〜「ベスト」にあらず〜 (2009/08/02)

 ジョージの新しいベストが出る。
 そう知って、僕は即座に輸入盤を注文した。なぜ輸入盤かというと、以前、当時の東芝EMIとトラブルを起こしたことがあり、それ以来東芝の「商品」は買わないと決めたからだ。だが、そのお陰で『ブレインウォッシュド』はDVD付き限定盤が手に入ったし、ダーク・ホース時代のボックスもCCCDじゃないちゃんとしたCDのものが手に入った。そこへきて東芝EMIの崩壊。そうしてEMIミュージック・ジャパンとなって、そろそろ許してやるか、と僅かだがEMI-J製品も買うようになった。だが無論、また輸入盤のみ豪華だったり、輸入盤のみのリリース(『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』のリマスターがそうだった)だったら、そちらを買う。だから今回のベストも、当初は輸入盤を注文していた。
 しかし通販元が「商品を確保できません」とさんざん待たせたあげく、一方的にキャンセルされた。タワレコのある新宿や渋谷あたりに出かける用事もない。だから半ば仕方なく、遅まきにして日本盤を買ったのだ。本意ではない。
 するとどうだろう。
 日本盤が「オールタイム・ベスト」と銘打っているのに対し、オリジナルのタイトルは“Let It Roll - Songs By George Harrison”。どこにも「ベスト」なんて書いていない。英文オリジナル・ライナーを読んで見給え。一度も「ベスト」という言葉を使っていないし、『ブレインウォッシュド』のことを「最後のアルバム」なんて言っていないから。
 ここに日本の「ベストって言葉使った方が売れるだろ」という浅知恵と、ビジネス最優先な指針、ジョージに対する投げ槍な態度を感じる。こんなだから本当は日本盤を買いたくなかったのだ。日本盤ライナーは思い入れもない事務的な書き口だし。
 実質、本作がベストであるのは認めよう。認めざるを得ない。それでも、本作に関わった愛妻オリヴィアや愛息ダニー、それにオリジナル・ライナーでさえ、そういうことをしなかった。言わなかった。ファンや関係者であれば結果的に『ブレインウォッシュド』となった『ポートレイト・オブ・ザ・レッグ・エンド』が25曲も録音され、あと13曲も残っているのを知っているから、12曲入りの『ブレインウォッシュド』を「ラスト・アルバム」とは呼ばない。まだ録音が残っていてニュー・アルバムが出る可能性を信じているし、さながらシド・バレットの『その名はバレット』を「シドの永遠の最新作」と呼ぶような敬愛があるのだ。
 そんな姿勢を無視して、本作はこのタイトル(なるべく書きたくないので省略します)を付けられた。飽くまでジョージを商業的に見て。
 そういう人に囲まれるのが嫌で、ジョージは『ゴーン・トロッポ』の後に5年ものブランクを作ってしまったのだ。そんなこと、ジョージのファンなら誰だって想像できる。だが連中はそんなファン心など、知らぬ存ぜぬ要らぬの三拍子。ね? これで僕が日本盤を買いたくなかった理由が解るでしょ? EMI-Jは、まだ東芝体質が抜けていないようだ。
 そういうわけで、僕は本作を敢えて「ベスト」とは呼ばない。オリヴィアが選曲した「編集盤」と呼びたい。
 それでは本体に触れよう。
 本作は、最大の理解者であったオリヴィアが選曲し、ビートルズの『LOVE』のプロデュースで好評(とマニアからの不評)を博したジャイルズ・マーティン監修のもと完成した編集盤だ。ビートルズ曲から最新作まで、現時点での全時代を眺めた選曲となっている。だが、リマスターが済んでいない『ダーク・ホース』と『ジョージ・ハリスン帝国』からは1曲も選曲されていない。オリジナル・アルバム未収録のサントラ提供曲を2曲も含んでいながら、だ。これはオリヴィアの意向だろう。喩えば『ダーク・ホース』は嫌々言いながらもファンがなぜか一番聴いてしまうアルバムであるが、その完成度はジョージ自身認めているように高くない。『ジョージ・ハリスン帝国』の曲は全体的にAORみたいで他の曲と並べると浮いてしまう。それに2作ともリマスターが済んでいない。という事情を汲んでの選曲外しだったのではないだろうか。
 そこを自称ジョージ・マニアは、リリース前からやいのやいの言っている。けどさ、だったら『不思議の壁』と『電子音楽の世界』はジョージのアルバムから外していいの? でもあれを入れたら統一感なくなって、おかしいでしょ? そういう冷静な視点を持ってほしい。「外された」のではなく「外した」のだよ。ビジネス・ライクに考えても、これから出るだろう前述2作のリマスター盤をより数多く捌くには、収録しない方がいい。
 その選曲について、やはり文句を言う自称ファンの方が現時点では多い。どうして『33 1/3』と『ゴーン・トロップ』からも選曲されていないのか。なぜ残りカスの『ブレインウォッシュド』から3曲も入っているのか。最高傑作の『慈愛の輝き』からはたった1曲か。ビートルズの曲を入れる必要があったのか。
 じゃあね、
 君が同じ条件で、ジョージのベストをCD-Rで作ってみなさい。
 商業的に捌きやすい1枚モノで、初心者がファンになりやすいよう全時代を通した、それでいてファンも納得する、ベストを。
 実は僕は、これをやったことがある。するとどうだろう、意外なほど本作と似通った選曲になっていた。偶然かも知れないが、ビートルズ時代の3曲をライヴ音源で収録しているというのも同じだった。やはり、一般的な視点を使えばそうなってしまうのだ。それを受け入れられず自分の好みばかりを声高に押し付ける「自称理解者」が、ネット上で本作をなじっている。客観的に考えれば、この選曲は妥当なのだ。だがマニアは素人の視線を省みないので、「『ドント・バザー・ミー』を入れてほしかった」なんてとんでもねえことを言い出すのだ。
 それでも、喜べない事情もある。当初はパクり疑惑で騒ぎとなった「マイ・スウィート・ロード」の次曲に、それをユーモアで皮肉った「ジス・ソング」が入る予定だった。それはなかなかウィットの利いた、ジョージっぽいものだ。けれどもそれが、どうやら大人の事情があったらしくて取り消しになった。それを強行したUS盤はすぐに回収になり、発売後間もない現時点でも既に中古でも底値8,000円という相場になっている。ああ、じゃあ僕が注文したのはUS盤だったのだな。だから業者でさえ確保できなかったのだな。
 だけど、
 そういうマニアックな事情は「ア・ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・ジョージ・ハリスン」には要らない。新規ファンが聴いて育って事情を知って『33 1/3』を手に入れて、そこで聴けばいいのだ。だから最高傑作と評される『慈愛の輝き』はアルバムを聴いてほしいからこその1曲収録で、ジョージが最もジョージらしい『ブレインウォッシュド』からは3曲も入っている。僕はそうとらえた。だからファンクな『33 1/3』とかイカれた『ゴーン・トロッポ』の曲も収録されなかったのだ。何より、ジョージらしくないから。僕は個人ベストには「オ・ラ・イ・ナ・エ」なんかを入れたけど、やっぱり浮くんだよね。「ジョージらしい」統一感を考慮すると、自然と省くことになる。
 最後のレコーディング(これは残り曲がリリースされるという妄想ではなく、事実だ)である「ホース・トゥ・ウォーター」が入らなかったのは、オリヴィアの意向によるものだろう。誰も、愛する人の最後をまざまざと認識させられたくない。それでもマニアは、「オールタイム」をうたうならそれも入れろと言う。あのさぁ、亡くなった人の話をするのに、好んで霊前の写真まで見せるかい? そういうことを叫ぶのは失礼だよ。実際、あの曲は話題性ばかりが先走ってしまったので崇められるが、ベスト盤に入るほど優秀な曲ではないし。
 無論、ファンならではの文句もある。
 なぜアルバム未収録曲が2曲も入っているのか、あるいは2曲しか入っていないのか。
 だが「2曲も」の方は「ジョージの多才な側面を知ってほしい」という願望に片付けられる。また純粋に、出来がいい。「2曲しか」の方は「それはマニアの意見だ。君はファンなら音源は持っているだろうに」と返せる。問題は、それもリマスターされているので、マニア・ライクな「それなら他のアルバム未収録曲も入れるべきだ」という意見が絶えないのだ。ここはオリヴィアの詰めが甘かったと思う。そういう音源は入れないで、あとでまとめた編集盤を出せばいいのだ。
 それでは、ビートルズ曲はオムニバスに収録されている希少なものや出来のいい武道館を選ぶべきではなかったのか。
 それはオリヴィアがジョージの「奉仕の精神」を評価して、敢えて3曲とも『バングラデュ』のものを使ったのではないか。こう言っちゃあ難だがあのコンサートはメンツが最強だった。武道館はブートも出るしジョージ側も映像を小出しにするほどの金ヅルであり、それ以前に飽くまでクラプトン・バンドの演奏だ。主観で決めちゃあいけない。時にはビジネスを考えなくてはいけない。
 ジョージが再評価されている現在に、せめてものガイドCDを手軽に買える1枚で出したい、というオリヴィアの想いを汲みなさい。全音源を持っていたり、選曲が嫌だったら買わなければいい。飽くまで本作は、オリヴィアが考えたジョージの世界への「ガイド」なのだ。そうして新しいファンが増えることを有意義に考えよう。そりゃあ儲け優先のEMI商法だとか、「ジス・ソング」が入らなかった大人の事情だとか、未リマスター盤の未収録とか、正直不満なところはある。でもね、ジョージの「人間性」を考えたら、最大の理解者であるオリヴィア以上の選曲はできない。少なくとも、誰もフライヤー・パークに敬意を表しての表題曲収録は考えていなかっただろう。そういう意味でも、本作はジョージ最大の理解者であるオリヴィアによる「私家ベスト」なのだ。マニアは主観のみでわめいていればいい。
 ただ興味深く思ったのは、ジョージ選曲によるダーク・ホース時代のベストには「ヒア・カムズ・ザ・ムーン」が収録されたのに対し、オリヴィア選曲による本作は「ヒア・カムズ・ザ・サン」が入っていることだ。これはジョージが生前オリヴィアを月に見立てたのに対し、オリヴィアはジョージを太陽のような存在と考えている姿勢が見られる。ああ、愛のある夫婦っていいなぁ、としみじみしてしまった。

 今後も、ジョージ関連のリリースは続くだろう。『ダーク・ホース』『ジョージ・ハリスン帝国』のリマスターとか、武道館のDVDとか、あわよくばレア音源の編集盤とか。小出しにされるだろう。ファンは愚痴を言いながらも買うだろう。
 死者が本当に死を迎えるのは、その存在を忘れた時だ。
 それならジョージは、まだ生きている。僕らの心の中でスライド・ギターを悠々と弾きこなしている。ひょっとしたらThenewno2で作品をリリースしているダニーが化けるかも。
 ジョージ・ファンよ、うかうかできないぞ。もう泣いてられないぞ。
 とりあえずの俯瞰として、本作を純粋に楽しもうじゃないか!
 流れがよくて、聴いていて楽しいぞ。ジョージはいなくなっても、彼の遺した作品は健在なんだ。それを賛成なりとも批判なりとも感じられただけで、有意義だ。
 みんなジョージが好きなんだよね。だから文句も出るんだよね。

 最後に。
 検索していたら、こういう文を発見した。
「今のジョージがライヴをやるなら、この選曲かもね」
 なるほどね。
 だからこそ、ライヴ音源も次曲に歓声を残したメドレーのようになっているのかもね。
 そう、
 ジョージは生きている。みんな、ジョージを愛している。
 だから、この編集盤には文句は言わない。アップル時代のベストのようにレコード会社が勝手に選曲したなら文句言うけど、オリヴィアが選曲したなら文句はない。

 みんな、
 ジョージの曲を聴いてごらん。
 ジョージの詞を読んでごらん。
 即座に大好きになれるほど、「人間的な、余りに人間的な」ものだから。

 Let It Roll!


LET IT ROLL - SONGS BY GEORGE HARRISON オールタイム・ベスト
1. Got My Mind Set On You セット・オン・ユー
2. Give Me Love (Give Me Peace On Earth) ギヴ・ミー・ラヴ
3. The Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll) バラード・オブ・フランキー・クリスプ(レット・イット・ロール)
4. My Sweet Lord マイ・スウィート・ロード
5. While My Guitar Gently Weeps (Live) ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス(ライヴ)
6. All Things Must Pass オール・シングス・マスト・パス
7. Any Road エニイ・ロード
8. This Is Love ディス・イズ・ラヴ
9. All Those Years Ago 過ぎ去りし日々
10. Marwa Blues マルワ・ブルース
11. What Is Life 美しき人生
12. Rising Sun 悠久の輝き
13. When We Was Fab FAB
14. Something (Live) サムシング(ライヴ)
15. Blow Away ブロウ・アウェイ
16. Cheer Down チア・ダウン
17. Here Comes The Sun (Live) ヒア・カムズ・ザ・サン(ライヴ)
18. I Don't Want To Do It アイ・ドント・ウォント・トゥ・ドゥ・イット
19. Isn't It A Pity イズント・イット・ア・ピティ

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